2009年12月、コペンハーゲンで開かれた国連気候変動枠組条約締約国会議(COP15)で、43ヶ国から成る小島嶼連合(AOSIS)が、温暖化の気温上昇幅を2℃から1.5℃に引き下げることを提案した。この提案は否決され、AOSISのメンバーは抗議して退席したが、これによって多くの人が初めて小島嶼の声を耳にし、太平洋の島々の美と哀愁を知った。
島は、人間に生活の原点を教えてくれると言う。大自然との一体感、生命の美しさと小ささ、その奇跡と困難が交錯しているからだ。太平洋の島国は今、大きな環境問題に直面している。このことは「文明社会」の大量消費と経済発展重視の問題点を浮き彫りにし、人類が国境を越えた共同体であることに気付かせてくれる。
今月のカバーストーリーでは、太平洋の島々が環境変化と温暖化の下で直面している危機を明らかにし、我が国の重要な友好国であるキリバスとツバルを例に、その苦境と対策を見ていく。来月号では、台湾から現地へ派遣されている国際合作発展協会(ICDF)技術団の取り組みをご紹介する。
太平洋諸島とは、北回帰線以南のポリネシア、ミクロネシア、メラネシアの島々を言う。最大の面積を持つニューギニア島を除くと、万に上る島々は火山島か環礁島だ。前者は動植物が生息できる肥沃な土地を持ち、天然資源が豊富(ハワイ諸島やソロモン諸島など)だが、後者は資源が少なく、集落形態の生活が続いてきた。

温暖化は珊瑚礁の生態系にも深刻な影響を及ぼし、それが太平洋の小さな島国の根幹を揺るがしている。写真の水深6メートルに生息するミドリイシサンゴは浅海の主要な造礁珊瑚だが、一部の枝では共生藻が死んで白化しているのがわかる。
空から見下ろすと、環礁島は細長い帯状やリング状、あるいは鉤状など、さまざまな形をしている。海抜は5メートルに満たず、面積は狭く、珊瑚石や砂礫で形成された土地にはヤシやタコノキなど、高温と強風に強い植物しか生えず、淡水を蓄えられるのは面積の比較的大きい島だけだ。
そのため、島民の生活は完全に大自然の恵みに頼ってきた。例えばヤシは「生命の木」と呼ばれる。島では、誰もが軽々とヤシの木にのぼれる。ココナッツジュースは糖、タンパク質、ビタミンC、カルシウム、リン、鉄などを豊富に含み、ヤシのつぼみから取った液は、1週間発酵させるとココナッツ酒になる。果肉はそのまま食べてもいいし、ココナッツミルクにすることもできる。実の殻は乾かせば燃料になり、落ちた葉は屋根に、幹は家の柱や梁になる。発芽から3〜5年で大きく育ち、50年にわたって実をつけるヤシは、毎年島民に生活の糧を与えてくれる。
島の人々は海と大自然に依存して暮らしてきたが、16世紀、ヨーロッパ勢力の侵入が大きな変化をもたらした。
16世紀から20世紀半ばまで、太平洋諸島は長い間イギリスやフランス、その後はアメリカなどの植民地下に置かれてきた。ビャクダンや真珠貝、鼈甲、海産物などの天然資源があり、海上貿易や軍事面でも重要な位置にあるからだ。第二次世界大戦中は、連合軍と日本軍の激戦の場となった。また、キリスト教の伝来は現地のアニミズムや自然崇拝を変えた。

右下の写真は、太平洋のヌクオロ環礁。
植民地や信託統治領だった島々は、1970年代から独立建国への道を歩み始める。現在、主権国家が14、他国の領土が13ある。これら新興国家の共通点は国土が狭く人口が少ないことだ(表1を参照)。最も狭いナウルの面積は21平方キロ、人口は1万4091人、世界で3番目に小さな国である。多くの島嶼国は規模と資源が限られているため、他国からの援助に頼らなければ財政や公共サービスを維持できない。
台湾の国際合作発展基金会(ICDF)技術合作処の李志宏副処長によると、小島嶼型の発展途上国には、以下のような共通のネックがある。
(1) 距離が遠く孤立している
これらの国の多くは大陸から遠く離れていて先進国の情報が得にくく、輸送原価も高い。オーストラリアやニュージーランドから太平洋諸島の入り口であるフィジーまで空路で3〜4時間、それから週に2〜3便のみの小型機に乗り換えてようやく目的地に着く。加えて、経済規模が極めて小さいため、国際社会の辺境に置かれてしまう。
世界から孤立しているだけでなく、一国内でも全体を均しく統治するのは困難だ。キリバスの場合、東西の二大諸島の間は2000キロ余り離れており、国営航空の20人乗りの小型機では飛行できない。そのため西側の首都タラワから東側の島々へ行くには、週2便のフィジー航空機でフィジーへ行き、そこから週1便のみの飛行機で東側のクリスマス島へ行く。さらに他の島々へは船の便となる。時間がかかる上、往復の航空券だけで3万台湾ドルになる。今年初めに台湾が資金を提供してクリスマス島の滑走路を修復するまで、この航路さえ数年も中断していたのである。
(2)産物や作物が多様でない
小島嶼国の多くは、ヤシ油やナマコなど単一の作物か商品に依存しており、環境や市場の変化に弱い。また、広大な海域を持つ(表2を参照)ものの、多くはこの海域で漁をするオーストラリアや日本、台湾、韓国などの漁船から「入漁料」を徴収するか、外国漁船の船員になるなどで、大部分は昔ながらの農林漁業に従事している。
(3)公的部門の効率が低い
人口が広大な地域に分散しているため、医療衛生や教育、水道電気などの公共サービスを各島に普及させるのは不可能である。多くの援助国は、人材育成と行政効率向上こそ状況改善のカギであると考えている。
「小さく」「遠い」という課題を克服するため、太平洋の小島嶼国は、文化、教育、政治などの面で、常に「地域連合」の伝統を維持し、力を結集してきた。太平洋諸島をしばしば訪問している元立法委員、台湾原住民教授学会理事長の蔡中涵氏によると、太平洋の国々では4年に一度パシフィック・ゲームズ(ミニオリンピック)を開催しており、友好を重んじ、まるでカーニバルのような雰囲気があるという。また本部をフィジーに置く南太平洋大学は12ヶ国が共有する教育資源で、教育、観光、農業、環境管理などのカリキュラムがある。これらの国は共通の歴史的経験と社会状況を有するため、1970年代から、集落会合のような精神に基づく「太平洋共同体」意識を育ててきたのである。

一面を覆い尽くすゴミの山。ツバルの首都フナフティでは美しい海岸のそばにゴミの山ができ、ゴミの量は急激に増加している。グローバル化によって資本主義が環境と人心を侵略しているのである。
ここ20年、現代化の波で太平洋諸国の生活形態も変わり、それに伴って環境問題も深刻化してきた。「地球環境変遷と人間の安全保障」という学際的研究チームの1998年の報告によると、この地域の環境危機は以下の3点にまとめられる。
(1) 資源の搾取
経済発展を追求するために自然資源の搾取が加速され、環境の質が悪化している。例えば、雨林面積は伐採によって急速に減少し、それにより土壌の浸食や大水や生物種の絶滅を引き起こしている。800年前に森林を伐採し尽くして滅亡したイースター島と同じ道を歩むのか、心配されるところだ。
また、先進国の利益と現地政府のニーズが結びつき(あるいは迫られて)、かえって大きな代償を払うこともある。
有名な例は、パプアニューギニアに属するブーゲンビル島の事例だ。1960年代末、当時のオーストラリア植民地政府が、国内の鉱業会社にブーゲンビル島での世界最大の銅山開発を許可した。1975年に独立したパプアニューギニア政府もこの契約を継続し、現地の環境保全には全く手を出さなかった。その結果、銅山が島の経済を完全に支配し、同国の財政収入の20%を占めるようになり、河川や海は汚染され、森林は消失して社会にも緊張をもたらした。そして1989年、島の分離独立を求める勢力の運動で銅山は閉鎖を余儀なくされ、破壊された環境と、引き裂かれた社会が残されたのである。
最大の環境破壊と言えば、20世紀の西洋強権による核実験と核廃棄物投棄であろう。列強にとって、太平洋の環礁は遠い海の果てにあり、核実験にふさわしい地域ということになる。アメリカは1946年以降、マーシャル諸島のビキニ環礁で12年にわたって核実験を行ない、現地住民は二度も移住させられて被爆した。最後の実験は1996年、フランスはフランス領モルロア環礁で188回もの核実験を行なった。
(2)深刻なゴミ問題
急速な都市化と人口増加、そして一部地域の工業化で、ゴミや廃棄物の処理が深刻な問題となり、それは小島嶼国の環境行政の欠如を浮き彫りにしている。環境への影響の監視メカニズムはなく、危険性のある化学物質の輸入や使用の管理も不十分だ。住民は缶入り飲料やプラスチック製品を好み、自動車やバイクも増えているが、環境負荷は考慮されていない。
さらに皮肉なことに、塩分を含んだ海風と年間平均80%という湿度ため、家電や自動車、機械、コンピュータなどは錆びて故障しやすい。故障すると、修理のための道具や部品や技術がないため、そのまま廃棄物となってしまうのである。近年はオーストラリアやニュージーランド、台湾などがリサイクルの概念と技術を紹介しているが、島々のいたるところに出来たゴミの山をなくすのは容易なことではない。
(3)気候変動の最前線
1990年代以降、大気科学界は気候変遷報告と海面上昇の予測を提出し、太平洋の島々は複雑な環境課題に直面していることが明らかになった。
珊瑚礁の環礁島は平均海抜が5メートルに満たず、海面が上昇すれば深刻な影響が出る。海岸の浸食、マングローブ林の消失、耕作可能な土地の減少、地下水の塩濃度上昇などだ。
「気候変動に関する政府間パネル」の2009年3月(最新)の予測では、今世紀末までに地球の海面は平均1メートル以上上昇するということで「小島嶼国の水没」は現実味を持つ深刻な課題となった。
しかし、生態資源管理を研究する開南大学観光学科の劉子銘准教授によると、学界では海面上昇に関して議論があり、その予測方法もさまざまだと言う。例えば、南極の降雪量が増加して北極の氷の融解量を「相殺」するという説もある。また、地球の引力の影響で太平洋の海面はむしろ下がりつつあるとする報告もあり、海面上昇説はあまり単純に誇大してとらえるべきではないと言う。
海面上昇に関する議論は別として、当面の急務はやはり気候変動への対応ではないだろうか。風や波の威力増加、降雨形態の変化と土壌の水分吸収力の低下、そして海水の酸化による珊瑚の白化と死滅などだ。特に島嶼の住民にとっては珊瑚礁が死んでしまえば、陸地を守る天然の障壁がなくなり、サイクロンによる巨大な波をまともに受けることとなる。また珊瑚礁の生態が崩壊すれば、珊瑚と共生する魚を食べる大型の魚類の数が激減し、島民の食料安全保障と、漁業を中心とする島の産業も脅かされる。

エメラルドグリーンの内海と、濃いブルーの外海に挟まれた細長い陸地は、美しく脆い。これはキリバス第二の環礁島で首都があるタラワ島、最も高いところでも標高わずか2メートルだ。
太平洋の小島嶼の住民からすれば、彼らは地球上で二酸化炭素排出量が最も少ない地域であるにも拘わらず、気候変動の衝撃を最も大きく受けることとなる。なるほど、キリバスのアノテ・トン大統領は本誌の取材を受けた際、「大国は、温室効果ガス排出を削減すれば彼らの経済に影響を及ぼし、貧困を生むなどと言いますが、私たち小島嶼国にとっては、経済発展による福祉向上どころではなく、まさに国と国民の存亡がかかっているのです」と厳しく批判するわけである。
「国の移転」というシナリオについて、小島嶼国の指導者たちは「それは最後の、最悪の手段だが、そうなる前に自分たちの土地を守るあらゆる努力をしなければならない」と口をそろえる。「これは、主権と文化的アイデンティティに関わることです」と9月の選挙で議員に再選され、首相続投が期待されるツバルのアピサイ・イエレミア前首相は、今年4月に台湾を訪問した際に語った。
幸い、地域連合の伝統がある太平洋諸国は1980年代末から気候変動をテーマとして、地域全体で活動を始めた。例えば「太平洋諸島フォーラム」は太平洋地域を中心とする国際組織で「経済成長、持続可能な発展、環境保全と安全」を共同の目標としている。また「南太平洋地域環境計画」はオーストラリア、ニュージーランド、フランス、アメリカなども参加し、食料安全保障、水資源、珊瑚礁保護を主な目標とする組織だ。さらに「小島嶼国連合」にも積極的に参加し、あらゆる国際会議の場で発言の機会を確保しようとしている。
今年10月には、気候変動に関する国際フォーラムがキリバスで開催され、太平洋地域内外から30ヶ国が参加する予定だ。これは年末にメキシコのカンクンで開かれる国連の気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP16)へのウォーミングアップとなり、誠意ある対話を通し、具体的な合意と行動への進展を目指している。
太平洋諸島からの声が聞こえるだろうか。