「古典」とは何だろう。どう定義すべきなのか。五十年後、百年後、あるいは千年後にも、まだ書架に並んでいる本のことだろうか。それとも、かつて爆発的に流行し、広く世の中に影響を及ぼした作品か。それとも大学の先生が指定する教材か、あるいは、ある時期にあなたの人生の選択に影響を及ぼした一冊だろうか。かつてヘミングウェイが述べたように、誰もが称賛するが誰も読まない本のことだろうか。ベテラン編集者は古典をどうとらえているのか、その話に耳を傾けてみよう。

立緒出版の鍾恵民編集長が考える古典とは「美感を感動させ、智慧を啓発する」もので、同時に「人生経験を豊かにする」一冊である。
古典の旅の始まり
誠品書店に招かれて個別に計画の趣旨説明を受けた各出版社の編集者たちは、それぞれに古典に対する考えや期待を抱きつつ、プロジェクトで打ち出す古典を推薦することとなった。イタリアの作家、イタロ・カルヴィーノは著書『なぜ古典を読むのか』の中で、古典に関する14の定義を示している。「古典とは、読者にいつまでもすべての意味を語り尽くさない作品」「古典とは、あなたがいま読み返している本」「現代の騒音を背景にしてしまう作品」などの定義である。
プロジェクトの主催者として、誠品書店は明確な古典の定義を示すことはなく、その選択や解釈権を各出版社の編集長に託した。これらをさらにふるいにかけて整理し、最後に「ともに古典を読む」コーナーで長期間販売するのである。
古典を集結させると聞いて、編集者は暖かな陽光が差し込むのを感じた。誠品書店から託された課題を手に、彼らは過去の出版リストを振り返り、古典を選ぶ作業に入った。

聯経出版の胡金倫編集長。
編集長厳選の古典
立緒出版の鍾恵民編集長が心に描いた古典とは「美感を感動させ、智慧を啓発するもの」であり、「人生経験を豊かにする」一冊だ。この条件を備えた書籍は立緒のシリーズの中にある。「例えば、私たちはエドワード・サイードの著書を多数出版していますが、そのどれを選ぶかが問題でした」と言う。しかし、販売対象が一般大衆であることを考慮し、古典の中でも読みやすいものをと考え、誠品書店から提案されたウルリッヒ・ベックとエリザベート・ベック=ゲルンスハイムによる『The Normal Chaos of Love』などを選んだ。
「決して時代遅れになることはなく、取って代わるものがない本」というのは、聯経出版の胡金倫編集長によるシンプルな古典の定義である。特に、初版の部数が少なかったため読者の目に留まらず、雑音の中に埋もれてしまった名作を、今回のプロジェクトを通して再び世に送り出したいと考えた。
市場は考慮せず、大衆に迎合もせず、純粋に古典としての古典を推し、「文明の知識構造全体に照らして選ぶ」という方針を打ち出したのは、台湾商務印書館である。こうした方針で古典を推薦できるのは、台湾商務印書館や聯経出版、遠流出版といった出版歴の長い実力ある出版社だけであろう。
しかし、プロジェクトとしての売上も考慮する必要があり、内容は自ずと図書館の推薦書とは異なるものになる。
大学では古典は必読だが、市場では古典を手に取る人は少ない。そこで「エネルギーを失った古典に再び命を吹き込む」というのが多くの編集者の想いであった。
書店での動きが悪いと、出版権の7年の期限が来た時、出版社は契約を更新するか否か葛藤することとなる。それがノーベル文学賞受賞作家の作品であっても、経営上の考慮から出版継続をあきらめざるを得ないこともある。

ページをめくれば、そこに古典の世界が広がる。
出版社ごとの特色
すでに著作権が消滅した作品の場合は、当初の翻訳レベルや時代の変化を考慮して、翻訳しなおす必要が出てくる。例えばジェーン・オースティンの『傲慢と偏見』のような大衆的な古典の場合、市場には30以上の翻訳バージョンが流通しており、「驚くような語訳も多い」と漫遊者文化の李亜南編集長は言う。
「古典は、表面的なジャンルや分類を越えた何かを備えているものです」と、古典とは一つのジャンルにおさまるものではないと李亜南は言う。恋愛小説も単なる恋愛小説ではなく、経営学も経営学だけには収まらず、旅行記も単なる旅行記にとどまらない。今回の古典プロジェクトのための推薦書について、李亜南には考えがあった。著作権の消滅した作品を翻訳しなおすというものである。そのためには、その作品にふさわしい翻訳者を見出すことが重要になる。それと同時に、よく売れる本とまったく売れない本は除外するというものだ。
陳郁馨は、木馬文化出版の過去の出版リストを前に、誠品書店での売上を調べた。まずベストセラーは除外し、ジャンルと年代と言語に分けていく。「ベテランの読書家は、もともと自分自身に属する古典を探すものです。誠品書店が集めたいのはそうした読者ではなく、書店巡りが好きで、そこで何かを発見したいと思っている一般大衆をであるはずです。彼らは本を読みますが、そのために何らかの理由やきっかけを求めているのです」と言う。
その戦略は成功したと言えそうだ。木馬文化が推薦した太宰治の『人間失格』は、数カ月にわたってベストセラーとなり、古典プロジェクトの中ではトップの売上を記録している。「低価格で、映画化もされており、付加価値を高める新しいカバーもつきましたから」と陳郁馨は分析する。一方で、思考型の名作であるトルストイの『復活』の売れ行きは芳しくない。
余宜芳も、古典プロジェクトは「すでに買ったことのある人に本を売るのではない」と考えてジャンルの多様性にこだわり、社会科学、サイエンス、文学などをバランスよく選んだ。ダイアン・アッカーマンの『「感覚」の博物誌』、ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』は必然の選択であった。さらに文学としては、リアリズム、実験性、革新といった角度から選んだ。この他に、若い読者を古典の世界へ導く一冊として「読みやすい、ハードルの低い本も選びました」と言う通り、パウロ・コエーリョの『アルケミスト—夢を旅した少年』が推薦された。
では、古典と呼ぶにふさわしい村上春樹の作品を、時報出版が推薦しなかったのはなぜだろう。村上春樹の作品は、これ以上露出するまでもないと考えたからである。限られた推薦枠を、注目されていない名作に与えたかったという。
古典は難解なものではない。かつては流行して誰もが読んでいたものが、歳月を経て沈殿し、古典と呼ばれるようになったものもある。これは商周出版の彭之琬編集長の考えである。彼女は、古典の推薦を各編集室の主編に託し、最後にそれらを「読み継がれ、創造性がある」リストに絞っていった。例えば古典の中の古典であるロラン・バルトの『恋愛のディスクール・断章』や、一般には古典とされないが、大きな影響力を持ち、二千年の歴史を持つ宗教を背景とし、革新的な表現手法を見せるものを推薦した。こうして選ばれたのはジェームズ・ハンターの『サーバント・リーダーシップ』である。
こうして10冊のリストが完成したが、商周出版の出版物では中国語作品と翻訳作品の比率が6対4であるのに対し、リストに国内作家の本が一冊も入っていないことに彭之琬は驚いた。
中国語の作品は、洪範、爾雅、九歌、皇冠などの出版社が補うこととなった。張愛玲、白先勇、余秋雨、王鼎鈞、楊牧、鄭愁予、周夢蝶、余光中など、二世代以上にわたって影響力をおよぼしてきた大家の作品が網羅されている。古典プロジェクトに2回にわたって参加している麦田出版では、第一段階では主に翻訳文学と人文歴史分野の作品を出し、第二段階では余華の『活著』や莫言の『生死疲勞』といった中国語作品に重点を置いた。「古典にはさまざまな顔があることを知ってもらいたかったのです」と麦田出版の巫維珍編集長は言う。
九歌出版の陳素芳編集長は、文学史と思想の両面から推薦図書を選んだ。陳若曦の『尹県長』、王藍の『藍与黒』など、台湾や中国の作品は時代を描き切っており、その世代の読者の記憶を呼び覚ますとともに、若い世代の心をも動かす、紛れもない古典である。さらに世界公認の古典であるダンテの『神曲』やジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』も推薦した。

「古典は、表面的なジャンルや分類以上の何かを備えているもの」——古典とは一つのジャンルにおさまるものではないと漫遊者文化の李亜南編集長は考える。
多様なジャンル

一面の書架に無数の本が並ぶ。手に取って真剣に読めば、どれもが古典となる。
台湾商務や聯経、時報、洪範、九歌、左岸などの出版社の推薦リストが想像の範囲内と言えるとすれば、馬可孛羅出版の郭宝秀編集長と皇冠出版の許婷婷編集長は、誠品書店からプロジェクトの第二段階で古典推薦を依頼された理由を明確に理解していた。それは、従来の古典の殻を破る「破壊型」のリストが期待されているということだった。「誠品書店が、従来の意味での古典、学界や専門家が認める古典を求めているとすれば、私たちのような出版社はふさわしくありませんから」と郭宝秀は言う。そうして選ばれたのがポール・セローの『ダーク・スター・サファリ』、壽岳章子の『京都まちなかの暮らし』、三毛の『撒哈拉的故事』『稲草人的微笑』などで、従来の古典リストには入らない作品である。
書店を訪れた十代の若い読者が、古典に威圧されて尻込みしてしまうのではなく、人生で初めての古典を手に取れるようにしたいと許婷婷は願い、独自のリストを作っていった。人と本との出会いには、時には意義深い縁がある。そこで爾雅出版の発行人・隠地は「古典は信じるべきだが、妄信してはならない」と注意を促す。
誠品書店は出版社に古典の推薦を依頼し、出版社も誠品書店の古典プロジェクトを通して改めて自社の位置づけを見出した。例えば、臉譜出版は推理小説の分野で市場を獲得してきたが、同社が推薦した古典リストには推理小説は一冊も入っておらず、ゴードン・ヘンプトンの『1インチ四方の静寂』という異色の作品を入れた。また、マネジメントやビジネス書の分野で知られる天下文化が選んだ10冊のうち、マネジメント関係は4冊だけで、サイエンスと文学が3冊ずつ入り、バランスのとれた推薦内容となった。
文学、歴史、科学、経営学など、出版社は古典プロジェクトを通して、バランスのとれた読書で人生のバランスがとれると説明しているかのようである。
文学があり科学があり、小品から大作までが勢揃いした。第一段階では登場しなかった6巻にもおよぶエドワード・ギボンの『ローマ帝国衰亡史』や全4巻の『ホルヘ・ルイス・ボルヘス全集』なども第二段階で登場した。かつて誠品書店で仕入れを担当したことのある李亜南は、現在までの二段階の古典プロジェクトを観察し、「この古典プロジェクトは自己修正しつつ、ますます良くなっていくと考えています」と言う。
「ともに古典を読む」という台湾の出版史上初めての試みを、書店と出版社と読者が手を取り合って支えており、このプロジェクトは3年にわたって続いていく。完全な生態系を持つ古典の森が次第に成長し、次の世代への贈り物となることを編集者たちは信じている。

馬可孛羅出版の郭宝秀編集長は、数々の出版物の中から、従来の古典の殻を破る「破壊型」の古典リストを選び出した。

皇冠出版の許婷婷編集長は、若い読者が書店に行き、そこで人生初の古典を手に取ってほしいと願っている。

本を開けばそこには自由な世界が広がっている。