40年来、台湾の人々の共通の経験だった高校統一入試が、今年を最後に廃止されることになった。統一入試に取って代るのは多様な進学制度だ。今後は「一回の試験で一生が決まる」というようなことはなくなるが、毎年約34万人に上る中学卒業生の進路は、今後どのようにして決まるのだろう。統一入試の廃止は、どのような結果をまねき、進学方法の多様化は、中学の教育にどのような変化をもたらすのだろう。
毎年、暑い夏の盛りに、全国の受験生は試験会場で汗を拭いながら問題に取り組み、会場の外では付き添いの家族が飲み物を用意して待つ。こうした統一入試恒例の光景が、ついに過去のものとなる。今年の中学3年生が統一入試最後の受験生となるのである。
その中学3年生の子供を持つ劉さんは「家に高校受験生がいるというのは、まるで時限爆弾を抱えているようなものです。家中の者が彼の顔色をうかがわなければなりません」と言う。劉さんの息子さんが通うのは、台北市敦化学区の有名校だ。昨年、息子さんの学校では全校合わせて100人余りがランキング第一位の高校に合格している。他の多くの学校では、ランキング第一位の高校に合格できる生徒は全校合せて数人に過ぎない。
進学率の高い学区の中学は競争力があるが、子供たちのストレスも大きい。「息子はいつも、学校からも親からもプレッシャーをかけられ、皆が成績のことばかり気にして互いに詮索すると言い、親子関係も緊張ぎみです」と劉さんは言う。高校入学においては、すでに「推薦試験」や「申請入学」などの方法も実施されており、劉さんは、統一試験がなくなるのはうれしいが、入試の多様化は「実験」のような感じがして、その成果が検討されないまま、また新しい方法が取り入れられるのではないかと心配している。
では、なぜ進学方法の多様化が必要とされているのだろうか、またそれはどう実施されるのだろう。
戒厳令解除後の台湾は、政治や社会などの面で急激に変化し、教育に関する考え方もしだいに多様化してきた。各種の教育改革計画が机上の作業の形で次々と始まったのである。
1990年、教育部(文部省に相当)は「中学卒業生自願就学プラン」を計画した。これは統一入試での学力テストに代え、中学3年の学校での五育(徳・智・体・群・美)の成績で高校進学を決めるというもので、これによって中学校の教育を正常化するという狙いがある。このプランは、8月に台北市、高雄市、そして金門県のみで試験的に実施された。三つの地域の生徒は、中学1年の段階でこれに参加するかどうかを自由に決めることができ、参加を決めた者は統一入試を受けることはできず、代りに学校での成績によって進学先が決まる。
台北市を見ると、初年度には21の学校で800人の生徒がこれに参加し、参加者は一度は9000人余りまで増えた。実施されてから10年間、参加者は増えたこともあれば、減ったこともあり、この制度に対する評価も分かれている。これは台湾の進学制度改革の第一歩となったが、技術的かつ局部的な改革にすぎず、社会の期待とはまだ大きな距離があった。
1994年4月1日、民間の教育改革団体が集まり「高校・大学を大幅に増設し、小人数学級制を導入すべき」というスローガンを掲げて大規模なデモ行進を行なった。彼らは現在の教育の問題点を指摘し「進学ルートを増やし、多様な進学制度を設ける」など8項目の改革の重点を挙げ、まず大学入試から改革し、それから高校入試を変えていくことを提案した。
多様な進学制度としては「申請入学」や「推薦入試」などがあるが、これらは主に英米の進学方法を参考にしたもので、どちらも学校での普段の成績や行ないなどを高校入学の根拠とする方法だ。推薦入試の方は、生徒の学習状況を理解している中学の先生が、生徒を高校へ推薦し、高校側がさらに筆記試験を行なって合否を決めるというもので、申請入学の方は、生徒自身が高校に進学を申請するという方法である。
1997年、台北市の高校入試で初めて「推薦入試」が試験的に行なわれ、翌年には「申請入学」と「エスカレーター式進学」が採用され、これらに参加して進学が決まった生徒は統一入試は受けなくてもよいこととなった。だが、市の教育局が推薦入試や申請入学の枠を各高校の生徒募集人数の半数以下と定めたため、やはり大多数の中学生は統一入試を受けている。
このように新しい進学方法を研究すると同時に、当局は統一入試廃止に向けて作業を進めてきた。師範大学心理・教育測定センターに、統一入試に代る「基本学力測定」の研究を依頼し、2001年には統一入試を全面的に廃止することを目標に進めてきた。
統一入試、推薦入試、申請入学、そして先に実施されていた自願就学プランや、数理や言語の特に優秀な生徒の試験、そして一部の附属中学から高校へのエスカレーター式進学など、多様な進学方法として六つのルートが設けられた。
「入試制度をいかに改革しても、その目的から離れることはありません」と語るのは、民間の教育改革団体、振鐸学会理事の丁志仁さんだ。多様な進学方法は基本的に三つの方法に分類できる。一つは国の共通試験(統一入試や基本学力測定など)、第二は学校での成績を参考にする方法、第三は各高校が行なう小規模な推薦試験だ。これらの比率や応用方法を各高校が独自に調整するに過ぎないのである。
統一入試と多様な進学制度の優劣について、丁志仁さんは「統一試験というのは最後の決戦とも言え、これで成功すれば、それまでの学校での失敗などはすべて帳消しになりますが、これだけでは子供たちには一度しかチャンスが与えられません。多様な進学制度が肯定できるのは、さまざまな長所を持つ子供に同じように機会が与えられることです」と言う。
道理から言えば、多様な進学方法の採用によって、子供たちは試験、模擬試験、受験指導などから解放され、点数ばかりを気にしなくてもよくなるのだから、親も賛成するはずなのだが、実際には親の気持ちは複雑だ。
1998年5月、当時の林清江教育部長(文相に相当)が、2001年度には「高校・職業高校・5年制専科学校の統一入試を全面的に廃止する」という方針を発表した後、当時、小学校6年生の子供を持つ親の意見を調査したことがある。それによると、56パーセントの親は統一入試廃止に賛成、26パーセントが反対で、半数以上の親が統一入試の廃止によって子供の進学のプレッシャーは低減すると答えた。
だが注目すべきことは、高校の数が最も多い台北市で97年に「多様な進学方法」の実施が始まってから3年後、むしろ半数以上の親が統一入試の廃止に反対するようになったことだ。この調査は、台北市議会議員の蒋乃辛氏の研究室が発表したもので、これによると、73パーセントの親が多様な進学方法の内容を理解しており、理解していながら統一入試の廃止に反対している人の方が多く、反対する人の比率は多様化を理解していない親のそれより2.6パーセント多かった。
当惑しているのは親だけではなく、第一線の教員も同じだ。
ある有名高校の教員は次のように話している。彼女の勤務する学校では、ここ2年ほどクラスで上から10位までの成績の生徒が統一入試を経て入学してきている。「推薦入試で筆記試験を行なうのは、国語、英語、数学だけなので学力に偏りがあり、高校に入ってから歴史や地理、理科などの科目でついていけない状況が発生します」と言う。彼女は統一入試が廃止されると、生徒の学力がさらに落ちるのではないかと心配している。「皆が手探りで進めている状態ですが、ここ2年の生徒は実験対象にされているように感じます」と言う。
多様な進学制度がまだ親や教師から信頼されていない中、この2月には台北市の数十の中学で、中学3年の模擬試験の内容が漏洩するという事件が発生した。これによって親たちは、ますます不安を募らせ「多様な進学方法より統一入試の方が公平なのではないか」という疑問の声が上がった。
統一入試のみで合否が決められた時代には、模擬試験は入試での成績を予測するためにのみ行なわれていたが、進学制度が多様化されてからは、学校での成績が重要になり、中学の中には模擬試験の成績も「推薦入試」の参考にするところも出てきた。現在、多くの高校は生徒募集人数の4割を推薦入試枠としているため、一部の中学では1クラスから1人を推薦するという方法を採っており、生徒間で成績の競争が生じているのである。
統一入試が廃止されると、在学中のすべての試験が合否に関わるという長期戦へと変わり、生徒のプレッシャーが減るとは言えない。さらに「人為的要素」が加わり、教師が生徒の成績ばかり注目する現象が生じやすい。
新聞に掲載された中学3年生の投書によると、3月から高校入学の申請が始まるが、学校の一部の教師は成績の優秀な生徒や、社会的地位の高い親を持つ子供にしか推薦状を書かないという。教師は、成績の平凡な生徒のために推薦状を書いても入学できるとは限らないので、無駄な仕事はしたくないと言うそうだ。また学校が、申請書の手本を成績優秀な生徒に提供し、それを写させるということもあり、投書してきたこの生徒は非常に不公平に感じている。
では統一入試は公平なのだろうか。
この問題の結論を出すのは非常に難しい。だが、教育改革という名の列車が走り始めた時、改革団体はすでに統一入試を廃止すべきかどうかという議論は終えており、統一入試に代えてどのような方法を採用するべきかだけを議論していたため、教育当局も、統一入試廃止の方向で動かざるをえなかったのである。
台北区高校進学多様化プラン研究小委員会の幹事を務める中山女子高校の丁亜雯校長は「統一入試は絶対的な一元化です。進学ルートの一元化であり、点数も一元化されています」と言う。その話によると、ここ20年来、中学では知識偏重の教育が行なわれてきており、教育は試験のためと考えられるようになり、統一入試に参加しない生徒には教えないという状況も生じて、教員の教育空間も狭くなっていた。気の毒なのは生徒の方で、試験のための機械と化しているのである。
丁亜雯校長は、ある中学生が呉京元教育部長に当てて書いた手紙を覚えている。中学3年生の手紙の書き手は、それまでに2500回余りの試験を受け、学校は彼を試験の答案を書く機械にしようとしていると述べていた。「こうした試験の方法が、子供たちの思考の空間を狭めているのです。一元的な入学制度は必ずや改めなければなりません」と丁先生は言う。
進学方法多様化の精神の一つは、各高校がそれぞれの特色を出すよう奨励することにある。高校がそれぞれ自主的に新入生を選べるようにするのである。そのため、各高校が独自に推薦入試や申請入学の募集人数を決められるようにしたところ、大部分の学校が推薦入試を4割、申請入学を1割という形で行なっており、残りの半数は、今年はこれまで同様の統一入試の成績による生徒の振り分けを採用し、来年以降は「基本学力測定」による振り分けを採用することになる。
統一入試が廃止され、代りに基本学力測定が行なわれることになるが、両者の違いはどこにあるのだろう。
3月末、教育部が基本学力測定の基本的な形態と年に二度の試験日を発表した。それによると、社会科と自然科学の設問は生活における運用や時事的変化に重きを置き、国語・英語・数学については教科書の範囲を出ないということだ。特に数学に関しては、特殊なテクニックを要する難題や、複雑な計算問題は出さず、主に生徒の応用力や整合能力、思考力などを見るものとなっている。
教育部の委託を受けて試験の形態を研究してきた師範大学心理・教育測定センターの林世華主任は、基本学力測定と統一入試は、どちらが良いか比較できるものではなく、本来の目的が違うと説明する。「私たちが強調するのは『身についている』能力で、統一入試のように知識や記憶を強調するものではありません」と言う。
社会科の試験を例に取ると、次のような例題が挙げられている。「敏君は世界の名作を読みました。その物語にはアラビアの王様、ペルシャのお姫様、狡猾な海賊、バグダッドの壮麗な宮殿などが出てきます。この本は、次のうちのどの歴史的テーマに関わっているでしょう。(A)ギリシャとヘレニズム(B)イスラム世界の発展(C)インド文化の興隆(D)東ローマ帝国」というものだ。
基本学力測定は、その応用性で高く評価されているが、このような設問では簡単過ぎはしないかという疑問もある。全国に数十万人いる中学生の5パーセントが同じ点数を取れば、その後の配分に困難が生じるのである。
「統一入試の設問はテーマに制限があり、教科書通りではいけないし、以前に出題した問題も出せません。そのため問題はしだいに難しくなり、それが合否の唯一の根拠とされるため、教育という面から離れてしまったのです。私たちが目指しているのは、より広い教育という基本なのです」と、楊朝祥教育部長は、基本学力測定に関する記者会見で説明した。学校が基礎学力を合否の拠り所とするようになれば、改革の目的は達成され、その後の点数による振り分けについては、生徒を募集する高校側の問題だと言う。「統一入試が難しい問題に偏り、またその点数で学生を各高校に振り分けるという古いやり方は廃止するべきです。同点の生徒をどう振り分けるかは、各学校がそれぞれの判断で決めるべきです」と言う。
多くの学生が満点を取り、高低が付けられなくなるという問題を解決するために、台北市進学多様化小委員会は、国語・英語・数学・自然科学・社会科の5科目の「指定学科測定」を計画しており、来年台北市の高校を受験する生徒は、基本学力測定の他に、これを受けることになる可能性がある。これは、学生を募集する高校側が点数によって入学者を決める時の参考にするためのものだが、この計画はまだ教育部の認可を経ておらず、決定はしていない。
進学方法多様化の道筋は見えてきたが、実施するには技術的に複雑な問題があり、異なる意見も少なくない。
「在学中の成績で合否を決めるという方法に関する論議が最も多いようです。これによって進学競争が日常へと拡大し、学校と教師の役割も変ってくるからです。これまで、中学校には生徒を選出するという目的はありませんでしたから」と話すのは振鐸学会理事の丁志仁さんだ。今後、在学中の成績で合否が決まるようになると、教師は生徒に点数をつけなければならないだけでなく、推薦入試に進む生徒を選出しなければならず、プレーヤーが審判も兼ねることになり、公平さに問題が生じやすい。さらに、芸術科目や道徳科目に関しては、生徒が誠実かどうか、生活において実践しているかどうかなどは、もともと点数で評価できるものではない。「無闇に公平さを追求することによって、芸術や道徳などをゆがめることになります」と言う。
在学中の成績だけで合否を決める自願就学プランを例に挙げると、ある生徒は「協調性」の点数を上げるために、体育の授業の後グラウンドへ行って同級生の落とし物を拾い集め、指導室へ届けるという事例があった。指導室の先生は、落とし物には名札がついているので、そのまま持ち主に渡せばいいと、この生徒に言ったところ、この生徒は次は名札を取外して届けてきたという。
進学方法多様化の計画に携わったことのある中山女子高校の胡家祥先生も、学校での成績で合否を決めることに反対している。「潜在的な力のある生徒が、必ずしも3年間の成績がずっと良いとは限らないからです」と言う。胡先生の経験から見ても、中学低学年の時は興味を持つことから始めるべきで、成績にこだわりすぎると逆に生徒は興味を失いかねない。ましてや中学の段階では男女の知力や体力の発育に差があり、1〜2年生の頃は女子の方が成績が良いが、3年生になると男子が伸び始めるため、3年間の成績にはあまり意義はないと言う。
三民中学に通う子供を持つ親は、推薦入試に進む生徒を全校から選ぶか、クラス毎に選ぶかで親同士が言い争いになったこともあると言う。学校は「三等兵に一流校を受けさせるわけにはいかない」として、より多くの生徒が希望する学校に進めるよう、全校の成績上位者20名を推薦することを主張した。しかし親の中には、成績に関わらず平等にクラス分けしているのだから、クラスを単位として各クラスから1名ずつ推薦するべきだと主張する人もいた。「結局、どのような方法を採るにしても、必ず反対意見は出るものです」と言う。
さらに疑問を感じるのは、こうした進学方法多様化の立脚点が必ずしも公平ではないという点だ。
申請入学を見ると、人気のある有名校の条件は非常に厳しい。学業の成績は全校で上から10パーセント以内に入っていなければならず、また作文・音楽・演説・情報などの全国あるいは地域のコンクールに参加したことがなければならない。これでは家庭環境が良く、幼い頃から親が特に手をかけて育てた子供の方が有利になるのは明らかだ。「これでは親の社会的・経済的地位の高さを求めているのと同じで、生徒の力ではどうにもなりません」と中山女子高校の胡家祥先生は言う。
「高校入学制度の改革は、大学入試の方法を踏襲していますが、生徒の成熟度をまったく考慮していません」と胡先生は指摘する。胡先生は現在、高校3年生の大学進学を指導しているが、推薦入試の枠は非常に狭いため、3分の2の生徒が合格できない可能性がある。そこで胡先生は生徒たちに、推薦でも合格できない可能性が高いことを伝え、心の準備をしておくよう言い聞かせている。「しかし、それでも問題が起らないわけではありません。春休みが始まると推薦で不合格になった生徒たちは落ち込み、春休み開けの模擬試験の成績も悪化し、統一入試にも失敗する生徒もいます」と言う。こうした状況を理解して、生徒が心理的な壁を乗り越えられるよう指導できる教師がどれだけいるだろうか。「特に、優秀な生徒ほど自分がなぜ失敗したのか理解できず、ショックが大きいようです。中学3年生は高校3年生より3歳も年下なのですから、こうした場合の適応力はさらに弱いでしょう」と胡先生は言う。
「進学方法の多様化という考え方はいいのですが、実施するとなると技術的な課題が政策にも影響します。むしろ統一入試のままの方が、少なくとも陳水扁氏のように貧しい中で学んできた生徒にも機会が与えられるでしょう」と胡先生は言う。
誠正中学の呉慧美先生も、入試の多様化の弊害を指摘する。人気のある高校の出す条件は厳しくて入学が難しく、逆に職業高校は志願者をすべて受け入れても募集人数に達しない状態で、その中間にある学校に大部分の生徒の希望が集中するからだ。また推薦入試や申請入学を選んだ者は統一入試を受ける必要がない上に、学習期間も3ヶ月短縮される。一つのクラスの中に、先に進学先の決まった生徒が出ると、その生徒は授業を熱心に受けなくなり、それが他の生徒の学習にも影響すると言う。
「進学方法多様化の位置付けがはっきりせず、申請入学の人数枠は狭く、推薦入試も難しい状態です。成績の良い生徒は、どれにでも挑戦できますが、普通の成績の子供たちに与えられた機会は多いとは言えず、彼らにふさわしい道が見当たらないのです」と建成中学の教務主任を務める黄仁相先生は言う。
多様化はまだ模索の段階だが、多くの人はこれによって高校側が自由に入学者を選べるようになり、それによって中学教育に新しい風が吹き込むと考えている。
進学方法の多様化によって、将棋や凧作りが上手なことも合格の理由とされるようになった。4月に発表された申請入学合格者を見ると、フィギュア・スケートがトップクラスであることや、アート・デザインが優れていることなどで合格した生徒もいた。「学科の成績だけで合否が決められていた時代には、こうした生徒にはチャンスはありませんでした」と語るのは、景興中学の蘇明宗校長だ。
「卒業時に学校の成績表しか提出できないようでは、今の進学制度においては大きな機会はありません」と蘇明宗校長は言う。以前は、子供が生徒会などの活動をするのは時間の無駄だと考える親もいたが、今はクラブ活動や各種競技、生徒会などでの活動が、合否の重要な条件とされるようになったのである。
「以前は、学校は生徒に勉強さえ教えれば良いとされていましたが、今は一人一人の生徒の機会がどこにあるのかを考えてあげなければなりません」と蘇校長は言う。1学年700人余りの生徒の中には、3年間で1枚も賞状をもらえず、クラス委員なども務められない子供もいる。こうした生徒のために、何らかの機会を探してあげなければ、卒業前に大きな不安を抱えることとなる。そこで先生たちが考えたのは、学区内の区役所や保育所などと協力し、毎週一定の時間、生徒に公園や保育所の掃除などの仕事をさせることだ。「こうすれば、生徒たちは賞状ももらえますし、多くの人のために働いたという証明が得られるので、皆が満足できます」と蘇校長は言う。
蘇校長は、推薦入試制度によって生徒たちが自主的に学習するようになったと言う。例えば、コンピュータの授業でダウンロードの方法を教える際、以前なら出来ない生徒は劣等感を抱くだけだったが、今は出来る生徒が出来ない生徒を教えるようになった。他の生徒に教えて出来るようにさせれば点数が加わるため、今やコンピュータ教室では、出来ない生徒を教えようとする生徒で溢れているそうだ。
進学制度多様化は、まだ産みの苦しみの中にあるが、少なくとも「一つの試験で一生が決まる」「学力優先」というこれまでの考え方に、別の考え方を提供したと言えるだろう。だが同時に、生徒や親、そして学校に少なからぬ課題ももたらした。
「生徒をどう指導していくかが学校の最大の課題です。第一線の教員が、生徒の能力や志向にしたがって、生徒にどのように提案していくかは慎重に考える必要があります」と語るのは、建成中学教務主任の黄仁相先生だ。
中山女子高校の丁亜雯校長は「教育はすぐに変えられるものではありませんから、まず制度の調整から始める必要があります。これによって皆の考え方が少しずつ変っていくでしょう」と言う。いま必要なのは、教師の考え方や態度を変え、進学制度の多様化は今後も継続していくことを彼らに信じさせることなのである。
時は流れ、試験によって将来が決まるという時代も過去のものになりつつある。多様化の時代を迎えた今、いかにして自分を知り、自分に合った進学方法を選ぶかが成功のための第一歩と言えるだろう。