産業の海外流出が続く台湾では、不景気のために大企業にリストラの波が押寄せているというのに、そんな影響などまったく受けずに儲け続けている業種があるという。それが台湾の葬儀業である。将来、台湾に根を残す産業は、唯一葬儀業だけではないかとまで言われるのである。
台北市社会局が実施した一連の葬送改革の中でも、第二葬儀館では空間が限られているということで、今年5月から花輪や供花を並べることを全面的に禁止した。この禁止規定が葬儀業者の収益を減らすことになり、たちの悪い業者が脅しをかけてきたという。葬送改革を推進した市の職員3人を名指しで、ろくな死に方をしないと脅迫してきたのである。
これほどの脅しをかけるとは、供花や花輪に一体どれだけの利益があったというのだろうか。普通の相場で言うと、大き目の供花が1基で600から1200台湾元するし、甲クラスの祭壇となると平均して10基程度の供花が必要になるそうである。祭壇の外に並べる花輪となると、1基で1万5000から5万台湾元くらいするものであるという。第二葬儀館では毎年2500回に上る葬儀が行われるので、ざっと計算しても億近い金額が葬儀業者に入ることになる。
だが供花や花輪だけを計算していては、木を見て森を見ずということになりかねない。内政部の統計資料によると、わが国の最近の死亡率は約0.6パーセント、毎年の死亡者数は12万人から14万人の間を前後しており、また一人当りの葬儀費用は平均して30.76万台湾元なので、ここから計算した表面に出た営業額だけで年間500億台湾元前後となる。現実には、これに合法的な公営墓地以外の非合法の墓地用地購入原価や、埋葬後数年してから骨を拾い、これを改葬したり納骨堂に入れる費用が加わるだろう。さらに寺の納骨堂に預けた場合には、永代供養料も計算しなければならない。「葬送市場での毎年の実際の売上は、どう考えても表に出た見積りの数字をはるかに上回っているのではないでしょうか。それに台湾はこれから高齢化社会に入っていくのですから、将来の死亡者数は増えることはあっても減ることはありません」と、現在葬送に関する新しい法案作成に当っている内政部民政司の楊国柱氏は話す。
経済建設委員会人材計画処の予測によると、35年後の2036年の台湾では、毎年の死亡者数が現在の13万人から27万人へと倍増すると見積られ、葬送業界の表に出る売上だけでも1000億を超過し、市場としての潜在力は魅力的である。
早くも10年ほど前に、国宝グループに属する北海福座公園では38万体の遺骨を収容できる納骨堂を建設したが、わずか数年で建設コストを回収し、その利益で国宝生保と北海往生葬儀社の2社を投資設立した。龍巌建設は30億台湾元を投資して、アジア最大を謳う納骨堂を建設したが、その経営は順調で2年以内に借入金を完済したという。わが国では納骨堂の収容スペースについては供給が需要を上回っていて、あと20年は十分需要を満たせるというのだが、台北市の公営墓地ではすでに新しい埋葬が禁止され、移転が計画されている。将来、合法的に土葬が出来る場所はきわめて限られてくるため、土葬のための墓苑はこれから人気を呼ぶと考えられる。この点に注目した太平洋建設の株主が出資して設立した玫瑰園は、金山と陽明山の境界一帯に広大な土地を購入し、芝生で覆われた庭園式の墓苑を開発、今年2月に完成している。
生きている人の住宅を建設する会社が今度は死後の墓苑開発で利益を上げており、さらに一歩を進めて埋葬から今度は葬儀まで範囲を拡大し、往生礼儀と呼ばれる葬儀社を設立するようになった。
葬儀業は特殊なサービス業であるために、その需要と供給の関係は通常の商品経済とは異なっている。南華大学生死学研究所で死者に関わる経済を教える陶在樸氏によると、葬儀業は国民所得が増加しなくとも需要が増えつづける珍しい業種なのだそうである。それに死者を重んじ、死後の儀式をきわめて大切にする中国人の文化にあっては、経済全体が不景気に喘いでいても、葬儀の業界が受ける影響はきわめて小さい。今年33歳、この業界に入って7年になる陳原さんは「この業界では、一つ何かすればその分がすべてお金に換算されます」と言う。
台湾の葬儀市場の規模を見込んで、外国の業者も市場参入を目指している。1994年には世界最大の葬儀会社で、全世界に2500に上る支店を持つアメリカのSCI社が人員を台湾に派遣し、台湾製糖社とは葬儀場と墓苑開発について、さらに台北市葬儀場と経営委託について商談したがまとまらなかった。しかしSCI社は台湾市場をまだ諦めていない。最近ではアジア市場に参入し、また台湾の葬儀社大手と資金提供や合併の商談を持ちかけているのだが、台湾の葬儀業界では資金需要が大きくないため、SCI社はいまだに参入を果せないでいる。
龍巌グループの広報室マネージャー呉正群氏によると、欧米の大手が台湾市場に参入できれば、豊富な資金力と最先端の完備した運営管理手法を提供できる利点はあるものの、葬儀業というのは非常に土着性の強い業種であるので、外国の業者が参入するには現地の人材を重用する必要があるだろうと話す。現地の人材を活用できなければ、土着性という敷居が高い業種のために、外国企業の参入は難しいだろうとのことである。
大手の企業化した葬儀社が積極的に市場に参入してくると、伝統的な家族経営の葬儀業者には大きな衝撃となる。葬儀に関連する商品を不断に新しく開発して対応してはいるが、式次第に習熟した葬儀スタッフが独立して新しい会社を作るというのも少なくない。そこで競争が激しくなり、都市化の進んだ地域では家業としての葬儀屋は経営が難しくなっている。「価格においても、数においても、以前の半分くらいに落ち込んでいます」と、三代続いた葬儀屋を経営する高継昌さんは話す。若い業者の中には、家業だからというので仕方なく後を継いでみたものの、1年に数件しか葬式を受けられない業者もいるという。
実際、去年行われた葬儀業者の評価を見ると、台北市に登記されている228社のうち、市の評価を実際に受けたのはわずか30社あまりしかない。しかも、その大部分が比較的規模を備えた業者だというが、大手の葬儀会社ではシステム化したサービスがすでに主流となっている。将来的に中小の伝統的な葬儀社は連合し、人材や資金力を統合しないと、市場で淘汰されていくことだろう。
こう見ると、確かに葬儀市場のパイは大きいものの、このパイの味は次第に変ってきているようである。激しい価格競争の中でどうやって新しい商品を開発し、顧客のニーズを生み出していくかが、業者の利益を決める鍵になるだろう。
「葬儀業は最も人間的なサービス業で、サービスの質のいいところが勝つのです」と呉正群氏は話す。その分析によると、葬儀業は地域的な利便性により区分された市場だという。これまでは比較的北部に集中していた大規模な納骨堂だが、現在は中部や南部に進出し、宗教や民族に対応した葬儀業者も出てきている。
これまで一般家庭の葬儀の費用というと、葬儀場や墓地までの行列の車、法事、棺、墓地、それに法事の会食などに分れていた。しかし公園式の納骨堂や公営の葬儀場では、大部分が葬送の行列が入るのを認めていない。内政部が提出した葬送管理条例の草案では、道路を使用して葬儀を行う場合の使用料を累進式で徴収し、葬送行列は3日前に現地警察に届出ることを義務付けている。
将来的には2、3キロに渡るような葬送の行列を目にすることは少なくなるだろう。これに加えて葬儀場が地域社会に組み込まれていく傾向にあり、告別式は葬儀場の中だけで行うという香港のような規制が盛り込まれることもあり得る。あるいは日本のようにホテルで告別式と精進落しの会食の席を設けるというのも、葬儀業者がこれから開発を目指している方向である。
つい先頃、新聞に載ったアンケート調査によると、若い世代では個人葬の告別式を選択し、海上での散骨や樹木葬などといった環境保護に配慮した葬式の方式を選択する比率も、年長の世代より3割ほど高いのだそうである。再生紙を利用して作った環境保護志向の棺や、家まで来てくれる移動式の火葬用焼却施設、それにネットで墓参りを行う祭祀方式など、すでに葬儀業者が普及を目指している。葬儀市場は儲かると言ってばかり入られない。変化も起きているのである。

墓地や納骨堂の公園化というのも葬送改革の目標の一つだ。民間業者の動きは速く、早くも十年以上前に敦煌の石窟のようなイメージを持つ金宝山墓苑が建てられている。

どんな英雄豪傑であろうと、生きている者は必ずいつか死を迎える。葬送改革は外見や形式だけのものではなく、より重要なのは生の意義を深く考え、関心を寄せることだ。