5月20日、民進党所属の陳水扁氏が中華民国第10代総統に就任する。これは総統直接選挙による初めての政権交代であり、その意義は極めて大きい。本誌では今回「台湾の歴史を振り返り、民主台湾を展望する」というテーマで、台湾の歴史と文化にお詳しい二人の歴史学者にお話をうかがった。『中国人史綱』『柏楊版資治通鑑』などの著書で知られ、最近は人権教育の推進に力を注いでおられる柏楊氏、そして総統府国家安全会議の元諮問委員、日本の立教大学の名誉教授で、『台湾総体相』『愛憎二二八』などの著書で知られる戴国煇氏だ。お二人に台湾における、出身地や民族を異にする人々同士の問題、両岸関係、新政権の課題などについて対談をお願いした。
戴国煇:今回、光華から提示されたテーマ「台湾の歴史を振り返り、民主台湾を展望する」は簡潔で明解ですが、歴史を振り返るだけでは十分ではないと思います。12年にわたる李登輝政権の最大の特徴は、ひたすら前進することばかりを考えたというもので、主張や使命が論じられましたが、立ち止まって過去を振り返り、総括することがありませんでした。総括しなければ反省できません。新政権の時代が始まろうとしている今、台湾社会にとって最も重要なのは過去を総括して反省し、それによって将来の方針を考えていくことだと思いますが、柏楊さんは、いかがお考えでしょう。
柏楊:「歴史を振り返る」ことは必要です。私は李登輝時代に台湾で発生した問題は、日本統治時代にさかのぼって考えることができると考えています。今日、台湾の多くの人が日本統治時代に好感を抱いていて、あの頃は秩序があったと懐かしんでいます。しかし、植民地統治は本質的に台湾人を尊重するよりも差別していたという点を考える人は多くありません。このような統治は、台湾人に非常に大きな犠牲を強いてきました。これは、祖国に復帰してからの、国民党に対する台湾人の過度の期待にも関わってきます。国民党が台湾へ来た時、台湾の人々は大喜びで軍隊を迎え入れ、日本人が「中国が戦勝国だと思うな。中国は我々に及ばないのだから」という警告も気にしませんでした。そして国民党に対する台湾人の期待が裏切られた時、それが「二二八事件」をもたらしたのです。
蒋介石による統治について言えば、彼は確かに台湾を防衛し、また台湾も彼を守ったと言えるでしょう。大きな意味では、日本も蒋氏父子も台湾に非常に大きな影響を与えました。しかし、現在の台湾が直面している重要な問題は、出身地や民族を異にする人々の間の摩擦や対立です。こうした対立は中国の非理性的な文化である「排他性」からくるもので、中国大陸では、省と省との間どころか、県が違うだけで排他性が生じます。方言の発音が何文字か違うだけの湘潭と湘江の間でも武器を手にしての闘争が起るほどで、これは中国文化に特有の「仲間割れ」なのです。
戴:中国人の「仲間割れ」というお話ですが、私も「人間性」に潜む「排他性」というものは、出身地や民族を異にする者同士の衝突を生みやすいと考えています。台湾では今後、中央研究院の李遠哲院長が言うように、最終的にはグローバル・ビレッジへと向かっていく必要があります。ですから出身地や省籍、民族などは気にしないようにしなければなりません。さもなければ台湾人の「排他的」文化が、もし「反外省人」や「反国民党」といった感情と絡んでくると、出身地を異にする人々同士の衝突が生じてしまいます。
台湾が祖国に復帰してから長い間、国民党は政権と権力の合理性を守るために、台湾籍の人々を平等に「中央」の政治に参与させませんでした。そのため、日本と同じような「外来政権」だと批判されたのです。「国民党は外来政権だ」という言い方と近年流行している「台湾化」に、さらに人間の弱点である「排他性」が加わり、これによって過去における台湾人の「李登輝氏への特別な思い入れ」が生じました。
私は李総統がスターリンのような独裁者だと言うのではありませんが、台湾で蒋氏父子が退いた後の状況は、ロシア人民がスターリンを擁護し放任した時の状況に非常に似ていたのではないかと思います。ロマノフ王朝を倒したロシアの人々が、より暴虐なスターリン体制を74年にもわたって擁護したのは、なぜでしょうか。それはスターリンが「大ロシア主義」を唱え、スターリン政権下では農奴封建制度が過去よりもいささか良くなったため、ロシアの人々は彼に屈服し、迎合したからです。もう一度強調しますが、私は李登輝総統が独裁者だと言うのではありません。ただ12年間にわたる李登輝政権が台湾人意識のエネルギーを放出し、それによって生じた「李登輝氏への特別な思い入れ」は、ある意味でロシア人がスターリンを支持した要素に似ているということです。蒋氏父子と比べ、李登輝氏は少なからず台湾籍の人々を登用したため、上に立ちたいという台湾人の潜在的な欲望を満足させたのです。
李登輝氏は初めての台湾人総統となり、これまで「排他的に」扱われていたという本省人の不満を解消したことで、支持を得ました。それに加えて「台湾化」政策を実施し、「国民党は外来政権だ」というような政治的言語を運用したため、初の総統直接選挙で李登輝氏は54パーセントという高い得票率を得たのです。
しかし、今回の総統選挙では、監察院前院長の陳履安氏や国民党内部からも「国民党は腐っている」という発言が相次いだように、台湾の憎しみのエネルギーを放出させるという李登輝政権下の方法では、すでに国民党の金権体質などを打ち消すことはできないと皆が考えるようになりました。これは、国民が違う期待を持ちはじめたことを示しています。陳水扁氏は、ある部分では李登輝氏の路線を受け継いでいますが、実際には李登輝氏が中心となって進めた「台湾化」政策と「外来政権」説などは、すでに破綻しつつあります。これら理論的に不完全な言い方に対して、国民はすでに満足していないのですから、陳水扁氏はこのような期待に特に注意する必要があるでしょう。
柏:「外来政権」という喩えは後から出てきたものです。もし二二八事件が起らなかったら、あるいは祖国復帰当初に台湾出身者の参政権を故意に牽制していなかったら、このような表現も生まれなかったかも知れません。祖国復帰の当初、台湾人はあれほど期待し、祖国に心を向けていました。それは、悪者に捕えられた子供が、毎日母親が迎えに来るのを待ち望んでいたのと同じです。ところが、解放されて自分の家に帰ってみると、母親は悪者より残忍だったのです。これは台湾人の感情を大きく傷付けました。当時の台湾人の気持ちは「日本人は私たちを侵略したのだから、私たちに辛くあたるのは自然なことだが、祖国は生みの親なのだから、私に辛くあたるべきではない」というものだったと思います。蒋介石は「独裁したくても敢えて独裁には踏み切れず、民主化したくても安心できず、自らを帝王だと思いながら一方では徳政を行ないたいと思っていた」ため、台湾人の反感は大きかったのです。
戴:蒋氏父子の台湾統治への評価という点では、まだ議論が必要でしょうが、私は「国民党は外来政権だ」という言い方は不公平だと考えています。「外来政権」を選挙のスローガンや政治的言語として使えば気分は良いでしょうが、学術的に外来政権とは何かを考える必要があります。
論理的に、国民党を外来政権とするには無理があります。歴史を振り返って見ると、いかなる「外来政権」も「被統治者」に平等に教育を受ける機会は与えていないからです。日本統治時代に、台湾の小作農の子供が高校に入れたでしょうか。国民党は台湾に来てから、国民の教育を受ける権利を保障し、台湾出身者を差別することは一度もありませんでした。ただ文官任用の面で、かつて国民党は特に一部の大陸出身者を優遇し、国家試験や正規の任用の他にも、コネが通用する道を残し、また経済利益の面でも彼らを優遇することがあったのは確かです。これらの問題は、すでに解決されているものもあれば、今も残っているものもあります。今後は、すべての人に平等な機会を提供しなければならず、これらの問題は法制度の確立によって根本的に解決する必要があるでしょう。したがって、陳水扁氏は就任後、あらためて「国民党は外来政権だ」という言葉に込められている本当の意味を考えなければなりません。さもなければ、一方では「中華民国は否定しない」が、一方では「国民党は外来政権だ」と言うのでは通用しません。いわゆる「直接選挙」というのは出身地や民族などに関わらず、すべての人に平等な投票権があたえられています。過半数の得票に満たなかった総統としては、外来政権と言いたくなる点もあるでしょうが、憎しみが解消した後は理性的になる必要があります。有権者の意識の向上が、陳水扁氏にとって新たな課題をもたらすでしょう。
柏:私は、出身地や民族を異にする者同士の衝突が心配です。今回の総統選挙の後、外省人が迫害されるのではないかと聞いてくる人がいました。私は陳水扁氏の言う「台湾独立」は選挙のための言葉であって、国家元首としての言葉ではないと思っています。
外省人が迫害されるかどうかという点については、総統選挙の得票数を見て考える要があります。陳水扁氏の得票数は500万票、宋楚瑜氏は470万票で、その差はわずか2.5パーセント、これをどう解釈すればいいのでしょう。外省人は宋氏に、本省人は陳氏に投票したと言う人もいますが、それは正しくありません。全台湾の外省人は、生まれたばかりの子供を合せても300万人しかいないのですから。では、宋氏の170万票はどこから来たのか。これは明らかに、宋氏に投じた本省人もいれば、陳氏に投じた外省人もいたということです。ですから、陳水扁氏が就任したら外省人が迫害されるなどということは、まったく考えられません。
今回の総統選挙は素晴らしかったと思います。今回のように「すべての人に機会があり、誰も勝利を確信できなかった」選挙があったでしょうか。これこそが民主主義なのです。選挙期間中にアメリカのラジオ局からのインタビューを受けた際「今回の選挙戦も、ライバル候補の悪口ばかりなのはなぜか」と聞かれましたが、私は「悪口は暴力よりいいし、票を数えるのは首を数えるよりいいでしょう」と答えました。陳水扁氏が総統に就任した後、どうなるかは私にはわかりませんが、西洋では、専制は必ず腐敗を生むと言われています。陳総統には、この点に特に注意してほしいと思います。
戴:今後、陳水扁氏が専制に向かうかどうかという点では、国政顧問である中央研究院の李遠哲院長の役割が大きいと思います。「李遠哲現象」と「李登輝現象」は、ある部分で重なっており「初の台湾人総統」「初の台湾人ノーベル賞受賞者」という点で象徴性があります。
柏楊さんが触れられた選挙の得票率について考えてみましょう。陳水扁氏は李登輝路線を受け継いだために39パーセントの票が得られたという人がいます。しかし、宋楚瑜氏との得票率の差はわずか2.5パーセントで、宋氏は李登輝路線を受け継いでいません。これはどう説明すべきでしょうか。日本のある記者から、宋楚瑜氏がこれだけの票を取れたのは、客家の人々が彼に投票したからではないか、と聞かれたことがあります。これは、まったく間違っています。客家の票を一手に集められる人などいるでしょうか。今回の選挙ではっきりしている点は「トップ・ダウン」の家長式民主主義の時代は終ったということです。1995年にアメリカのコーネル大学を訪れた頃の李総統は、極めて声望が高かったのですが、今は、李総統の言う「民の欲するところ」つまり台湾人の「表舞台に立ちたい」という欲望も低下しています。今回の選挙は、ストロングマンの限界を証明しました。誰も、自己の能力を過度に信じてはなりません。国民の目は確かなのですから。仮にうわさ通りに「連戦を放棄して陳水扁に票を投じる」という現象が起り、あるいは李総統を支持する票が陳水扁氏に流れたのだとしたら、なぜ陳氏の得票率と李登輝氏の得票率に、これほど大きな差が出たのでしょうか。
柏:指導者の問題という点では、重要なのは人の意見を受け入れる心の広さだと思います。連戦氏のコンビとして蕭万長氏が副総統候補に選ばれる前、私は李総統に、連戦氏と宋楚瑜氏とのコンビを考慮するよう手紙を出そうと思ったことがあります。しかし、恐らく李総統は、私が宋楚瑜氏の支持者だと思って受け入れないだろうと思い、やめました。私は、指導者たるもの「器が大きくなければ、並外れたことはできない」と考えています。自分とは違う意見を受け入れるというのは、言うのは簡単ですが実際には難しいことです。かつて唐の太宗の諫臣、魏徴は皇帝に「以前の陛下なら、批判されるとお喜びになったのに、それがうなずくだけになり、今は批判されると顔色まで変ってしまいます」と言いました。指導者の多くは批判を聞き入れられないという問題を抱えているのです。
陳水扁氏が総統就任後にすべきことは、第一に司法の独立を守ることです。第二は、立法院のように、自ら総統の権力を均衡できる制度を確立することです。第三に、文官制度を尊重することが大切です。私は、権力と金と愛情の三つには、人を陥れる決定的な魅力があると考えていて、それを「玉座の上には毒牙がある」という言葉で形容しています。ところが最初は注意していても、時が経つにつれてしだいに感覚がなくなり、さらにはそれが心地よくなってしまうことさえあるのです。
戴:柏楊さんは、指導者が「己に克つ」ことを求めていらっしゃいますが、それには「包容」という面も含まれるでしょう。今回、宋楚瑜氏が、長庚病院院長で長庚大学の学長でもある張昭雄氏を副総統候補として立てることができたのも、宋氏の台湾出身者に対する包容力を示しています。宋氏が高い得票率を得られたのは、国民党が宣伝したように「金銭をばらまいたから」ではなく、氏が謙虚さを持ち、人に対しても「台湾化」の精神を持っていたからでしょう。
では「台湾化」とは何でしょう。それは「草の根化」です。真の台湾化においては、福建南部出身者、客家、先住民、そして外省出身者すべてのニーズを満足させる必要があります。陳水扁氏が、台湾セミコンダクター社会長の張忠謀氏のことを「華人」と呼んだ時、大陸からアメリカへわたった張忠謀氏は自分と同じ「台湾人」ではない、と陳氏が感じているように思えました。これは陳氏自身がまだ乗り越えていない弱点です。台湾はすでにハイテク・アイランドへと邁進しはじめているのですから、これらすべての人を受け入れ、皆が「新台湾人」だと考えなければなりません。
柏:張忠謀氏も台湾に暮らす300万人の「外省人」の一人です。これらの人々を排斥するのは国にとって決して良いことではありません。かつて、客家出身で民進党に所属していた故・魏廷朝氏は、客家の人々は外省人を追い出せば台湾は良くなるとは思っていないと語りました。客家の人々は、自分たちと同じように少数派の仲間をようやく見出したのですから、肩を並べてやっていきたいと考えているのです。新政府は、このように出身地を異にする人々をより大きな心で受け入れていく必要があるでしょう。
戴:陳水扁氏が総統として直面する最大の課題は「両岸問題」です。陳氏は、両岸関係では一手も誤ることはできないと語ったことがあります。一方、朱鎔基氏の言った「中国人が中国人に譲る」という言葉からは、多くのことが想像できます。私は、両岸関係は多くの人が考えているほど悲観的なものではないと思います。新政府に慎重さを求めると同時に、大陸も広い心で台湾を包容するべきです。かつて私は「睾丸理論」(戴国゙k著『台湾結と中国結』参照)というもので両岸関係を形容したことがあります。男性の睾丸(台湾)は外にあれば精子を生産し、男性の精力を旺盛にするものですが、それが身体の中に呑み込まれてしまうと、あまり良くありません。この比喩はやや粗野ですが、実際に両岸関係はそういうもので、合(和)すれば双方に有利になり、分(敵)れれば双方に不利になるのです。
柏:今回の選挙は、統治というものの神聖さや権威、道徳性を打破し、また平和裏に政権交代を実現させたという点で、実に素晴らしいものでした。政権を取ったことのない民進党のメリットは負担がないことですが、デメリットは経験のないことです。しかし「成り上がり」は、手厚い待遇を受けることに慣れてきた名家の子弟より努力するものです。新政府は中国古来の戒めを忘れてはなりませんが、「醤ャ文化」のどろ沼の中に落ち込んでもいけません。もう一つ「嫁姑文化」もいけません。姑にいびられてきた嫁が、ようやく自分が姑になった時に、やはり同じように嫁をいびるようではいけないのです。
戴:私も今回の選挙では台湾の有権者の知恵が示されたと思います。台湾の「市民社会」の雛形は、すでに成熟へと向かいはじめています。
柏:いずれにしても、民主主義に失望してはなりません。さもなければ専制の時代が始まってしまいますから。2年前の台北市長選挙の時、大陸から何人かが選挙を見に来ました。選挙が終った翌日、それまで町中いっぱいに立っていた候補者の宣伝の旗や幟がなくなっているのを見て彼らは驚き、「誰が抜いたのか」と聞くので、私は「自分のものは自分で片付けるのですよ」と説明しました。これが民主主義です。
戴:今後、台湾は経済面の問題にも直面します。政治への暴力組織の介入や金権体質は、李遠哲氏一人に頼っても解決できませんから、国民が一緒になって努力する必要があるでしょう。西部劇のように、腕の立つ者を一人だけ雇ってもどうしようもなく、皆が一緒に法と警察を支えて戦わなければなりません。台湾は今、まったく新しい状況に直面していると思います。かつて李登輝氏は、政治家になる機会に恵まれていましたが、後にしだいに政治屋という落とし穴に入ってしまいました。小細工を弄し過ぎ、ついに自分自身をも倒してしまったのです。一方、陳水扁氏は、かつては現実主義型の政治屋でしたが、今後はレベルの高い政治家になれるかどうかが問われるでしょう。
台湾の経済は中小企業に頼っているため、今は、中国大陸という後背地を十分に利用できるかどうかが大きな課題です。十分に利用できなければ、台湾経済の優勢が失われるという問題に直面するでしょう。エバー・グリーンの会長である張栄発氏が、戒急用忍(対大陸投資投資抑制策)は廃止するべきだと唱えているのは、大陸市場がなければ台湾経済は前に進めないからです。そして台湾が経済面での優勢を失えば、民主主義のレベルも落ちてしまうでしょう。
柏:我々の民主主義は非常に貴いものなので、くれぐれも大切にしなければなりません。民主主義を破壊する要因はたくさんあります。司法の独立性が確保できないことや、経済状況の急変や長期的な不況などです。貧しさは人々の心をすさませます。摂取するカロリーが800以下になると不安が生じ、600を切ると羞恥心がなくなり、400まで下がると社会秩序は維持できなくなるのです。
戴:民主主義を守り、独裁者を生まないための唯一の方法は、しっかりと監督し、均衡の制度を確立することです。健全なマスメディアの存在も、その一環を成しています。
柏:リンカーンは大統領に当選した時に、ひざまずいて祈りを捧げましたが、私は、陳水扁氏にもこのような気概と姿勢を求めます。また、政府官僚も一般国民も、みなが法治の精神を持たなければなりません。例を挙げましょう。ドイツの皇帝が荘園を拡大しようとした時に、ある農家の土地にぶつかったので、皇帝は農夫と話し合い、土地を譲ってくれたら金を払うと言いました。ところが農夫は、金は要らない、これは自分の土地だから渡さないと答えます。そこで皇帝が武力でこの農夫を追放すると言うと、農夫は「そんな事をするなら、裁判所に訴える」と答えます。すると皇帝はこの農夫に謝り、農夫が法律を尊重し裁判所を頼りとしていることに感動するのです。これこそが法治であり、台湾でもこのような法治の精神が根づくことを願っています。
戴:もう一つ、台湾の発展のために重要なのは、大陸との間の良好な関係です。対抗するのではなく、大陸にプラスの刺激を与えることを考えるべきです。最も理想的な防備は軍備ではなく、一般の人々の市民意識です。大陸の人々に、台湾では誰にでも機会があり、社会は平等で正義があり、公の利益が重視されているということを知らせ、理解させていくのです。こうすることで、両岸間のしこりが解ける可能性が出てくると私は考えています。
柏楊氏
河南省輝県出身。1960年より柏楊の筆名で著作活動を開始し、中国文化の欠点や問題点を指摘してきた。1968年3月7日、人民と政府の間の感情を挑発したという罪状で逮捕され、1977年4月1日にようやく釈放される。出獄後、執筆活動を継続し『異域』『醜い中国人』『柏楊版資治通鑑』など多くの著書を発表してきた。最近は、人権教育に力を注ぎ、建立計画を立ててきた「緑島人権記念碑」は1999年12月10日に落成した。
戴国煇氏
1931年、台湾桃園県生まれ。日本・東京大学農学修士・博士。台湾史研究がまだタブー視されていた時代に、率先して日本で研究会を組織し、台湾とアジアに関連するテーマを研究したため、我が国の政治ブラックリストに入れられたこともある。これまでに日本のアジア経済研究所調査研究部主任調査研究員、立教大学国際センター長などを務める。1996年に台湾へ戻り、総統府国家安全会議諮問委員を経て、現在は中国文化大学史学科教授。