台湾大学医学部は今年初めて「繁星」制度による推薦入学を実施したが、成績の序列が困難なために推薦定員を超過し、試験入学枠を圧迫し、公平性が損なわれたとの批評を招いた。(繁星は大学各学部が推薦枠を設け、大学学科能力測定の得点が条件に合う生徒を1高校につき1名推薦させて選考する。社会的弱者救済と都市と地方の格差是正を目的とする)
さらに、コミュニケーション力や同情心といった医者の特質を備えた学生を選ぶために、医学部が面接を追加することを繁星のルートで許容すべきか否かという論議も生んでいる。
この6年間、3月の繁星の合格発表のたびに各界が「上位大学に星々が輝いたか」監視してきた。今年は全国11大学の医学部が初めて合同で繁星に参加し、注目を集めた。
3月9日の発表では、有名進学校の第一ターゲット台湾大医学部に、私立2校と中南部都市部の進学校7校から計9名が合格となった。
うち、桃園県治平高校の王韋力は同校創立48年以来初の、そして県内私立高初の台湾大医学部合格者だ。
王韋力の中学基本学力測定(高校入学統一試験に相当)は台北市の建国高校に入れる成績だったが、地元に残ることを選んだ。治平は桃園県中壢市街から車で20分ほどの楊梅にある。僻地ではないが、典型的な田舎町の学校だ。
発表翌日、メディアに「僻地の繁星」と称され、中産家庭出身の王韋力は笑ってしまった。
治平高等部主任・楊世傑は、教育の地域格差は貧富ではなく文化の刺激の多寡にあるという。「国立大学の多くが台北にあり、教授の講演がしょっちゅう市内の高校で行われ、文芸イベントも頻繁です。長年の間に、台北の高校生は見聞が広い印象を与え、英語の発音さえも違ってきています」
都市と地方の格差縮小、社会正義の実現を目指して「繁星」を開始し6年間、大学学科能力測定(学測)と在校成績順位だけを選考の根拠とし、面接など他の評価は行っていない。
繁星の構想は立派だが、初めから全学部学科に参加の意向があったわけではない。エリートが集まる医学部は、台湾大学、成功大学、輔仁大学など、立法院が先端大学助成と指導卓越助成金を凍結するのを恐れ、今年やっと繁星実施に踏み切った。

私立東山高校の呉英龍さんは、台湾大学医学部が繁星制度で今年唯一合格させた台北市の高校生だ。
フタを開けて見ると推薦定員2名の台湾大学医学部は、上下をつけることができず合格者の7名増員を「迫られ」た。台中の中国医薬大医学部も合格者2名増となった。
医学部の繁星合格者は全国計80名となり全募集定員1105人の7.2%を占めた。増員分は7月の試験枠で辻褄を合わせる。
ピラミッドの頂点を成す都市の進学校は、繁星制度においては学測得点が同じ最高レベルの「満級分」なら、僻地で全校一位の生徒のほうが、成績優秀者の集まる進学校で二位の生徒より合格する確率が高いことに反発してきた。今回台湾大医学部の繁星枠超過に、地団駄を踏む思いだ。
台湾大、成功大、陽明大など国立大医学部の繁星合格基準は、最初のハードルは各大学とも学測5科が満級分であることで、その後「校内成績順位」を比較し、それでも上下がつけられなければ、大学各自の選考基準によって決める。台湾大の場合、在校成績、学測総得点級、生物・化学・英語・物理・数学の単科在校成績等7大比較項目を設ける。
だが選考を重ねても、医学部を申請するのは全て満級分のトップばかりで勝負がつかないから、枠超過が起きる。
「台湾大医学部は7名増員で済んだからよかったものの、二十数名だったら(進学校の)生徒と保護者のバッシングに遭います」台湾大教務処註冊(登録)組主任・洪泰雄はいう。
大学入試委員会の統計では、今年の学測の満級分は288人を記録した。繁星申請者はその内66人だけだが、誰もが第一志望に入れるわけではない。
教育部高等教育司長・何卓飛によると、北部の進学校では満級分でも校内上位1%内でなければ選抜で落とされるという。
大学入試委員会の統計では、今年繁星の医学部志願者は383名、合格者80名で合格率20.8%だった。繁星全体の合格率41.16%の半分しかなく、競争の激しさが伺える。
過去の経験から見て、学測は難易度も識別力も大学入学指定科目試験より低い。学測満級分の人数は今後増えることが予測されるから、医学部の推薦枠超過は唯一の個別ケースとはならないだろう。

桃園県治平高校の王韋力さんは、全県の私立高校で初めて台湾大学医学部に合格した。
医学生の人格は将来の医師としての行いに関わる。同情心と道徳感に富む良医の人材を発掘するにはどうするか。面接を行うべきか、どのように行うのか。繁星入学の論議が集まる。
社会正義伸張の意味において根本の疑問は、面接が階級の流動を促進するのか、それとも烙印を押すだけなのかである。
教育資源の地域格差から、都市部の高校は強い指導陣に恵まれ、僻地の生徒は筆記試験では都市部の生徒にかなわない。特技の才能育成や理数・言語等の学科競技のパフォーマンスならなおのこと太刀打ちできない。
一般に、裕福な家庭の生徒は口頭試験による推薦入試に強く、親の社会的経済的地位が有利に働いたり、審査書類を美化できる。一方経済的弱者の生徒は応対が不得手で、面接は明らかに不利だ。繁星制度に面接を設けない意図もここにある。だが医療教育界は異論を唱える。
「医学部の繁星枠は、もっと地域格差縮小の理想であるべき」台湾医学生聯合会元医学教育部部長、台湾大医学部の学生・劉玠暘は、学部ウェブニュースに発表した「光害のない所でしか星々は見えない」と題した文章で強調する。
医学部は繁星の学生に「地域格差を乗り越え、自己の発現や里帰りで僻地の医療資源不足改善に貢献すること」を期待すべきだと劉玠暘はいう。
つまり、医学部の繁星は僻地から来て、学んだことを郷里に還元する。劉玠暘は、面接や推薦状などの「非成績」要素で見極めない現状では、繁星で医学部に入る学生の多くが「星(僻地出身者)」でなく「ネオンサイン(都市部出身者)」かもしれないと劉玠暘は憂慮する。
口頭試験や面接は、海外の医学部では募集の標準手続きになっている。面接官の質問は、正解はないが価値観と倫理的判断に関わる。受験者の人格を見るためである。「結婚前のエイズ検査を立法で強制することに賛成ですか?」「患者に拒否されたらどう対応しますか?」などと質問される。
今年2月に米国で病没した成功大学医学部初代学部長・黄崑巌は、教育部医教会常務委員の任にあるとき『医学教育白書』を発表し、医学部の全数面接は医療教育界において既に共通認識であるとしている。また、台湾の医学生のほぼ5割が、自らの意志でなく親の期待に沿って医療を学んでおり、少なからず心理面と学業で適応しきれていないが「面接はこうした誰のために勉強するのか分からない学生をふるい出すのに役立つ」と指摘する。
白書では米国を例に、メディカルスクールは大学卒業後の専門職課程であり、入学許可は90%が面接に頼っているという。「米国と違いわが国の医学生は若いが、それでも面接は筆記試験より識別力がある」
台湾大医学部内科教授で元医学部主任の黄天祥は「医学生を選考するには」の文中、台湾大医学部は精神科医、内外科教授を含む百名近い面接官を育成しており、受験生が科学的分析力、論理的思考力、革新性、リーダーシップ、コミュニケーション表現力、そして他者を思いやる人格を持ち合わせているか評価できるといっている。
黄天祥は、国内医学部の面接は1名当り30分しか配分されないが、米国のように丸一日でなくても適性の選考には役立つという。かつて数学オリンピックで金メダルを受賞し、台湾大医学部に推薦入学した学生が、志が医学にないことに気づき、適応できずに辛い思いをした。「医学部はマルチ人間教育だから、特定の科目にしか興味がないなら、考え直したほうがいい」と言う。
繁星は個人申請と同じく推薦入学に属し、どちらも学測成績と在校成績を見るが、繁星だけ面接を行わないのは不公平であると黄天祥は考えている。

台湾大学医学部は今年初めて「繁星」制度の枠を設けたが、これが一般入試枠を圧迫する、不公平だという声も上がった。右の写真は台湾大学病院の一角。
多くの医学部教授が、医学部は面接選考の準備ができているというが、面接でかえって都市と地方の格差を強調することにならないか。この難題には見方が分かれる。
大学推薦入学の比率が高まる傾向に、台湾大医学部長・楊泮池は懸念を表明している。書面審査と面接は、富裕な家庭の子供に有利で、社会的弱者の子には不利であるという。完全推薦入学を採用すれば、弱者の生徒に手が回らない。だから台湾大医学部は今後も繁星と個人申請の比率を三割までしか上げない。
これに対し成功大医学部長・林其和の意見は逆で、面接でこそ地域格差を五分五分にできるという。
「都会で育ち、塾通いした高校生と、田舎出身で放課後は家へ帰ってご飯を作ったり家事をしたりしていたが、将来は里へ帰って医者になるという生徒と、二人の成績が同じなら、どちらをとりますか?」
繁星で面接を行わないことに医学部は意見がある。教育部高等教育司長・何卓飛は、医学部は初期は繁星と個人申請の枠を弾力的に配分していいと考える。「私たちも繁星を一度に増やせとは言いません」
「学生募集は大学の自主的な権利責任ですから、慎重に大学独自の手法を決めるべきです」何はいう。
大学入試委員会の統計によると、教育部認可の医学部繁星定員は最多の台北医学大医学部の20名で、同医学部全定員の14.8%を占める。最も少ないのが輔仁大医学部で、全定員のわずか2.2%の1名、台湾大医学部は実際の入学許可が9名で7.8%となった。
教育部は来年の医学部繁星で口頭試験を解禁するつもりはないと何卓飛は強調する。だが学科の成績だけでは上下が決まらない時は体育・音楽・美術等の成績による順位付けの追加を検討する考えだ。
台湾大学学長・李嗣涔と中国医薬大学学長・黄栄村も、口頭試験は繁星計画創設の趣旨に反するから医学部での実施に賛成しないと表明している。

大学医学部側は繁星制度でも面接を行ないたいとしているが、これは受験生にとって公平なのか否か、議論が続いている。写真は台湾大学医学部の一角。
台湾大医学部の準新入生・王韋力と、今後同級生となる台北市私立東山高校の呉英龍はどちらも学測満級分だった。私立南山高校の陳逸慈は学測74級分、新北市トップで台北医学大医学部に入学が決まった。
三人とも、面接が追加されても大丈夫、平常心で準備するという。
昨年クラスで呉英龍とトップを争った同級生は一足早く飛び級で台湾大医学部に合格し、9月には先輩として呉を迎える。飛び級試験のプレッシャーは非常に大きく、高校三年課程を前倒しで終えなければならないから、呉は焦らず高三で学測満級分を目指したと話す。
落ち着いた話しぶりの陳逸慈は、心中はバイオサイエンス学部が第一志望だが、家族が就職市場を分析し、彼女は熟慮の末性質の近い医学に進むことにした。担任の呉美慧は陳の思慮深さ、聞き上手、協調性は医者に適していると称賛する。
陳は中央研究院サイエンステクノロジー高校人材育成計画に入選したことがある。基礎研究に興味を抱き、将来は研究タイプの医師になり、未知の医学領域を開拓して人々に貢献したいと願っている。
呉英龍と陳逸慈は二人とも典型的な台北っ子で、見識も広い。呉英龍の父は中央警察大学の副教授だ。一方、桃園に残って高校に進んだ王韋力は、今年初めて台北での大学合同説明会に参加し、北部の進学校の生徒と話してその能弁さに面食らった。
「北部の生徒は考えを積極的に表現して、発言は『私は、私は』と個人主義的ですが、私たちは控えめで、随分違っています」メディアに「僻地の繁星」と称された王韋力は観察する。

私立南山高校の陳逸慈さんは、今年の大学学科能力測定で新北市の女子トップの74点をとり、高校の各学科の成績も全校の上位1%に入っていたため、繁星制度で台北医学大学医学部に合格した。
成功大学医学部学部長・林其和は、海外の医学部では恒例の面接が台湾で共通認識を得られないのは、公平性と精度に保護者や社会が納得していないからだという。「生徒の外見や話しぶりや特技のパフォーマンスが面接の結果を左右し、弱者に逆転のチャンスが与えられないのではと危惧しているのです。医学部も社会も、進歩と熟慮の余地があるようです」
これに対し、全国の医学部は3月初旬に検討し、面接の医学教育に対する前向きな効果について長期的な研究を行うことを決めた。「医学部は面接過程を透明化し、数値と分析を行って社会が監視できるようにし、懸念を解くべきでしょう」と林は提言する。
台湾大学医学部教授・黄天祥によると、長い間台湾大医学部は全国の受験生の第一志望であり、人気学部として、社会から高い期待という重圧を受けてきたが「選考過程の公平性に対する社会の要求は、大学の自主性尊重を超越しています」経験を交換し合うことで徐々に改善し、より大きな自主性を大学に与えてくれることを社会に望むと語っている。
完璧な進学制度はない。筆記試験にも面接にも優劣はある。医学部が面接解禁を勝ち取れば、繁星のルールは大きな方向転換を迫られるのか、それとも制度の前進となるのか。教育部と医学教育界と社会とのすり合わせが待たれる。