「国立故宮博物院南部院区」は、アジアで初めてアジア芸術文化をテーマとし、また地元文化と融合した大型国立博物館である。地域住民が待ち望む中、2015年末についにプレオープンを迎え、広大な嘉南平野に歴史と文化の風が吹き込むこととなった。
「南北の文化の均衡」を実現し、台湾中南部の文化と教育、経済、観光産業を発展させるため、行政院は2004年12月15日に嘉義県太保市に国立故宮博物院南部院区(故宮南院)を建設することを決定し、これをアジア芸術文化博物館と位置付けた。
故宮南院の建設過程は決して順調ではなかった。当初は2008年に竣工して開館する予定だったが、設計の段階で契約上の問題が生じて数年間進行が止まってしまい、その後は2008年に八八水害があり、博物館周囲の水利整備が終わっていなかったため、敷地がすべて水に浸かってしまうという事態に陥った。

虚と実がぶつかり合い、交差する。虚の構造物の末端には突出した展望窓があり、館内を見学した後にここで空間序列の美を振り返ることができる。(陳美玲撮影)
「愛台12建設」で建設再開
馬英九総統が二期目の当選を果たすと、故宮南院建設を「愛台12建設」の一つに入れ、積極的に全面的な検討が行われ、2010年10月22日に修正計画が完成、あらためて建設が始まった。
工事の質を確保するため、ハード面の建設工事は内政部営建署に一任され、展示部分は台北の故宮博物院の豊富なコレクションをメインとして海外からも文物を借りることとし、展示内容は中華文明を含むアジア全域の芸術と文化を主とすることが決まった。
2010年に決定した修正計画では、アジアの文物や図書の購入に8.34億元を追加し、総工費は79.34億元、BOTによる周辺開発の30億を合わせると予算総額は109.34億元に達した。
故宮南院の敷地面積は70ヘクタールで、北院の16ヘクタールの4倍以上になる。もともと台湾糖業のサトウキビ畑が広がり、産業道路さえ通っていなかった。それが嘉義県の努力で今は二つの道路が交差し、周辺の電線もすべて地下化された。これも故宮南院をここへ迎えるためだ。故宮南院のために嘉義県は太保市に故宮大道888号という住所を設けたほどである。
国際コンペを経て、南院のメイン建築物には大元建築工場の建築家・姚仁喜の設計が選ばれた。姚仁喜の設計には東洋の静けさがあり、構造は安定していて外観は洗練されており、モダニズムの分野では海外でも注目される、台湾では数少ない建築家の一人である。
姚仁喜は施工の質への要求が高いことで知られており、しかも施工難度が非常に高い。そのため、建設工事の入札では不成立が3回も続き、最終的に麗明営造が落札した。

青空の下に広がる故宮南院の屋外空間。立体的に交錯する地図は海のシルクロードの世界観を表現している。
基礎工事に一年
2013年2月6日に建設工事が始まったが、思いがけず基礎工事に1年もかかり、2015年末開館まで残すところ1000日となってしまった。
この土地は窪地で、大雨が降ると浸水する。そこで建築物が浸水しないよう、建物の建つ20ヘクタールの土地をかさ上げする必要があったのである。そのために二つの人工湖を掘り、掘り出した14ヘクタール分の土砂で土地をかさ上げし、そこへ地中深くまで5700本の砂杭と580本の鉄筋コンクリート杭を打ち、基礎を安定させた。

長さ141メートルの「至美橋」は橋脚がないアーチ橋で、美しい湖面を眺めながら渡っていく。
ダイアモンド級のグリーン建築
主要建築の内部は4階建てだが、実際には10階建ての高さがあり、安定した地盤が得られたのは1年をかけた基礎工事のおかげである。
地震の多い台湾では耐震性も求められる。嘉義県太保市は梅山断層から18キロと近いため、所蔵品の安全を考慮して、基礎に5種類の緩衝器を210点設置し、除震構造とした。故宮博物院の馮明珠院長によると、故宮南院は除震装置の上に建てられているようなもので、これらの装置は教育のために見学にも供するという。
14ヘクタールの二つの人工湖「至善湖」と「至徳湖」は治水機能を備える。故宮南院は太陽光・風力発電設備を持つダイアモンド級のグリーン・ビルディングでもあり、またゴールド級インテリジェントビルの認証も申請中である。

1階に広がる340坪の「児童創意センター」には、円形劇場や陶磁器、織物、茶文化、アジア劇場などのインタラクティブな展示空間がある。
南院の美は至美橋から
故宮南院のメインの建物に入るには、まず南端の人工湖にかかる「至美橋」を渡らなければならない。湖底の防水機能を維持するため、この橋には橋脚がなく、長さ141メートルにわたるアーチ構造になっている。
至美橋のデザインはメインの建築物に合わせて草書をイメージしており、そこを渡っていくと湖面が輝き、博物館への期待が高まってくる。
至美橋の末端には龍と馬と象の広場があり、さらに中庭に入ると右側が博物館入口ホールである。ホールを抜けて階段を上ると、巨大な幾何学造型の立体構造が交錯する迫力を感じる。ここがメイン建築物の施工で最も困難だった部分で、その難しさを理解するには、その設計から語らなければならない。

中庭に立つと、右側の虚の構造「飛白館」と左の実の構造「墨韻館」がうねり、交差する壮大な景観に触れられる。
建築物と大自然の対話
故宮南院は「濃墨」「飛白」「渲染」という水墨画の三つの技法をイメージしたもので、主要建築の東側は湖に面した「虚」構造の「飛白館」である。低放射複層ガラスのカーテンウォールの開放的な空間で、嘉南平野の景観を取り入れた。自然光が降り注ぎ、人工湖と敷地内のパブリックアートが見渡せる。
見学者は階段を上りながら、景色の変化を楽しむことができる。博物館のオフィスや図書館、ミュージアムショップ、レストラン、郵便局、児童創意センター、多機能ホールなどの公共空間もこのエリアにある。
西側の「墨韻館」は「実」構造の4階建てで、展示空間と保管庫がある。博物館としての必要性から大きな窓はなく、外から見ると密閉された空間のようだが、見えないところに89の円筒状の小さな窓が設けられており、内部の通路に星の光ように自然光が注ぐ。姚仁喜は、中国古代の伝説において天が授ける図像と数列かのようなこの設計を「河図洛書」と名付けた。
「実」構造は鉄筋コンクリート構造で、外壁はモザイク状のタイル、その上にアルミ鋳造の5種類のサイズの円盤が3万5861枚かけられている。それは特定の方法で内から外へと重ねるようにかけられており、青銅器のような安定感と落ち着きを感じさせる。遠くから見ると龍の鱗のようで、歩いていくと鱗が輝き、歩き進むにつれて光の反射が変化して印象が変わっていく。非常にモダンなデザインである。
故宮南院の建築物は、それ自体が巨大な彫塑作品にも喩えられる。使用した6000トンの鋼材の一本一本の長さや幅はそれぞれ異なり、これによってまるで雲や水の流れのようなラインが生まれた。「虚」構造の部分は、8000枚のガラスを使用したカーテンウォールだが、そのガラスも一枚ずつサイズが異なる。ガラスと鉄骨構造が完全に結合するよう、施工部門は時間をかけて実際に型を取り、一枚ずつ寸法を調整したのである。

茶文化展示ホールでは、歴史に基づいて明の時代の文人の茶屋空間を設け、マルチメディアを用いて昔の人々が茶をたしなむ雰囲気も再現している。
最も困難な虚と実の結合
設計においても施工においても、最も難しかったのは「虚」と「実」の両翼が南で交差する部分である。二つの構造物が完璧な計算を経て初めてぴったり結合するのだが、施工部門の努力によって、何とか美しく交差させられた。
2階に行くと、「墨韻楼」と「飛白楼」がぶつかって交差する部分が実感できる。「虚」の構造の末端にも展望フレームが設けられている。館内で美術品を鑑賞してからここに行き着くと、窓からは至美橋が見下ろせ、ここまで歩いてきた空間の序列を振り返ることができる。至美橋を渡りながらしだいに博物館の壮大な建築物に近づいてきた感覚と呼応する。
両翼の間の中庭と坂道は水墨画の「渲染」の筆法をイメージしたもので、左に「墨韻楼」、右に「飛白楼」があり、その先には十二支のパブリックアートがある。
館内の動線はone-wayとなっている。まず高さ17メートルの吹き抜けのホールを通り、階段で4階まで上がり、そこから1階ずつ降りながら見学していく。近年、世界でも一方通行の動線を採り入れる博物館が増えており、ニューヨークのソロモン・R・グッゲンハイム美術館では、早くからこの設計を採用してきた。

茶文化展示ホールでは、歴史に基づいて明の時代の文人の茶屋空間を設け、マルチメディアを用いて昔の人々が茶をたしなむ雰囲気も再現している。
堂々として落ち着いた展示ホール
姚仁喜は、故宮南院を歩くのは、中国の絵巻物を観るのに似ていると言う。少しずつ巻紙を広げながら従容として味わうのだという。故宮南院の展示ホールに入れば、その「従容として」という感覚がよく分かる。
想像を超える高い天井と、広々とした展示ホールは国際水準に合致するものだ。織物と仏教の展示室を見ると、壁面の展示ケースの高さは7.2メートルに達し、長い書画巻物も完全な形で陳列でき、故宮の展示空間としては最大のものである。陶磁器展示室にある長さ20メートルの展示ケースも故宮最大のものだ。
注目したいのは、展示室の中に、テーマの陳列物の他に、関連するインスタレーションアートを展示するスペースもあることだ。例えば、茶文化の展示室で行われている「芳名遠播——アジア茶文化展」では、キュレーターは歴史にのっとって明の文人が茶をたしなんだ茶屋の空間を設けた。展示された茶器を鑑賞しながら、昔の人が茶に親しんだ風情を味わうことができる。もう一つの展覧会「揚帆万里——日本・伊万里焼特別展」では、かつての遣唐使が乗った船の模型も展示されている。
注目の的である国宝の「翠玉白菜」を展示するために、故宮では特別に円形の独立した展示空間「至宝ホール」を設け、見学者が360度、あらゆる角度から鑑賞できるようにした。もう一つの至宝である「肉形石」は10月以降に南院で展示されることになっており、こちらもすべての角度から鑑賞できるようにする。
現在は五つの常設展示ホールの他にテーマ展示ホール、それにマルチメディア展示ホール、借用展示ホールが一つずつある。南院での展示のために、故宮では退職者も含めて多くの研究者が南院へ赴き、内外の学者・専門家とともに10組のキュレーションチームを作り、故宮所蔵品をあらためて見直し、海外からの借用やデジタル方式による展示効果なども考慮して、10テーマの開館記念展を企画した。そのうち5つは常設展、3つは特別展、2つは海外からの借用展である。

高さ7.2メートルの展示ケースが収まる高い天井は国際標準にかなうもので、長い巻物も完全な形で展示できる。
南北ふたつの大故宮計画
50ヘクタールもの屋外エリアに目を向けると、今はまだ植栽も少ないが、これはエコロジー工法を採用しているため、植物の生長に少し時間がかかるからである。今年の春の雨の後には豊かな緑が全体を覆う見込みである。将来は、水辺の花園や熱帯ガーデンなども設けられるという。故宮南院ではさらに、海のシルクロードの概念を取り入れ、立体のアートマップも造る予定だ。景観池と灯柱などにより、台湾と世界を結ぶイメージを表現するという。
国立故宮博物院では、2010年から「大故宮計画」を立て始めた。計画範囲は台北の北部院区の拡張と芸術文化パークの建設、そして「故宮南院:アジア芸術文化博物館」の開館であり、これによって台湾南北にそれぞれ文化の中心地を設けるというものである。
博物館は文化の精髄に触れる場である。故宮博物院の豊富な所蔵品は世界的に知られており、最近は英国の美術専門誌「ザ・アート・ニュースペーパー」によって、世界で最も人気のある博物館トップ10の第7位に選ばれ、アジアの博物館では唯一ランクインした。
そして今、嘉南平野に故宮南院がオープンして文化のもう一つの扉が大きく開かれた。従来の故宮北院とは異なる故宮南院の芸術文化の饗宴を多くの方々に楽しんでいただきたい。

故宮南院の開館記念十大展覧会の内容は多様かつ豊富である。右は「藍白輝映——故宮所蔵・明代青花(染付)磁器展」(故宮提供)。

日本の大阪市立東洋陶磁美術館から借り受けた青磁花口鉢(李湘婷撮影)。

チベット文字の写本龍蔵経諸経部(故宮提供)。
