長年、台湾の原発反対運動を指導してきた台湾大学物理学科の元教授・張国龍氏は、この夏に環境保護署の署長に就任し、その省資源理念を宣揚してきた。先頃は、台湾の水道電気やガソリンの低価格政策を「野蛮な社会」と批判した。世界中が重視する「温室効果ガス削減」問題において、経済、内政、交通、農業などの省庁間に挟まれた環境保護署は、どのように折衝していくのだろう。張国龍署長に二酸化炭素削減に対する見方と政策を語っていただいた。

Q:まず温室効果ガス削減政策における環境保護署の位置付けをお話しください。各省庁にまたがるこの議題において、重点をどこに置かれるのでしょう。

環境保護署の張国龍署長は、温室効果ガス削減政策において環境保護署は各省庁の架け橋の役割を果たし「温室効果ガス削減法」を制定して政策の監督と管理の依拠としていくと語る。p.26p.27
A:温室効果の影響は地球規模のもので、最近アメリカを襲ったハリケーンも、ヨーロッパの大規模な水害なども、その影響です。台湾の状況も深刻で、土砂災害の発生頻度は年々高まり、毎回数百億の損失が出ています。
政府による温室効果ガス削減政策において、環境保護署は重大な責任を負っています。削減目標の制定、具体的計画策定への協力、そして目標達成までのプロセスの管理や監督などです。
現在、環境保護署は、執行の法的根拠となる新法「温室効果ガス削減法」の制定を推進しています。立法にかかる前に、行政院の「持続発展委員会」の下に「気候変動および京都議定書対応小委員会」を設置して関連政策を推進していきます。この小委員会の主任委員は行政院長が務め、環境保護署は全台庁間のコーディネートの役割を果たします。また全国エネルギー会議において各分野の専門家を招き、温室効果ガス削減メカニズムを確立する方法を話し合っていきます。
近年、温室効果ガスの中で排出量が最も増えているのは二酸化炭素なので、持続発展委員会は環境保護署に、二酸化炭素排出量を環境アセスメントの審査項目に加えることを指示しました。今後は重大な経済建設の前に、その二酸化炭素排出量が評価・審査されることとなります。
政府から付与された責任を、環境保護署は忠実に全うしていきますが、その過程では国の経済発展に関わる部分が必ず出てきます。6月の全国エネルギー会議で目標が定められました。OECD(経済協力開発機構)加盟国の二酸化炭素排出量増加率を基準とするという目標です。OECD加盟国の現在の増加率は年間1%ですが、台湾は7%に達しており、これを1%に下げるのが目標です。現在は年間一人平均12トンの二酸化炭素を排出していますが、これを2025年には13トン以下に抑えなければなりません。

Q:全国エネルギー会議では、台湾の産業構造が変らず、製鉄所やナフサ分解工場などが計画されたままでは排出量削減は難しいという点が議論されましたが、いかがでしょう。

A:1998年の全国エネルギー会議では、2020年時点で二酸化炭素排出量を2000年レベルに下げるという目標を定めましたが、この達成はすでに不可能です。この間、政府は産業構造の転換に努力してこなかったからです。ですから確かに私たちは心配しています。二酸化炭素を大量に排出する産業が今後も成長していけば、前述した修正後の目標も達成できなくなります。
幸い、環境アセスメントの項目に排出量が加えられたので、今後はすべての産業の排出量に制限が設けられます。風船のようなもので、膨らますことはできても破裂させてはなりません。以前は、その風船さえなかったのです。

Q:風船を膨らませる速度が重点なのでしょうか。

二酸化炭素排出量の少ない緑の環境を造るのは製造業者だけの責任ではない。いかなる製品も最終的には消費者が買うのだから「国民には参加する責任があります」と張国龍署長は言う。
A:速度には年間1%の制限がありますが、全産業の事業者とコンセンサスを得て皆で目標を達成しなければなりません。削減には多くの方法があるので、産業の風船を一つにつなぎ、こちらは大きく、こちらは小さくという分配も検討中です。

Q:住居・商業部門の建築に関わる省エネにおいて横の連絡が不足しているように感じます。内政部は建物の外殻を管理し、経済部エネルギー局は建物内部の節電を推進していますが、連携が不十分です。環境保護署は、どうコーディネートしていくのでしょう。
A:まずグリーン建築についてお話ししましょう。私が最近訪ねた南部の環境保護科学園区には太陽光発電モデルハウスがあり、パネルを南向き壁面の各階に重なるように取り付けてありました。これは大きな間違いです。これでは太陽が当る半日しか発電できず、しかも下に重なっている部分には短時間しか当りませんから、少ないコストで最大の効果をという省エネの精神に反します。正しくは、緯度によって違いますが、できるだけ太陽光に垂直の角度にすることです。
省庁間のコーディネートの問題ですが、私はエネルギー局と工業研究院、経済部、台湾電力、太陽エネルギー協会などの機関によってエネルギー戦略小委員会を作ることを構想中です。この小委員会が各省庁や学校、軍事施設、商業施設などの省エネ状況を診断します。民間機関が省エネ施設を改善したいと考える場合は、政府は無利息で融資を行ない、経済的誘因によって二酸化炭素削減への参与を奨励すべきです。現在、こうした仕事の主管部門は経済部のエネルギー局ですが、環境保護署として積極的に推進したいと考えています。
Q:一般国民は住居やオフィスのエネルギー効率を改善する意欲があるとお考えですか。
A:経済的誘因の他に、法令面での規範も必要です。すべての人に環境権があり、お金持ちでも他者の環境権を侵すことはできません。例えば、公園の緑地は皆のものです。私たちは少数の人が植物園を買うことを許すでしょうか。これと同じように、温室効果ガスによる被害者もしばしば社会的、経済的な弱者です。土石流の警戒地域や地盤沈下地域や生態の脆い地域などに住まざるを得ない人々です。ですから将来的にルールを定めていき、お金持ちだけが巨大な冷房を使うようなことはできなくなります。二酸化炭素排出量が年間13トンを超える人は、他の人から割り当て枠を買わなければなりません。
Q:住居・商業・交通部門の重点は省エネとエネルギー効率の向上ですが、水道・電気・ガソリン代を上げなければ、大きな成果は出ないのではないでしょうか。
A:その通りです。ヨーロッパの国民所得は我々の2倍ですが、二酸化炭素排出量は私たちと同じです。それは彼らが経済的制裁と誘因の制度を定めているからです。デンマークなどではガソリンの税率は200%以上なのに台湾は52%です。だからこそ私は燃料税を抑える制度を「野蛮な社会」と批判しています。企業をはじめ、全ての人は利益を追求するもので、エネルギーが廉価であれば、企業は工場の設備更新などに投資しようとしませんが、エネルギーが一定レベルまで値上がりすれば、工場設備への投資は数年で回収できることになます。企業の持続的経営を考えれば、早く行なうほど有利ということになります。だからこそ、ヨーロッパはエネルギー税率が非常に高いのに経済成長を維持でき、しかも環境の質も良いのです。
Q:二酸化炭素削減のために、台湾は「グリーン交通」を提唱するべきではないでしょうか。環境保護署の計画はいかがでしょう。
A:緑の消費には一つの原則があります。物をできるだけ使わないというものです。つまり、歩けるなら車に乗らず、車に乗るなら自家用車ではなく公共交通システムを利用するということです。イギリスの研究によると、自家用車を使う時のエネルギー消費量は8100Btu、バスなら3800Btu、1トンの貨物を1マイル輸送する場合、トラックでは2800Btuですが、汽車なら670Btuで済みます。公共交通システムは自家用車より二酸化炭素の排出量がずっと少ないのです。
ですから国には一つのメカニズムが必要です。自家用車に高い税率をかけ、それによって自家用車使用がもたらす環境破壊と損失を補う必要があります。ロンドンでは自家用車で市内に入る人から5ポンド徴収しますし、シンガポールでは自家用車を買う人は、車より高い自動車購入許可費を支払わなければなりません。
現在、台湾のマイカー族は特権を欲しいままにしています。数十万元で車を買うのは、その人の努力の結果ですが、社会はマイカー所有者に多くの便宜をはかり、さらに1台当り3坪の土地を駐車スペースに提供しています。台北市街地では、3坪の土地に1000万元の価値がありますが、利用者が支払う駐車料金は、まったくその原価に見合う額ではありません。逆にお金のない人は一生かけても1坪の土地も買えないかも知れません。これは非常に不公平なことです。
この他に、安全で便利な交通環境を提供するために、各所に信号や横断歩道を設置し、警察による交通指揮や路上駐車の管理人なども手配しなければなりません。自家用車を持つ人々が享受するこれらの便宜の費用は全国民が負担しており、乗用車の価格や使用料に含まれてはいないのです。
Q:この問題について、環境保護署は国民に宣伝指導していく他に具体的な計画はありますか。
A:交通政策は環境保護署の権限ではありませんが、持続発展委員会を通して交通部や他の省庁と同じ目標に向けて努力していきます。また、環境や人権問題を扱うNGOと協力して立法を推進します。ただ立法の前に、この観念を打ち出して民間団体や議員がどれだけ受け入れられるかを見なければなりません。「使用者負担」については長年議論されてきましたが、具体的な議論はなされていません。集団の力が発揮できれば、立法も早いでしょう。
表1:電気料金の国際比較