世界で三、四十年になるペットボトル・リサイクルの発展の道で、多くが繊維やボトル、他のプラスチック製品への再利用を中心としており、防風・防火・耐震・遮熱など高い基準を満たす必要のある建材にしようとは、これまで誰も考えなかった。
しかし、不可能とも思えるワザが台湾で実現している。今年「台北国際花博覧会」の14あるパビリオンのうち唯一企業のスポンサーシップで建てられた花博流行館──遠東EcoARK (ファーイースト再生の箱舟)は、世界初、外壁が全て廃ペットボトルで作られたグリーン建築だ。
この「箱舟」は敷地面積2186m2(約656坪)、最高箇所が28m(9階建てに相当)のパビリオンで、4月の竣工から現在までに「世界で最も環境にやさしい透光建築材料」(LEED認証)、「世界初『二酸化炭素中和』大型展示場建築」「世界で最も堅牢且つ軽量の半透明カーテンウォールシステム」等7つの世界一を達成している。
流行館が打ち立てた建築の奇跡は、国際メディアで大きく報じられただけでなく、ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルが噂を聞いて訪台し、準備段階から全工程を記録した。国際建築界で話題を巻き起こした「ゴミ屋敷」は、将来、ドバイのブルジュ・ハリファ、北京のウォーターキューブ(水立方)といった世界トップレベルの建築物と肩を並べ、「メガ・ストラクチャー」シリーズの一つとして世界166ヶ国、34の言語で放映される。
軽量化容器から一挙手一投足が注目される建材へ、世界の話題をさらったペットボトルの変身ショーは、如何に実現したのだろうか。
軽くて空っぽ、風に吹かれて飛んでいくペットボトル。頼りない使い捨て素材が、長期間日射や風雨に耐えねばならない建材になるとは想像しがたい。世界で初めてこの奇抜な案にチャレンジした建築家は、台湾出身の33歳、コーネル大学建築学部、ハーバード大学デザイン学大学院卒の黄謙智だ。台北花博・流行館の設計者として、彼と研究チームの努力の下、ペットボトルに輝かしい第二の春を見出すことになったのだ。

流行館の外壁のブリック内にはLEDライトが組み込まれており、夜になるとダイアモンドのように輝く。台北花博で最も人目を引く美しいパビリオンだ。
黄謙智が率いる会社「小智研発(MINIWIZ Sustainable Energy Development)」は、台湾ではあまり知られていないが、国際的には注目されているグリーンパワー企画デザイン会社だ。同社が過去に手がけたHY Miniハンディ風力発電機、mini SOLAR携帯型ソーラーパワー・バッテリーチャージャー、Solar BulbソーラーパワーLEDランプ、そして国際著名自転車ブランド・ダホン(DAHON)とのコラボレーションである自転車エネルギーを主体としたマイクロ発電・蓄電システムBiologic Ree CHARGEといった製品は、ドイツiF (2009 Eurobike iF Award)等数々の著名デザイン賞の評価を受け、CNN、BBC、タイム誌といった国際メディアにも報道されている。
今回話題を巻き起こした花博流行館のアイディアは、身の回りの物事に対する注意深い観察が源だ。3年前、遠東グループの要請を受け、チームとともに花博流行館の新建材に頭を悩ませていた黄謙智は、自分も含めてオフィスの仲間がいつもペットボトルを手にしていることに気がついた。「こういう毎日作ってしまうゴミからできるのではないか」とインスピレーションが湧いた。
空のペットボトルをもてあそんでいると、ふと思い立った。一本では頼りないペットボトルだが、たくさん集めてつなげれば「団結は力なり」ではないのか。そこで生活の経験と大自然の構造体からアイディアを探した。いろいろ試し、最終的に「蜂の巣」と「レゴブロック」を取り入れた設計理念で、六角柱を基本構造とする高さ約30cm、対角線の長さ17〜18cmのペットボトルブリックができあがった。立体六角ポリブリックの表面には、幾何模様の凹凸形ホゾを設けて、ブリックどうしでおもちゃのブロックのように嵌め合わせれば、しっかり固定することができる。

外壁がポリブリックであるだけでなく、内部の照明器具にもさまざまなサイズのポリブロックが用いられている。
ポリブリックの作成は、リサイクル繊維と同じ処理方法で、回収した廃ペットボトルを色別に分けて、洗浄、粉砕、過熱溶融といった工程を経て、特殊形状のポリブリックにブロー成型する。
回収ボトルの清浄度と純粋度については、建材用ポリブリックの場合、衣料にするエコ繊維や飲料用のリサイクル・ボトルほど要求されないということは、一筆に値する。すると製造工程にかかる時間と水消費量がともに削減できる。つまり、二酸化炭素排出量がPETリサイクル製品で最少を記録する一方、巨額の経済効果を創出できるわけだ。だからこそ居並ぶ強豪を押しのけて、2010年「The Earth Awards」のプロダクト・カテゴリーでの受賞となったのだ。
黄謙智がポリブリックについて解説する。「グリーン建築」の設計理念は、建物の遮熱、保温、透光を良くして、空調や照明に消費する電力を削減しようというもので、更に建材は軽量化とリサイクル可能であることが求められる。ペットボトルのポリブリックはこれらの条件にちょうど合うのだ。
まず、最初のペットボトルの発想に従って、リサイクル・ポリブリックは空洞の設計にした。内部に空気を入れれば、空気は毒性が無く最も環境にやさしい遮熱材になるし、その透光性で大幅に照明を削減できる。空洞の設計にすることによって、さまざまな建設の異なるニーズに応じて変化させ、多様な機能を発揮させることが可能になる。ボトルに水を入れれば遮音材となり、砂を入れれば重量物の積載が可能だ。同社が中国大陸陝西省西安の出入国監視所に使った建材は、砂を入れたポリブリックで、重量積載も防風も問題ないうえ、外観も中国西北部の荒漠とした景観にマッチしている。

六角柱のポリブリックの表面には特殊な凹凸のほぞとほぞ穴があり、接着剤を使わなくても固定することができる。
更に、ポリブリックは木材・ガラス・鋼材のどれと比べても軽く、それだけ運搬・施工とも容易になる。接続も化学毒性に満ちた工業用接着剤に頼らずに済み、使用後は100%リサイクルが可能だ。今、最も求められる「揺りかごから揺りかごまで」の環境保護理念にピッタリのグリーン建材といえるだろう。
ポリブリックの表面硬度不足という欠点を克服するために、黄謙智は折り紙の概念を取り入れ、六角形の各表面に少なくとも5個以上の凹凸ホゾを設計した。これでポリブリックを嵌め合わせるだけでなく、表面硬度を増大できる効果がある。束にした箸が折れないように「団結は力なり」で、嵌め合わせたポリブリックの壁は、1m2400kgの衝撃に耐えられ、大きな被害をもたらした2001年台風16号の1.5倍の強風(最大瞬間風速約24.7m/秒)、台湾大地震・四川大地震より大きな震度にも耐えられる。
このほか、ポリブリックを組み立てたボードに、同じく同社が開発し、ナノ処理を施してUV防止、静電防止、防炎・自浄機能のあるフィルムを加えることで、最良の防風・耐震・防塵・遮熱、更に防火効果までが得られる。
また、「質素倹約」の長所もあり、一般の建材と比較すると、ポリブリックの生産コストはずっと低く、1m2当り約3600〜4000元だ。一方、同クラスの規格のガラス・カーテンウォールは2万〜3万元するが、遮熱効果はポリブリックの僅か1/4だ。
「唯一の欠点はたぶん、ポリブリックは透明度がガラスには及ばないから、外の様子が見られないことくらいでしょう」黄謙智は笑う。

流行館には43万個のポリブリックが用いられている。環境に優しく創意に富んだ設計は、すでに建築界で数々の世界一を成し遂げ、高く評価されている。
ペットボトルの新しいエコ建材のデビューが、今年、花博唯一の企業スポンサーによる流行館「遠東EcoARK」である。
工期わずか半年、総工費1億5千万元のパビリオンは、箱舟か三角に切り分けたケーキのようだ。150万本の廃ペットボトルから作られた43万個のポリブリックに、鉄骨構造を組み合わせて建てられた。外壁はクリスタルの質感があり、ボトルブリックに取り付けた4万個のLEDライトが夜にライトアップされると、輝くダイヤモンドのように、アーティスティックな美しさに包まれる。
温度調節については、流行館の入口が圓山特有の地形を存分に利用している。三角形の頂点のような尖った設計で、東北からの季節風の気流を取り込み、更にウォーターカーテン、滝、ミスト系統といった設計と、ポリブリックの遮熱特性とで、天然のクーラーとなって室内温度を効果的に3〜6度下げている。
照明の面では、ポリブリックの透光性で、昼間は照明なしでも非常に明るい。パビリオンの屋根と側面にはソーラーパネルを設置して蓄電し、自給自足で夜間のLED照明の電力を賄っている。
さまざまな角度から工夫をこらした設計が、花博流行館を徹頭徹尾、環境にやさしいグリーン建築にしている。登場してからというもの、話題をさらい、数々の「世界一」建築の記録をモノにしているのには理由があるのだ。廃ペットボトルが大きな功績を打ちたて、Made In Taiwanの独創性が世界に再び光を放っている。