2010年初めに台北国際ブックフェアに出展されてから、市場には10数種の電子書籍端末が出現している。BenQ、ASUS、デルタなどの台湾大手メーカーが自社開発製品を発売しているが、出版社としては唯一遠流出版社が端末開発に投資している。売上規模も開発能力も大手メーカーに対抗できない遠流出版社は、なぜこのレッドオーシャンに参入するのだろう。
「自己消滅の過程に参入しているのです。紙の本がデジタル化に押され、最後は博物館の所蔵品になるでしょう」と、遠流出版社の王栄文董事長は予測を語る。しかし、別の面から見ると「新しい時代の誕生に立会い、ゼロからスタートしようとしている」のである。
電子機器大手が業種を越えて攻めてきた読書市場の混沌とした戦場に、出版業界も転身して生存を求めるしかないと王董事長は語る。

バーチャルサイト遠流博識ネットでは、自社開発のKoobeソフトを用いて雑誌30余部と2000冊近い書籍を販売している。読者はここで電子書籍を読む感覚を体験できる。
BenQがハード、コンテンツ、通信を統合して電子書籍のオンラインショップを構築したのに対して、遠流は中国語世界のエース作家金庸のために、専用端末を設計した。
金庸機と命名された電子書籍リーダーは厚さ0.9センチ、250グラムの重さに6インチの白黒タッチパネルを組み合わせ1500冊を格納でき、中国語と英語対応で、縦書きと横書きを切り替えられ、大きさ、性能は電子書籍端末トップのキンドル第二世代に引けをとらない。6月末の発売が予定され、販売価格は1万4800元である。
すでに発売された端末と仕様はほぼ同じだが、一番の魅力と言うと、これを購入すれば内蔵された金庸の武侠小説15部が無料で手に入るという点である。
金庸機にはさらに金庸データベースがついている。金庸の小説の人物、武功、武器、歴史、地理、建物など、遠流の編集部が20に分類した項目に整理されて、蒙古の英雄ジンギスカンの偉業はとか、全真教の開祖丘処機が実在したのかや、岳陽楼や少林寺の建造の故事などを知りたければ、中国大百科をクリックすれば、無料で解説を読める。さらに英中辞典の機能もついていて、まさにパームトップの金庸図書館である。
今年、台湾の電子書籍市場は賑いを見せるが、王董事長は電子書籍産業の発展にコンテンツ、ソフト、ハード、通信、流通の5条件の統合を上げる。
まず、豊富なコンテンツをクラウドに収蔵し、供給しなければならない。キンドルは発売と同時にオンライン書店アマゾンから9万種の電子書籍をダウンロードできると宣伝した。読者は電子書店(流通)で便利に購入でき、どこでもいつでもダウンロード(通信)して、フレンドリーな端末(ハード)と、機能が豊富で使いやすく、快適に読書できる環境(ソフト)が整わなければならない。
キンドルの成功モデルを追って、台湾市場には中華電信のスマートフォンを主としたHami書店、BenQのeBook台湾、遠流のKoobeといったプラットフォームがあり、電源大手の台達電は電子出版のUDNとオンラインで提携し、さらにノートパソコンのQuantaも参入意欲を見せ、少なくとも5社のオンラインの電子書店が出現する。
こういった状況に王董事長は「一番よい端末を提供し、電子書籍を販売できて、作家の権利を守れるか」が競争に勝ち抜く鍵と考える。
「電子書店は群雄割拠の状態で、遠流は5つの条件を備えた金庸機で先陣を切ったものの、息切れするかもしれません。これも人生ですか」と自嘲気味である。

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35年の歴史の遠流出版社は、15年前からデジタル出版に積極的に打ち込んできた。
1993年、世界最大のフランクフルト・ブックフェアに電子出版物のエリアが設置され、薄いマルチメディアCDがデジタル出版の試金石となった。イギリスのDKやアメリカのランダムハウスなど大手がCD書籍の開発に乗り出した。
1994年に遠流は電子書籍ワークショップを設立し、2年の期間と1000万元の経費をかけてインタラクティブなCD絵本『ネズミの嫁取り』を製作し、多くの賞を受賞するなど高い評価を受けた。
その後『英語で電話』『英語でプレゼン』など語学学習のCDを発売したが、ネット革命が始まり、マルチメディアCDの未来をひっくり返してしまった。製作コストの高いCDはネットでただでコピーされ、衆寡敵せず反撃もできなかった。

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ネットの興隆に関心と資源が移り、ネットコミュニティが出現すると、読書習慣が一変し、出版社も経営戦略を練り直さざるを得なくなった。
1996年から遠流は会社のe化作業を開始した。外から見えない部分では編集プロセスをコンピュータ化し、生産、財務、棚卸資産システムを貫くERPシステムとし、外から見える部分は、遠流博識ネットを構築し、ネットコミュニティを立ち上げた。現在、この読書コミュニティは会員11万人を擁し、毎月のアクセス数が130万回を超え、年売上は6000万元と、華文世界で最も成功した出版サイトとなったのである。
この経験があって、王董事長は人が知識を求め、知識を貯蔵する最も重要な場所、図書館も電子化されると確信する。そこに重要な位置を占めるために、遠流は2000年に智恵蔵学習科技公司を設立し、百科全書チームを立ち上げて、百科全書、辞書、学術専門誌の知識のデジタル化を目指した。そこで中国と交渉し、1億3000万元の巨費を投じて紙メディア『中国大百科』の10年間の使用権を取得し、オンラインの中国百科データベース構築を目指すことにした。
自分でも台湾大百科を編纂したいと夢見たが、『中国大百科』は2万人の学者を動員し、15年の時間と数億人民元をかけて完成されたものである。人口が少なく、市場の小さい台湾で一企業の力で出来ることではないので政府に働きかけた。
2007年から遠流智恵蔵は文化建設委員会から3000万台湾元の予算を受け、2年で歴史、地理、宗教などをテーマとした6冊を完成させ、去年末から無料で一般開放している。

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2005年、遠流智恵蔵内部にデジタル出版に対する路線対立が起きていた。一派はネットを中心とするが、別の一派はユーザーの確認が難しく、一つのアカウントの複数使用を避けられないから、自社技術により版権を保護するシステムを開発すべきだと主張した。
路線争いが決着しないまま、2006年10月に王栄文董事長は台北市雑誌協会理事長として出版関係者を引き連れ、韓国のソウルにパジュ出版都市とアートビレッジの視察に出かけ、これが遠流の未来に深い影響を与えることになった。パジュ出版都市は敷地48万坪と、世界最初の出版業のための産業団地である。ソウルから車で1時間ほど、いつ戦闘が開始されるかもしれない北緯38度線の近くに、このような文化が花開くとは、奇跡と言えるかもしれない。
パジュ出版都市の発起人リ・ギウン氏は、韓国の美術出版社悦話堂の社長だった。それが、韓国の出版社は規模が小さく分散し、印刷、装丁、物流などのコストを負担しきれない上、発行システムが遅れていて、多くの本が売れずに出版社の倉庫に詰まれている現状を嘆き、1989年にこの環境を改造しようと思いついた。
200社余りの出版社を集め、10数年の奔走と陳情を続け、建設大臣25人、文化大臣15人、二人の大統領が交替していく中、漸く土地問題を解決した。その後、内外の建築家に設計プランを公募し、2004年に出版社、作家、版権会社、製紙会社、印刷所、物流センター、ネット書店、銀行、ショッピングセンターなど、川上から川下を集積した出版都市がパジュに建設されたのである。
出版都市の名声が広まると、付設のアートビレッジに作家、芸術家、建築家、デザイナー、映画関係者などが集まり、次第に芸術のテーマタウンを形成していった。韓国政府はそこで出版団地、アートビレッジと近隣の映画産業を統合して韓流ウッドを形成し、韓国文化産業の牽引車に成長した。

遠流出版社はビューソニックと協同で「金庸機」を開発した。設計と販売ルートはビューソニックが担当し、ともに電子書籍の世界を開こうとしている。
韓国の出版社が文化の使命を果すことに刺激され、王董事長は帰国後に遠流、国賓飯店、仲観建築士事務所などを集めて台湾文創公司を立ち上げた。
2007年末、遠流は台北ビール工場跡で敷地7000坪の華山創意文化パークの経営権15年を落札した。一冊の本、一つの風景、学校、舞台となりうる文化の天地で、想像力ある人が実力を発揮し、台湾の美的生活を育てるのがその青写真である。
また、韓国の出版社が文化立国を目指して、アメリカのソフト業界の制限を受けまいと、電子書籍のユートピアを作り上げた実例を目に、遠流の社員も民族の自決心を掻き立てられ、電子書籍のソフト開発を進めることにした。
「出版社は作家に奉仕するもので、その創作を保護し収入に出来ないなら、デジタル化も意味はありません」と話すが、そこで初めて作家は版権を引き渡す気になり、デジタル化最大の壁を乗り越えられる。
遠流のデジタルコンテンツ開発部はマルチメディアの『ネズミの嫁取』を対象に電子書籍の動的な見せ方を考え出した。僅か10数ページの絵本に最大の価値を発揮させるため、中英語や字体の切り替え、親に時間がない場合は、声を録音しておき自動的に読み聞かせ、子供たちがお話のリレーで語り、録音して聞く機能などがつけられた。
この電子書籍販売に向け、開発チームは版権の保護強化も考えた。ウィンドウズをインストールするときのように、電子書籍の起動に合法的な使用権の認証手続きを必要とするなどである。遠流博識ネットの会員ならオンラインで購入し、ダウンロードやプリントアウトができ、保護がかけられているので電子書籍のファイルが外に流れることはない。
「版権保護の鍵は技術ではなくサービスで、ユーザーに邪魔されているような不快感を与えてはなりません」と、このKoobeソフトを開発した技術者は話す。版権保護の管理システムは、入り口のソフトと組み合せれば不正アクセスを防げるが、完璧は難しい。セキュリティを施しても、それをかいくぐる人はいるもので、研究開発で知られるアップルのiPhonのソフトも防げない。問題は、その影響と速やかな修復である。
2008年11月、遠流はKoobeソフトを利用して傘下の雑誌「科学人」をデジタル化し、さらに科学人小事典で付加価値を高めネットの読者が科学の専門用語を調べやすくした。この付加価値があって、「科学人」電子版が始まって1ヶ月で、万を超える読者がお試し版をダウンロードしている。
またKoobeソフトでは、どの文章がどれほど多くの人にどれだけの時間読まれているかの読書分析が可能で、それで見ると電子版の読者の32%が付加価値機能を使っていて、平均の読書時間は35分39秒であった。
遠流がKoobeソフトを紹介する過程で、多くのハイテク会社の興味を引いた。世界に5万人余りの社員を擁するAUOは、このソフトで内部出版物(簡体字繁体字の中国語、英語版など)を発行し、紙メディアの出版量を大幅に減らせたのである。
このソフトで異業種を結ぶプラットフォームを構築しようと、2009年にKoobeは遠流出版から独立し、数名の研究開発チームから40人の遠通科技公司を立ち上げた。遠流の金庸機は遠通科技の最初のクライアントで、その後は「数位時代」「経理人雑誌」など雑誌31種がKoobeで電子版を発行する予定である。

遠流出版社はビューソニックと協同で「金庸機」を開発した。設計と販売ルートはビューソニックが担当し、ともに電子書籍の世界を開こうとしている。
「自分に与えた目標は、研究開発したシステムに金庸の作品を載せられれば成功ということでした。金庸は作品の売り方を知っている作家ですから」と王栄文は言う。2008年に遠流は金庸から作品のデジタル化の許諾を受け、発売のタイミングをじっと待っていた。コンテンツからソフトやハードの設計、後段の金流サービスまで見ると、ハイテク企業も出版社も、それぞれすべての条件を備えているとはいえない。そこで異業種統合が重要で、5つの条件を備えないと先に進めない。
電子書籍サービスのビジネスモデルには定価の決め方、出版社と作家との印税の配分、電子書籍リーダーのユーザーサービスの方法などなお課題が多い。
「読者が本を買えば財産の引渡しが終り、そこに絵を描こうが、誰かにあげようが自由でしたが、電子書籍の購入は永久なのか、期限があるのか。法律顧問の助けを借りて、誰もが遵守しやすい決りを作る必要があります」と彼は言う。
「台湾のデジタル出版はハードでコンテンツをドライブできるのが有利な点です」と王栄文は続ける。印刷革命から500年、新しい時代のチャンスに、出版界は自身のコアバリューを見つめ、旧資産の再利用から、新しい道の開発に、前に進むだけの価値はあると考えている。

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設立35年になる遠流出版社は、早くからデジタル化に取り組んできた。日進月歩するテクノロジーを直視し、王栄文董事長は「印刷革命らすでに500年の進化を経て、いま出版業界は己のコアバリューを考える重要な時期に来ている」と語る。

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