世界にはこんな博物館もあるのかと思うような、さまざまな博物館がある。ここ台中県霧峰郷には、地元産業と密接に結びついた「台湾キノコ類文化館」がある。キノコ類に関する博物館は、台湾にはここしかなく、世界にもたった二つしかない。
「空山に一雨降れば、山は急いて流れ、木々の実や花が汁となり漂う。すべては、柔らかく緩む土壌ににじみ込み、丸いキノコが蒸し出される。……かめば鵞鳥の水かきのように響き、食せば蜜の味、絹の滑らかさがあり、わずかの渋みもなし、傘は笠に及ばずとも、釘は笠に勝る。口中に残る香りは麝香も及ばず…」
宋の詩人、楊万里が「かめば鵞鳥の水かきのように響き、食せば密の味」と形容し、食べた後も口中に素晴らしい香りが残ると詠った山海の珍味は何か。この詩の題は「蕈子詩」、「蕈子」とはすなわち、キノコを指す。
人類の食生活で大切な役割を演じてきたキノコは、詩にもたびたび登場してきた。古代、キノコ類についての知識がまだ不充分だった時代には、劇毒を含むものがあるため、野生のキノコを食することは常に生命の危険と隣り合わせだった。現代でもなお、野生のキノコによる食中毒のニュースは跡を絶たない。
キノコには数多くの種類があるが、それらを分類した文献で最も古いものは、東晋時代末期の『道蔵』の中にある「太上霊宝芝草品」、世界最古の菌類図鑑である。また、宋の陳仁玉による『菌譜』は、史上初のキノコ専門書と言えよう。明後期の潘之恒が著した『広菌譜』、清の呉林による『呉蕈譜』などにも、キノコ類についての記載が見られる。
華人社会では昔からキノコは好んで食されており、現代でも干しシイタケなどは家庭の常備品で、炒めて料理の香りづけや、スープのだしなどによく用いられる。

50〜70万倍の「キノコ類ミクロの世界ゾーン」に入ると、キノコの繁殖のプロセスを一目で見渡すことができる。 これらの色鮮やかで愛らしいキノコ(写真1〜4)は、すべて毒キノコだ。マッシュルーム(写真5)と霊芝(写真6)の模型も良くできている。
キノコの里
キノコは、生物学的には真菌に属する。人類が真菌を利用し始めたのは、紀元前5000年という昔のことであり、真菌について研究が行われるようになってからもすでに250年以上たつ。キノコ類は、昔からアジアが主な産地で、世界の7割以上がこの地域で生産される。
台湾は1953年からキノコの研究や開発を行ってきた。中でも台中の霧峰は気候が適しているため、次第に台湾最大の産地となっていった。霧峰は、台湾で最初にマッシュルームが栽培された所でもあり、1970年にはマッシュルーム輸出で台湾を世界一に押し上げ、毎年1億米ドル以上の外貨を稼いでいる。最近はマッシュルーム景気も以前ほどではなくなったが、霧峰はさらに新しいキノコを開発し続けている。中でも世界に誇るのがエノキダケで、今や世界最大のエノキダケ産地となっている。
ここ数年、地域文化を発展させようと、文化建設委員会によって各県や市に、地方の特色のあるテーマ展示館の建設が進められている。「キノコの古里」と称される霧峰も、行政院農業委員会や文化建設委員会、台中県などの賛助によって、台湾初のキノコ類文化館を設立した。
農業委員会農業試験所、自然科学博物館、食品工業研究所、中興大学などが企画・協力し、台湾キノコ類文化館は完成した。霧峰の地で、まるで徐々に胞子が育ち、やがて華麗なかさを広げるキノコのように、立派な成果を結んでいる。
一流ホテルと見まがうような霧峰郷農業組合ビルの6階に、400坪の「台湾キノコ類文化館」はある。台湾でこの50年近くの間にキノコ類がどのように発展してきたかが展示されており、歴史や文化と、現代的な科学技術とを折衷させた、地方色あふれる文化館となっている。1998年末の開館から現在まで、1日平均200〜300人の入館者があり、文化館として期待通りの活躍を見せている。
キノコ文化館に足を踏み入れ、まず目に入るのが、「モデル・ゾーン」に並ぶ大きなキノコの模型だ。最大のキノコは高さ250センチあり、多くの見学者がその前で記念撮影をしていく。右手には、霧峰が誇る画家の曽伯禄さんが描いた「台湾四季百蕈図」がある。これは、宋の詩人、楊万里の「蕈子詩」の内容に合わせ、台湾の四季おりおりに、野生や人工栽培のキノコ類が見せる情景を生き生きと描いたものだ。キノコの神秘の世界に、見学者は思わず魅了される。

50〜70万倍の「キノコ類ミクロの世界ゾーン」に入ると、キノコの繁殖のプロセスを一目で見渡すことができる。 これらの色鮮やかで愛らしいキノコ(写真1〜4)は、すべて毒キノコだ。マッシュルーム(写真5)と霊芝(写真6)の模型も良くできている。
大自然の魔法使い
台湾キノコ文化館には、台湾野生キノコ類生態ゾーン、台湾毒キノコ類生態ゾーン、キノコの裏庭、ミクロの世界、キノコの故郷、キノコ類と健康、食用キノコの発展史、パソコン・視聴覚室などがあり、キノコをさまざまな角度から紹介している。
「台湾野生キノコ類ゾーン」では、各種キノコの写真や、キノコの石膏模型、生育環境などが展示されている。
キノコ類は、その生長の様子によって、「寄生」「腐生」「共生」の3種に分類される。「寄生」とは、キノコの菌糸が直接植物体に侵入し、植物に寄生しながら生長するもので、また「腐生」とは、枯れてしまった植物体の中で菌糸が生長するものを指す。また「共生」とは、植物の根に菌糸が侵入し、植物が土から養分摂取するのを助けながら、植物体からも養分をもらうという生長の仕方だ。いわば双方に利のあるやり方で、例えばマツタケなどがこれに属する。
松の木と共生するマツタケは、台湾中部山岳地帯の八通関や阿里山の松林に行くと、ときどきその姿を見かける。現在のところマツタケの人工栽培はまだ軌道に乗っていないことから、極めて貴重とされ、1キロ1万元以上の値をつけたこともあるほどだ。
欧米では有名なトリュフも、大樹と共生する共生菌で、数少なく高価なことから、欧米では「ブラック・ゴールド」とも呼ばれている。トリュフは土の中に生えるので、フランスの農家ではこれを採集するのに、豚や犬など嗅覚の鋭い動物を使ってトリュフを探し出す。
「台湾野生キノコ類ゾーン」では、台湾野生のキノコであるキヌガサタケを特別に紹介している。白いスカートを身にまとったような姿をしたキヌガサタケは、今では食材店ですっかり馴染みとなっているが、あれがキノコ類の一種だと知らない人も多いのではないだろうか。間違って竹の一部分だと思われていることも多い、透明な網状をしたキヌガサタケは、実は「レースのスカート」を身にまとったキノコなのである。キノコ類文化館の解説員によれば、キヌガサタケの特殊なところは、約8時間でその成長を終える点で、とりわけ「スカート」を披露する時間はたったの40分だそうである。
色とりどりのパラソルのように、さまざまなキノコ類はとても愛らしい。だが、どのキノコも食べられるというわけではなく、危険な毒を持ったキノコもある。「毒キノコ類」の展示ケースには、台湾の野外に生息する有毒のキノコが示されており、識別用に写真が並べられているほか、本物そっくりの模型も置かれている。見かけは美しい色をしたかわいいキノコだが、しっかりと覚えて、絶対口に入れないようにしなければならない。万一、誤って食べてしまった時のために、このコーナーでは簡単な緊急処置方法も紹介されている。
毒キノコの毒素は生物毒に属し、間違って毒キノコを食べた場合の中毒症状には、むかつき、吐き気、腹痛、下痢などが見られ、症状の重い場合は肝臓機能が衰弱し、命を落とすこともあるという。万一、中毒になった場合は、なんとかして吐き出すことで毒物を取り除き、それから直ちに病院へ行って、胃腸の洗浄を受けなければならない。

50〜70万倍の「キノコ類ミクロの世界ゾーン」に入ると、キノコの繁殖のプロセスを一目で見渡すことができる。 これらの色鮮やかで愛らしいキノコ(写真1〜4)は、すべて毒キノコだ。マッシュルーム(写真5)と霊芝(写真6)の模型も良くできている。
キノコ・ファミリー
キノコの生長は、胞子から菌糸が出て、一次菌糸、二次菌糸を生み出し、それから徐々にキノコとしての子実体を形成し、やがて成熟したキノコとなる。そして再び胞子を誕生させるというように、循環を繰り返す。
「キノコ類ミクロの世界ゾーン」では、キノコの胞子を50〜70万倍に拡大して見せており、トンネルのようになった見学ルートをたどって、各種胞子の様子を見ることができる。普通、肉眼では見ることの難しい胞子をこうして観察すると、丸や四角い形をしたのがあるかと思えば、トゲだらけのものもあり、さまざまな形体をしていることがわかる。ミクロの世界ではほかに、キノコたちの繁殖のプロセスを知ることもできる。
「台湾キノコ類の故郷ゾーン」に展示されているのは、キノコの四季折々の生態である。自然条件に恵まれた台湾には、野生菌類が非常に豊富で、現在のところ5300種以上の菌類が記録されている。地理的分布で言えば、台湾には「世界的分布種」「北半球分布種」「熱帯及び亜熱帯分布種」「温帯及び高山地帯分布種」、そして「台湾固有種」などが存在する。地理的な位置から台湾はちょうど、南半球の菌類が、北半球のものへと変化する過渡地帯に当たり、このため、変種や、新たな混合種が生まれることが多い。例えばマツタケも、台湾での変種なのである。
台湾の人工栽培で大量に生産されているものには、シイタケ、エノキダケ、ヤナギマツタケ、キクラゲ、エリンギ、ヒラタケ、アワビタケ、マッシュルーム、フクロタケなど10数種がある。
野生のキノコの人工栽培には、今日では空調施設が用いられるが、栽培方法も今や日進月歩の世界である。中でも注目したいのは、台湾で始められた「オガクズ栽培法」だ。原木を用いた従来の栽培法に代わり、オガクズを詰めた袋や瓶の中でキノコを栽培するもので、1974年に初めて台湾で使用されて以来、今では世界各国で導入されている。
またエノキダケも、台湾の民間で開発成功したキノコである。初期の頃は1瓶30グラムしか生産できなかったのが、今では200グラムにまで増加し、その発展ぶりには目を見張るものがある。

50〜70万倍の「キノコ類ミクロの世界ゾーン」に入ると、キノコの繁殖のプロセスを一目で見渡すことができる。 これらの色鮮やかで愛らしいキノコ(写真1〜4)は、すべて毒キノコだ。マッシュルーム(写真5)と霊芝(写真6)の模型も良くできている。
小さな菌から大きな成果
キノコを形成している菌糸は、細胞核や細胞壁から成るが、葉緑素がないため、じめじめした日陰に生える。
研究によれば、キノコ類が持つ天然の抗生物質は100種を超えることがすでに確認されている。また、免疫力を活性化する多糖類などを含むため、腫瘍やガン細胞の抑制、ガン予防などに効果があることや、血液中のコレステロールを減少させる物質を含むことがわかってきている。霧峰キノコ類文化館の「キノコの裏庭ゾーン」には、漢方薬で知られる霊芝や冬虫夏草、伏苓(ブクリョウ)などが展示されている。これらはいずれも、漢方では高価な薬として用いられてきた。
中でも有名な霊芝は、硬質菌に属し、実の部分が固いため食用とされることは少なく、一部の種類に薬用効果があるとされている。霊芝が記録された最も古い薬学専門書は、中国最古の薬典『神農本草経』である。同書で霊芝は、赤、黄、青、紫、白、黒の6種に分類されている。現在では、霊芝には100種類以上あることが知られており、今や各国が競って研究する薬材となっている。
漢方ではお馴染みのもう一つの「冬虫夏草」は、外見は乾燥した幼虫のようで、キノコとは何の関係もないように見える。冬虫夏草とは、虫なのか草なのか、いったいどちらなのだろう。『聊齋誌異外集』には次のように説明されている。「冬虫夏草は、その名の通りに変成したもので、動物であり植物である。世間に信じ難いものは尽きない」と。
冬虫夏草とは、コウモリガ科の昆虫の幼虫に冬虫夏草菌が寄生してできた、自然の傑作なのである。秋になり冬虫夏草菌の子嚢胞子が発芽し、幼虫の体内に侵入して増殖した結果、幼虫は固くなって死ぬ。菌糸はそのまま虫の体内で菌核を形成し、冬を越す。翌年の夏、幼虫の体内から伸びた子実体が、すなわち一般に「草」と呼ばれる部分なのである。
小さなキノコには数々の用途がある。さきほどの「キノコの裏庭」だけでなく、「食用薬用キノコ類ゾーン」でも、薬用効果のあるキノコ類が多く紹介されている。私たちがよく食べるキノコには、チロシナーゼという物質が含まれており、これはすでに血圧降下剤に用いられている。マッシュルームに含まれる多糖類は、腫瘍に対し抑制効果があることが知られている。また、よく料理に使われるシロキクラゲも、精力増強や腎臓補強、また肺を潤して体の熱を取り、体内の気の流れをよくするなどの効果があるとされている。
漢方で、痰や体内の湿気の除去、肺の治療などに用いられる霊芝は、最近になって抗ガン剤としての開発研究に力が入れられている。マイタケも、医学界では抗ガン剤としての研究が進行中だ。また、昔から「棺桶の中に生える」などと言われてきた樟芝(サルノコシカケの仲間)は、中国大陸では「血霊芝」「棺花」などとも呼ばれ、クスノキ科の牛樟という樹木の穴の中でよく発見される。これには、解毒や抗ガン効果があると言われている。樟芝の生産量は極めて少なく、現在最も高価なキノコだと言える。

50〜70万倍の「キノコ類ミクロの世界ゾーン」に入ると、キノコの繁殖のプロセスを一目で見渡すことができる。 これらの色鮮やかで愛らしいキノコ(写真1〜4)は、すべて毒キノコだ。マッシュルーム(写真5)と霊芝(写真6)の模型も良くできている。
キノコの饗宴
もちろんキノコといえば、薬用だけでなく、ヘルシーで負担のない食材としての印象が強い。
キノコ類文化館では、キノコの構造、生態、栽培、生産などの展示を参観した後、最後には、これらをどのように食生活に生かせるかが見学できるようになっている。食用キノコの宣伝のために、さらに多くの料理方法が考え出され、紹介されている。霧峰農業組合は2000年から「キノコの饗宴」というイベントを行っており、各種キノコを食材として、さまざまな食べ方が生み出されている。文化館で展示されている料理の模型には、エノキとハマグリのスープ、ヤナギマツタケの白菜巻き、各種キノコのとろみ炒め、キノコのオイスターソース煮込み、キノコのじくを使った料理などがあり、どれも作り方は簡単なので、家庭で試してみるのもいいだろう。
さて、お味のほうはいかがなものだろう。「かめば鵞鳥の水かき、食べれば密の味」がしただろうか。食べた後、「口中に残る香りは麝香も及ばず」と、詠まれた通りだっただろうか。

50〜70万倍の「キノコ類ミクロの世界ゾーン」に入ると、キノコの繁殖のプロセスを一目で見渡すことができる。 これらの色鮮やかで愛らしいキノコ(写真1〜4)は、すべて毒キノコだ。マッシュルーム(写真5)と霊芝(写真6)の模型も良くできている。

冷房が効いた中で栽培されるエリンギ。じくが肉厚で歯ごたえのあるエリンギはタンパク質やミネラルやビタミンが豊富で、最近人気が出ている。

台湾で唯一のキノコ類文化館には毎日300人近くが見学に訪れる。学校の課外授業の場としても最適だ。

キノコの生長サイクル