台湾では、1994年に教育改革が始まって今年で20年になり、また今年からは義務教育12年制が実施された。
この20年、教育制度、教員養成、カリキュラム、授業方法、教科書などが次々と変わり、台湾の学校教育の姿は大きく変わった。
教育改革が始まって20年になる今日、教員自らによる改革の動きが大きな流れとなり、各地の学校で静かに進められている。これに携わる教員たちは互いの経験を分かち合い、ネット上で交流し、手を取り合って教育現場を変え、生徒たちが自ら学べる授業を実現しつつある。
9月28日は「教師の日」だが、今年のこの日は例年とは少し違っていた。教室における教員と生徒の位置関係を変えようという改革を目指す大会が開かれたのである。台中で開かれたこの研修会のテーマは「学思達(自ら学び、考え、表現する)」、そしてBTS(By the Students)「翻転教室(教室をひっくり返す)」というものである。
この研修会開催を呼びかけたのは、台北市立中山女子高校の国語教師・張輝誠と台湾大学電機学科副教授の葉丙成である。
この日、台湾各地から2200名を超える教員が台中の私立明徳高校に集まり、過去最大規模の「自主研修」が行われた。
この活動は事前の宣伝もなく、学校からの参加教員派遣もなかったが、受付開始から24時間で、参加申込み者数は1000人を超えた。各地の小学校や中学高校の一般教員や校長、生徒の親、学習塾関係者、大学教育学部の学生らが集まり、先駆者である張輝誠と葉丙成の理念と実践に耳を傾けたのである。

新北市三峡区の龍埔小学校。生徒たちは集中力をもって授業を受け、放課後はスポーツに興じる。
台湾大学教学発展センター副主任も務める葉丙成は、この「翻転教室」理念の重要な推進者であり、台湾大学のMOOCs(Massive Open Online Courses)プロジェクトのディレクターでもある。この1年余り、彼が提唱する「BTS翻転教室」の理念が、多くの教員の胸に新たな情熱の火をともしている。
BTSというのは生徒の自主的学習(By the Students)を目指すもので、生徒が自ら学習し、自ら課題を出し、自ら評価するというものである。具体的には「教員があらかじめ録画した授業を生徒が家で見て予習し、教室で宿題をやる」というものだ。これによって学習効果が上がるだけでなく、教師が放課後に宿題をチェックする必要もなくなる。
教育哲学としてのBTSの最終目標は、生徒の「学習のセンス」を育むことにある。
葉丙成によると、生徒たちは長年にわたる詰め込み教育型のカリキュラムの下に置かれてきたため、教師がどんなに上手に教えても、生徒は学習のセンスを身につけることができなくなっているという。そこで葉は学習の主導権を生徒に返すことを主張している。
学習へのモチベーションを高めるため、葉はカリキュラムをオンラインゲームと組み合わせ、生徒たちを「勉強中毒」にさせる。例えば、モンスターを倒しても、そのあとで算数の問題を解かなければステージをクリアできないようにするという具合だ。彼はさらにオンラインゲームを台湾大学MOOCsカリキュラムに取り入れ、PaGamO(台湾語で「ゲームで勉強」と同じ発音)という世界初の新たな学習方法を構築した。
「翻転教室」の手法による授業は楽しく、生徒たちが互いに出し合う命題も面白いため、出版社がこれに興味を持ち、『葉丙成的機率驚艶:当数学偶上文学,学生考不好也笑著離開(算数と文学の出会い、正解できなくても笑顔で終わる)』が出版された。
葉丙成は本誌の取材に対して次のように語った。一般に教員は他の教員の授業の様子を見学する機会が少ないが、互いの授業を参観して話し合うことができれば非常に良好な循環が生じる。他教員の授業を見ると啓発や感動があり、それをさらに他の教員に伝えて経験を分かち合うという動きが、どんどん広がっていくという。
「台湾大学の教員も変わりつつあります。台湾大学では毎年、新入教員は新学期開始前に渓頭で3日間の研修を受け、先輩たちの授業の経験を聞きます。毎回、最初は不安そうにバスに乗っていた新人教員が、3日後には晴れ晴れとした表情に変わるのを目にできます」と言う。
授業は教員が孤軍奮闘するものであってはならない。教員同士が互いの授業を見学し合うという方法を語る時、台北市立中山女子高校の国語教師、張輝誠(14ページの記事を参照)を挙げないわけにはいかない。

台東県和平小学校。さまざまな新しい授業方法を導入した教室では生徒たちの笑顔が輝いている。
17年前から、張輝誠は従来の詰め込み教育を変えようと努力してきた。そこで、生徒たちが「自ら学び、考え、表現する」という「学思達」授業法を考案した。そして昨年から自分の教室を開放して以来、すでにのべ2000人以上が彼の授業を見学している。
張輝誠が考案した授業イノベーションは大きな反響を得ることとなった。1万2000人が「学思達教学」ソーシャルネットワークに加入し、「学級運営」ネットワークには8000人、「学思達319走透透」ネットワークには4700人が参加し、「学習共同体筆記本」にも1000人以上、「翻滾吧~教師~」にも2900人が参加している。これらに加えて、分科会や地域単位の教員グループがネットを通して結集している。
9月28日の「教師の日」に台中に2200人の教員を結集させた明徳中学教諭の卓憶嵐は、台湾中部で初めて授業公開を実施した学思達に参加する国語教師である。「15年間教育に携わってきた経験から、生徒たちには将来役に立つ能力を身につけてほしいと願っていました。例えば、自分で考える力、読解力、文章で自分の考えを表現する力などです。教師が授業の最初から最後まで教壇を独占していたのでは、こうした能力は育てられません」と卓億嵐は言う。
彼女は今年5月に「学思達」を知り、張輝誠の理念に感銘を受けてその理念と方法を独学するとすぐに自分の授業を公開すると宣言した。すると驚いたことに、本当に多くの人が授業を見学しに来たのである。しかも、多い時には1時間に40人もの教員や保護者がやってきた。
公開授業を終えると、見学していた多くの教員から次々と意見や授業の細部に関する質問が出された。同じ教育に携わる仲間からのフィードバックに励まされ、卓憶嵐は自主研修とカリキュラムや授業についての共同検討会開催という道を歩むこととなったのである。
そして2~3カ月の間に、彼女は自主研修会と授業共同準備研修を30回以上開催した。「やる気のある多くの教員が集まって互いを励まし合う場を提供するためなら、私の苦労など何でもありません」と言う。
この「集まって励まし合う」力は、瞬く間に他の県や市の教員へも伝わり、台北市ではオフラインで一緒に授業の準備をする「協同学習」グループが20余りもできた。彼らは毎月集まって互いの授業を見学して授業方法を検討し、互いの経験をシェアする。各グループの人数は20~30人で、参加者は台北市の教員に限らない。
これらの数字からも、授業を活性化して変革したいという教員たちの情熱がうかがえる。

張輝誠(左)と葉丙成(右)による「学思達」と「BTS翻転教室」の自主研修会には2200名に上る教員が集まり、思考の転換を求める強いエネルギーを感じさせた。
葉丙成の「BTS翻転教室」と、張輝誠の「学思達」は、多様で創意に満ちた授業イノベーションの実践をもたらした。そして、それらをさらに後押しするサポートが各界から寄せられ、この流れを支える力となっている。
例えば、誠致科技(TrendChip)の董事長だった方新舟が創設した誠致教育基金会は、バングラデシュ系アメリカ人のサイマル・カーンが2006年に創設した非営利教育機構、カーン・アカデミーに倣い、翻転教室や授業イノベーションを無料でサポートするために、台湾の小中学校の教育課程とマッチする均一教育平台というプラットフォームを構築したのである。
均一教育プラットフォームは2012年に正式にスタートし、今年10月現在、すでに10万人がアカウントを持っている。均一教育プラットフォームで提供している練習問題のオンライン使用者数は、すでにのべ100万人を超えている。
鴻海精密工業(ホンハイ)の郭台銘董事長も、科学教育の深化が産業発展のためにも非常に重要であると考え、1億台湾ドルに上る資金をかけて「未来智慧教室」プランを推進している。この9月には、台中女子高校と師範大学付属中学・高校、新竹サイエンスパーク実験中学と協力し、3校を結ぶ翻転教育実験プラットフォームを構築、テクノロジー産業の実力をもって新たな教育資源を提供した。
この他に公的部門からのサポートも加わっている。政府教育部では、日本の教育学者・佐藤学が唱える「学びの共同体」という理念を参考に、教員が教壇に立って講義し、生徒たちがそれを聞くという授業方法を打破し、生徒を中心に据えて、小さなグループによる討論や生徒が自ら発言する「協同学習」という授業方法へと変えていこうとしている。
さらに今年5月には、台北市教育局と緯創資通(Wistron)社が教育クラウドをスタートさせ、生徒にデジタル学習の場を提供している。
協同学習:授業のシステム化昨年、台北市教育局では高校カリキュラム・授業ワークグループ計画の推進を開始し、授業の質を向上させたいと考える教員に、学校の枠を超えて対話する場を提供した。
現在、台北市教育局中等教育科で視学官を務める台北市立麗山高校の化学教師・藍偉瑩によると、授業のイノベーションに黙々と取り組んでいる熱血教師は少なくないという。しかも、最近は「翻転教室」が注目されて大きなブームになっており、こうした試みをさらに奨励していくことができると考えている。
昨年1月、藍偉瑩は同じ学校の他の教員たちに「協同学習」を知ってもらうために、自分の授業を公開した。そして「麗山学習共同体」グループを作り、台北市の自然科学科のワークショップを開くなどして、学校の枠を越えた活動を推進している。
「協同学習」というのは学ぶ者を中心とする理念であり、教師はカリキュラムのコンセプトを系統立てて整理し直し、カリキュラムの重点を質問の形式でまとめて出し、生徒たちには3~4人の小グループに分けて考えさせ、話し合わせるというものである。
教師たちは一緒になって授業の方法や内容を検討して準備し、交流や討論を経て互いの経験や素材を授業に取り入れ、生活や時事に関する内容も入れていく。
藍偉瑩によると、これらのグループには有名進学校や地域高校、職業高校など、さまざまな学校の教員が参加しているという。彼らは一緒になって授業内容を検討して準備するが、各学校の生徒たちの背景は異なるので、それぞれの学校に合わせて内容や教え方は微調整しているという。
藍偉瑩は以前、化学の授業で、生徒たちに教科書に答えの出ていない質問をしたところ、一人も答えられないという経験をしたことがある。この時に、生徒たちは試験のために模範解答を暗記しているだけで、本当に考える力は育っていないことに気付いたのである。
そこで半年にわたって「協同学習」方式を試みると、生徒たちは積極的に手を挙げて発言するようになり、教壇に立って自分の考えを発表したりできるようになったのである。「授業の活性化がこの段階まで来ると、教科書は補助的な教材に過ぎなくなり、かつての模範解答も生徒たちが議論した結果の概念になります。こうすることで、学習の意義も結果も大きく違ってくるのです」と藍偉瑩は言う。
台湾の生きた授業に世界が注目「BTS翻転教室」「学思達」「協同学習」、そして授業公開や授業共同準備、授業討論会など、次々と生まれてくる授業改革は、国内で大きな流れとなっているが、それだけには留まらない。こうした台湾の教育の変化は海外からも注目され、授業参観や交流のために海外から来訪する人が後を絶たないのである。
例えば、シンガポールの中文学校からは訪問団が訪れ、中山女子高校の張輝誠教師の授業を参観し、台中では「学思達」教師たちの共同検討会に参加した。
学思達のワークショップに参加する教員である宜蘭高校の呉勇宏、台東市康楽小学校の顔冠明、高雄市莒光小学校の呉明亮は、今年8月、学思達を代表してベトナムの中文学校へ赴き、「自ら学び、考え、表現する」という授業方法の経験を分かち合った。
葉丙成は誠致教育基金会の呂冠緯・執行長とともに10月に中国大陸の山東省を訪れ、「翻転教室」の授業方法を伝授した。
このほかに、米エール大学の前学長であるリック・レビンがCEOを務めるオンライン教育プラットフォームCourseraも、葉丙成がBTSと翻転教室を結びつけて台湾で授業改革を進めていることを知るとこれを絶賛した。そして、Courseraに英語版の翻転教室カリキュラムサイトを開設し、欧米諸国の教員にも「翻転教室」の意義を伝えてほしいと要請した。
台湾の授業改革に次々と新たな創意が取り入れられるのを見て、張輝誠は、恩師で儒学者の愛新覚羅毓鋆の「何事も十年堅持すれば、必ず小さな成就が得られる」という言葉を思い出す。「学思達には、まだ九年の時間があり、これからも継続していきます」と言う。
葉丙成は授業改革の将来に自信を持っている。「台湾大学には年に70~80人の新教師が入ってくるので、十年で700~800人になります。授業を変革していくには、時間を積み重ね、次へとバトンを渡していくことです」と締めくくった。