Q:法務部は、新政権の中で最も業績を上げている部門の一つですが、まず暴力団や金権の捜査・取締りの重点をお話しいただけますか。主な捜査対象には、どのようなものがあるのでしょう。
A:検察・調査機関の任務は犯罪の取締りと、暴力団や金権の捜査・取締り、そして社会の公理正義の維持です。しかし人手に限界があるため、社会に対する危害の最も大きい部分から着手しています。現在、全国民は暴力団や金権の政治介入を非常に深刻な問題だと考えているため、これらの取締りが最も重要な任務になります。具体的には暴力団取締り、汚職や収賄の捜査と検挙です。かつて李登輝前総統は、暴力団のない国があるだろうか、と語りました。しかし、我が国の暴力団は海外のそれとは違い、選挙に出馬して公職に就き、その立場を利用して特権を得、国民を食い物にして、社会に危害をおよぼしています。ですから、台湾における暴力団取締りの重点は、暴力団をバックにした公職者に置かれます。汚職取締りに関しては、行政体系の中の公務員が対象です。
もう一つ、選挙活動における買収行為も台湾の大きな問題です。来年末には立法委員と県長・市長の選挙が行なわれるので、法務部は全力を上げて買収行為を取締ることにしています。この決意を示すために、現在すでに来年2〜3月に行なわれる全国の漁協・農協の理事選挙での買収行為防止に取り組んでいます。検察や調査機関の人員と政府の関連部門は、すでに漁協・農協の選挙で票集めを担当する人々の名簿を手に入れており、これによって一人一人を訪問して買収行為を行なわないよう説得にまわっています。それでも違法な行為が行なわれた場合は、私たちは全力を上げて取締り、検挙します。
捜査対象は、暴力団であれ金権事件であれ、あるいは汚職も買収も、すべて事実と証拠によって決まります。現在、検察・調査機関にはたくさんの告発が寄せられていますが、人手に限りがあるため、まず大規模な、あるいは影響力の大きい事件から着手し、余裕が出たらその他の事件にも取り組んでいきます。これが基本的な原則です。
Q:今おっしゃったように、台湾では、暴力組織を背景に持つ人が選挙を通して公職に就くという構造が出来上がっています。しかし、能力が高くイメージも良い廖正豪氏や馬英九氏が、かつて法相に就任した時も、こうした構造を本格的に解決することはできませんでした。このような極めて困難な任務を全うできるとお考えでしょうか。
A:国民党政権の時代、馬英九・元法相は、積極的に贈収賄の捜査を行ないましたし、廖正豪・元法相も暴力組織の取締りに全力を上げましたが、二人とも続けていくことができませんでした。その主な理由は、国民党自体が大きな重荷を抱えていたからで、党の上層部から圧力がかかったためです。しかし、民進党にはこのような重荷はありません。民進党は、暴力団と金権の政治介入を一掃するという政見によって国民から支持を得、それによって政権を獲得できたのですから、これについては党内では百パーセントのコンセンサスが得られています。その点で、私は以前の法相より恵まれていると思います。党内や上層部から何の圧力もありませんし、巨大な力による干渉や阻害もなく、また全国民から支持されているからです。
Q:最近、台南市の張燦鍙市長がリベートを受け取ったという疑いで事情聴取を受けたため、世論からは新政権も旧政権も、やることは同じではないかという不満の声が上がっています。もし、こうした疑惑が新政権の中に及んだ場合、何のこだわりもなく捜査なさることができますか。
A:私は法相に就任したばかりの時、検察・調査機関の部下たちに、捜査のための良好な環境を保障すると言いました。私は、彼らのためにあらゆる不当な干渉を全力で排除する考えです。この決意は幾つかの事例から、すでに証明できると思います。私が就任してから最初に起訴された地方自治体首長は民進党の党員です。また、13日には検察・調査機関の人員200人あまりを動員して、南投県政府を捜索しました。南投県長(知事)も、かつての民進党員です。国家安全局の劉冠軍容疑者の事件は、調査局がある事件の捜査をしていた時に、帳簿に問題があることがわかり、追跡する必要があると考えて捜査したところ、重大な疑いが浮かび上がったのです。
公職者や公務員、政府機関に関しては、その職位や地位、あるいはバックグラウンドに関わらず、疑いがあれば捜査します。かつての検察・調査機関が敢えて捜査できなかった国家安全局なども同様に捜査対象になります。これは、国民党政権の時代には考えられなかったことですし、ありえなかったことです。
Q:このように積極的に捜査なさる中で、大々的に捜索しながら何の証拠も得られなかったという事例も出ていて、捜査が正当性に欠け、当事者を尊重していないのではないかと批判された検察官もいます。このような問題は、どう処理なさるお考えでしょうか。
A:確かに捜索の結果、何も収穫が得られなかったという事例が幾つかあります。例えば、立法院の大安会館の捜索や、鎮トi宮の捜索などは、具体的で有力な証拠がなかったようです。ただし立法院の部分は、そこに入ることができず、入ることが出来たとしても、証拠が得られるかどうかは何とも言えません。もう一つ、中時晩報の捜索についてですが、この捜索によって、私たちは供述書と同様の原稿を発見しており、何の収穫もなかったわけではありません。しかし、外部の方々はこの点を知らないので、新聞社が捜索されたということで、私たちが報道界に圧力をかけているという誤解が生じてしまいました。これは非常に残念なことです。
この事例に関して言えば、どのような状況を「報道の自由に圧力をかける」と言うのか、また政府の文書は国家機密に当るのか、それが漏洩すると国の利益に危害をおよぼすのか、などの点が問題になります。これらに関して法律上の明確な定めがなく、公務員が主観によって判断するようであれば、報道の自由に危害をおよぼす可能性が生じます。しかし、中時晩報が掲載した劉冠軍容疑者の供述記録は、実際の供述書とほとんど一文字の違いもなかったため、これは明らかに実際の供述書がコピーされて外部へ流れたことを証明しています。また、供述記録は機密文書とされています。これについては、検察や調査機関の人員が自分で判断することはできません。刑事訴訟法第245条は、捜査の非公開を定めており、捜査の段階での供述記録は刑法第132条により国防機密以外の機密と定められています。新聞社が、このような文書を掲載したということは、すでに公務員が法を犯したことを示しています。私たちは、内部の調査にすでに着手しており、新聞社の捜索は証拠を得るためだったのです。これは法の定めた手続にしたがった行為であり、報道の自由への圧力といった問題はありません。
Q:検察・調査機関は自らの証拠収集の能力をもっと重視し、捜査の技術を向上させるべきではないでしょうか。一方、機密という点に関して言うと、台湾には情報公開に関する法令がありません。これは国民の知る権利にとってマイナスだと思われますが、いかがお考えでしょう。
A:報道の自由があるからといって、違法行為をして良いということにはなりませんし、報道の自由を違法行為を守る盾にすることがあってはなりません。報道の自由の重点は、事前の検閲をしてはならないという点にあり、事後の捜査ができないということではないと考えています。報道の自由は、行政裁量権に対抗できるのもで、どのような記事は掲載でき、どのような記事は掲載できないということを行政機関は判断してはなりませんし、かつてのように軍法による新聞社捜査などがあってはなりません。しかし今回、新聞社が捜査段階の供述記録を掲載した行為は、真っ向から国の法律に挑戦したに等しいと言えます。新聞社を捜索してはならないなどという法律が、どの国にあるでしょう。また、どこかの国の憲法が、国会が捜索を受けない権利を保障しているという話も聞いたことはありません。
Q:中時晩報の捜索に関しては、その後いろいろな議論がなされましたが、その他の事件について、検察官が法的手続の正当性を欠いているという指摘については、いかがでしょう。法務部としては、このような社会からの疑問を、どのように解決なさるお考えですか。
A:まず強調しなければならないのは、立法院の研究棟の捜索であれ、鎮瀾宮や新聞社の捜索であれ、法律的には何ら問題はないという点です。ただ、捜索による収穫がなかったため、捜査の技術的な面が批判され、事前準備が不十分だったのではないかと批判されました。また大量の捜査員を動員する必要があったのか、権力を過剰に用いていないか、などといった疑問の声が上がっています。しかし、これらの捜査は、法律面、法の適用の面では何の問題もありません。これは喩えて言うなら、交通違反で警察官から車を止められた時、仮に警察官の態度が悪かったとしても、その車を停めた警察官の行為には法的根拠があるというのと同じです。
もちろん、大勢の捜査員の中には態度の良くない人もいるでしょうから、これは改善しなければなりません。ただ、捜索や押収などの行動の際には、チームとして出動することが多いものです。例えば、南投県政府に対する捜索では、200人近い人員を動員しました。そのため一部の捜査員の態度が悪かったということはあるかと思いますが、それをすべて検察機関の責任にするのは公平ではありません。
Q:新しい閣僚が就任したばかりの時は、適応するのに時間が必要なもので、法相に就任なさったばかりの時、法相と調査局との関係が一度悪化しました。しかしその後、法相の方から、調査局は今後、特定の人物に対する政治的監視は行なわないという発表がありました。すでに調査局の業務については、すべて掌握なさっているのでしょうか。
A:いいえ、そうではありません。調査局は、法務部と国家安全局という二つの部門に属しているからです。調査局を会社にたとえれば、私たち法務部が持っている株は全体の5分の1に過ぎないのです。調査局は、法務部組織法に「調査機関を設置できる」と定められていることを根拠として設置された機関ですが、調査局の組織条例の定める法定の権能は、犯罪の捜査ではなく、国家安全と政治的監視に関わるものです。単純に組織条例だけを見た場合、私たちは調査局に対する管轄権を持たないに等しいのです。
調査局に対して、私が小さい方の上司として要求していること、あるいは、より謙虚に言えば期待していることは、簡単なものです。ただ、司法警察機関としての仕事に最善を尽し、犯罪取締りの機能を発揮してほしいということだけです。
Q:つまり、法相としては、調査局に対してやはり無力感を感じていらっしゃるということでしょうか。
A:法相に就任したばかりの頃、私は犯罪捜査機関と情報機関は分立させるべきで、調査局は司法警察機関の役割に戻り、国家安全に関わる仕事は国家安全局へ戻すべきだと考えていました。しかし、国家安全局の方では、人員が足りないため調査局の力に頼らざるをえないということでした。このように情報機関と捜査機関の全体的な状況を考え、私も分立させることはあきらめました。しかし、国家安全局には調査局に与える業務の量を少しでも減らしていただき、より多くの人員が犯罪捜査に携われるようになれば、と希望しています。
長年にわたって調査局が非難されてきたのは、彼らが特定の政党や個人に忠誠を誓い、政治的な働きをしてきたためです。しかし今は、国家安全と犯罪捜査以外の政治的な任務は一切停止されました。ただ、法令上でも調査局の職権を改正する必要があります。これは法務部を経て行政院で裁決されれば、より明確になり、法的根拠が整います。
実は多くの人が、法務部の実際の権能をよく理解していません。犯罪を取締り、社会の正義と公理を守るというプロセスの中で、私たち法務部が担当しているのは第二と第四の段階だけです。例えば殺人事件が起った場合、事件発生から容疑者の検挙までは警察の仕事で、警察が容疑者と捜査記録を検察機関に移送した後、私たちが起訴し、それに続いて裁判所が審判を行ないます。そして裁判所で三審を経て判決が確定した後、再び私たちのところへ戻ってきます。判決が確定した案件については、法務部はただ法にしたがって執行するだけで、口をはさむ権限もありませんし、判決の正当性を疑う権限もありません。
最近、ローマカトリックの単国璽枢機卿が私たち法務部に、蘇建和死刑囚の特赦と死刑廃止を求めてこられました。しかし、三審を経て確定した判決については、法務部は執行するすることしかできず、他に選択の余地はありません。もちろん、死刑執行は常に非常な痛みを伴うものですが。
これに関して、行政院ではすでに盗賊処罰条例の廃止を決議しました。この法令には、罰則は死刑のみとしている条文がたくさんあり、このような法令は国際的な人権組織から見れば極端な人権侵害だからです。罰則は死刑のみと定めている法の条文をすべて有期刑に改正する案は、すでに立法院に提出されています。
Q:再び暴力団や金権の問題に戻りますが、これらの取締りを徹底するには、健全な社会的メカニズムの確立が必要で、司法機関だけが努力しても成果は限られているという声もありますが、いかがでしょうか。
A:現在のところ、法律や教育の面から着手していくべきだと考えています。ただ、すぐに社会メカニズムを変えることはできないので、さまざまな面で同時に努力していく必要があるでしょう。法律執行機関が真剣に取り組んでいけば、私は暴力団や金権の問題は、それほど難しくはないと考えているのですが、問題は法律執行そのものです。立法院のかつての同僚たちから「誰それが悪事を働いているから早く検挙してほしい」と言われることが少なくないのですが、そこで私が「では、すぐに供述書をつくるから証言してください」と言うと、彼らは「とんでもない。私には事業も家族もあるんですよ」と言うのです。
暴力団に恨まれたら恐いと思うのは当然ですが、暴力団を取締り、犯罪者を逮捕するには、証拠がなければなりません。我が国の国民は、こうした面でより一層社会的な責任感を培っていく必要があるでしょう。政府が取締ろうとしているのに、国民が義務を果たそうとしないのでは、私たちにもどうにもなりません。
Q:法相は昔から正義感が強く、社会正義を強く求めてこられました。そのような責任感から、何事も自らが直接指揮を執るという姿勢で取り組まれるのでしょうか。
A:法務部のオフィスでは、私のところへ裁決を求めて送られてくる文書は一日に30件に達しない状況で、自分が手を出したくても出せないことがたくさんあります。私が自分で出した指示や命令の文書については、私に副本を残しておくよう指示してあるのですが、半月しても副本が届けられないことがあり、聞いてみると、とっくに下に回っていると言うではないですか。冗談ですが、私は飾り物にされている、ということでしょうか。このような状況ですから、何もかも自らが指示を出すというのは不可能な話ですし、実際、法務部の各層が責任を負って進めているのですから、すべてを私に報告するという必要もありません。
Q:ご自分でスタッフを率いて最前線で指揮を執りたいとお思いになりませんか。
A:それができれば充実感があるでしょう。しかし、法務部が管轄するのは法務行政だけなので、私が検察官による事件捜査を指揮することはできません。それは検察官の職務なのですから。アメリカの州の中には、司法部長が検察総長を兼任しているところもあり、その場合は実際に陣頭指揮を執ることが可能です。ただ、アメリカの多くの州では司法部長は選挙で選ばれます。また選挙で裁判官を選ぶ制度もありますが、そうした裁判官の中にも収賄事件を起す人がいます。ただ、そうした状況はやはり台湾の方が多く、我が国の公務員の汚職は非常に深刻な問題です。「千万条の法律も、一条の黄金に如かず」と言われますが、これはまさに私たちの司法機関の問題を風刺した言葉です。
Q:法相に就任なさり、法務部の威信を早急に確立しなければならないと考えていらっしゃる理由も、そこにあるのですね。
A:私は、ここ数ヶ月の私たちのやり方によって、司法の威信はすでに確立されつつあると考えています。