柑橘一つで世界に台湾を紹介
農業部林業及び自然保育署(部は省に相当)が長年、絶滅危惧種である台湾在来柑橘類「南庄橙(ナンショウダイダイ)」の復育に取り組んでいると知ったとき、柯亜は「台湾」を世界の味覚に刻み込める果実に出会ったと感じた。「生物多様性の観点から見れば、どんな種の絶滅も、地球にとって大きな損失です」。果物加工に携わる者として、自らの専門性を生かし、サイシャット族にとり伝統的な「ガダヨウ(南庄橙のサイシャット語)」を、いかに世に知らしめるかを考えた。
南庄橙は酸味と苦味が強く、生食には向かない。だが砂糖漬けに加工することで、その風味は驚くほど魅力的になる。煮詰めた果皮に残るほろ苦い余韻や、独特の「しびれるような感覚」は、記憶に残る風味の要となると語る柯亜は、風土の細やかな表情を鍋の中に煮込み、果実の味わいと山林の息吹を重ね合わせていく。重層的な味わいを通して、世界に台湾の豊かさを改めて印象付けた。
柯亜は南庄橙のジャムをイギリスの大会に出品した。当初は、国際舞台に記録を残せればという思いに過ぎなかったが、予想に反して2023年の金賞を獲得する。実は審査員からは、「知られていない果物を使うと受賞難度が上がる」と示唆されていたが、柯亜には迷いがなかった。「受賞できたらもちろんプラスになりますが、それ以上に台湾にこんな特別な柑橘があると知ってほしい。南庄橙を通して、台湾を知ってもらいたいんです」。十数年にわたり培ってきた柯亜の技と想いが一瓶のジャムに凝縮された。そこにあるのは、舌先で感じる風味だけではなく、台湾の風土と文化を守り伝えていく営みの縮図だ。