「経験経済」への流れ
観光工場は観光産業の新たな目玉であるだけではない。より重要なのは、これが従来型産業の転換に道を開くことだ。
沈栄津によると、台湾では早くも1990年代初期から従来型産業の海外移転と空洞化が深刻化していた。経済部では弱小産業への支援のために、製造工程や汚染の改善、技術レベル向上、デジタル化管理、イメージ転換、異業種連盟などの支援策を実施し、2003年には従来型産業の観光価値を見出す指導計画を打ち出した。
以来7年、工業局中部事務所は53の工場の転換を指導し、審査に合格して「観光工場」の看板を掲げているのは39社になる。その多くは台中、苗栗、桃園などの、工場の多い地域に見られる。(地図を参照)
「これまではハードの実力が頼りでしたが、今後はソフトの実力がカギになります」と話すのは、マネジメントの大家で元智大学講座教授の許士軍だ。その話によると、産業革命以来、製造が最優先され、大量生産の結果、今では世界中にモノがあふれている。そうした中で「人と人」を核心としたサービス業には無限の空間がある。「製造業のサービス化は止められない趨勢で、もともと付加価値の低い従来型産業にとってはなおさらです」と言う。
「これは産業ノウハウであり、社会のコミュニケーションでもあります」と沈栄津は言う。台湾にはもともと深い産業文化と観光教育価値を備えた従来型工場が多数ある。例えば、かつて台湾を世界一に押し上げた自転車工場やLED工場だ。これらの工場は、以前は機密漏洩や作業への影響などを考慮して、部外者の立ち入りを厳しく制限していたが、今後、観光工場へと転換していけば、産業観光に良好な素材を提供でき、市民が産業を理解し、企業と社会がコミュニケーションをする手段の一つともなる。
官民が協力し、台湾では多くの従来型産業が「経験経済」の注目株へと転換している。
「サービスを舞台とし、商品を道具として顧客をその中へ招き入れれば、生涯忘れられない体験が生じます」と李仁芳は言う。体験型産業の経営モデルは創意と文化の蓄積からくるもので、そこに知識と美を採り入れれば、顧客が楽しみながら「参画」できるものとなる。

宜蘭県雪山山麓のキンカンの故郷、「橘之郷」の砂糖漬けキンカンは自然の風味を重んじる。洗浄して針を刺し、砂糖に漬けて乾燥させるといった工程において、添加物や人工甘味料や色素は一切使用しておらず、見学した人はその安全性に納得する。