サンゴのノアの方舟
こうした行動の他に、台湾ではサンゴ保全の技術を少しずつ海外へも広めつつある。2024年末、デルタ電子文教基金会はシンガポールの国立公園局と協力し、セントジョンズ島の国立海洋研究所にサンゴ再生基地を設立した。ここではデルタ電子グループの自動化システムとスマート養殖技術を導入し、10年で10万株のサンゴを育てることにしている。最近はIUCN(国際自然保護連合)とも協力し、STAR(Species Threat Abatement and Restoration:種の脅威の軽減と生息地の復元に関する指標)の基準を初めて海洋分野に応用し、海洋生物保全の成果指標を開発した。
デルタ電子文教基金会の他にも、台湾では多くの企業や団体がそれぞれの力を発揮してサンゴ保全活動に取り組んでいる。例えば、台湾水泥(台湾セメント)は、サンゴの苗が着底しやすい基盤を開発している。鴻海(ホンハイ)グループは、廃棄物再利用の分野で大学と協力し、回収した素材を用いて人工漁礁を作っている。また、龍華科技大学では、ダムにたまった土砂をサンゴ再生のためのセラミック基盤に用いている。
これらの行動は台湾のためだけではなく、グローバルな気候変動という課題に対する具体的なソリューションとなるものだ。
戴昌鳳さんはこう説明する。台湾は熱帯と亜熱帯の境目に位置し、北部は亜熱帯の海域なので冬の海水温は比較的低い。かつては北部にもサンゴが生息していたが、規模を備えたサンゴ礁にはなりにくかった。しかし、気候変動の影響で熱帯のサンゴは高温のために死滅する危機に直面しており、海水温が比較的低い亜熱帯の海域へと移動してくる可能性がある。コーラルトライアングルの北端に位置する台湾のサンゴの種類は多く、花蓮、台東、宜蘭から東北角までの東海岸は、将来的に熱帯サンゴがより適した環境を求めて移動してくる地域になる可能性が高いという。戴昌鳳さんは、世界で提唱されている「未来のための海洋保護区」という概念を取り上げる。これらの地域の保全は現在の生態のためだけでなく、将来的に気候変動が進んだ時の、種の移動や遺伝子保存のためでもあるのだ。「私たちが北部や東北部のサンゴの環境を守り、より多くの保護区を設ければ、将来的にこれらの地域がサンゴのノアの方舟になり、海洋生物多様性の保全において、台湾は世界的に大きく貢献できるのです」と戴昌鳳さんは将来への期待を語った。

ノウサンゴの産卵は壮観で、まるで海中の星空のように見える。(デルタ電子文教基金会提供)

三つの海洋生態系が交わる場所にある台湾は、「コーラルトライアングル」の北端にも位置し、サンゴと各種海洋生物の品種が非常に豊富だ。写真は墾丁国家公園のサンゴ礁に生息するミズガメカイメンと、それに付着するジャバラハネウミシダ。(戴昌鳳提供)

造礁サンゴは多様な空間を生み出して海洋生物に棲みかを提供する。写真は澎湖海域のリュウキュウキッカサンゴに集まるソラスズメダイ。(戴昌鳳提供)

サンゴを食べるオニヒトデは繁殖力が強く、大量発生するとサンゴ礁に甚大な被害をもたらす。(戴昌鳳提供)

サンゴの白化は生存環境のストレスによって起こるが、すぐに死んでしまうわけではなく、環境を改善できれば回復していく。写真は一部白化したマルクサビライシ。(戴昌鳳提供)

台達電子(デルタ電子)文教基金会はLEDスペクトル調整システムをサンゴの養殖槽に応用することで、サンゴの成長を速めている。

デルタグループの社員から成るボランティアチームは、サンゴに関する専門的訓練を受け、海に潜ってサンゴの汚れを取り、検査をするなどしてサンゴの生育環境を守っている。(デルタ電子文教基金会提供)

サンゴの種類が豊富な台湾で、花蓮・台東から東北角までの海岸の生態系をしっかり保護すれば、将来的にここが熱帯サンゴのノアの方舟になり、世界の海洋生物多様性保全に大きく貢献することができる。