平易で親しみやすい絵が語る物語
叙事性、物語性を持つことが謝省民さんの版画作品の大きな特徴と言える。
SARSが流行した時期に制作した「健康平安」には、「バランスの良い食事、手洗い、休息、運動」といった文字も入っている。
1999年の台湾大地震の後に描いた「台湾加油(がんばれ、台湾)」には、あらゆる職業の人が同じ島で心を一つにするという前向きな想いが表現されている。また蕭泰然の名曲「台湾魂」の歌詞に手を加え「蕃薯落土新希望,春来枝葉代代湠(サツマイモは土の中で希望の根を伸ばし、春が来れば枝葉は世代をつないでいく)」という言葉が書き込まれている。
「真福八瑞」は、中華文化の八仙の伝説を構図とし、そこに「マタイによる福音書」の中でイエスが語る「貧しい人々、悲しむ人々、柔和な人々、義に飢え渇く人々、憐れみ深い人々、心の清い人々、平和をつくる人々、義のために迫害される人々は幸いである」という八つの祝福を合わせて表現している。
これらの作品は、ポスターや宣伝画にも似ていて、神聖でありながら通俗的でもあり、誰でもメッセージを読み取ることができる。また版画には大量に複製できるという特徴がある。「版画はとても民主的です。誰もが所有できるので広めやすいのです」と謝省民さんは言う。
謝省民さんがこうした創作の方向に進んできたのは、子供の頃に壁新聞をたくさん作っていた経験からかもしれないが、より深い要因は、彼が「文章は道理を伝えるためのものである」と考えるからであろう。「芸術は時代の記録を残さなければならない」と考え、芸術を時代に合わせることを自分に課してきたのである。
西洋美術史に精通した謝省民さんは、「ラファエル前派」を例に挙げる。これは19世紀イギリスの美術家グループで、ラファエロ(1483-1520)以前のルネサンス前期に、教会や宗教のために創作していた無名の芸術家たちを範とする運動で、美術と工芸を組み合わせるなど、謝省民さんの方向性と共通点がある。
さらに重要なのは、どのような表現手法であっても芸術性を損なわないという点である。「面白味があり、時事を取り入れ、しかも理念や信仰が伝わること」が重要なのである。