
交通部観光局の統計によると、2004年以降、台湾からタイを訪れる人は年平均38万人、2015年には60万人近くに達している。台北の繁華街やデパートのフードコートなどでは、いたるところにタイ料理の店があり、最近ではタイ映画のファンも増えている。こうした数々の現象から、台湾人がタイ文化を好んでいることがわかり、それとともにタイ語を学ぶ人も増えてきた。
近年、台湾では東南アジアからの移住労働者や新住民(結婚などで移住してきた人々)が増え、台湾企業の東南アジア進出も進み、タイ語学習がブームになっている。この流れに乗り、台湾大学、師範大学、政治大学、:[南大学など、東南アジア言語関連の学科やカリキュラムを設ける大学も増えてきた。
大学以外でも、東南アジア言語を教える機構や団体は増えている。「目的達」タイ語教室、政治大学公共行政とビジネス教育センター、中原大学推広教育センター、対外貿易協会、就諦学堂、東南アジア書籍を扱う「望見書間」や「燦爛時光」、味全文化教育基金会、+"泰タイ語補習班などがタイ語教室を開いており、そのうち「目的達」は老舗のタイ語教室である。

タイ文字は特殊な表音文字で、忍耐強く学習しなければその文字の美を理解することはできない。
楽しいタイ語学習
夏の日の午後、「目的達」の教室からは明るい笑い声が聞こえてくる。教壇で、表情豊かに流暢なタイ語を話しているのが「目的達」を設立した鄭海倫である。台湾生まれ台湾育ちだが、敬虔な仏教徒で、タイの高僧の言葉をそのまま聞き取りたいと思い、テープを聞いてタイ語を学び始めた。1997年に台湾大学病院の仕事を辞してタイに仏法を学びに行き、言葉の学習も続けた。
タイ滞在でタイ語の能力は伸び、帰国後は来訪するタイの高僧の通訳も務めた。そして2005年に「目的達」を開設する。当時はタイ語学習は盛んではなく、「最初の授業には人は集まらないだろうと思っていましたが、思いがけず8人も集まりました」と言う。それから10年の間、彼女は数千人の生徒を教えてきた。経営者や教師、記者などもいて、メインは社会人である。タイに赴任する人、タイの友人と交流したいという人もいるが、大部分はタイ旅行のためやタイ文化が好きだからという理由である。
好きだからこそ学習も長続きする。「目的達」の教室に何年も通っている人も少なくない。
タイ文字は表音文字で、母音は32、子音は44、声調は5つあり、数字にも独自の文字を用いる。文法や構文は中国語に似ているが、句読点などはなく、文章に切れ目がないので、読み書きは難しい。そこで鄭海倫は初級学習者には会話から入るよう勧める。教室では、タイ旅行や手続などのシーンを想定し、自分の経験をタイ語で話させ、自信を持たせる。教室に通う予備校の英語教師は、従来の英語学習のように単語を丸暗記するのでなく、生徒に話させる方法で言語学習が活きてくると言い、これを参考に自分の授業の方法も変えたと語る。教室の楽しい雰囲気に、仕事帰りに集まって来た生徒たちも、仕事のストレスを忘れられる。ある生徒は、授業が楽しみで、タイ語学習がストレス解消になっていると話す。

鄭海倫は十年余りにわたってタイ語を教えてきた。その活発で楽しい授業方法で人気がある。
大学でのタイ語教育
場所を大学のキャンパスに移そう。台湾大学人類学研究所の博士課程に学ぶ劉康定は、台湾大学文学部と政治大学外交センターのタイ語教師でもある。タイ出身の彼は、かつて中国大陸で1年間中国語を学び、タイに戻ってしばらく通訳をしていたが、中国語能力を高めようと、2007年に台湾に留学してきた。
台湾大学新聞学研究所の修士課程を修了して広告会社で働いていた時、政治大学外交センターのタイ語教師の仕事を紹介された。まさか台湾でタイ語を教えることになるとは思ってもおらず、「これはすごいことだ」と思ったという。そこでタイ語教育発展のために、週にわずか2時間だけの時給の講師であるにもかかわらず、彼は会社を辞め、タイ語教育に専念することにした。「たいへんな決意でした。時給は550元なのですから」と言う。タイ人でありながら中国語も非常に流暢なので、彼の活躍の場は政治大学から台湾大学、中原大学、警察学校、救国団、対外貿易センターなどにまで広がった。
劉康定が教える対象は学生が中心で、台湾人学生の他に、マレーシアやミャンマー、それにタイ人の留学生もいる。ここ数年は東南アジアが注目されていることもあって、受講する生徒は増えており、そのために台湾大学では初級タイ語のカリキュラムを開設した。
履修する学生の動機はさまざまである。タイ文化が好きだから、タイ旅行に行きたいから、タイ北部でボランティアをしたいからという人もいるし、将来東南アジアで働くことになった時のために、と言う人もいる。「タイ語の学習は、想像するほど容易ではないので、生徒たちには自分がタイ語を学ぶ理由をよく考えるようにと言い聞かせています」と言う。ブームに流されるのではなく、明確な目的を持ってほしいからだ。
タイ語の能力は就職に役立つかという問いに対し、鄭海倫も劉康定も同じ考えを話してくれた。タイ語能力は加点要素にはなるかもしれないが、それが採用の鍵になるとは言えない。自分の専門分野の能力を高めるのが最も重要だ、と言う。
タイ語学習者が増えたことから、2015年には「台湾-タイ文化・言語交流協会」が設立された。協会はタイ語教育カリキュラムを開設し、台湾でタイ語検定を行なうなど、タイ語学習を台湾各地に広げようとしている。
「微笑みの国」と呼ばれるタイには、奥深い文化があり、多くの旅行者を惹きつける。それが言語学習の動機になり、言語学習こそ一つの文化を知る最良の方法でもある。台湾のタイ語学習ブームが、台湾とタイとの間の新たな友情の架け橋となることに期待しようではないか。

学習の助けになる色とりどりのタイ文字カード。

教楽しい雰囲気でタイ語が学べる「目的達」の教室は、笑顔とタイの香りに 満ちている。

教室で鄭海倫は、生徒にタイ語で生活経験を話させる。言語を活用することで生徒の自信も深まる。

さまざまな教材が タイ語学習を楽しく してくれる。.

タイ出身で中国語能力が高い劉康定は、台湾でタイ語教育という活躍の場を見出した。

大学ではタイ語学習がブームになっている。さまざまな学科の学生が一緒にタイ語を学び、タイ文化の魅力に触れている。