飲食店が林立し、安くて大盛りの料理がどこでも味わえる台湾は「グルメ王国」と言われる。だが最近は、おいしく満腹になるだけでなく、安全・安心な食が求められるようになってきた。
台湾の有機農業の耕作地は約6000ヘクタール、農地全体に占める割合は0.6%に過ぎない。欧州で有機農業が最も盛んなフランスでは16%、オーストリアでは20%を占めるのと比べるとまだまだである。だが、環境の変化と食の安全への危機感から、台湾の有機・無農薬農業も加速し、各地でファーマーズ・マーケットが盛んになっている。デパートや量販店でもオーガニックの生鮮食品を扱うようになり、その世界は広がりつつある。
2013年、聯合報が発表した年間のトップニュースは、「天然酵母を謳ったパンに人工香料使用、輸入米を混入した国産米、綿実油を混入した高級オリーブオイル」といった食の安全に関するものだった。
食の安全を脅かす事態が次々と報じられ、それに伴って安全な農産物が売れるようになった。「昨年は、無農薬や有機の食材であれば、売れ行きの心配はありませんでした」と話すのはファーマーズ・マーケット248農学市集の発起人・楊儒門だ。

片手に農具、片手にマウスを操る若い世代が増え、小規模農家にネット販売の道を開いている。写真は宜蘭県の博士農夫・楊文全さん。
オーガニックの時代
台湾の有機農業はついに日の目を見ることになったのだろうか。
統計によると、台湾で有機食品を扱う小売店は1600余りに上る。里仁、無毒的家、棉花田などのオーガニック・チェーンの他に、全聯福利中心や頂好、松青、家楽福、大潤発、愛買といったスーパーや量販店でも有機野菜コーナーを設けるようになった。台北松山文創園区や2013年に営業を開始した誠品生活松菸店などでも有機野菜を扱っている。
だが、台湾の小規模農家と消費者が直接接触できるのはファーマーズ・マーケットである。
開拓文教基金会の「ファーマーズ・マーケット地図」によると、現在全国で63のファーマーズ・マーケットが開かれているが、その歴史はまだ8年に過ぎない。
2006年10月、東籬農園の陳孟凱と静宜大学児童福祉学科の陶蕃瀛教授、渓底遥学習農園の馮小非らによって、台中西屯区で「合樸農学市集」が開かれたのが最初である。
2007年9月には、中興大学生物産業推進・経営学科の董時叡教授が「中興大学有機農夫市集」を発起、有機農家20数名を集めて、理念と組織を持つ第二のマーケットを開始した。
2008年7月には、彰化県二林の農家出身の楊儒門が合樸農学市集に倣い、「農村のサステナビリティ、農業の発展、農家の幸福」を謳い、台北に「248農学市集」を開いた。それから5年、このマーケットは台北の都心に一角を占めるに至り、さらに拠点を広げつつある。
台北市の忠孝東路248巷(金・土)、四四南村(日)、中和環球市集(土・日)、新竹環球市集(日)などの休日マーケットの他に、2010年からは天母農学園や板橋環球農学園など固定の「直販所」も設け、15ヶ所で運営している。楊儒門は、数年以内に50拠点まで増やしたいと考えている。

ファーマーズ・マーケットは小規模農家と消費者が直接コミュニケーションを交わす場である。写真は台北の四四南村と忠孝東路248巷、公館水花園、宜蘭のフレンドリー・ショップ。
ファーマーズ・マーケットに将来を見る
楊儒門によると、248マーケットに参加する農家への要求は、農薬と化学肥料を使わないという点だけである。5年来、200人余りの小規模農家が参加し、ここから20余りのブランドも生まれた。アイスキャンディの「春一枝」、ジャムの「在欉紅」、麦芽糖の「来春嬤」、水産物の「阿禾師」、有機米の「龍徳米庄」などが広く知られている。
発展が期待される有機農業だが、248も立ち上げは容易ではなかった。最初の2年はなかなか売れず、多くの農家があきらめてしまい、マーケットの存続さえ危ぶまれた。その後、出店者が自分たちの食材で料理を作り、消費者に提供するようになって少しずつ消費者との距離が縮まっていった。
「マーケットは生産者と消費者のコミュニケーションの場なのです」と楊儒門は言い、出店する農家には、5%の力を販売に、95%の力は消費者とのコミュニケーションに注ぐよう求めている。高齢の農家の中には、野菜を育てるより人と話すことの方が苦手という人もいるが、楊儒門は、消費者の考え方を変えるにはコミュニケーションしかないと説得している。
「有機食材は高価で、お金持ちしか食べられないと思っている人が多いのですが、実際には大部分の人が買った食料品の3分の1を捨てているのです。冷蔵庫の中には去年の餅など、消費期限の切れた食品がたくさんあり、浪費しています。少し高くても良い品を買って、全部食べ切ればいいんです」
「農家の方々がマーケットで消費者と話をするようになれば、1年半から2年の間に将来の販売ルートが開けます」と楊儒門は言う。ホテルやレストラン、有機食材店などの仕入れ担当者もファーマーズ・マーケットを訪ねてはパートナーを探している。運がよければ、自分の農園で待っているだけで消費者が訪れるようになる。
ファーマーズ・マーケットに集まる農家の多くはこうした野心を抱いている。新しく248に加わった「有鶏陳」の陳偉仁は毎週、屏東県高樹郷から高速鉄道に乗って鶏肉を売りに来るので、長旅の上、交通費もかかる。抗生物質や成長ホルモンを使わずに育てた鶏肉は一般のブロイラーより高く売れるが、もとは取れない。それでもマーケットに出店するのは知名度を高めたいと考えるからだ。
「マーケットは小規模農家に場を提供し、一般消費者に理念を伝え広める意義があります」と、台中梨山で果物を栽培していた阿宝は言う。彼女は母親が高齢で山での耕作ができなくなったので6年前に故郷の宜蘭に帰り、稲や雑穀を植えている。「友善(エコ・フレンドリー)耕作小農連盟」を設立し、月に2回、20人ほどのファーマーズ・マーケットを開いてきたが、昨年末に宜蘭県がこれを引き継ぐことになり、段階的な任務を終えた。今は「守護宜蘭工作坊」の幹事となって農家の廃水汚染や農地の生態といった環境問題に取り組んでいる。

ファーマーズ・マーケットは小規模農家と消費者が直接コミュニケーションを交わす場である。写真は台北の四四南村と忠孝東路248巷、公館水花園、宜蘭のフレンドリー・ショップ。
スーパーの手頃な価格の有機野菜
生産者はファーマーズ・マーケットで消費者と出会うことで信頼と支持を得、多くの人が少し高くても安全な食材を買うようになり、それが有機農業を支えている。
有機農業を支援して20余年になる台湾大学農芸学科の郭華仁教授は、毎週土曜日に台北市水源路の自来水博物館水花園有機市場で一週間分の食材を購入する。「有機農家の作業は大変なので、経済的に余裕がある人がこれを支持し、少しずつ普及させていくべきです」と言う。
最近は大型スーパーマーケットも農家と契約して手頃な価格で有機食材を販売するようになった。全聯福利中心が販売する有機野菜は1袋29元で、小売では最も安い。この価格で販売できるのは、直接有機農家と契約しているためで、農家は販売ルートの心配をすることなく生産に専念できる。
「販売ルートがなければ、有機や生産履歴をやっている農家は辛くなっていく一方です」と話すのは全聯福利中心生鮮課で仕入れを担当する李文宗だ。全聯は有機認証を取得したり生産履歴を実施している農家を契約対象とし、その作物は251項目の残留農薬検査に合格して初めて店舗に並ぶ。
低価格のもう一つの要因は、薄利多売で利益を抑えている点にある。李文宗によると、一般の小売店では粗利率が30~40%なのに対し、全聯では10~12%に抑え、販売価格を他店より10元以上安くしている。安さこそ全聯の核心的価値である。「安価をもって有機野菜/有機農産物の供給を拡大する」というのが2014年、同社の生鮮食品四大政策の一つだ。
全聯マーケティング部の初貴民によると、2013年末現在、生鮮食品を扱う全聯の店舗は全国に500以上あり、有機および生産履歴認証を持つ契約生産面積は400ヘクタール、年間生産量は6700万袋になる。今年は600店舗までの拡張を目指しており、契約農家による供給を1万袋まで増やす考えだ。
全聯の最大の契約農場の一つ、彰化県埤頭の冠軍有機合作農場の面積は62ヘクタール、葉物野菜や根菜類を生産している。
李文宗によると、検査で残留農薬が検出されやすい作物――豆類、サヤエンドウ、パプリカ、キュウリ、葉野菜などは契約農家や生産履歴実施農家以外からは仕入れないことにしている。
彰化県田尾、キュウリとトマトの温室栽培で生産履歴を実施している王有進によると、温室設備には1坪当り1万元ほどの資金がかかるが、玉女蕃茄というトマトなどは皮が薄く、露を吸収しただけで割れてしまうので温室でしか栽培できないという。また、夏の作物であるキュウリは、温室なら冬でも栽培できるが、夏は5日で収穫できるものが15日かかる。それでも契約価格が高いため、農家は栽培しようという気持ちになるという。

ファーマーズ・マーケットは小規模農家と消費者が直接コミュニケーションを交わす場である。写真は台北の四四南村と忠孝東路248巷、公館水花園、宜蘭のフレンドリー・ショップ。
千甲聚落の産地直送
昨年から、農業委員会は「有機」の厳格な認証標準を定めた。認証を取得していないものは「有機」を謳うことはできなくなったため、有機農法で栽培した作物であっても、認証を取得していないものは無毒農業(無農薬)と呼ぶこととなった。
信頼関係があれば認証を取得していなくても安心できるが、規模が大きくなり仲介業者などが入ると、信頼関係が分断されるため、やはり認証が必要になると郭華仁は言う。
ここ数年、農家の阿宝は「有機」ではなく「エコ・フレンドリー」という表現を用いている。これは消費者に初心を思い出してもらうためだという。有機農業に関する法令が制定されたことで、「環境のため」という本来の精神から離れてしまったと阿宝は考える。消費者は利便性を求め、生産者は容易に認証を取得できる方法を求める。「設備はエネルギーを浪費し、有機商店の商品の7割は輸入品で、地元の作物とは距離があり、これらはすべてオーガニックの精神に反します」という。
確かに、消費者と生産者が互いを理解して信頼関係を築くのが一番であり、認証というのは便宜的な方法に過ぎない。だが、互いを理解するには距離を縮め、直接生産者から購入するしかない。
そこで地産地消を目指し、認証に代る地域支援型農業(CSA)を始める人も出てきた。有名な宜蘭の「穀東倶楽部」や新竹の「千甲聚落」などだ。
「以前はネットの仕事をしていましたが、今は農場を経営しています。食材販売のネット化が今の仕事です」と話すのは、工業研究院社会公益委員会千甲聚落CSAプラン責任者の陳建泰である。
千甲聚落は新竹サイエンスパークに近く、土の表面を有機質で覆うマルチ栽培を行なっている。0.8ヘクタールの耕地に豆類、トマト、根菜などを少量ずつ多品種栽培している。「私たちの栽培期間は一般の慣行農業に比べて1週間ほど長く、しっかりした味がします」と陳建泰は言う。新竹サイエンスパークや近隣の大学の人々が支援してくれるので、千甲聚落は販売ルートを心配する必要がなく、支援者を募るのにも困らない。
千甲聚落で年間1万8000元の支援者を募ると、初年度には20人が集まり、今年は50人を集めた。彼らは毎週水曜日に新竹サイエンスパークに野菜を届けに行き、支援者たちは野菜を抱えて帰宅する。

全国に500店舗を展開するスーパーの全聯福利中心も有機野菜のコーナーを設け、粗利率を抑えて低価格で提供している。
ネット販売網
最近は博士の学位を持ちながら農業に従事する青年が増えており、彼らも有機農業を広める上で大きな役割を果たしている。2004年、頼青松は宜蘭県員山郷に「穀東倶楽部」を設立した。彼に続いて多くの博士が農業を始めている。
50代前半の楊文全は、蘭陽平野内城村の水源頭に1.5ヘクタールの土地を借りて「博士農夫」になった。彼はさらに200ヘクタールを目標に、農業に興味を持つ人々を育成して新たな田畑を提供しようとしている。昨年彼が育成した8人の新人農家は、最初は半農半Xだったが、そのうち3人は今年から専業農家になった。
農業を始める前は台湾大学城郷基金会で農村プランに携わっていた楊文全は、机上のプラン作成で行き詰まり、一昨年、思い切って自ら農業に取り組むことにしたのだという。
「野良仕事にはリズムがあり、楽しいものです」と楊文全は言う。農業はお天道様の顔色次第と言われるが、上司の顔色がお天道様のそれより良いとは限らないのである。
今年、楊文全は25組の農家を集めて17ヘクタールの土地を耕作した。目標の200ヘクタールには程遠いが、彼は自信を持っている。以前は農業をしたいと思ってもハードルが高かったが、今は組織の協力があるので20年以内に蘭陽平野に200ヘクタールのエコ・フレンドリーな田畑ができるはずだという。
28歳の呉佳玲は雲林県の農家の出身だが、宜蘭県で専業農家になるために世新大学社会発展研究所を休学した。「農家のイメージを変えたいんです」と話す彼女は、今年「有田有米工作室」を設立し、4ヘクタールの農地を借りて稲作をしている。
「稲作は難しくありません。3ヶ所に電話をかければいいんです」という。稲作は機械化が進んでいるので、田起こし、田植え、稲刈りは電話で代行業者に頼むことができるのだ。その他の育苗、一部の田植え、除草、スクミリンゴガイという有害動物の駆除などはすべて自分で行ない、7月に刈り入れる。 宜蘭の稲作は年に一回で、残りの半年は収穫した米の販売に忙しい。
呉佳玲の稲作技術はベテランの農家にはかなわないが、インターネットの技術があるので、消費者への販売とコミュニケーションに障害はない。しばしば水田の様子や出来事をフェイスブックにアップしてファンをふやしている。
初年度の収穫は自分で食べる分にも足りなかったが、「農業をやるなら農家らしくなりたい」ということで、今年は米の質も高めたいと考えている。
ファーマーズ・マーケットであれ、デパートやスーパーであれ、ネット販売であれ、長年にわたるコミュニケーションと粘り強さで、無農薬農業の理念は消費者の心を動かしている。

ファーマーズ・マーケットは小規模農家と消費者が直接コミュニケーションを交わす場である。写真は台北の四四南村と忠孝東路248巷、公館水花園、宜蘭のフレンドリー・ショップ。
小規模農家の時代
「信念を貫いてこそ多くの人の目にとまります」と楊儒文は言う。5年余り前、彼は248マーケットに出店する農家に、どんな悪天候でも必ず時間通りに店を出すようにと呼びかけた。これは消費者との一種の約束だからである。
「台湾の有機農業を大きく飛躍させるには、この課題に関心を注ぐ人を増やし、正しい概念を持ち、多くの心血を注ぐことである。ただ、消費者の習慣や生産者の技術、販売業者の考え方など、まだまだ課題は山のようにある」と、14年前に阿宝が『女農討山誌』の中で訴えた思いは、今も心に響く。
無農薬農業への道は険しいが、小規模農家の中に強い意志を持つ「阿宝」が増え続けており、そう遠くないうちに新たな世界が開けると期待してもよさそうだ。

農薬や化学肥料を使わない農業は、環境にも身体にも優しい。自然への回帰から始めなければならない。

屏東県高樹郷の陳偉仁さんは抗生物質や成長ホルモンや予防薬などを使わずに鶏を育て、薬剤の残留していない健康な鶏を広めようとしている。