2008年の金融危機が世界の自動車メーカーの再編を促したという。自動車大手は次の世代の市場を先取りするため、積極的に電気自動車の開発に乗り出した。これも金融危機のひとつの効果と言えよう。
自動車メーカーはゼロから再スタートしたが、各国政府も補助政策を打ち出し、自国メーカーの先行を助けようとしている。台湾の「裕隆汽車」も去年の末に、自社ブランドのSUV(スポーツ多目的車)電気自動車LUXGEN EV+と電気軽自動車tobeを発売し、電気自動車の新しい時代に地位を占めることを目指している。インテリジェントでスピードのある電気自動車が台湾を代表するエコカーになれるのか、その優位性とチャンスを見てみよう。
最近の電気自動車(ハイブリッド車ではない)の発展を見てみると、最初に発売したのは大手自動車メーカーではなく、サーチエンジンのグーグルの創業者ペイジとブリンが投資したテスラである。グーグルのオリジナル精神を受け継ぎ、従来の自動車メーカーのロジックを捨て、シリコンバレーの発想で自動車を作り始めた。2006年に最初に発表したのはスポーツカー仕様のロードスターである。250馬力の性能はガソリン自動車に遜色なく、1回の充電で300キロ走り、ゼロスタート加速は5秒で100キロに達した。10万米ドルという価格にもかかわらず、ハリウッドスターや州知事が購入を予約した。
高級スポーツカー路線を行くテスラに対して、BMWが2008年に発表したMINI Eは、都会の小型車路線であった。BMWグループは数年に渡り水素燃料のハイブリッド開発にフォーカスしてきたため、MINI Eの発売は多くの人を驚かせた。その方向転換は、世界の電気自動車の競争をさらに激化させることになった。
200馬力のMINI Eはスタートから8.5秒で100キロに達し、最高時速は152キロ、航続距離は250キロに達した。現在、アメリカの3都市で消費者向けの使用テストを行い、リースだけで販売はしていない。
今年モデル走行を開始したのが三菱のi-MiEVで、都市タイプのエコカー路線である。テスラやMINI Eと同じく性能はガソリンカーに引けを取らず、しかも車体の両側に充電ソケットが設置されている。一つは家庭用電気での充電用、もう一つは急速充電設備用で、30分で8割の充電ができる。
この3タイプはすでに公道を走っているが、さらにルノー、プジョー、日産、GM、フォルクスワーゲンなどが、去年のフランクフルトのモーターショーに電気自動車を出展し、2年以内の正式発売を発表した。

昨年、裕隆は初めてドバイのモーターショーに出展した。世界初の電気SUV車LUXGEN EV+は大変な注目を集め、ラリー・レーサーのモハメド・ビン・スライエムも試乗した。写真中央はLUXGENの胡開昌CEO。
この電気自動車ブームに台湾も遅れをとるわけにはいかない。2005年末に電気自動車の開発に乗り出した台湾メーカー裕隆グループは、台湾ブランド確立を使命とする厳凱泰董事長の下で、2009年にLUXGENと名づけたガソリンと電気の両方を擁するSUV3車種を打ち出した。年末には世界最大のドバイのモーターショーに初めて出展し、世界最初の量産可能な多目的電気自動車が評判となった。このモーターショー唯一の電気自動車としてマスコミの注目を集めたのである。
「7人乗り、車体重量2トン超と電気自動車の新基準を作り出しました」と、開発を担当した華創車電公司の李俊忠副社長は説明し、電気自動車には3タイプあるという。第一は性能、スピードともにガソリン車と同じで、通常の運転ができる車である。第二は性能、スピードともにガソリン車に及ばず、最高時速は40から50キロ、都市で使う軽自動車で、ヨーロッパではナンバーを取る必要がない自動車である。第三のタイプはゴルフ場のカートや遊園地のカートなどである。
「裕隆が開発した電気自動車はSUVでも軽自動車でも第一のタイプです」と李副社長は言う。発売を開始した二モデルはロードスターやMINI Eと同じで、レベルの高い第一のタイプだが、裕隆はさらに目標を高めて、より馬力の必要なSUVを目指した。ここで開発に成功すれば、中小型車や第二のタイプは自然と容易となり、さらに小型バスや都市の路線バスに発展していけるからである。
李副社長によると、多目的車LUXGENの量産には180kWのモーターを使い、240馬力で最高時速は145キロ、ゼロスタートからの加速で8.6秒で100キロに達し、航続距離は350キロ(時速40キロで)である。量産後の価格は車体と電池を別に計算し、車体価格は同クラスの車種とほぼ同じ(110から120万台湾元)で、電池はリースか分割払いを採用する。ユーザーが払う電池の費用はガソリン代とほぼ同じで、電池の寿命は40万キロと、ガソリン車のエンジンの寿命を大きく上回る。

BMWの電気自動車MINI Eはクラシカルな2人乗りの小型車で、現在カリフォルニアとニューヨーク、ニュージャージーの3ヶ所で試験走行中だ。レンタルのみで販売はしない。
電気自動車の性能や速度がすでにガソリン車に遜色がないのに、大手メーカーの生産台数はわずか数百台にとどまっているのはなぜだろう。
「ガソリン自動車は100年余りの歴史があるのに、電気自動車は始まったばかりで、ユーザーの運転にどんな問題がおきるのか、メーカーには具体的な経験もデータもないのです」と李副社長は言う。リスクがわからない中、生産規模を語る段階にはなく、運転時の状況や問題を集めて解決してからではないと、販売のための量産にはもちこめないのである。
電気自動車の充電はガソリンのように便利ではなく、設備により充電所要時間は30分から10時間余りと異なる。充電ステーション、ユーザーと使用環境の関係はこれからの問題である。運転していて電気がなくなりかけたとき、次の充電ステーションはどこにあるのか、運転に必要な電力の充電にどれだけ時間がかかるのか、充電ステーションに先客がいて待つ必要はあるのかなど、どこかで問題がおきると立ち往生してしまう。

LUXGEN多目的電気自動車(MPV)の性能やスピードは同型のガソリン車に劣らない。本体と電池を別々に販売する予定で、本体は110〜120万元、電池はリースや分割払いとする。
「充電の原則は停車すれば充電できることです」と李副社長はいう。長時間の駐車拠点(夜は自宅、昼間はオフィスなど)で充電できれば、充電問題の8割は解決する。LUXGENは一回の充電で200キロ走行できるので、サラリーマンの一日の走行には十分である。長距離ドライブの途中で充電が必要なとき、大型スーパー、レストラン、高速道路のサービスエリア、一般駐車場で充電できるようになる。充電の費用だが、公共充電ステーションでは電気代と駐車代を一緒に計算し、クレジットカードや悠遊カード(電子マネー機能付のIC乗車カード)で支払うことになる。
こういったプランがユーザーに受け入れられるだろうか。まず試験走行で確認が必要で「様々なドライバーや極端な状況でも大丈夫であれば、販売できます」と李副社長は言う。
経済部の電気自動車政策によると、試験走行には2011から13年の3年をかけ、台湾10地域で3000台の電気自動車を対象に行うという。10地域については地方と企業グループの提案により選定し、2014から16年の第二段階で全島に広げていく。
普及に熱心な台北県を例に取ると、県政府は電気自動車に無料の充電設備設置サービスを提供する。家に駐車場があれば無料で設置するし、駐車場がない場合は自宅付近の路上駐車スペースに充電設備を設置してくれる。また地下ケーブルで電気を引き、駐車場の充電ステーション設置を奨励している。
さらに坪林郷では電気自動車によるゼロ炭素の旅を企画していて、これが実施されると観光客は車を駐車場に駐車し、そこから自治体の電気自動車に乗り換えて観光スポットを回る。観光客はどこでも乗り降りでき、汚染がなく、観光にも便利なグリーンな町を目指す。
試験対象には企業の社用車、政府部門の公用車やタクシーが上げられ、試用期間に電気自動車を購入すると、貨物税の免除と政府の補助(1台当り10万台湾元)が受けられ、自動車税も地方により免税となる。

LUXGENのエンジンフードを開くと、エンジンの代りにモーターと電気制御装置があり、下には6000個余りの電池が入っている。
電気自動車の量産には航続距離、走行性能や充電に加えて、電池の供給も問題である。
現在、世界では年間で7000万台の自動車が販売されているが、その1%が電気に置き換るとすると、1台当り最小の電気使用量で計算しても、電池の使用量は現在世界で使われる携帯とノートPCの使用量の総和に等しい。電気自動車のシェアが5%あるいは10%に達すると、電池の需要は驚くべき量に上る。自動車用電池の国内最大手の能元電池の電池年生産量は1億個で、電気自動車1万6000台相当に過ぎず、政府計画の年産6万台にはなお程遠い。自動車メーカーが安心して生産ラインを拡張できるように、速やかな対策が必要であると、裕隆の陳国栄社長は憂慮する。
需要が拡大すると、電池の性能にも革新が求められる。
電気自動車用電池のメーカーは百家争鳴の状態である。裕隆はリチウム電池(ニッケル、マンガン、コバルトの複合物)を採用するが「リチウム電池の利点はエネルギー密度が高く体積が小さいことですが、欠点はやや不安定でショートしやすいところです」と言う。台湾の電気自動車大手必翔実業が開発した燐酸鉄リチウムは安定性が高いが、エネルギー密度が低い。
「エネルギー密度は電池の体積や航続距離と関係し、考えるべきポイントです」と李副社長は説明する。エネルギー(電力)を体積で割るとエネルギー密度が出るが、エネルギー密度が高いほど体積が小さくなり(1台の車に6000個余りの電池を必要とする現状の重量構造を改善できるだろう)航続距離も長くなる。
「電池メーカーから言えば当然安全第一で、次に性能とコストですが、自動車メーカーの論理は性能が優先されます」と言うことで、数時間の充電でも40キロしか走れないとなると、安全であってもユーザーを満足させることはできない。
不安定という問題は、管理がきちんとできれば危険とは限らないということで、裕隆では電池セットの設計と電池管理システムでコントロールできるのだそうである。

LUXGENのエンジンフードを開くと、エンジンの代りにモーターと電気制御装置があり、下には6000個余りの電池が入っている。
「台湾は電気自動車産業の発展に有利なポジションにあります」と、李俊忠副社長は分析する。ガソリン自動車の開発に台湾は後れを取り、タイミングを逃してしまったが、エネルギー革命が進行し、世界の自動車メーカーと産業チェーンの再編が進んでいる。先発するロードスターとMINI Eの革新部品は、すべて台湾メーカーが研究開発したもので、たとえばモーターは金富田と公準精密が提供し、コントローラーは致茂電子、電池は必翔電能公司が供給しており、台湾の技術がリードしていると言える。
次いで、電気自動車はクラウドとIT技術の統合が必要となるが、これも台湾に強みがある。クラウドはユーザーの充電問題を解決できる。次の充電ステーションはどこにあり、目的地からどれだけ離れているか。お昼の食事時に、充電必要時間はどれだけか、コーヒーを飲んでから車に戻れば十分なのかなど、こういった情報は車に設置したインテリジェント・デバイスや携帯電話、ノートPCで取り込むことができる。
三番目に、台湾の環境は電気自動車向きである。面積が狭い台湾は、モデル走行で充電ステーションのインフラを全島に設置できる。環境保護概念が浸透したユーザーは、電気自動車の受容度が高いし、政策のインセンティブ(台北県は電気自動車の駐車と充電の無料化を検討している)が、普及に大きな力となる。
しかし、こういった優位性はこれまでも存在していたのである。世界の大手メーカーが電気自動車の開発を積極的に進めている中、台湾でもこの2〜3年で普及を進め、量産化に持ち込み、技術革新を実現し、コストダウンを図らなければ、優位性を維持して市場を確保することはできないだろう。
普及が進めば、サプライチェーン、充電モデル、クラウド、電池供給のビジネスモデルをコピーして輸出できると、李副社長は期待する。
電気自動車の時代を見据え、行政院は4月にインテリジェント電気自動車発展のアクションプランを採択し、6年間で97億台湾元の予算を組み、モデル走行、ユーザー環境の構築、購入優遇プラン、環境保護基準、産業指導プランを打ち出した。そして2016年までに、世界トップ10に入る電気自動車メーカーを育成し、国内販売年間4.5万台、輸出1.5万台を目標として設定している。
政府が打ち出したインセンティブ政策を、李俊忠副社長は高く評価しているが、それでもゼロからの電気自動車開発を、大きく育てていくには、現在の政策のインセンティブはまだ不足していると考えている。それでも時間との競争の開発の中で、政策の支持は大きい。努力の方向性が出てきた中で、受電ステーションやクラウドセンターなどのインフラが3年以内に整備され、そこで政策がさらに調整されていけば、台湾にも勝算が期待できる。

LUXGEN EV+は、排ガスゼロ、低騒音という電気自動車の特色を持つほか、インテリジェントデバイスも備え、クラウドとつないで各地の充電ステーション情報を得ることもできる。

裕隆グループが大陸の吉利自動車との共同開発で、ジーリー・パンダをアップグレードした電気軽自動車tobe。電池を除いた本体価格は50〜60万台湾ドルで価格競争力がある。

電気自動車の充電方法は通常2種類ある。ひとつは家庭用電力(110〜220V)を使用する方法だが時間がかかり、もうひとつは専用の充電設備(約400〜500V)を利用する方法で、こちらは速く充電できる。写真はMINI専用の充電設備。