物語を通して霊魂とつながる
しかし鄭亭亭の「叙事」とは、国家や民族の大いなる歴史といった集団のオフィシャルな物語ではなく、個人的な感情や主観や想像に満ちた微細な物語である。こうした位置に立ち返ることで、私たちは「台湾の集団の記憶」の外にある「他者」を感じることとなる。つまり、台湾に移住し百年余りにわたってここに暮らした人々の霊魂である。彼らは血縁的には正統の台湾人ではないが、台湾という土地に暮らし、この土地で人生を終えた。この観点は、鄭亭亭が長年にわたって関心を注いできた「アイデンティティ」の問題ともつながってくる。つまり、台湾人とは何か、長年にわたってこの土地に暮らす外国人は台湾人ではないのか、といった問題だ。これらの疑問は、私たちに自分のアイデンティティのフレームに気付かせ、国家民族アイデンティティの物語の構築と向き合わせるのである。
鄭亭亭の近年の創作手法は、歴史文献の研究とフィールドワークを基礎に、あらためて物語を組み立てるというものである。彼女は、歴史の片隅に追いやられていた文献の中の「霊魂」を呼び覚まし、彼らに声を与え、音声を通して見学者を街路空間へと導いてインタラクティブな交流を持つ。このような「没入型の身体的経験」は、写真を撮ってSNSにアップするといった消費型の体験とは異なる。「霊魂に同行する」というプロセスを通して慣れ親しんだ日常を覆し、墓碑や霊魂とつながる土地といった「大地の気に直接触れる」ことで歴史の健忘症に抗い、従来とは異なる方法で消費文化によって忘れ去られつつある人や物事を思い起こさせるのである。こうした歴史の片隅に追いやられた物語の口述は、旅を通して人々の記憶に深く残り、一方の霊魂も毎回「あらためて物語を語る」プロセスで生き生きと呼び覚まされる。私にとって印象深かったのは、この旅の最後に2人の霊魂が私たちに語りかける言葉だった。それは、自分と地域、歴史、記憶、そして移民の魂が互いに浸透し合う複雑な関係を考えさせるものだったのである。
「怖がる必要はありません。私たちは本物の霊魂ではなく、あなたがたの意識の中に存在しているのです。この対話の中で、私たちは集団の意識の産物です。ひとたび忘れられたらゆっくりと消えていきますが、私たちの存在は真実であり、あなたが踏んでいる土地や、あなたが手で触れる塀と同じように真実なのです。あなたが聞く鳥の声は私であり、あなたが嗅ぐ不快な匂いも私なのです。私たちはあなたの下や上、あなたの中に生きています。私たちはあなたと同じように、この土地を永遠に所有することはできません。それでもあなたと同じように、私たちはこの土地に属するのです。私は未来のあなたであり、あなたは過去の私なのです」と。

「TAKTH AWAY」2021年の会場での体験。(駁二芸術特区提供)

「TAKTH AWAY」2021年の会場での体験。(黄佩蔚撮影)