地域のための本を選ぶ
「郭怡美の成功は、本を読んだり買ったりしなかった人も魅了したことです」と趙偉仁は言う。
書籍の陳列では、客の気持ちや興味を刺激するような工夫をした。東野圭吾の本を見に来ると、その隣に日本の美や文学についての本が並んでいる。ミステリー小説ファンの目には心理学や犯罪、生と死に関する本が飛び込んで来るといった具合だ。
こうしたやり方について、趙偉仁はニューヨークの著名な独立書店「マクナリー・ジャクソン」と比べてみせる。多様な文化が共生するニューヨークでは、文学を分類するのに「From」、つまり世界のどこからのものかで分ける。それに対して郭怡美は「To」、つまり「我々の目が向かうのは世界のどこの文学や芸術なのか」という観点で世界の文化を提示して見せるというのだ。しかも書籍選択の主導権を店員に持たせる。本を愛して理解する現場の人間が、地域の人とふれ合いながら、その地域が必要とする本を探る。出版社の指示や薦めには決して支配されない。これが独立書店の精神だと趙は言う。
また郭怡美書店は、夕方以降の人の少ない時間帯を利用して店内ツアーを催す。1人100元の参加費で、郭怡美の歴史や建物の設計、書店の理念などの説明が聞ける。40分のツアー後も多くが残ってコーヒーを飲んだり本を読んだりして余韻を楽しむ。これも実店舗書店の良さだろう。
「以前はネットで本を買っていたけれど、書店に存在し続けてほしいから今は郭怡美で買うようになった、と言う客もいます」
だが趙偉仁は、こうした客の善意だけに頼るわけにはいかず、自らの価値を見出さなければならないと考える。独立書店の存在価値、それは読書と地域だと言う。
本を探しに大稲埕を訪れる客に寄ってもらうだけでなく、地域との交流を図るため、この地域にまつわる講座や、大稲埕についての著作がある作家を書店に招いて講演会を催す。また大稲埕にあるクラフトビールバー「ミッケラー」とコラボして、郭怡美で本を買えばビールが割引になるキャンペーンも催した。「地域共栄の考えです」と趙偉仁は言う。
新北市永和にある独立書店「小小書房」の実践も参考にし、2023年12月には土壌づくりとして「沃土プログラム」を開始した。地域や僻地の小中学生を店に招き、好きな絵本や漫画を1冊選ばせ、それをプレゼントするというものだ。
またイラスト展や写真展、家族コンサートなども不定期に催す。地域と積極的に関わることで、ただ本を売るのではなく、地域を支え、地域の芸術文化の中心となるようにと、趙偉仁は願う。