グローバル化の波が押し寄せる中、アジアではアメリカ英語の風が吹き荒れ、韓国でも日本でも小学校1年生から英語教育を始めている。中国大陸ではWTO加盟とオリンピック誘致が決まってから英語の嵐が吹き荒れ、大人も子供もABCを懸命に学んでいる。報道によると、上海では英語の巻き舌音をきれいに発音できるように、舌の手術までする人がいるそうだ。
台湾も負けてはいられない。英語教育を小学校から開始すると同時に、外国人英語教師を招いて台湾の子供たちに正しい英語を教えようという計画が立てられた。ところが、年初に教育部(教育省)が外国人英語教師1000人の導入計画を発表するや、学校に爆弾を投下したような大騒動が巻き起こった。各界から様々な反応が返ってくる中で、4月の下旬に黄栄村教育部長(教育相)は、外国人教師の導入を認める就業服務法改正案が予定通りに国会で可決されなければ、教育部としては外国人英語教師の導入を一時凍結すると発表した。
外国人英語教師の導入が凍結される可能性が生じる中、小中学校の英語教育のレベル向上は急務だが、英語能力の向上という重責を単に外国人に任せていいものかどうかも問題である。問題の焦点は、わが国でも英語教師育成のために多くの方法が講じられているのに、なぜ十分な英語教師を育成できていないのかという点にある。
ここは台北市万芳小学校2年5組の英語クラスである。テディ・ベアの人形を幾つも両腕に抱えた盧先生は、教室に入りながら「How are you」などと簡単な英語で子供たちに話しかける。そして子供たち同士で会話の練習をさせながら、今日のレッスンの内容に入っていくのである。
盧先生は英語で「Teddy bears stand up」などと話しながら小熊を一列に並べていく。これを何回か繰り返してから、子供たちに、壇上に出て同じことをやりたい人はと誘いかける。何人もが手を上げ、何人かが壇上で同じことを演じ、そして最後にテープを聞かせて練習させる。今日の宿題は、家でぬいぐるみを二つ使って立てて整列させ、外に出て、さようならという文型を練習することである。これにテープを使った発音や歌が加わる。
教育部が外国人教師1000人の導入計画を発表したとき、台湾人教師の職を奪うのではと多くの人が心配した。しかし盧先生は、自分の英語教育のレベルは決して外国人教師に負けないと自信があった。発音はきれいだし、子供たちを楽しませながら指導できるし、児童の学習の現状も心得ている。こう見てくると「外国人の先生の方がうまく教えられるとは限りません。教職経験のない外国人は台湾の子供をどう指導すべきか分らないし、英語の何を難しいと感じているのかも理解できないでしょう」と、盧先生が話すのもよく分かる。

外国人教師の長所は発音が正しくはっきりしている点、そして身振り手振りを交えた活発な授業で子供たちに口を開かせる点にある。(林格立撮影)
人材流出
盧先生はもともと小学校の先生で、1999年に教育部が実施した英語教師選抜試験の第1期生である。しかし盧先生のように現役教師が英語教師の資格に挑戦するという例は少なく、その時もわずかに140人ほどであった。
当時、教育部は九年一貫カリキュラムの実施と、2001年に予定された小学校5年からの英語教育実施という政策に合せて、積極的に小学校の英語教師を募集し、合計3500人を採用した。ところが2年後に、この小学校英語教師の戦力の半分近く、1500人余りが流出してしまったのである。選抜試験には5万人近くが応募し、その中から選ばれた人たちなのに、なぜやめてしまったのであろうか。
教師育成法の規定によると、教育部の試験に合格しても、その後360時間に及ぶ英語教育の訓練を受け、さらに教育学部あるいは大学の教育学のコースを受講し、40単位を取得しなければならない。それから小学校で1年間教育実習をして、やっと教育部の小学校英語教師の資格を取得できる。
当初の教師育成スケジュールに合せて考えて見ると、試験の合格者は1999年の夏休み前までに英語教育の訓練を終了させ、9月からは教育関係の学部の開設する教育学の単位を履修し、1年で40単位を取得してから、さらに小学校で1年教育実習をしなければならなかった。その間、スケジュール通りにこなしていかなければ、2001年9月の新年度開始までに、教師免許を取得できないのである。
ところが2年という長期にわたる訓練課程を終えても、教育部は教職を保証してくれるわけではなく、先生の卵たちは自分で学校毎に教師の募集試験を受けなければならない。しかも、学校毎に定められた採用基準はまちまちで、多くの先生の卵は不公平な競争という不満を抱かざるを得なかった。
その中でも問題となったのは、多くの小学校で英語教師を対外的に募集せず、英語教育担当を希望する校内の現職教師に割り当てたという点である。しかも、現職教師であれば県や市の実施する70時間程度の講習で資格を得られる。さらに、一部の地方では教育部の指示を無視し、英語の能力を教師選考の基準としなかった。たとえば、嘉義県の小学校英語教師の選考基準は、100点満点のうち国語と教育学の評価が70点を占め、雲林県ではそれが85点に上っていた。
教育部は各県市に、教育部が行なった試験の合格者を優先的に採用するように指導したが、効果は上がらなかった。このようにポストが保証されない中で、2年間の投資が報われるか疑問に思う人たちが中途で教師への道をあきらめていき、最終的には1900人余りが訓練期間を修了したに留まり、さらに小学校に教職を得たのは1400人余りと見られている。

書店にあふれる英語教材。いずれも絵本の形で子供たちの注意を引こうとしている。
何でもござれの小学校教師
教育部が英語専門の教師を育成しようとしたのに対し、地方でそれを採用しようという意欲が高まらなかった理由の一つとして、それが現在の小学校の制度に合わないからだという意見がある。
彰化師範大学教育研究所の黄徳祥教授は、台湾の小学校ではすべて学級担任制を採用していると説明する。小学校の先生は国語、算数、理科、社会を教え、ピアノを弾き、お話を語り、習字まで教えなければならない。基本的に、小学校の先生は何でも出来なければならず、辺鄙な地域のクラス数が少ない学校ほど、予算の関係もあって教師の数は少なく、先生は何でもこなさなければならなくなる。教育部が計画した英語担任教師は、都市部の学校なら教科担任として招聘できるが、その他の町村では英語専門の教師を採用できないのである。教育部としては、いくつかの小学校が共同で一人の英語教師を採用できるとしたが、僻地になるほど学校は広い地域に散在し、共同で採用するのも難しい。たとえば、南投県信義郷の小学校が共同で一人の先生を採用しても、先生が一つ目の学校の授業を終えて二つ目の学校に着いた時にはすでに夕暮れになっている。
各県市の小学校における英語教育の問題を理解しようと、昨年の暮れに監察委員の呂渓木、林時機、尹士豪の3氏が「小学校英語教育の問題」という調査報告をまとめた。これによると、地方の僻遠の学校で有資格の英語教師を招聘できないというのが一番大きな問題であった。台北県を例に取ると、427人の現職英語教師のうち教育部の訓練を受けた者が255人、それ以外は現職教師が兼任しているもので、教師のレベルに大きな差が見られる。
ここ数年、台北市と台北県の小学校教師を対象に発音矯正課程を行なっている台湾大学外国語学科の胥嘉陵教授によると、現職教師の中には英語教育の経験もなければ関係学科の卒業でもないのに、60時間の講習を受けただけで英語を教えている人がいるという。まず大学などで講義を受け、それから英語の発音や教育能力の試験を受けるなど、県や市で統一した訓練制度を確立して欲しいと胥教授は話す。

校内には英語と国語を併記した表示があり、遊びながら学べるようにしている。
英語教師の地域格差
監察院の調査でも、台湾では全校の学級数が6クラス以下の小学校が約800と、全体の3分の1を占めるため、多くの教科を教えられる先生の方が現場の必要を満たせるという。しかし、英語教師はクラス担任ではなく教科担任と位置付けられるために、ほかの先生と協力したり、英語以外の学校事務を担当したりというのが難しく、学校に馴染みにくいのだそうである。
現実問題として、小学校の英語教師は不足している上に、地域が偏りやすいという現象が見られる。
去年9月、台北市の小学校は299人の英語教師を必要とし、各学校がそれぞれ募集したのだが、市の中心部の学校では一つのポストに数十人が集中した。
ところが目を地方の県や市に移すと、状況は一変する。1年前、南投県では159人の英語教師を募集したが、教育部が育成した教師の応募はわずかに15人、全員採用となったが最後に就任したのは6人である。花蓮県では60人の募集に対し24人が応募し、結局教壇に立ったのは12人に過ぎなかった。

教育部(教育省)は2年前から小学校の英語教師の育成を開始し、訓練を受けた人材がすでに教壇に立っている。
早期教育信仰
小学校の英語教師不足と地域格差の原因を探ると、ここ数年県や市が競い合って小学校英語教育の低年齢化を進めているのと関係してくる。教育部の九年間一貫課程では、小学校5年から英語教育を開始すると規定しているのに、25の県や市のうち半数以上が繰り上げて開始しているのである。中でも台北市、新竹市、台中県、彰化県、南投県、台南県、台東県それに連江県では、今年小学校1年から英語教育を開始している。
教師の数が不足しているのに、県や市では国際化に乗り遅れまいと、英語教育でもほかの県に先駆けた早期教育を行なおうとする。これに加えて僻遠地域ではそもそも英語の先生が見つからないのだから、教育部が外国人教師募集を計画したのも無理はない。これによって行政院の「チャレンジ2008」政策、国民的な外国語能力向上の国家的政策に合せることも出来るし、教師不足も解決できる。その構想はよかったのだが、計画が公表されるや反対の波が巻き起こった。
教育部英語教育推進委員会の委員で、国立台北師範学院児童英語教育研究所の張湘君所長によると、英語教師が最も不足している小学校はすべて僻遠の地域だが、外国人が交通も生活も不便で、英語の話せる人もほとんどいない地域に行っても、当初は生活の問題に追われて、専門的な教育の効果を発揮できないだろうと言う。
2月下旬、立法委員の林岱樺氏は外国人英語教師開放政策に関する座談会を開催した。席上、多くの人が疑問を呈したのは、外国人教師導入は長期的政策なのか、それとも短期的対応策なのかという点であった。また言語能力という面から、台湾人教師が外国人教師の助手や通訳になってしまうのではと心配する声も出た。さらに、師範大学3校、師範学院8校に加えて、各大学でも教育学の課程を設置し、教職課程が広く拡大している中、これらの卒業生の就職に排斥効果が働くのではという意見も出された。
特効薬ではない外国人教師
国立台北師範学院初等教育学科の黄雅文主任によると、同学科の卒業生の就職率は2年前には97%だったのに、去年は50%に低下し、来年はさらに30%になると予測される。政府の教育資源を無駄にしないためにも、現有の教師育成制度の中に20単位の英語の課程を組み込み、自前の人材を育成してはどうかと黄主任は提案する。
教育部の専門委員黄坤龍氏によると、教育部では2005年度には英語の教育課程を小学校3年生に拡大すると言う。現在、国内の17大学の英語関係学科で2000人の小学校英語教師の育成が可能なので、ちょうど2005年度の教師の需要を満たすことが出来ると考えられる。
各界からの反対が多かった外国人教師導入政策については、教育部では人数を1000人から400人に縮小する方向で検討し、少人数で試験的に実施することを原則とし、また第一線の教師ではなく、顧問や教師育成の役割を担うことに政策を転換している。
各界から様々な意見が出たものの緊急の解決策にはなかなかならないのが実情である。英語教育推進に積極的な県や市は、教育部の外国人教師導入に強い興味を示した。今年3月までに、すでに25の県市から外国人教師993人の募集が提出されている。教育部でもすでに外国人教師申請審査部を設置し、県や市の申請案件の審査を始めた。4月下旬、黄栄村教育部長は立法院で小中学校の英語教育問題について報告し、県や市に英語教育開始を小学1年、2年に繰り上げないようにと教育部では一再ならず要求してきたと述べた。これらの県や市が小学1年から英語教育を開始するなら、そこでは十分な教育資源が整っていることを意味するので、教育補助の要求が提出されても教育部としてはこれを取り上げない方針だとも報告したのである。
英語の教材、学習環境などの周辺措置が整っていない県市では、とりあえず状況把握に努め、慌てて外国人教師を申請する必要はないと、張所長も呼びかける。
英語コンプレックス
現実を見ると、資源の豊かな台北市ではすでにいくつもの学校が外国人教師を導入している。PTAが経費を負担したり、英語専門学校などと協力して行なっているのである。台北市師範学院英語教育学科の王鳳敏助教授が、外国人教師を導入している小学校を調査した結果によると、外国人教師と台湾人教師それぞれに長短があると言う。外国人教師の短所というと、一般的に授業の前になってやっと教材を準備してすぐ教壇に立ち、授業が終われば帰ってしまって子供との接触が少なく、教育としての質は高くないという点である。いい点はというと、現在のところはっきりとは見られないが、それでも子供たちが自分の話した英語を外国人が分ってくれると思った時、大きな自信につながるだろうと言う。
外国人英語教師は導入してまだ日が浅いので、その長短や利害を全面的に評価するのは難しいが、これによって引き起こされた英語教育に対する様々な意見を見てくると、現在の英語教育が直面する問題は教師の不足にあるのではなく、むしろ英語教育の急激な低年齢化から派生するその他の課題にあると、多くの専門家は見ている。中でも、地域によって足並みが揃わず、都市部と農村部との格差が広がり、児童の学習レベルに大きな落差が生じることが心配される。
去年11月、監察院の英語教育諮問会議の席上で、師範大学英語学科の張武昌主任は以下のような意見を提出した。英語教育を小学1年から開始する理由として、これによりすべての子供に英語を学ぶ公平な機会を与えられると台北市は考えている。学校で教えれば、家庭環境の関係で塾に通えない子供も、ほかの子供と同じレベルの教育を受けられるというものである。しかし、この考え方は親の予期心理を考慮に入れていない。かつて、英語教育が中学校からであった時代、親は小学校5年になると英語塾に子供を通わせた。それが小学校1年から学校で教えるとなれば、多くの家庭では幼稚園から塾に行かせるようになるだけで、経済的に余裕のない家庭の子供にとっては、同じ不公平が繰り返されるだけであるというのである。
「台北市は指標的な意味を持っています」と張湘君所長は言う。台北市で英語教育が全面的に小学校1年に繰り上げられたことが、すでに台湾中南部の地域でパニックを巻き起こし、ほとんどすべての地域が後を追おうとしている。地方の親たちほど、台北のやり方を気にする傾向にあるからである。たとえばと、張所長は言葉を続ける。台北市が公表した小学校の英語カリキュラムは、学界を驚かせた。その中には小学校卒業までに英語の児童書100冊の読書が組み込まれている。国語課程でもこのような規定はないのに、英語について、これほど大きな目標を立てている。しかも、多くの地域で台北の課程を真似てカリキュラムが作成されているという。
塾を経営したことがあり、現在は屏東県の小学校で実習している頼承誠先生によると、マスメディアが小学校の英語教育ブームを煽り立てるので、地方の親たちはますます慌てて子供を塾に送り出すと言う。
外国語教育政策の明確化を
さらに、台北市が英語教育において能力別クラスを認めたことも、多くの批判を浴びている。現在、台北市では小学校30校の中高学年の英語教育で、三段階の能力別学級が設けられている。能力別学級に反対する台北市師範学院英語教育学科の王鳳敏助教授は、今日の教育が次第に開放的で多様な方向に向い、子供の能力や興味も多様な方向に向っているというのに、すでにマイナスの結果が出てしまっているかつての進学指向タイプの能力別学級に戻るというのは、どう考えても好ましくないと話す。
「子供のレベルが一定しないというのは、教師にとって最大の困難となりますが、親の側でも事実を認めて欲しいのです。国民の義務教育というのは大多数の子供のためであって、少数のために作るものではありません」と張湘君所長は言う。レベルが低いと思う親は塾に行かせればいいのであり、学校の進度をあまりとやかく言わないほうがいい。多くの学校が、子供が十分教育を受けられないと考える親からの圧力にさらされていると張所長は見ており、さらに「英語のレベルの高い子供は大抵がお金をかけた結果に過ぎません。国民教育は学校の進度により行なうべきなのです」と話す。
県や市の英語教育の足並みが揃わないという状況に対して、監察院の調査報告は教育部を厳しく批判してこう述べている。「全国の教育行政の最高主管機関として、その職権に基づいて政策を明確化し、国民教育の段階における英語教育に対して全体的な企画を立てるべきであって、現在のように県や市に任せて放任するべきではない。教育基本法、国民教育法および地方制度法を盾に、小学校英語教育の推進を地方政府の権限としているが、これは結局英語教育の低年齢化競争を助長するだけで、英語教育政策と九年一貫教育課程推進に混乱を引き起こしている」と報告にある。
国民全体の英語能力のレベルに対する国外での評価では、子供たちを基準にすることはなく大人を評価対象にすると、専門家の多くは強調する。しかし、現在の英語教育は目標を小学校の児童に置いてしまい、一家揃って、全国挙げて、英語コンプレックスに振り回されているようである。私たちが考えなければならないのは、自分たちの言語政策の方向を明確化することではないだろうか。そうすれば、外国人教師が必要かどうかの答えは自然に出てくるはずである。