時代の変化に対応し、労働者の退職後の生活への不安を解消するために、労働者保険条例と労働基準法における労働者退職給付条例の改正と成立が進められてきた。
労働基準法は長年施行されてきたが、退職給付制度は大きな問題を抱えたままだった。統計によると、規定にしたがって退職給付引当金を拠出している企業は全体の1割に満たず、退職給付を受けている労働者は全体の4割余りに過ぎない。つまり台湾の労働者の半数以上が、法規定があるにも関わらず退職給付を受けられずにいるのである。
その原因はと言うと、労働基準法の規定では労働者は同一の事業機関に15年以上勤続し、なおかつ55歳に達しているか、あるいは勤続年数が25年に満たなければ退職給付を請求できないと定められている点にある。しかし統計によると、台湾では中小企業に勤務する労働者が全体の8割近く、その中小企業の平均存続年数は13年に満たない。言い換えれば、労働者が同一の企業に15年以上勤務するという条件を満たすこと自体が非常に困難なのである。さらに、中には社員への退職給付を回避するために不当にベテラン社員の早期退職を迫ったり、故意に会社を倒産させたりする事例もあり、労働者の権益が保障されているとは言いがたい。
これらの問題を解決するために、新制度は二つの特色を持つ。
一つは「ポータビリティのある個人口座制」である。これによって転職しても過去の勤務年数が中断せずに累積されるようになる。もう一つは「確定拠出制」だ。企業側は毎月給与額の6%以上を拠出して、退職するまで労働者の個人口座に積み立てることとなる。勤務年数が15年に達した労働者は、退職金の受給資格を持つ。退職金は「年金生命表」に従い、平均余命と収益利率などによって計算される。
今回立法院では、労働者の退職後の生活を保障する「労働者保険条例修正案」も初審を通過し、年内に成立する見通しだ。この条例改正による重大な変革は、一括給付から年金給付に変わる点にある。
労働保険局によると、2003年の労働者保険老年給付の1件当たり平均金額は87万7183台湾ドルだった。これを年金給付へ変更するのは、一括給付ではインフレによって価値が低下したり、投資や不当な管理による損失で失われてしまう可能性があり、保険や養老の機能を果たせないからである。年金給付型に変更すれば労働保険に20年加入した退職者で満60歳に達した者は、毎月平均保険対象給与の一定比率(勤務年数が1年増すごとに1%増加)の老年年金の給付を受けることができる。
労働委員会の試算によると、上述2項目の改正が実施されれば、満30年勤務した労働者は退職後、毎月、退職前の保険対象給与の30%の労働保険年金と給与の24.3%の退職年金を受けることがでる。両者を合わせれば以前の給与の54%になり、老後の本人や家族の生活の需要を満たすことができ、社会のセーフティ・ネットとしての機能を果たすことができる。
労働者の老後を保障しようという労働委員会の意図は良いのだが、各界からは異なる意見も出ている。台湾大学ソーシャルワーク学科の林万億教授は、新制度の採用する「確定拠出型制度」は退職時に受ける退職金の額を保障できず、預金期間が長すぎてインフレにより所得代替率が下がる可能性が高いと指摘する。それよりも「確定給付型制度」にして、政府が管理責任の一部を担い、退職時に一定割合の退職給付を受けられるようにすべきで、政府は責任を労働者個人や企業だけに負わせるべきではないという。
また新しい条例に対して、労働者側は保障が不十分だとし、企業側は負担が大きすぎるとしている。
全国工業総会と商業総会は新制度の制定に遺憾の意を表し、給与削減やリストラ、あるいは工場閉鎖などの方法で対応する可能性を排除しないとした。工業総会の侯貞雄理事長は、低金利の時代に6%の拠出率は企業にとっては「耐え難い重さ」だと述べた。
さらに難しいのは旧制度から新制度への移行だ。これまで労働基準法の定めでは、雇用主は毎月従業員の給与の2〜15%を退職引当金として拠出することになっていたが、実際に行なっていた企業は全体の1割に過ぎない。これを労働団体の主張通りに一度に支払うとなると、全国の企業は合わせて2兆6000億台湾ドルの予算を組まなければならず、このような負担に耐えられる企業がどれだけあるか疑わしい。
このため新制度では、企業側に5年以内に旧制度の退職引当金を拠出するよう求めている。しかし、既存の勤続年数を保存するために、新制度実施後、旧制度下で勤続年数があった労働者は他の企業へ移れないこととなる。
また、新制度の下でもやはり恩恵にあずかれない労働者が少なからずいる。中正大学労働研究所の衛民教授によると、労働者退職給付条例は一定の雇用主を持たない200万人の労働者には適用されない。また将来的に雇用主は労働者との雇用関係を変え、臨時雇用やパートタイムといった「非典型労働者」を雇うことで退職引当金拠出の義務を回避しようとすることが考えられる。これについて政府は何らかの措置を採る必要があるだろう。
各界からの数々の疑問に対し、労働委員会は次のように説明する。新制度は全ての人を満足させることはできないが、退職金に関わる労使争議の大部分を解決できる。雇用側は給与削減などによってコストを抑えるかも知れないが、長年勤めた末にまったく退職金が得られないよりは良い。一方、企業にとって新制度は大きな圧力ではあるが、体質改善と永続的経営への転機ととらえることもできる。
新制度は大きな変革であり、広い範囲に関わってくる。いかにして労働者の権益を守りつつ経済を発展させていくか、政府と企業と労働者の努力にかかっている。
新旧の退職給付制度の比較:
| |
新制度 |
旧制度 |
| 適用対象 |
1.労働基準法が適用される労働者 2.上記以外の労働者は任意で加入可 |
労働基準法が適用される労働者 |
| 雇用主負担 |
毎月給与の6%を拠出 |
毎月給与の2〜15%を拠出 |
| 労働者負担 |
給与の6%を上限に任意で拠出可 |
なし |
| 受給条件 |
満60歳、新制度下で勤続15年 |
1.満55歳、勤続;15年以上 2.同一事業体で勤続;25年以上 |
| 給付方式 |
毎月個人口座から退職金を給付(勤続;15年未満は一括給付) |
勤続;15年までは年間2点、15年以降は年間1点、最多45点 |
| 勤続;30年の所得代替率(年ベースアップ3%、収益6%で計算) |
24.54% |
なし |