東西の共感を呼ぶ
海外の人々の共感を呼ぶ物語を見せるために、企画チームは異文化理解を深められる文物を厳選した。中でも注目したいのは「多宝格」である。これは清代の皇帝が書房で用いた玩具箱とも呼べるもので、一つの箱に60~70もの精巧な宝物が収められている。さまざまな材質のコレクションがそれぞれ専用のスペースに収納できるよう設計されている。多宝格に収められている文物の中には、日本の漆器や西洋の懐中時計もある。その中の2点の懐中時計を見ると、内部の機械部分にはWILLIAMSONの文字が入っており、イギリスの著名な時計職人Timothy Williamson(1768-1788年に活動)か、そのチームの製造したものと推測されている。
帝王がミニチュアの器物を収集するという習慣は、ヨーロッパの神聖ローマ帝国の皇帝、ハプスブルグ家のルドルフ2世(1552-1612年)から始まったと言われている。ルドルフ2世は、自然物や科学に関連する器物、芸術品、異国の珍しい物などをクンストカンマー(Kunstkammer)という博物陳列室に収蔵していた。クンストカンマーは皇帝の強大な財力を示すだけでなく、帝王があらゆる分野の知識と思索に富んでおり、卓越した趣味と世界観を持つことを見せつけるものだったのである。
この西洋のクンストカンマーこそ、現在の博物館の前身とも言える。今回、皇帝の「多宝格」が展示されることは、チェコ国立博物館が自然史博物館であることに応えるものでもある。同博物館のコレクションは自然物から文化‧工芸まで多岐にわたり、東西文化交流のプラットフォームの役割を果たしてきた。そこで故宮博物院は、特別に異文化交流を背景とする文物を選び、チェコとヨーロッパの人々に、数百年前から貿易や外交を通して想像を超えた密接な東西交流があり、工芸や美術の面で相互に影響しあってきたことを見てほしいと考えたのである。
このほかに、今回の展覧会では「動物」も重要なテーマの一つとなっている。小さな「墨玉猫」は、丸みを帯びた形と表情が可愛らしい猫の形の玉器で、そのユーモラスな表情はアニメのガーフィールドを思わせる。実は、チェコ側の企画担当者が展示品を選ぶために台湾を訪れていた際、しばしば台北のペットカフェに行っていたことから、台湾側のスタッフが思いつき、この作品を出展することを提案したという。チェコにおいても猫は文化的に重要な位置を占めていて、カフカの文学作品から街中までどこでも見られる。そのため小さな「墨玉猫」は、異なる地域に住む人々の感情を結び付け、文化を越えて共感を呼ぶと考えられたのである。
もう一つの動物は獅子だ。獅子のモデルであるライオンは中国にはいないが、その珍しさから芸術において吉祥の象徴として装飾化されてきた。絵画「清人狻猊図」は雄のライオンを描いたもので、獰猛な目をして牙をむいた姿はまさに王者の風格である。チェコの人々にとっても、ライオンは国章の図案であり、この作品は東西の人々を直観的に結びつけることとなる。