カスタマイズで快適
人工骨より先に開発が進んだ「3Dプリント金属義歯床」に話が及ぶと、曹芳海は意気込んだ。従来の義歯床にはコバルトクロム合金が使われ、口腔の構造と100%同じにはならないため、装着するとどうしても違和感があり、食事のときしか使わない人もいるくらいである。「3Dプリントはまず口腔をスキャンしますから、作った義歯床は完全に自分のものです。舌が金属に触れる感触も従来とは違います」と言う。
こうした精密な技術で作られた義歯床は、人々が負担できるものなのだろうか。曹芳海は笑いながらこう答える。「機械なら同時に20個、違う患者それぞれの製品を作れます。コストは従来と変わりません」台湾南部の医学センター(特定機能病院に相当)を受診すれば、3Dプリント義歯床と民間の歯科技工所が作製するクラウンを、カスタムメイドで作ることができる。この分野を更に前進させるために、工業技術研究院からほど近い高雄サイエンスパークに医療材料の法規定に準じた環境を構築し、新世代の歯科技工士向け3Dプリンターの開発に取り組んでいる。
人工骨よりはるかに複雑な成分からなる人工皮膚の場合、プリントする粉末の原料は金属ではなく、細胞とコラーゲンである。プリントには膨大な量の細胞が必要になる。そこで工業技術研究院バイオメディカル‧テクノロジー&デバイス研究所の初めの一歩は、細胞の培養‧分化に必要な成分を探すことだった。そして「正しい」材料を選び、真皮層と表皮層を一つに造形したときに最もよい組合せになるようにし、更に6日間を経て成熟させる。
「海外の大手メーカーでは真皮の培養に数週間、そこに表皮を載せるのに、早くて21~28日かかります」と言う。これに対して工業技術研究院の効率の高さは、材料選別の精度の高さにあると沈欣欣は言う。コラーゲンの種類と由来、異なる力学的強度の真皮と表皮を一つにするときに使う材料などの選択である。「想像してみてください。弾性が異なる2種類のキャラメルを繋ぎ合わせるとしたら、どんな材料が適切でしょうか」と沈は例を挙げる。
工業技術研究院が作った人工皮膚は用途が広い。特にEUと台湾はこの十年の間に動物実験の禁止令を発してきたから、人工皮膚が化粧品やスキンケア商品の測定材料にもなる。製薬会社も、紫外線曝露による損傷、アンチエイジング、傷口癒合など、体表面の皮膚組織の試験に使用している。人工皮膚に幹細胞を加えて、熱傷患者のための人工皮膚も作れる。
海外メーカーから工業技術研究院に購入の問い合わせもある。2019年にはチェコ科学アカデミーの研究者が訪台し、1か月かけて製造工程を視察し、チェコの細胞バンクと台湾の材料や技術をいかに組み合わせたら、チェコ人の体質に合う人工皮膚を製造できるのか考えた。
人工皮膚は化粧品業界ではすでに主流になっており、ロレアルなど著名ブランドがR&Dセンターを設立している。沈欣欣は、これから大手メーカーとの提携で、台湾の効率‧品質ともに高い技術を、多くの国に売り込んでいくことが期待されるという。