食糧危機が世界を再び襲う。
去年の下半期から気候激変の影響を受けて、ロシア、アメリカ、中国にオーストラリア、アルゼンチンなど主要な穀物輸出国では干害や水害の深刻な被害が出て、世界の食糧供給が逼迫している。これに輸出規制や買い占め、米ドル値下り、投機操作などの人為的要因が加わり、穀物の国際価格が上昇を続ける。
国連統計によると、過去1年間の穀物の国際価格は平均25%上昇し、中でもトウモロコシは52%、小麦49%、大豆28%を記録している。1月にベルリンで48カ国農相会議が開催され、食糧価格の高騰は最貧国への影響が大きく、先進諸国はこれを無視できないと警告を発した。
台湾では長年にわたり豆穀物(小麦、大豆、トウモロコシなど)を輸入に頼り、去年末には価格急騰を受けて小麦粉、油脂、畜産などの業界は警戒感を強め、食糧自給が社会的にも大きな関心を呼んでいる。
気候変動や石油危機に晒される時代のこと、多くの国でも食糧自給率の向上や優良な農地確保が国家の安全に関る重要テーマとされている。翻って台湾では、政府は長期的政策を打ち出せず「毎日ご飯を食べて稲作面積を増やそう」と呼びかけるばかり、問題をぼかし、変革の機会を再び失おうとしているようである。
幸いなことに、民間や研究機関が雑穀復興運動を打ち出して時代の波に掉さして進もうとしている。こういった開拓者にとって、雑穀栽培は次の世代の食糧を確保するばかりではなく、自然環境保全とヒューマニズムの思想を意味するのである。
雑穀が今、国を救う。
農業委員会の統計によると、ここ10年で台湾の食糧自給率は低下を続け、1999年は35.9%(カロリーベース、摂取カロリーの35.9%が国産)だったが、2009年には32%に落ちてしまった。近隣のアジア諸国では韓国は45%、台湾と食習慣が似ている日本は40%で、しかも日本政府は2020年までに食糧自給率の20%引上げを目標としている。これに比べると、台湾の食糧自給率はいかにも低すぎる。

屏東県万丹のアズキ。
食糧自給率が低い理由として、まず小麦が米と並び主食となっていることがある。アメリカ小麦協会の統計では、台湾は2002年以降にアメリカやオーストラリアから毎年小麦を110万トン前後輸入し、うち約45%がパン・ケーキ向け、40%が中華麺向け、8%が酒造、グルテン製造向けである。
それ以外の穀物もほとんどが輸入に頼っている。農業委員会の2008年製品別自給率(カロリーベース)の統計ではトウモロコシ1.7%、コーリャン2.8%、種子類(主に大豆)3.4%、イモ類が24%であった。(表1、表2を参照)
政府はこの食糧自給の問題に受動的で、軽視しているふしがある。
今年1月12日に農業委員会が開催した「全国農業と農地セミナー」において、学界と農業運動関係者から食料自給率問題が提出された。これに対して政府側は2020年までに34%まで引上げると回答したが、これには多くの出席者が保守的に過ぎると首を傾げた。
参加者の1人、台湾大学農業園芸学科の郭華仁教授は、ただちに農業の衰退を食い止めないと、将来の台湾は金があっても食糧を買えず、飢饉になりかねないと警告する。

金門酒造工場と契約して少量栽培されている小麦。
気候変動と石油危機により、国際的な農産物価格は今後10年高止まるとOECDは予測する。
前回、2007年から08年の食糧危機の経験から、食糧自給率と購買能力の違いで危機対応能力が異なることが分かった。一般的に発展途上国は先進諸国より影響を受けやすい。開発途上国は長年の戦火や土地政策の失敗、あるいは伝統農業が石油化学の農業モデルに抵抗できずに崩壊し、有効に農業生産が行えなくなったため、食糧供給を高度に輸入に依存している。
先進国のアメリカ、カナダ、フランスでは自給率が100%を超え、相当程度の輸出能力があるため、国際的な食糧価格高騰の影響を抑えられる。
『Food Rebellions』の著者ラジ・パテルは、世界の食糧生産から流通消費にいたるまで、すべて各国政府と結びついた多国籍アグリビジネスに独占されていると言う。アグリビジネスは市場を操作し、食糧危機からさえも利益を上げる。さらに石油価格の上昇、輸送費の高騰、市場操作の連鎖効果で、食糧危機に苦しむ世界の最貧国はインフレと飢餓に直面する。
こうして将来の危機に備えて、各国政府は食糧自給率の向上に力を尽くすのである。
郭教授はさらに、食糧自給のために政府は現在の農業の三大危機に対処しなければならないと言う。その危機とはまず可耕地の流失である。経済発展を求め、耕作が放棄され雑穀の栽培が行われなくなった。さらに不適切な政策により、農地の商工業用地への転換が進んだ。次いで若者の農業離れがある。農業からの所得が低すぎるためである。三番目に高度に肥料に依存する集約型の農業である。
郭教授は、台湾農業の病状を悪化させる原因をこう挙げる。化学肥料は石油化学工業から生産され、20世紀の農業革命は廉価な化学肥料の上に成り立ってきた。しかし、あと15年もすれば世界の石油生産量は激減し、需要の半分程度した満たせない。その時、こういった農業モデルは崩壊する。

花蓮県羅山村で有機大豆を栽培する阿盛さんが、昔ながらの方法で脱粒する様子。
しかし、人口が多く土地の狭い台湾で食糧自給率引上げといっても40から50%がいいところで、それも政治が社会の共通認識を形成し、政策執行を強力に推し進める必要がある。「工業団地向けの農地転用を止め、廃耕田を修復し、有機農業の発展を促す必要がありますが、さもなければ30%さえも覚束なくなります」と郭教授は続ける。
その一方、台湾の食習慣も変わってきた。農業委員会は米食により水田面積の拡大を目指すが、それは現実的とはいえない。むしろ、雑穀の100%輸入依存が、食糧自給率低下を招いた原因である。
対症療法として、広範に雑穀を栽培することで自給率を引き上げ、休耕田(現在の休耕田は20万ヘクタール、耕地面積の25%)を活用し、現在0.3%しかない有機農業発展のチャンスとすることが考えられる。
また、台湾は三期作が可能な環境にあり、農家は秋冬の作付け期に様々な雑穀を栽培し、農家に多くの収入をもたらす。
雑穀の栽培再開への障害は、技術的問題や土壌、環境の不適合ではなく、廉価で入ってくる輸入農産物に生産コストで太刀打ちできない点である。
「食料の安全と持続的農業発展のためには、価格と目の前の利益だけを考慮すべきではありません」と郭華仁教授は強調する。現在、輸入価格は相対的に安いが、それは化学肥料を大量に使用し長距離輸送するもので炭素排出削減には逆行する。
たとえば大豆を例にとると、台湾には200万人余りの菜食主義の人口を抱える。その蛋白源は大豆製品から来るが、輸入大豆は健康に不安視される遺伝子組換え大豆が主である。その一方で豆類の種類は数多い。本部を台南に置くアジア野菜研究発展センターは、数多くの豆類の品種を収集している。多くの豆類を栽培し、種を保存し伝えていくべきではないだろうか。
さらに、雑穀栽培のコストに対し、戦略的に先進諸国にならって土地補助(休耕地の農耕再開補助)や環境保護(環境にやさしい農業への補助)を実施することも考えられるだろう。こういった投資は、長期的に見れば十分に利益回収可能なのである。

屏東県の農家・沈福来さんはアズキを株ごと収穫して畑に日干しにする。日光を浴びると莢から外れやすくなるからだが、雨が降らないように祈らなければならない。
輸入穀物に大きな比率を占めるのが畜産業の飼料向けである。安い輸入トウモロコシを何で代替するのかと、疑問を抱く人もいるだろう。
実際には、台湾最南端の墾丁に300ヘクタールの有機牧場がある。ここは台湾の有機飼料の供給基地を自認しているのだが、実は日本時代の台湾総督府種馬牧場で、現在は農業委員会畜産試験所恒春分所である。
農学博士陳嘉昇が率いるチームが、ここで積極的に有機牧草と穀物飼料による飼育を実践している。その研究によると、台湾での栽培に適した飼料作物の品種は数多いと言う。トウモロコシや大豆以外にも、サツマイモ、コーリャン、水稲、ハトムギ、ソバ、ゴマ、ラッカセイ、アズキ、緑豆などが使える。
この数十年にわたって畜産業者は輸入飼料を使い慣れ、飼料工場は商品化した飼料を配合していた。それが2008年になって食糧危機が顕在化したため、酪農協会はようやく政府に台湾産の若採りトウモロコシ(粒が硬くなる前に収穫し、全株を飼料用とする)栽培の奨励を求め、国産飼料に路を開いた。
兼用とは緑肥、飼料あるいは食用に同時に使えるものを言い、こうして利益を上げながらリスクを分散し、しかも肥料を使わないのでコスト削減ともなるものである。
例えば、有機大豆は食用にも飼料用にもなり、通常は等級別に販売し利益のバランスをとり、異常気候などには早めに収穫し飼料とするか、直接緑肥にすることができる。
畜産業者にとっては、新鮮で栄養のある飼料を手に入れられる。陳嘉昇の見るところ、国産飼料は輸入飼料ほど便利ではないが、国産飼料使用はコスト削減につながる。
有機畜産はまだ緒についたばかりだが、雑穀の復興や有機農業と組み合せることで、畜産業が台湾の有機農業の拡大に役立つのである。

嘉義県朴子農協は積極的に有機トウモロコシの栽培を推進している。その主要な労働力は働き者の農村女性たちだ。
実際に食糧自給不足を緩和するのに最も効果的なのは、消費者の力を借りることであった。
台湾では、10年余り前に主婦グループが安心な米を求めて、台湾最初の共同購入の主婦連盟生活消費合作社を組織した。
合作社の陳秀枝主席理事によると、合作社の原則は台湾農業を支え、環境に優しい生産者を支持するところにあり、生産されていないか生産量が不足する場合に限り、輸入を考える。
合作社が提供する台湾の雑穀は、しかし常に品不足で、小麦と大豆は言うに及ばず、その他の黒豆、緑豆、アズキなども全国を回って生産者を探し、生産者と密接な協力関係を形成してきたものである。
合作社の出版編集者張雅雲によると、花蓮では農家に有機農法を指導しており、試験栽培する農家は少なくないが、農薬や化学肥料を使わずに数年過ぎると雑草や虫害などで収穫が減少し、続けていける農家は少ないという。そこに合作社という新しい流通経路が現れると、農家にとっては励みになる。
陳雅雲は台湾の雑穀栽培農家に共通する問題を以下に挙げる。
1)人手がかかる:雑穀農法が衰退し機械化が遅れ、手作業に頼るため、人手がかかる。
2)加工の問題:食品産業は規模の経済で、小規模農家が生産する少量の穀物を工場で加工するのは難しい。小規模農家には乾燥や保存設備が整っておらず、品質もばらばらなため、工場も加工したがらない。
3)流通の問題:雑穀輪作を行う農家は高齢化が進み、収穫後の包装や販売、原価計算などを行うのは難しい。現在の認証制度は小規模農家に厳しく(認証費用、土地所有権がないと申請できないなど)、有機農法を実施していても流通に乗らない。

墾丁の「畜産試験所恒春分所」では山から吹き下ろす冬の風を克服して有機大豆畑に水をやる。大豆は人間と家畜にとって最も重要なタンパク源であり、土壌中に天然の窒素肥料を増やす作物でもある。
一方、うれしいことに生産者を求める合作社の試みから、賛同する地方の農協が少なくないことが分かった。嘉義県朴子農協は有機米の普及に努め、また有機トウモロコシ農家を集めて、グループでの認証を進めている。合作社が扱う黒豆、緑豆なども、朴子農協を通じて契約栽培したものである。
「私たちも始めたばかりですが、3万人の会員から一般社会に影響を広げ、食材を育む土地と環境の価値を理解してもらうことに意義があります」と、陳秀枝は微笑む。この2年、合作社はより「過激」となり、農村再生条例に反対し、サイエンスパーク設置に反対する苗栗県湾宝の農民を支援するようになった。「こういった運動も、食糧の自主性確保についての学習の一環で、また進むにつれ、仲間が増えてきました」と続ける。
食糧自給問題では、民間の方が先を進んでいる。一人一人の覚醒を促し、政府が農地の劣化と農業人口流失の問題に真剣に取り組むよう監督し、雑穀の位置づけを見直す。こうして始まったばかりの雑穀復興が、花開く日を待ち望みたい。

雑穀を単独で小規模生産している農家は、加工や包装も手作業となり、高齢化の進む農家にとっては大きな負担だ。

台湾の「有機畜産」は始まったばかりで、その重要な先駆者は有機雑穀の試作を行なっている恒春畜産所だ。