台湾では現在17の医療機関が、世界的に最も信頼性の高いJCI(国際医療機能評価機構)の認証を取得している。
先進的な医療技術と医療設備を備える台湾の医療機関は、世界トップレベルの肝移植や生殖医療などの技術を有している。費用対効果の高い医療サービスの提供や、医療とケアの質は世界で競争優位性を持つ。さらに台湾では、伝統的な中医学による治療も並行して行われている。世界的に珍しい中医学と西洋医学の二本立てでおこなう、医療と健康づくりの環境が形成されているのだ。
今、医療と健康づくりが、グローバル・ツーリズムの新しいトレンドとなっている。台湾に来てでできることは、自然資源を堪能したり文化を体験したりすることだけではない。医療面でアドバイスを求めたり、治療計画を立てたりということもできてしまう。レジャーと、治療・ケアのニーズを一度に満たすことができるのだ。
年末、台北にある新光医院の健康診断センター受付で、欧米人やインドネシア人など多くの人たちが検査を待っていた。多忙な一年を終え、年末に健康診断を受け、新たな年のパワーを養うのだ。
「通常は午前中に検査を行い、画像で明らかな異常が見られる場合は、まずは昼に医師から患者さんに説明します。正式な結果レポートは7~10日後に送付しますので、お待ちの間に旅行をしていただけます。医療と旅行が一度に実現できるんですよ」と新光医院の洪子仁副院長は語る。

台湾の大病院では、先進的な医用画像診断機器を備えており、臨床知識と結び付けて、中核的な競争優位性を確立している。
台湾の医療の強み
台湾人の平均寿命は80歳近く、世界的にも高い。整った国民皆保険制度があることに加え、一番の要は台湾の医療の質が高いことだ。国際的ビジネスマガジン・CEOWORLD誌の2023年の発表では、台湾の医療制度は世界110カ国中1位にランキングされた。
台湾医療健康産業卓越聯盟基金会の呉明彦CEOによると、台湾は30年も前に医療機関評価制度を導入しているという。これはアジアで初、世界では第4の実施国で、既に17の医療機関がJCI(病院の質)の国際評価に合致している。
呉CEO曰く、一般的な疾病治療に加えて、頭蓋顔面骨形成手術、肝移植、腎移植、人工生殖技術、心臓血管治療、人工関節置換術、歯科治療などの特殊医療項目において、台湾は国際的に定評があるそうだ。なかでも肝移植と腎移植は、合併症の少なさ、成功率と生存率の高さを誇っており、特に生体肝移植は重症患者対象の医療における強みで、5年生存率は最大93.5%と欧米をしのぎ、国際的にも高い評価を得ている。
台湾では専門的な医療サービスの下、数十年前に海外との医療保健協力が開始された。新光医院では2007年にパラオとの医療保健プログラムを進め、医療従事者の派遣、パラオ人患者の台湾の病院への紹介、学校での栄養教育計画プログラム、医療従事者向け研修などを実施した。亜東医院は、カリブ海に面した国・ベリーズの医師と透析看護師を迎えて専門訓練を提供している。ベリーズに戻った医療従事者は、後進を育てるべく継続的に臨床訓練を担当し、腎臓病の予防治療面の専門能力を高めている。

健康診断産業に参入し、ホテルのような「お客様中心」の健康診断サービスを導入した大病院。
費用対効果の高い医療の優位性
「良い仕事には、良い道具が必要」と言われるように、良い医療には良い機器や設備が必要だ。病気のスクリーニングと診断の強力なツールであるコンピューター断層撮影(CT)装置、磁気共鳴画像装置(MRI)、さらには癌病巣を的確に治療できる高価な陽子線治療装置、「台湾にはこれらがたくさんある」と呉CEOは言う。
近年、健康というと、病気の治療に力を入れるだけでなく、予防医学が重視される傾向にある。台湾の大手医療機関は設備投資に積極的だ。先進医療を活用した健康診断にも手を広げ、人気の健康診断産業や自費検査市場も急速に伸びている。
医院評価・医療品質策進会(以下、医策会)がおこなう健康診断品質認証の主宰者でもある新光医院の洪子仁副院長によると、2021年に医策会は健康診断品質認証チームを設置し、がん検診、脳血管、心血管、総合的な健康診断など、医療機関実施の健康診断を対象に、品質認証制度を実施しているという。これは台湾の健康診断の完全性を評価し、その質を相対的に保障するものだ。
台湾では「全民健康保険」制度があるおかげで、医療サービスの費用対効果も国際的な強みとなっている。呉CEOは、英国・デイリー・テレグラフ紙の報道を引き合いに、台湾は世界最高の医療設備を提供する国であるのに、医療価格が最も手頃である点が、海外の患者が台湾での治療を選択する重要な要因となっている旨を指摘した。例えば体外受精、台湾では出産に至る確率が平均30%以上もありながら、費用が欧米や日本の3分の1であるため、非常に魅力的なのだという。洪副院長によると、新光医院には中国、香港、東南アジア諸国、また日本からも、子供を授かりたくて訪台する人たちがいるそうだ。

台湾は健康診断実施機関の品質認証を推進しており、健診の品質は相対的に保障されていると語る新光医院の洪子仁副院長。医院評価・医療品質策進会がおこなう健康診断品質認証の主宰者でもある。
中医学と西洋医学の両輪システム
「台湾の医療の特徴は、中医学も取り入れ、医療と健康づくりを包括して老化を遅らせようというものです」と台北医学大学薬学部薬物科学学科の王靜瓊教授が語る。伝統医学は世界中で広く応用されているが、中医師の正規訓練に西洋医学の教育、試験、訓練、応用を導入しているのは台湾、中国、韓国の三か国のみという。カリキュラムには西洋医学の基礎的訓練も含まれる。このような中医学と西洋医学の並行運用は世界的に珍しい。
台北医学大学付設医院伝統医学科の蘇柏璇医師によると、中医師は視診、聴診、問診、触診をおこなうことで個人の体質を見極めて診断し、薬を処方するそうだ。人の体質を気虚、陽虚、陰虚、湿熱、痰湿などの9タイプに分類すると、痰湿と気虚が混ざった体質といった具合に、多くの人は異なる体質を併せ持っているため、同時に治療とケアをする必要があるということだ。
中医学で病気を治療するのは台湾人だけでない。体に不調があると中医を訪ねる外国人も多くいる。日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞者の黒木瞳さんがその一人だ。黒木さんは、2022年に台湾の映画賞・ゴールデン・ホース・アワード(金馬奨)のプレゼンターとして台湾に招かれた際の記者会見で、中医師の診察を受けて胃腸の調子を整える薬を処方してもらうために台北にもう1泊する予定であると明かしている。
蘇医師によれば、仕事で台湾に駐在する人たちは、時差労働や深夜労働による睡眠障害や生理不順、駐在のストレスによる肩や首のこり、吹き出物などによく悩まされるという。これらの症状は、中医での体質診断、漢方薬や鍼灸治療、ティーバッグ仕様の漢方などで改善可能だ。処方薬はいずれも検査済みで安全性は折り紙付きだ。蘇医師の患者には、不妊治療を中医学に頼る外国人もいる。また、あるアルツハイマー病患者は、漢方薬処方と鍼灸治療を受けたところ、手の震えや認知障害などが改善したため、半年分の薬を持って帰国し、半年後に再診のため戻ってきたという。

病院の健康診断センターは、利用者がリラックスできるよう洗練されたデザインになっている。
健康づくりもできる中医学
王靜瓊教授によれば、中医学は医療であるだけでなく、健康づくりにも関わっており、これは世界でも稀なケアモデルであるという。例えば、高齢者によく見られるドライアイや目の痛みといった症状に対して、中医学で処方される杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)と明目丸は、治療のみならず、目の調子を整えケアもしてくれる。
中医学では、身体の内蔵は経絡(気の通り道)に対応していると考えられる。経絡がよく通り内蔵と調和していれば、気や血がスムーズに流れて丈夫になる。身体に不調が生じた場合、刮痧(かっさ)、カッピング療法、養生気功、つぼマッサージなどの方法で、滞っている気や血の流れを整え、生理的なバランスや調和を回復させる。
王教授の話では、台湾のマッサージ店(養生館)の指圧師はつぼにこだわっており、顧客にサービスを提供する際には、つぼに対応する身体の部位を説明するという。こめかみにある太陽穴や、親指と人差し指の付け根の間にある合谷穴は、頭痛を和らげるのに効果的といった具合だ。まさに中医学を健康づくりに導入した一例だ。
台北医学大学付設医院の蘇医師も、台湾の美容院のシャンプーサービスで提供されるマッサージが、頭、肩、首対象であるのに対し、マッサージ店の頭、肩、首、足裏のマッサージはつぼあん摩の原理に基づいたものであると語る。また台北市の北投や、宜蘭県の礁渓、蘇澳では温泉が有名だが、温泉に浸かることで血行が促進され、健康づくりの目的を達成することができる。
中医学で大切にされるのは、季節の変化に応じた食物を摂取し健康増進を図ることだ。春は肝臓を大切にし、夏は暑気払いをする。秋は肺を気にかけ、乾燥から身を守り身体を潤し、冬は栄養のある物を食べて免疫力を高め、身体を温める。蘇医師のお勧めは、まず中医師に自分の体質を診てもらい、自分に合う、不足したものの補い方を選択することだ。冷えている時に体を温める「温補」、こもった熱を冷やす「涼補」、どちらでもない時に不足するものを補う「平補」、これらを使い分ければ、折々で健康が増進され、自然と良いエネルギーが得られる。

台湾の医療には多くの強みや利点があると語る財団法人台湾医療健康産業卓越聯盟基金会の呉明彦 CEO。
医療観光の新たなトレンド
台湾東部の重要な医療センターである花蓮慈済医院(以下、花慈)は、再生医療(幹細胞治療)における主要な医療センターであり、はるばる海外から治療を受けに来る患者も多い。花慈は今年(2024年)、花蓮の中央山脈の麓に位置するGaeavilla Resortと協力し、国際医療観光プランを打ち出した。長期的な医療が必要な患者とその家族は、ホテルで美しい風景を楽しみながら療養し、治療や再診が必要な際は専用車が病院まで送迎する。質の高い医療を受けようと訪台する人たちは、良質なリゾートに滞在して「入院せずとも、治療とヘルスケアができる」のだ。
新光グループは医療資源を活用し、新北市板橋区都市圏に全年齢対象の健康管理サービス付き住宅「ジャスパーヴィラ板橋」を建設した。短期賃貸型ホテル、長期型の全年齢向け住宅、そして健康診断や産後ケアセンターを提供している。呂炳賢董事長によると、全年齢向け住宅には、岩盤浴や炭酸水素塩泉などの健康増進設備があり、健康管理士が常駐して相談に応じる。計画のコンセプトは、入居者の健康増進ニーズと、家族や友人の訪問や滞在の利便性を考慮したもので、家族の絆を重視する社会の文化に合致している。桃園市亀山区にある長庚養生文化村(以下、養生村)には、健康、亜健康、要介護の各状態にある60歳以上のシニアが入居している。桜やラクウショウの木に囲まれた静かな山林に建てられた養生村の環境は快適で、高齢者の生活を豊かにするための様々な講座もある。かつては高齢者にとってタブーだった生と死の問題、遺産計画、緩和ケアなどは、今や人気の講座テーマとなっている。
養生村では、入居者が長庚医院に通い、大型スーパーに買い物に行くための送迎バスも運行している。管理部責任者の杜素珍さんによると、「入居者の4割が海外からの帰国者で、さらに2000人が入居待ち」とのことだ。
米中在住経験が長く、4年前に妻と共に台湾に戻りこの養生村に入居した馮さん(65)が、太鼓教室の後にインタビューに応じてくれた。「ここは医療の質も良く、生活も便利でね、入居者同士も仲が良くて、想像以上に良いですよ」と話す。
「医療サービスはブランドと信頼の上に成り立っています」と語るのは新光医院の洪副院長だ。
レジャーと医療を組み合わせるのが旅行の新たなトレンドとなっている。台湾には豊かな自然や文化があり、医療界は豊富な医療経験を蓄積している。台湾での医療観光を計画して、高品質の健康診断や美容医療などを体験したり、専門的な医療ケアを受けたり、山や海の景色に囲まれ心身を癒したりしてみてはいかがだろう。

台北医学大学付設医院伝統医学科の蘇柏璇医師によると、鍼灸治療、科学的根拠に基づいた漢方薬やティーバッグ仕様の漢方はいずれも不調の改善に役立つという。(撮影:郭美瑜)

台湾は、世界でも数少ない中医学と西洋医学の二本立てシステムを採用する国だ。(撮影:郭美瑜)

マッサージもヘルスケア産業に含まれる。(外交部資料)

中医学では、温泉に浸かると血行が良くなり、痛みやこりが改善されると考えられている。写真は台東県緑島の朝日温泉。(外交部資料)

長庚養生文化村の管理部責任者・杜素珍さんによると、緑に囲まれ広々とした環境と充実したサービスにより、定年退職前に競うように予約を入れる人が多いという。(撮影:林格立)

健康づくりや養老の捉え方は時代とともに変化する。静かな山間部にある長庚養生文化村では入居待ちの人が多い。(撮影:林格立)

新光グループは新北市板橋区都市圏に全年齢対象の健康管理サービス付きマンションを建てた。立地がよく、台湾に駐在する人たちの入居にも適している。(提供:新光新板傑仕堡)

長庚養生文化村の太鼓教室最終回で、渾身の力を込め太鼓を叩く入居者。(撮影:林格立)

二胡を習う長庚養生文化村の入居者たち。(撮影:林格立)

長庚養生文化村には10万本の木が植えられている。冬にはラクウショウの葉が紅に染まり、観光客が紅葉狩りにやってきて写真撮影に興じる。(撮影:林格立)