2004年は10年に一度の国連「国際家族年」に当り、家庭や家族に関わるテーマが再び注目されようとしている。「屋根にハート」の国際家族年のマークを見ると、家の右側には隙間があり、家庭の変化と開放を象徴しているように見える。
全世界10億余りの家庭は今まさに大きく変容しつつあり、我が国も例外ではない。工業化、都市化、教育の拡張にともない、台湾の家庭も驚くべき速さで変容している。多くの人が不安を抱きながらも止めることのできないこの変化に、どう対応していけばいいのだろう。
家とはどのようなものか。その答えは人によってさまざまだ。
家は、人生という旅の途中で風雨を避ける港のようなものだと言う人がいる。家は必要な財貨を得るためのATMのようだと言う人もいる。温かいが閉ざされた繭のようだと言う人もいれば、絡み合い、憎み合うマムシのようだと言う人もいる。

増え続ける「多民族家庭」は、台湾社会が見逃すことのできない家族形態になっている。
家のイメージ
ギリシア語では家は「経済単位」を意味し、中国語でも「家」は天蓋の下に猪と書いて、生計手段を持つ親族が共に暮らす場所を意味する。だが現在は、家族一人ひとりの生計を立てる手段は異なり、それも家族関係が薄れている原因の一つだ。
かつて理想の家庭といえば、初婚の男女が、永遠に離婚せずに家庭を築き、年長者に仕え、子供を産み育て、家を継いでいくという重大な任務を負っていた。しかし、このような家庭像には変化が生じ、すでに全く違うものとなっている。「初婚」「異性」「離婚しない」そして「家を継ぐ」といった要素は現代家庭の必要条件ではなくなっている。
2年前、千代文教基金会が若い世代を対象に行なった調査によると、7割の人が婚前の性行為に反対しておらず、6割近い人が結婚について「合えば一緒になり、合わなければ別れる」と答えた。また半数以上の人が、結婚しても必ずしも子を持つ必要はないと答えており、家庭の価値観が大きく変ったことがわかる。
夫の両親や兄弟と一緒に暮らし、全員が一緒に食事をするといった大家族から、父母と子供だけの核家族へと変り、さらには夫婦二人だけのDINKSまで、わずか40年の間に台湾の家庭は大きく様変わりした。
その原因について「家庭は社会の変化の影響を受けずにはいられません。工業化、グローバル化、フェミニズム、教育の普及、そして民主化や多様化がもたらす変化です」と話す台湾大学ソーシャルワーク学科の林万億教授は、これは歴史的事実であって倫理とは無関係だと言う。

変化し続ける時代、ロマンチックな憧れは変らないものの、結婚は一つの賭けだ。希望はあっても先は見えない。
親孝行は今も変らない
中央研究院社会学研究所が1985年から始めた台湾社会変遷調査において、家族形態の変化は重要な項目とされている。この調査研究に従事する研究員の伊慶春さんによると、この40年、台湾の家族形態と家族関係には確かに顕著な変化が見られるという。
家族形態から見ると、60年代までは台湾の全家庭の3分の1は大家族に属していた。これは直系・傍系の親族が同居する「拡大家族」である。80年代以降になると直系血族の三世代同居の割合が高まり、現在では夫婦と子供の二世代で構成される核家族が主流である。
「高齢の親と同居しているかどうか」が、我が国において家族形態を分析する鍵となる。伊慶春さんによると、西洋では「夫婦」中心の家庭が主流なのに比べると、伝統的な中国の家族制度は「父系」が中心となる。そのため、家の高齢者が誰と暮らしているかが、家族形態の変化を見る指標となる。
1998年に伊慶春さんが20歳から64歳の既婚者を対象に行なった「親孝行の方法と将来の孝養についての態度の関係」という調査によると、台湾では親と同居する割合は20年にわたって20%前後を維持しており、思ったほど急速な変化は見られない。同調査の結果、高齢の親の63.5%が子女と同居しており、約2割は配偶者と同居または一人暮らし、また高齢の親の6割は、生活費を子女から得ていると答えた。
意外に思われるのは、多くの子女が高齢の親と同居して伝統的な孝養を尽くしたいと考えていることだ。だが、43.9%の人は自分が年老いた時には、配偶者と二人で暮らすか一人暮らしを望むと答え、また44.4%が経済的な独立を望んでいる。
この調査結果から、自分の孝養の経験と子女の人数が、老後のイメージに影響していることがわかる。年老いた親と同居し、子供の人数が多い人は「子や孫が多ければ多いほど幸福だ」という伝統的な考えを持っており、自分も将来は既婚の子供と同居して、その世話になりたいと考えている。

平均寿命の延びによって、祖父母と孫がともに過ごす期間が増えた。これは祖父母と孫の双方にとって良いことと言える。
子を産み育てて老いに備える
高齢者の同居状況を見ると、三世代同居は減ってはいないようだ。
長庚大学医務管理学科で教鞭を執る人口学者の陳寛政さんによると、台湾の家族形態はまだ完全に核家族化はしていない。核家族は現代の普遍的な価値ではなく、台湾や日本、イタリアなど家族の感情を重視する国では今も三世代同居が少なくないという。陳寛政さんは、数値では見えない実情を説明する。三世代家族と核家族の割合の変化は、子の人数の変化を示すに過ぎず、孝道の変化とは無関係なのである。
例えば、乳幼児の死亡率が高かった日本時代、人々はなるべく多くの子を産もうとした。息子を4人産んで、そのうち2人しか成人しない場合、親が長男と同居すれば、次男は独立して世帯を持つこととなり、三世代家族と核家族が一つずつできる。台湾の衛生状況が改善され、医薬が発達して死亡率が下がると、4人の息子全員が無事成人するようになった。この場合、親が1人の息子と同居すれば、三世代家族と核家族の割合は1対3になる。ここ20年は出生率が下がり、2人しか子供を産まない夫婦が増えたため、三世代家族と核家族の割合は、日本時代と同じ割合に戻ったのである。
だが、若い世代の教育レベルの向上や経済成長、高齢者福祉の拡張といった現状が、これに変化をもたらすかどうかはまだわからない。伊慶春さんの先の研究では、中年層の半数近くが老後に子供と同居することを考えていない。三世代同居や「子を産み育てて老いに備える」という考えは変化しつつあるようだ。
家族形態の変化は、国の人口構造の変化を反映し、台湾の一世帯当りの人数は減少しつつある。1966年には平均5.6人だったのが、2000年には3.4人になり、4人以下の世帯が増えた。2人世帯は10年間で60万世帯から100万世帯まで増え、単身世帯は2000年には140万世帯に達し、100%以上の成長率を見せている。

世の中の変化にともない、近年は核家族が家族形態の主流になっている。
家庭規模の縮小
家庭規模の縮小は、晩婚、非婚、少子化などと関わっている。
政府主計処の統計を見ても、我が国の晩婚化の傾向は明らかだ。20年前に比べ、男性の初婚年齢は2.5歳延びて平均31歳、女性のそれは2.6歳延びて27歳となった。
晩婚によって女性が子供を産む期間は短くなる。ここ20年、台湾の女性の出産年齢は25.6歳から28歳へと高まり、これに伴って出生率も低下してきた。
結婚しても子供を産まない「2人家族」も大幅に増えた。主計処の調査によると、現代の多くの人が子を産もうとしない理由の第一は経済的負担が増えるから、第二は自由が制限されるから、第三は子育てが面倒だから、ということだ。若い世代は自分が親になることを恐れ、あるいは興味を持てずにいる。
独身者の増加も出生率低下の大きな要因の一つだ。
2002年末の内政部の統計によると、我が国の15歳以上の56%が既婚、34%が未婚、死別と離婚がそれぞれ5.5%と4.8%だった。言い換えれば半数近い人が独身の状態なのである。10年前に比べ、15歳以上の独身者人口は100万人増え、女性が36%、男性が19%増加している。20〜44歳の出産年齢の女性を見ると、10人のうち4.2人が独身だ。
主計処が2002年に行なった調査によると、未婚者が未婚のままでいる理由のトップは「経済問題」で、かつての「理想の相手が見つからないから」という理由を抜いた。失業率が高い現在、シングルを貫く若者がますます増えると思われる。また親と同居して親の経済力に頼る「パラサイト・シングル」も、独立して家庭を持つというリスクをなかなか負おうとはしない。

家々の灯りの向うにそれぞれ家族の物語がある。どのような家族にも幸せになる道があるはずだ。
親戚の消失
家族同士の関係も変りつつある。
伊慶春さんによると、家族の親密な関係は忍耐強く日常生活を共にすることで築かれ、その最大の「ライバル」は仕事と学校だという。
主計処が2002年に行なった「台湾地区社会発展趨勢調査」によると、男性が家にいる時間は、睡眠時間を差し引くと平均6時間半、女性も8時間半に満たない。
一生懸命に学び働くのは、円満な家庭を築くためでもあるのだが、そのために家族関係を培う余裕を失ってしまう。特に最近増えている共働きや単身赴任は親子関係に大きな影響をおよぼす。
親子関係は「量より質」だと言って、一日30分だけ親子の充実した時間を持てば、一日中一緒にいるより良いと言う人がいる。しかし伊慶春さんはこうした考えに懐疑的だ。親子関係は一定量の上でなければ質は論じられず、子供にとって親が近くで守ってくれるという安心感が非常に重要なのだと言う。
兄弟姉妹の減少や、一人っ子の増加も家庭の人間関係を変えている。最も顕著なのは、おじさん、おばさんといった親戚が減ったことだ。
もう一つ、家族関係を変える要因は平均寿命の延びである。親戚や家族の人数が減る一方、一緒に過ごす期間は延びつつある。
伊慶春さんによると、西洋では祖父母と核家族は一つの層を隔てた「親族」関係ととらえている。しかし台湾では祖父母は家族そのものだ。そのため健康や経済状況が許す限り、祖父母は子や孫の世話をし、金銭的にもサポートする。一人っ子政策が続く中国大陸では、両親と母方・父方それぞれの祖父母の合計6人が1人の子供を奪い合うといった現象が生じている。
東海大学ソーシャルワーク学科の彭懐真副教授は、高齢化によって将来は「高齢者二世代」の家庭が増えると指摘する。日本ではすでに、退職した60代が、80〜90代の親を世話するという状況が生じている。

単身世帯は「家」とは言えないのか。気の合う友人は、血はつながらなくとも人生をともに歩む「心の家族」になりえるはずた。
浮き草のような夫婦関係
家族の礎である夫婦の関係にも危機が生じている。
イギリスのクイーン・メアリー大学が最近発表した研究によると、男性は婚姻に拘束されるより「パートナーとの同居」の方がいいと感じており、女性は「どんな関係もない」のが一番だと感じている。結婚はすでに人生の「必然」ではなく「選択肢」の一つに過ぎなない。
結婚が誤った選択の可能性もあるとすれば、離婚はそのあやまちを修正する機会となる。このような考えから、我が国でも離婚率が急速に上昇している。
台湾の粗離婚率(全人口を母数とする)は82年には千人当り0.9件だったが、この20年で千人当り2.7に上昇した。既婚者を母数とすると千人当り6.1で、アメリカとオーストラリアと韓国に次いで高い。昨年1〜11月の間に、台湾では6万組近くが離婚しており、結婚3年未満が25%を占める。わずか15年の間に離婚は年間平均1万件から6倍に増え、その激増の度合いはアジアでは韓国に次いで高い。
離婚に対する見方も変ってきた。20年前までは一般に離婚は不名誉な、家の恥とされ、特に離婚を経験した女性は「失敗者」「悪女」という汚名を着せられたものである。だが現在のフェミニストは、離婚や別居は女性が父権制度から抜け出す勇気ある行為ととらえ、新しい人生に踏み出す契機としている。

高齢者の増加と出生率の低下が著しい。この人口バランスの変化は、家族形態変容の結果でもあり、家庭を押しつぶす最後の鍵となる可能性もある。
離婚は容易だが再婚は難しい?
離婚率の上昇とともに男性の再婚率も上昇している。82年には千人当り36件だったのが、昨年は千人当り51まで増えた。しかし、逆に女性の再婚率は千人当り17.7から16.6へと低下し、男性の3分の1に満たない。
女性は再婚を望まないのか、それとも再婚が困難なのか。家庭における育児や介護などが女性の務めとされていることに、その答えの一部が見出せるかも知れない。
台湾では、離婚が単親家庭形成の主な要因である。主計処の調査によると、父親または母親と未婚の子女からなる単親家庭は全体の6.3%、母子家庭が父子家庭の3倍となっている。中でも45〜55歳の占める割合が最も高い。
海外の研究によると、単親家庭が直面する最大の問題は経済上の困難である。主計処の調査では、台湾の単身家庭の家長が就職していない割合は45%に達し、そのうち女性が78%を占める。婚姻を失い、職を持たない親が、どのように生計を立てて子供を育てているのか、関心を寄せる必要があるだろう。
台湾では男性に「3高」つまり背丈、学歴、収入の高さを求める傾向があり、社会的・経済的に弱い立場にある男性は国内で結婚相手を見つけることが難しい。そこで東南アジアや中国大陸の女性と結婚する人が増え、国際結婚家庭が急増している。2002年末の時点で、合法的に台湾に居留している外国人配偶者は7万4000人を超えている。
林万億教授は、増え続ける「脆い多民族家庭」を政府は重視し、協力していく必要があると考える。そうしなければ、子女に学習上の障害が生じる確率は高く、二世代にわたって弱者になる心配があるからだ。
高齢の親を扶養し、子を育てる経済単位としての家庭だが、弱者家庭の増加と貧富の格差の拡大を学者たちは心配している。
2002年、台湾の低所得世帯は全体の1.08%で、10年前の0.82%より増えている。貧困は、もともと脆弱な家族関係を悪化させることが多い。近年しばしば伝えられる家庭の悲劇――失業、離婚、(子を連れての)自殺などについて、政府は数々の救済措置を出し、何とか悪化を食い止めようとしている。

多くの共働き夫婦は子育てを外国人メイドに任せている。外国人による子育てには、言語と文化の面で違いがある。
家庭の多様化
安定した伝統的家族形態は減り、新しい形態の家族が次々と出現しているが、それらの構造は脆く、不安定だ。台湾の家庭は、西洋諸国のそれより複雑である。彭懐真副教授によると、台湾では離婚しても一緒に暮らして家族を演じ続ける人もいるし、離婚せずとも、他人のように暮らしている夫婦もいるという。
単親家庭、子連れ再婚家族、別居家族、単身赴任家庭などが急激に増え、親が家にいないために祖父母が孫を育てる家庭も増えつつある。さらに、外国人メイドや、おじ・おばといった親以外の人が子育てをするケースも少なくない。

台湾の家族形態注:調査方法の相違により、今回のサンプルでは単身世帯が2年前の21.6%から9.21%へと大幅に下がっている。資料:行政院主計処「社会発展趨勢調査」2002年8月
少年問題は家庭のせいではない
家庭の変化に多くの人が不安を抱いている。教育界では、青少年問題の根は家庭にあるとする声がある。また、親の離婚が青少年の偏った行動や中退、薬物乱用、早い性経験、妊娠、憂鬱などの問題を引き起こすと指摘する報告も少なくない。
だが幸いなことに、中央研究院の呉斉殷副研究員が2000年に行なった「家庭形態・家庭教育と青少年の行動問題」という研究は、「崩壊した家庭が問題少年を生む」という一般の見方を否定した。
この研究は、台北市の86の中学校の生徒を対象として行なわれた。そのうち5.8%が単親家庭に属しているが、多くの偏った行動について調査したところ、未離婚家庭と単親家庭の子供の行動に、統計上の顕著な差異はなかったのである。親の離婚は、青少年の憂鬱傾向にも影響していなかった。
呉斉殷さんは、親の離婚による家庭崩壊は青少年の偏った行動の主因ではなく、問題は親の教育やしつけにあると考えている。
呉斉殷さんのもう一つの研究によると、長年仲の悪い両親の下で育った子供の問題行動リスクは、離婚した家庭の子供のリスクよりずっと高いという。この研究結果は、離婚した人々に着せられがちな汚名をそそぐものと言えるだろう。

幸福になろう!
トルストイは「幸福な家庭はみな似ているが、不幸な家庭はさまざまに不幸である」と言ったが、今日、この言葉には修正が必要だろう。
ここ40年ほど、台湾の家庭は、小型化、多様化、機能縮小化、脆弱化に向って変容してきたと林万億教授は指摘する。より良い代替モデルが出てくるまで、過去の家族形態を否定することはできないが、家庭の定義が一つでなくなったのは事実であり、さまざまな形態の家庭を尊重しなければ、一人一人を守ることはできなくなっている。
米国の『Family-by-Choice』という本はこう述べている。――伝統的な家庭の崩壊を悲しむ必要はない。そこから新しい可能性が生まれるからだ。我々は自分にふさわしい家族形態を選び、新しい道を見出すことができる、と。その通りだ。人生において「家」を失う可能性は誰にもある。だが少し見方を変えれば、血のつながらない友人も「心の家族」となり、別の形の家庭が持てるかもしれないのである。
「流動率、離婚率、家庭崩壊率の高い現在の台湾では、どのような家族形態でも、真剣に営めば幸福を得られると考えなければなりません」と東海大学の彭懐真副教授は言う。
どのような家庭も、みな幸福にならなければならない。