変革への大きな流れ
葉丙成の「BTS翻転教室」と、張輝誠の「学思達」は、多様で創意に満ちた授業イノベーションの実践をもたらした。そして、それらをさらに後押しするサポートが各界から寄せられ、この流れを支える力となっている。
例えば、誠致科技(TrendChip)の董事長だった方新舟が創設した誠致教育基金会は、バングラデシュ系アメリカ人のサイマル・カーンが2006年に創設した非営利教育機構、カーン・アカデミーに倣い、翻転教室や授業イノベーションを無料でサポートするために、台湾の小中学校の教育課程とマッチする均一教育平台というプラットフォームを構築したのである。
均一教育プラットフォームは2012年に正式にスタートし、今年10月現在、すでに10万人がアカウントを持っている。均一教育プラットフォームで提供している練習問題のオンライン使用者数は、すでにのべ100万人を超えている。
鴻海精密工業(ホンハイ)の郭台銘董事長も、科学教育の深化が産業発展のためにも非常に重要であると考え、1億台湾ドルに上る資金をかけて「未来智慧教室」プランを推進している。この9月には、台中女子高校と師範大学付属中学・高校、新竹サイエンスパーク実験中学と協力し、3校を結ぶ翻転教育実験プラットフォームを構築、テクノロジー産業の実力をもって新たな教育資源を提供した。
この他に公的部門からのサポートも加わっている。政府教育部では、日本の教育学者・佐藤学が唱える「学びの共同体」という理念を参考に、教員が教壇に立って講義し、生徒たちがそれを聞くという授業方法を打破し、生徒を中心に据えて、小さなグループによる討論や生徒が自ら発言する「協同学習」という授業方法へと変えていこうとしている。
さらに今年5月には、台北市教育局と緯創資通(Wistron)社が教育クラウドをスタートさせ、生徒にデジタル学習の場を提供している。
協同学習:授業のシステム化
昨年、台北市教育局では高校カリキュラム・授業ワークグループ計画の推進を開始し、授業の質を向上させたいと考える教員に、学校の枠を超えて対話する場を提供した。
現在、台北市教育局中等教育科で視学官を務める台北市立麗山高校の化学教師・藍偉瑩によると、授業のイノベーションに黙々と取り組んでいる熱血教師は少なくないという。しかも、最近は「翻転教室」が注目されて大きなブームになっており、こうした試みをさらに奨励していくことができると考えている。
昨年1月、藍偉瑩は同じ学校の他の教員たちに「協同学習」を知ってもらうために、自分の授業を公開した。そして「麗山学習共同体」グループを作り、台北市の自然科学科のワークショップを開くなどして、学校の枠を越えた活動を推進している。
「協同学習」というのは学ぶ者を中心とする理念であり、教師はカリキュラムのコンセプトを系統立てて整理し直し、カリキュラムの重点を質問の形式でまとめて出し、生徒たちには3~4人の小グループに分けて考えさせ、話し合わせるというものである。
教師たちは一緒になって授業の方法や内容を検討して準備し、交流や討論を経て互いの経験や素材を授業に取り入れ、生活や時事に関する内容も入れていく。
藍偉瑩によると、これらのグループには有名進学校や地域高校、職業高校など、さまざまな学校の教員が参加しているという。彼らは一緒になって授業内容を検討して準備するが、各学校の生徒たちの背景は異なるので、それぞれの学校に合わせて内容や教え方は微調整しているという。
藍偉瑩は以前、化学の授業で、生徒たちに教科書に答えの出ていない質問をしたところ、一人も答えられないという経験をしたことがある。この時に、生徒たちは試験のために模範解答を暗記しているだけで、本当に考える力は育っていないことに気付いたのである。
そこで半年にわたって「協同学習」方式を試みると、生徒たちは積極的に手を挙げて発言するようになり、教壇に立って自分の考えを発表したりできるようになったのである。「授業の活性化がこの段階まで来ると、教科書は補助的な教材に過ぎなくなり、かつての模範解答も生徒たちが議論した結果の概念になります。こうすることで、学習の意義も結果も大きく違ってくるのです」と藍偉瑩は言う。
台湾の生きた授業に世界が注目
「BTS翻転教室」「学思達」「協同学習」、そして授業公開や授業共同準備、授業討論会など、次々と生まれてくる授業改革は、国内で大きな流れとなっているが、それだけには留まらない。こうした台湾の教育の変化は海外からも注目され、授業参観や交流のために海外から来訪する人が後を絶たないのである。
例えば、シンガポールの中文学校からは訪問団が訪れ、中山女子高校の張輝誠教師の授業を参観し、台中では「学思達」教師たちの共同検討会に参加した。
学思達のワークショップに参加する教員である宜蘭高校の呉勇宏、台東市康楽小学校の顔冠明、高雄市莒光小学校の呉明亮は、今年8月、学思達を代表してベトナムの中文学校へ赴き、「自ら学び、考え、表現する」という授業方法の経験を分かち合った。
葉丙成は誠致教育基金会の呂冠緯・執行長とともに10月に中国大陸の山東省を訪れ、「翻転教室」の授業方法を伝授した。
このほかに、米エール大学の前学長であるリック・レビンがCEOを務めるオンライン教育プラットフォームCourseraも、葉丙成がBTSと翻転教室を結びつけて台湾で授業改革を進めていることを知るとこれを絶賛した。そして、Courseraに英語版の翻転教室カリキュラムサイトを開設し、欧米諸国の教員にも「翻転教室」の意義を伝えてほしいと要請した。
台湾の授業改革に次々と新たな創意が取り入れられるのを見て、張輝誠は、恩師で儒学者の愛新覚羅毓鋆の「何事も十年堅持すれば、必ず小さな成就が得られる」という言葉を思い出す。「学思達には、まだ九年の時間があり、これからも継続していきます」と言う。
葉丙成は授業改革の将来に自信を持っている。「台湾大学には年に70~80人の新教師が入ってくるので、十年で700~800人になります。授業を変革していくには、時間を積み重ね、次へとバトンを渡していくことです」と締めくくった。