青年輔導委員会の鄭麗君・前主任委員は、講演でこう述べた。青年は国にとって最も重要な資産のはずだが、いつからか、世の中は今の若者を「問題」と見るようになり、青年政策も「問題処理指向の政策になってしまった」と。
多くの人が同様の思いを抱いている。若年失業率は高止まりし、初婚年齢と初出産年齢は年々高くなり、出生率はどんどん下がる。内政部の最新の統計では、2007年の我が国の出生率は過去最低の1.1で、世界で最も低いのである。
結婚せず、子供を産まず、積極的に就職しようとせず、家庭や社会における責任を担おうとしない。これが現代の若者に共通のイメージだ。だが、それは彼らの価値観による自由な選択なのか、それとも経済的要因によるやむをえない選択なのか。政府は彼らをどう支援するべきなのだろうか。これらのテーマは一見平凡なようだが、国の将来に関わる重要な課題なのである。
「すべての人は一つの世界に属している。…好むと好まざるとに関わらず、我々が成長過程で体験する文化は我々が生まれた時にすでに決まっている。…若い時に自分を形成した社会は自分に一生ついてくる」
カリフォルニア大学サンディエゴ校心理学科のTwenge教授は著書『ジェネレーション・ミー』の序文である。同書で教授は60年にわたって蓄積してきた130万人分のアンケートをもとに、現代の若者と過去の世代の相違を分析する。

若者の価値観は多様だ。9時から6時の公務員生活を望む人もいれば、不安定だが自由なSOHOやフリーのクリエイティブワークを選ぶ人もいる。写真は台北市西門町のハンドメイド商品マーケット。
二世代の異なる境遇
それによると、70〜90年代に生まれた15〜35歳のアメリカの青年は、経済的に何の不足もない時代に育ち、上の世代が社会や家庭における義務や責任を自分の権利より重んじていた時代を知らない。若者は個人主義を主張し、一般に高い教育を受け、将来に大きな期待を寄せているが、現実には大学の学費の負担は重く、就職は難しく、共働きでも住宅購入が難しいという課題に直面している。
幼少期と青年期、期待と現実、それらのギャップによる「生まれた時期が悪かった」という焦燥感は、アメリカだけでなくヨーロッパや日本、韓国、台湾などでも同じだ。
台湾で、現在20〜35歳の若者を見ると、その親の大部分は48年〜62年に生まれたベビーブーマーである。ベビーブーム世代は貧しい時代に生まれたが、全てが成長するという希望に満ちた「大建設時代」に成長した。70年代には経済のテイクオフがあり、多くの人が30歳で安定した仕事を持ち、または管理職になっていた。当時は、35歳前後で経済的に独立し結婚して子供を持つ、というのは共通の希望だっただけでなく、十分に実現できるものでもあった。それはごく自然な流れで、迷いも疑問も不要だった。
現在の社会の柱となっているベビーブーマーは、最初は苦しくても後から楽になるという人生を送ってきた。しかし彼らの子供となると、まったく逆である。今の若者は幼い頃はベビーブーマーの親に大切に守られて育ち、教育改革によって、誰でも大学や大学院に進めるようになった。しかし、学校を出た瞬間、厳しい現実と向き合うこととなる。

「愛する人に一生を誓う」というのは、今の若者にとっては耐え難い重荷のようだ。ここ数年、我が国の初婚年齢は上昇傾向にあり、出生率は世界最低の1.1まで落ち込んでいる。
卒業と同時に試練が始まる
台湾大学社会学科の李明璁;准教授はこう説明する。80年代生まれの若者の場合、小学校に上る前にすでに戒厳令が解除されていた。したがって戒厳令下の夜間外出禁止や新聞発行禁止などは全く知らず、デモに参加する機会もなかった。彼らが有権者となった時には最初の政権交代があり、台湾の民主主義はさらに前進した。言い換えれば、彼らの成長過程は、経済が安定し、政治的には最も開放的で進歩した時代だったのである。そのため彼らは考え方やライフスタイルにおいて、自由で多様で、形式にこだわらない。
しかしこの十年、つまり彼らが社会人になり始めた十年、台湾経済は下降線をたどってきた。製造業は次々と海外移転し、国内産業の転換は思うように進まず、その結果、雇用機会は大幅に減少した。海峡対岸との政治的対立は続き、外資も台湾経済に対する信頼を失った。
「この時代の若者は、開放された社会の生み出す繁栄を享受する前に、構造的な景気停滞がもたらす困難に直面したのです」と李明璁;准教授は話す。
彼らは卒業と同時に、若年失業率10%以上という現実に直面する。大卒でも平均初任給は2万6000元で、全国労働者の平均給与の6割に過ぎない。さらに最近は、石油や原材料価格が高騰してインフレが進み、この収入では基本的な支出にも足りない。住宅価格も上昇し、台北で家を買う資金は、10〜20年、飲まず食わずで過ごさなければ貯まらない。

子供を産み育てるのは人間の本能だ。若者が子供を産まなくなれば、将来の国と社会の発展に大きな衝撃をもたらす。
グローバル化の衝撃
政府青年輔導委員会の鄭麗君・前主任委員によると、台湾の民主化過程に参画した60年代生まれは「学生運動世代」「民主化世代」と呼ばれるが、80年代生まれの若者は「グローバル化世代」と呼べる。グローバル化によって世界中の若者が厳しい就職競争にさらされている。
資本や技術が世界を移動するようになり、就職競争もグローバルになった。就職するためには、国内のライバルだけでなく、中国や東南アジアやインドの若者とも競争しなければならない。さらに「給与は低い方に足並みをそろえる」。企業がベトナムで低賃金の人材を見つければ、同様の能力の人材をその何倍もの待遇で採用しようとは思わないであろう。
そのため、この世代の先進国の若者は、国内産業の転換の歩みについていかなければならない。優秀な人材は待遇が良くて前途のある仕事に就けるかも知れないが、学歴や能力がやや劣る人は、まず待遇の低い仕事や派遣・アルバイトなどで働きながらチャンスを待つか、方向を転換する必要がある。
グローバル化は世代間の不平等ももたらした。欧米や日本の場合、高度成長を経験したベビーブーマーとその親の世代は、退職後も少なからぬ年金が得られ、また医療の進歩で寿命も延びている。しかし、こうした高齢者のための財政負担は、人口が少なく所得も低い若者が支えることとなる。
結婚せず、子供も産まない
こうした世代間に生じる相対的剥奪感は、年金や高齢者福祉があまり充実していない台湾では顕著ではないが、労働者保険や健康保険の破綻という不安が重くのしかかり、社会に出たばかりの若者にとって、将来の不透明感は一層強まっている。
就職難の他に、「結婚せず、子供も産まない」若者が増えているのも事実だ。
内政部の資料によると、2007年の我が国の平均初婚年齢は男性が31.0歳、女性は28.1歳で、実際の結婚組数は13万1000組余り、1997年の16万8000組に比べて22%も少なくなっている。
出生率の低下と出産年齢の上昇にも驚かされる。統計を見ると、我が国の女性の初出産平均年齢は97年の26.3歳から2007年には28.5歳に上昇、30歳以上の初出産の割合は97年の26.2%から42.6%に上昇した。出生率を見ると97年の1.77から今は1.1まで下り、日本の1.32を下回って世界一低い数字となった。
また、多くの若者が成人しても親との同居を続け、いわゆる「パラサイトシングル」となる。自分で家を買って独立する年齢も上昇している。
内政部営建署の統計では、今年第1四半期、全国の住宅購入平均年齢は37.7歳、台北市は39.2歳で、行政院が計画中の「青年安心住宅購入ローン」の申請上限である39歳をすでに超えている。
イチゴか、ドリアンか?
「結婚せず、子供を産まず、家を買わない」というのは経済的に仕方のない選択かも知れない。しかし、若者の個人主義と権利重視から来る行為は、上の世代から見ると、情けなく感じるものでもある。
現在の若者は「イチゴ族」と呼ばれている。見た目は良く、学歴も申し分ないが、挫折やプレッシャーに弱く、イチゴのように簡単につぶれてしまうからだ。求人・求職サイトの1111ジョブ・バンクの今年5月の調査によると、大学以上の卒業生の42%が求めるのは、総務や秘書や電話受付などの楽な仕事だ。給与も職位も低く、成功の機会も少ないが、定時に退社でき、自分の時間が持てればいいと考えているのである。
1111ジョブ・バンク最高執行責任者の呉睿;穎;さんは、この世代を「ドリアン族」と形容する。ドリアンは栄養価が非常に高いが、棘のある硬い殻に覆われ、異臭を放つ。今の若者は高い教育を受け、専門能力もあるのだが「職場では常に怒ったような顔をして、自分の殻にこもり、自分のことしか考えていない」からだと言う。
時代遅れの考え
こうした社会や企業からのマイナス評価に対して、同じ30代の台湾大学社会学科李明璁;准教授は、その原因を個人に帰するのはフェアではないと言う。
李明璁;准教授は、台湾では最近「消費美学」が強調されるようになったと指摘する。成功や肩書で人を評価するのではなく、どんな服を着てどんな車に乗り、どんな携帯電話やパソコンを使い、どこで食事をして誰と付き合い、年に何回海外旅行をするかなど、ライフスタイルや遊び方で人の価値を評価するようになったという。
「こうした雰囲気の中、若者は自由でセンスの良い生活をしたいと思うようになり、収入は気にしなくなったのです」と李准教授は分析する。彼らは仕事のために自分の時間と空間を犠牲しようと思わない。そして「ごく一握りの人しか成功しないなら、自分が努力しても仕方ない」と思うのである。
李准教授は「若者には夢を見る権利があり、彼らの想像を制限すべきではない」と強調する。世間は「三十にして立つ」、30歳で家と仕事を持って自立することを求めるが、これは性別や階級などの伝統的な観念を背景とした「時代遅れの考え方」で、打破しなければならないと李准教授は指摘する。
板ばさみの青年政策
親や社会や産官学各界、それに若者自身、それぞれ将来に対する見方や期待は異なり、青年に関する課題の難しさと複雑さを示している。良かれと思って立てた政策も、多面性や社会面の考慮が欠けていれば、大きな論争を引き起こす。
2006年にフランス政府が打ち出した「初期雇用契約」もそうした事例だ。これは、企業が26歳以下の青年を雇用する際、試用期間を2年とし、この期間中は理由を明示せずに解雇できるとするものだ。
これは、25%に達する若年失業率を下げるため、企業による若年者採用を促そうという意図で立法化された制度だが、学生や労組の強い反発を招き、数百万人のデモに発展した。このデモに反対するデモも行なわれ、フランスでは1968年以来最大の社会運動となった。
台湾でも「無給の育児休暇」に6ヶ月の補助金を支給するという政策が2009年に実施される予定だったが、大きな論争を巻き起こした。本来の狙いは補助金を出すことで働く女性の出産・育児を促すというものだったが、産業界から強い反対の声があがった。女性団体も、雇用環境が厳しい中で充分な周辺措置がなければ「たとえ法律があっても誰も育児休暇など申請できない」と批判した。
選択を尊重し、支援する
青年は国の最も重要な資産である。国家や民族の存続という角度から見ると、若者が家庭も仕事も持たず、子供も産もうとしなくなればば、世代間にミッシング・リンクが生じてしまい、それは将来の社会に重大な影響をおよぼす。
仕事や家庭に縛られたくないと考える若い人々に対して、社会は個人の選択を尊重すると同時に「30年後の自分がどうなっていたいのかをよく考えて、それから選択した方がよい」と注意を促すべきだろう。一方、家庭を持ち、懸命に働くという困難な道を選んだ若者に対しては、国が充分な支援を提供し、その夢がかなえられるようにしなければならない。
青年の夢だけでなく、一人ひとりの夢とその実践方法はそれぞれ異なるが、しっかりと青写真を描き、着実に歩んでいってこそ、振り返った時に後悔せずに済むのだろう。
| 年 | 初婚年齢 | 女性の初出産年齢 | 出生率 | |
| 男 | 女 | |||
| 1977 | 27.4 | 23.6 | 23.1 | 2.70 |
| 1987 | 28.8 | 25.4 | 24.8 | 1.70 |
| 1997 | 30.4 | 28.1 | 26.3 | 1.77 |
| 2007 | 31.0 | 28.1 | 28.5 | 1.10 |
資料:内政部統計処