世界探索への第一歩
香港は多元的な社会であり、東西文化が共存していて、金融やビジネスを重視するとともに文化的な魅力も有している。
陳宣穎は香港大学の芸術学部に学んでいる。人気のある金融や貿易、コンピュータなどを専攻する学生が多いのに対し、芸術学部を選ぶというのは確かに珍しい。彼女は中学の時に香港大学のサマーカリキュラムに参加したことがあり、香港の教育制度に触れ、香港の学生たちの積極的な態度が強く印象に残ったという。そこでSATの成績で入学を申請した。「芸術学部を選ぶというのは確かに少し変わっているかも知れません。この学部を選んだのは、一つは興味があること、もう一つは私が選考する芸術史の分野は台湾では不足している部分なのです」と言う。
「香港と台湾の文化の雰囲気は全く異なります。私が履修しているのは主に芸術の理論と分析のカリキュラムですが、授業での分析や学術研究の他に、英語の論文を大量に書かなければなりません。論文の準備段階で構成を話し合う際、教授は次々と私の論点に疑問をぶつけ、それを修正しなければなりません。これは非常に良い訓練で、将来の重要な基礎になると思います」
多くの人は、芸術学部に学ぶ学生は将来は創作の道へ進むものと考えているが、実はそうではない。アジアの金融センターである香港では、美術品市場が急速に成長している。美術品オークションなどの背後では、コレクターは芸術に深い知識のある人材を必要としており、香港にはこの面でも優位性がある。
「夏休みが近づくと、先生は学生たちに実習の機会を掌握することを勧めます。博物館やオークション会社、ギャラリーなどで実習の機会を得て、この市場の実際の運営に触れることが大切なのです」と言う。ここからもわかる通り、芸術学部の卒業生が歩む道は決して創作だけではないのである。
「香港留学は少なくとも小さな一歩だと思います。自分が慣れ親しんだ場を離れ、新しい場所で新しい分野に飛び込んだのですから。一カ所にとどまって発展の機会を探すのではなく、もっと世界の他の都市に行く機会をつかむべきだと思います」と陳宣穎は、自分が香港へ来た意義を語る。卒業後に中国大陸で働く機会があったら、そのチャンスはつかみたいという。やはり中国大陸にはチャンスが多いからだ。これは多くの留学生の考えでもある。
授業や勉強に追われる日々だが、台湾からの留学生は、香港という場所で改めて自分の国へのアイデンティティを見出しているようだ。インタビューを受けてくれた学生のほとんどが、台湾の話になると、その美しい大自然や、おいしい食べ物、そして笑顔を絶やさないサービス業などを絶賛する。彼らは、他の国の学生たちに自分の国の素晴らしさを語ることで、あらためて自分が育った土地の良さを知り、国へのアイデンティティを確認しているのである。
香港台湾人学生会香港の大学・短大は2008年から台湾の学生を募集し始め、今日まで香港に留学した台湾人学生は累計500人余りになる。「留港台湾学生会(香港に留学する台湾人学生会)」の資料によると、2014年度に香港に留学した台湾人学生は計83人。台湾の学生にとっては、新しい留学先と言える。海外留学する学生が増え、世界の人々が台湾の若者や台湾の持つ可能性に触れる機会を増やしている。
「留港台湾学生会」は2012年に設立された。香港で大学・短大に通うすべての台湾人学生の交流と協力を促進し、台湾人学生と社会や市民との交流を深めることを目的とする。これと同時に、異なる学校に通う台湾人同士が知り合い、大学同士が交流できるプラットフォームを提供し、互いの見聞と視野を広げることを目指している。
ウェブサイト:
http://hktsa.webs.com/
留学生が見た香港
―「初めて尖沙咀に行った時は、中国大陸に来たのかと思った。聞こえるのは大陸から来た観光客の話す普通語ばかりで、通りの両側は純金のアクセサリーを売る店ばかり。レストランを探すのに一苦労した」
―「香港のサービス業の従業員は、お客によって広東語と普通話と英語を使い分ける。相手によって臨機応変に言語を切り替える能力はすごい」
―「香港人はせっかちで、誰もが忙しく時間に追われているが、仕事の効率も高い」
―「前進しなければ人波にのまれてしまう。ここは効率志向の街」
―「貧富の格差が大きい。中環(セントラル)では、上質のスーツを着た月収十数万香港ドルのビジネスマンが行き交うが、日が暮れると年老いた女性がゴミや段ボールを拾い集めている」
―「香港にはのんびり散策できる裏通りがなく、人々はエアコンの効いたショッピングセンターに集まる」

香港中文大学経営学科2年生の謝安雅は、大学での勉強はすべて将来の就職のためだと明言する。