奇才天才がひしめく台湾科技大学デザイン学部には、国際コンクールの受賞者が数多い。多くは工業デザイン、グラフィックデザインとコンピュータ・アニメの3ジャンルのどれか一つを選択しているものだが、この3ジャンルすべてに精通しているという人は、数少ないだろう。
しかし、同大学デザイン研究所修士課程2年生の陳彦廷は、その少数の例外である。学部4年生から積極的に国内外のデザイン・コンクールに参加しており、現在までにすでに70項目を受賞、しかもそのうち55項目が国際的なデザイン賞である。
ドイツのiF賞、レッドドット・デザイン賞、アメリカのIDEA賞、オランダ・デザイン賞、イギリスのD&AD賞、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭、イ・カステリ・アニマティ国際アニメーション映画祭など、各国の才能ある若者が目指すコンペで台湾のYanTing Chenは、審査員が心待ちにする名前となっている。台湾で最多のデザイン賞を受賞している学生、陳彦廷はどんな技で各界を楽々と跨ぎ、受賞を続けているのだろうか。
日本統治時代に創業し、廟口の夜市近くに位置する宝山コンタクトは、基隆市で最初の眼鏡屋と言われる。最近ではマスコミにも取り上げられるようになったが、その報道内容は店が自慢する台湾で最初にコンタクトレンズを取り扱った眼鏡屋ではなく、社長の息子で今年26歳の陳彦廷である。
台湾デザインの若手の中で、その驚くべきとしか言いようのない受賞実績で、陳彦廷はすでにブランドとなっている。2008年だけで、中国の切り紙アートから題材を採った創作短編アニメの「鋏Cutting」、ポスター「Letter Cutting」などで国際的デザイン賞17項目を受賞し、教育部から百万台湾元の奨励金を受け、また芸術とデザイン人材の海外育成計画の補助対象に選出され、ニューヨークのプラット・インスティテュートに1年留学することになった。

夜更かしはしないという陳彦廷は、頭の冴えた早朝に発想を練り、構図を描く。
黒ぶちメガネに、色白で知的な風貌の陳彦廷は、台湾の工業高校出身者の代表である。
「小さい頃から絵が好きだったが、勉強は不得意で、一生懸命勉強しても成績はクラスの真ん中くらい、時に先生から電話がかかってきて、お子さんは授業中ぼんやりしたり、急に笑い出すと言われました」と、明るい性格のお母さんは長男の学校時代を話す。高校共通入試の時、ランク5位の台北市松山高校なら入れる成績だったが、子供の能力を考えて、周囲の反対を押し切り、近くの私立基隆二信職業高校の広告デザイン科に進学させた。
現実的で柔軟な両親の方針で、陳彦廷は一歩早く自分のやりたいことを見出し、デザインの道に進むことを決めた。3年生のとき、美術、印刷とコンピュータ・グラフィックの基礎を築き上げ、卒業後は台湾科技大学デザイン学部の商業デザイン科に進学した。
台湾科技大学での最初の3年は、基礎固めの重要な時期で、旺盛な学習意欲を持つ彼は水を吸う海綿のように知識を吸い込み、それを自身のエネルギーに転化していった。
2007年の卒業制作が、将来を決める鍵となった。「時期が来た、影響力ある作品を作らなければと、普通の人に余り知られていない切り紙を選びました。失われつつある民間工芸を内外に知らせようという思いもありました」と話す。切り紙を学ぼうと、切り紙の人間国宝李煥章を何回も訪ね、複雑な技巧を学びながら数十年に及ぶ創作経験の話を聞いた。そこで旧時代の切り紙細工は新しい都市に入り込めないとこぼす李煥章の言葉に、陳彦廷は二つを結び付けられないかと考えた。
その創作短編アニメ「鋏Cutting」では、コンピュータ・アニメと実写を巧みに組合わせ、登場する切り紙マジシャンの手で、現代都市と伝統的な切り紙が重ね合わせられる。町並みは切り紙の繰り返し模様に転化し、建物の間の距離がすかし模様となる。マジシャンが鋏を振うと、都市に新しい町並みが生まれるが、それは人が願えば、切り紙工芸も現代都市の中に新しい生命を吹き込めることを表している。独創的で、しかも言外に意を込めるアニメとポスターは、期待通り国際賞を受賞して高い評価を受けた。これが自信につながり、留学のチャンスをつかむことができた。
ニューヨークでの留学時代、芸術的な環境と優秀な同級生に刺激を受けて、陳彦廷の創造性は潮のように湧き上がった。環境保護意識を主題としたポスターが、メキシコやポーランドのポスタービエンナーレ、Adobe Design Achievement Awardなどの国際賞を次々に受賞した。
中でもフェラーリ、ダッジ、SAABなどの自動車エンブレムの馬や羊、ライオンなどが排気ガスに苦しむ図案で、自動車メーカーが温室効果ガスの元凶であることを暗喩したポスターを発表した。このポスターで、米国コンピュータ学会コンピュータグラフィックス分科会のSpace-Time賞を受賞した。審査員からは、シンプルなデザインながら、強い訴求力を持つと絶賛されたのである。

今年アメリカのIDEA賞を受賞した「簡単キャップ」はシリコンの蓋の調味料入れ。蓋を押すと中身が出せる。
コンピュータアニメやグラフィックデザインを得意とする陳彦廷だが、さらにはジャンルを超えて工業デザインの領域でも、初心者の怖いもの知らずで国際コンペに挑戦した。
「創造的言語は相互伝達が可能で、クリエーターは限界を設定してはいけないと思います。それに台湾科技大学の教授陣や同級生が技術的にサポートしてくれるので、異なるジャンルへの挑戦は難しくありません」と言う。
たとえば、グラフィックデザインでも工業デザインでも、創造性は生活の細部の観察から来ると言う。そこで2009年に工業デザインに乗り出そうと決めたとき、メモ帳を持ち歩いて見かけた生活の問題や面白い報道、閃いたアイディアを書き留めた。
「その年は馬祖で兵役についていて暇があればメモ帳を抱えてアイディアを考えていました。その構想70余りを最終的に5点の作品にまとめました」というが、製品の製作技術に不慣れなため、大学院の同級生葉鑫;に協力を求め、その5点の作品を形にした。
2010年は工業デザインの領域で輝かしい成果を上げた一年で、葉鑫;と協力した「排水溝の蓋」(30度の角度のブラインド状の蓋で、歩いても平坦でヒールが引っかからず、鍵なども下まで落ちない)、「簡単キャップ」(砂糖や調味料入れの蓋でシリコン製で押すと凹んで穴ができる。便利で漏れない)、「電子巻尺」(電子ペーパーのコンセプトでセンチとインチなどの単位を転換できる)などの作品が、iF賞やIDEA賞などを受賞した。
「さらにコンペ審査中の作品が2点あり、少なくとも1つは受賞できるでしょう」と自信を語る。

西洋の文字や数字を中国伝統の切り紙細工と組み合わせたもの。レター・カッティングというこの作品は、ドイツのiF賞やレッド・ドット賞など世界的なデザイン賞を受賞した。
大学院の講義と創作に忙しい中でも陳彦廷は小さい頃から養われた規律ある生活習慣を守っている。毎朝遅くとも7時には起床し、11時には就寝する。徹夜もしなければ、朝寝もせず、一般の人が想像するような自由奔放で夜遅いほどテンションが上がるような生活とは程遠い。
「家業は商家で、小さい頃から早起きが習慣になり、夜10時になると頭がボーっと眠くなり、逆に朝6時の起きたばかりの方が頭がすっきりし、感性も高まります」と、日本の著名作家村上春樹と同じようなことを言う。
クリエイターは同業者を嫌う悪習があるが、陳彦廷はこれには染まらず、受賞が続く中で後輩にも応募を勧め、わざわざデザイン賞締切スケジュール表を作って、コンペ参加のための創作計画に役立てている。これが台湾科技大学の学部生、大学院生の便利なツールとなっている。
審査員に認められるコツを尋ねると「ヨーロッパでは実用性より詩情が求められ、独創的な自由な発想が必要です。アメリカのIDEA賞では逆に量産できる作品が好まれます」と言う。
頭を使い夢を見るのが好きな陳彦廷だが、商家に生まれた堅実さも兼ね備え、台湾科技大学とニューヨークのプラット・インスティテュートの修士号をもち、これからも堅実な足取りで、広いデザインの世界を歩んでいくことだろう。

電子ペーパーの概念を取り入れた電子メジャーはインチとセンチなどの単位を自由に転換でき、今年オランダのOutputデザイン賞を受賞した。

自動車メーカーが温室効果ガス排出の元凶であることを訴えるポスター。手を加えたメーカーのエンブレムを見ると「倒れた馬」「防毒マスクをつけた羊」「咳をするライオン」などに変っている。アメリカのACM SIGGRAPH「Space-Time賞」金賞を受賞した。