「泣いてもかまいませんが、落胆してはいけません。悲しくても、あきらめてはなりません。明日の朝目覚めたら、私たちはこれまでの4年間と同じように、勇敢に、心を希望で満たさなければなりません。なぜなら、私たちは勇敢にこの国の責任を背負わなければならないからです。私たちは楽観的に、これからも台湾のこの土地のために努力していくのです」
大雨の夜、支持者たちが涙を流す中、彼女だけは涙を見せず、この理性的で感動的な演説を行なった。演説の言葉は台湾海峡両岸のネット上で次々と転送され、多くの人が感動の涙を流した。器の大きさと優雅さを感じるとともに、台湾の民主主義の奥深さを知ったからである。
蔡英文は、この人生の重要な段階を終えて数ヶ月後、再びメディアに登場するようになった。台湾の政界で、指標として極めて大きな意義を持つこの女性指導者が民進党主席の座を後任に引き継ぐ前日、光華はインタビューにうかがった。
Q:さまざまな役割を担ってこられましたが、どのように適応なさったのでしょう。総統選挙後の演説についてもお話し下さい。
A:まず、それぞれの役割において達成すべき任務を正確に認識し、そのために自分を調整し変えることも必要だと考えています。
大学教授の役割は、学生に教えるべき知識を理解させるというものです。政務官の役割は、政策の方向を定め、「インターフェース」となり、しかもマクロな思考で、国の全体的、長期的な利益を考えなければなりません。

少しはにかんだような笑顔は、冷静な中に情熱を秘めた蔡英文の性格を象徴している。
私は2000年の政権交代時に政治の世界に入りました。当時の民進党にとっては、野党時代の主張や思想をいかにして実行可能な政策に落としていくかが最大の課題でした。
私が学術的訓練の過程で学んだのは、マクロな視点の政策を打ち出してこそ、国を前進させられるということです。当時私は官僚体系の専門的意見を処理すると同時に、政治的な期待にも応えなければならず、しかもさまざまな利益を代表する議会とも時間をかけて話し合う必要がありました。
党主席になると、視点をマクロからミクロに戻し、党員や支持者の生活や期待に関心を寄せ、「皆の世話をする」という役割に変りました。
政治指導者は自分の感情だけでなく、人々の感情も管理し導かなければなりません。
1月14日の選挙の夜、皆は泣いていましたが、私には自分の役割が分かっていました。「今日、支持者たちを挫けさせてはならない」というもので、自分の気持ちは重要ではありませんでした。

地方へ行くと地元の女性たちが集まってきて次々と声をかける。
Q:もともとは民進党党員ではなく、家庭の背景も民進党の「草の根」のイメージとは違います。家庭環境の影響をお話しください。
A:私は確かに恵まれた生活条件と教育環境を与えられ、しかもエリート化とは異なる成長をさせてくれた親に感謝しています。
父は私たちを公立学校に通わせました。特に公立小学校ではさまざまな背景の人と出会えます。また、私の父は客家人で祖母はパイワン族、母は閩南人なので、型にはまらない物事の見方や人との接し方を学びました。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスには世界各国の学生がいたので、相手の立場で考えられるようになりました。
父と私の性格は似ていて、衝突したことはありません。ビジネスをしていた父は、観察し、妥協点を見出すのが上手でした。ただ、行政院副院長に就任した時、「これからは新聞で知るより先に教えてくれ」と文句を言われました。
父は本当は私が政治家になるのを望んでいませんでした。伝統的な考えで、娘には多くの責任を負わせたくないのです。党主席になった時、もし父が生きていたら反対票を投じたでしょう。それでも、子供の選択を尊重してくれましたが。
社会を変えるには反抗心が必要Q:民進党の士気が最も低迷している時に、なぜ党主席を引き受けられたのですか。
A:私は貸借対照表の角度から見ていました。私の名声は社会が私に蓄積した資産で、それを政治資産に転化できれば党を導くことができ、新たな契機になる可能性があると考えたのです。もし失敗しても、資産を社会に返すだけです。
党主席に当選した後、まず派閥を超えた青年・中堅層を集めました。彼らは百戦錬磨でそれぞれに専門分野を持ち、私は彼らを公共財とみなして党を谷底から蘇らせる任務を課しました。
4年間で支持者の自信を取り戻せたことは非常に重要だと考えています。支持者の自信があってこそ、理性的な思考が可能になるからです。
民進党の支持者は生命力が強く、思考のエネルギーがあります。民進党は街頭運動から生まれた党なので支持者も潜在的に反抗心があり、感情が豊かです。彼らの理性的な思考を強化していけば、民主主義社会の最も理想的な市民となり、社会をより良い方向へ変えることができます。
Q:民進党の政治文化は、女性政治家の育成に適しているでしょうか。
A:外国のメディアに驚かれたことがあります。彼らはアジアの女性政治家の大部分は世襲だと思っていて、私が専門分野から政治に携わり始めたことが非常に西洋的だと感じたようです。
根を張る男女同権意識台湾の女性は専門分野をもって自分の政治空間を切り開くようになりました。父や夫の代理人ではなく「自分自身として」で、これは男女同権がすでに根を張っていることを意味します。
民進党で、専門分野を持つ自主的な女性政治家が生まれやすいのは、比較的大きな政治リスクがあるからです。党には資産もなく、与党としての権力もないので、すべて自力で切り開くしかありません。ましてや民進党の女性はもともと能力が高く、わざわざ育成する必要もないのです。
また、民進党の、一見男性的な草の根意識と大らかさがむしろ多くの前例を作ってきました。陳水扁前総統は初めて男女共同参画を実現し、女性閣僚は4分の1に達しました。
女性は男性と平等な位置に置かれるべきで、特別に優遇する必要はありません。選挙時に「女性」であることを強調すれば焦点にはなりますが、票が増えるとは限りません。女性が政治に携わることへの意見は分かれているからです。
Q:総統選挙で多くの有権者と触れ合い、どのような収穫がありましたか。
A:以前の選挙では、支持者はキャンペーンに集まるだけでしたが、今回は寄付を集めるために「豚の貯金箱」運動を行ない、支持者はここで団結力を発揮してくれました。貯金箱に貯めたお金はキャンペーン会場での寄付より多く、政治献金より少ないのですが、重要なのはこの運動で蓄えられた社会的エネルギーです。
また、今回の選挙では多くの若者と70~80歳のお年寄りに出会いました。中には毎日新聞を見て私の行き先を調べ、私のスタッフと一緒に選挙運動に加わってくれる人もいました。地方では、ごく普通のおばさんが演台に上って私に触ろうとします。彼女たちにとっては、まるで自分の娘が総統選挙に出ているような感じで、本当かどうか触って確認したいと思ったようです。
ただ、多くの人がお金と力を出してくれ、大きな期待を寄せてくれていたので、私は彼らに、選挙の勝敗は民主社会では当り前のことで、努力し続ければ必ず成功する、と話しました。
独身だから集中できるQ:女性が政治家になるには男性より「犠牲」が大きいようで、多くが独身ですが。
A:女性の場合、政治家もプロの仕事をしている人も、仕事のプレッシャーが大きい上に、家事や子育てという二重の役割を担っています。
政治の場では人間関係がやや複雑なので、感情のコントロールが必要になります。家庭の理解がないと、家でも人間関係を処理しなければならなくなります。こう考えると、独身なら両方と戦う必要はありません。伝統社会では、未婚女性の人生は円満ではないと見られたかもしれませんが、今の社会では、結婚がもたらすものは、結婚していなくても得られるのです。
Q:少子・高齢化についてはどうお考えですか。
A:少子化を女性が結婚しないせいにする人もいますが、それは女性のことを考えていないからです。社会は女性が背負っている二重の圧力を緩和する制度を作らなければなりません。女性たちが、結婚や出産が大きな負担にならないと感じれば、状況は自ずと変わっていくでしょう。
人には帰属感と安定感が必要で、それが自信の源になります。帰属感と安定感がなければ自信のある市民にはなれず、民主主義も成熟しません。
現代社会では家庭や結婚だけでは安定感を得られなくなっていますから、私たちは考え方を変え、さまざまなネットワークを発展させる必要があります。例えば、私は高齢者のコミュニティ活動が非常に盛んなことに気付きました。
社会のセーフティネット構築は国の責任であり、そこには経済的意義もあります。今やらなければ台湾の経済や民主主義のさらなる発展は難しいでしょう。