年をとったら、一日中座ってテレビを見ているしかないのだろうか。ある日、高齢の家族から、ずっと胸にしまっていた夢を語られたら、その実現に一役買おうと思うだろうか。自分が年をとって身体が思うように動かなくなった時、それでも夢を追う勇気があるだろうか。
公益の架け橋を自任する弘道老人福祉基金会は、それが可能なことを行動で証明している。年齢や性別に関わらず、身体に障害があっても、この社会が応援さえすれば誰でも夢を追う権利を持ち、遅すぎることは永遠にないのである。
「おじいちゃん、なにか夢はありますか?」
台北市松山デイケアセンターで、81歳の羅彬垚;さんはゆっくり頭を上げる。そのぼんやりした視線は弘道基金会のソーシャルワーカーの向うを見ている。
ここ数年、羅さんは認知症が進み、朝食を食べたことも忘れてしまうし、家への帰り道も思い出せない。家族は心配し、本人もますます自分の殻に閉じこもるようになっていた。
ところが、夢を聞かれた羅さんは、突然眠りから覚めたように笑みを浮かべ「野球!」と答えたのである。
日本時代に育った羅さんは、学生時代は一塁手で、省の大会で2位になったこともある。その後はテレビで少年野球を応援するのが楽しみだった。
羅さんの妻は、その夢を聞いてすぐに理解し、「目標のために身体を動かすのもいいでしょう。少なくともまた笑顔が見られれば、それだけでも」と優しく話した。

生まれて初めて卒業証書を受けた台中市大雅の生徒たち。自分の名前も書けるようになり(右)、笑顔は自信に満ちている。
こうして弘道基金会と夢を応援するスポンサーのJTインターナショナルのボランティアが動き始めた。監督を依頼し、用具とグラウンドを手配し「不老野球チーム」のメンバーを募集し始めた。
松山デイケアセンターの近くに住む邱謝双鳳さんは、この話を聞いてすぐに応募した。84歳の彼女は幼い頃に、兄弟が竹竿などで野球ごっこをして遊んでいるのに加わりたかったが、いつも追い返されて、家事をさせられていた。
その思いがついにかなう機会が訪れたのである。周囲からは「怪我でもしたらどうする」と反対されるが、彼女はこう答える。「人生に夢をかなえるチャンスがあと何回あるでしょう。80年も生きてきたんだから挑戦する勇気を持たなきゃ」
こうして平均年齢70歳、14人のチームができ上がった。ボランティアは安全のために、まず公園で素振りをすることにしたが、公園に着くと、楽しみにしていた羅さんが子供のように口をとがらせて駄々をこねる。ボランティアが根気よく尋ねると、「ここはグラウンドじゃない」と言うのである。
このことから、以降の練習はすべてグラウンドで「実弾」を使って行なうことにした。ただ羅さんは膝関節が退化して足が不自由なため、話し合いの末、「始球式の貴賓」を務めてもらうことにした。それでも、杖を放り出してマウンドに立った羅さんの真剣な表情は満場の注目をあびた。
グラウンドでの情熱は日常生活にも反映する。奥さんによると、練習を始めてから羅さんは家族とも話をするようになり、動きたがらない時には野球の話をすると、すぐに起き上がるようになったと言う。

4年前、不老ライダー10数人がバイクで台湾を一周し、多くのお年寄りの夢に火を付けた。
2010年夏の「不老野球チーム」の物語は弘道基金会の夢プロジェクトの一つに過ぎない。昨年一年間で彼らは400人余りの高齢者の夢をかなえたのである。その夢はさまざまだ。
95歳、一人暮らしでパーキンソン病のおばあさんは、震える手で絵を描き、個展を開いた。ずっと市場で野菜売りをしてきたおばあさんは一度も学校に通ったことがなく、後に肺を病んで酸素ボンベを24時間必要とする生活をしてきたが、ボランティアと家族に励まされ、重さ10キロの酸素ボンベを背負って学校に通い始めた。七夕の日、結婚60周年を迎えたカップル16組が恥ずかしそうに化粧をしてもらい、ウエディングドレスとタキシードを着て記念写真を撮った。
今年、弘道基金会は、夢プロジェクトの十大テーマを計画し、いずれも進行中だ。
「夢プロジェクトの趣旨は、お年寄りがケアされる者ではなく、生命の価値を発揮できる側になってもらうことです」と弘道基金会執行長の林依瑩さんは言う。コミュニティでのケアは老人福祉の基本だが、ケアだけに止まっていてはお年寄りの精神は萎えてしまい、心身の退化は加速し、社会とのつながりも失ってしまう。夢の大きさは問題ではなく、生活の目標や重心を見出すことが大切なのだ。
かつて在宅ケアに力を注いできた弘道基金会が、夢を提唱するようになったのも、高齢者との長年の接触の経験からだ。

お年寄りの笑顔と能力に多くの人が感動する。
1995年に弘道基金会を設立した中心メンバーは、高齢者問題に関心を注ぐ医療やソーシャルワークの関係者だった。当初の目的はコミュニティでのケア・ネットワークの構築で、今は孝道提唱とコミュニティケアと夢実現の三つを平行させている。そのうち最も基本となるのはコミュニティケアである。
現在、弘道は全国に31のボランティアステーションを置き、ボランティア1273人とケアサービス員276人が、一人暮らしや介護の必要な高齢者4000人の世話をしている。食事の配達、病院への付き添い、入浴、家事、そして健康や敬老の活動などだ。また新北市、台中市、高雄市と屏東県では自治体の委託を受けて在宅介護サービスを提供している。
人助けは喜びという考えは、ボランティア活動の動力だが、お年寄りの夢の実現を手助けすることはボランティアに達成感をもたらす。
新荘ボランティアステーション長を務める56歳の黄宝鳳さんは13年前にボランティアを始めたばかりの頃、夫の強い反対に遭った。清掃員の仕事だけでも大変なのに、朝晩や休日までなぜ働くのか、というのだ。
ある日、彼女が世話をする80代の老婦人が、小さな願いを口にした。若い頃に暮らした台中の眷村(戦後に大陸から移住してきた人々が集まって暮らしていた地域)へ戻って、懐かしい近所の人たちと麻雀をやりたいと言うのである。だが、その眷村の所在地も名前も分からない。黄宝鳳さんは夫を説得して車を出してもらい、老婦人のおぼろげな記憶を頼りに台中へ向った。すると本当に昔住んでいた地域にたどり着くことができたのである。黄さん夫婦は、懐かしい人々と再会した老婦人を車から降ろして台中市内で半日を過ごし、夕方ふたたび迎えに行った。
「台北へ戻る道、おばあちゃんは少女のように微笑んでいて、私たちは暖かい電流に包まれていました。帰宅すると夫は、このボランティアにはやる価値がある、と言いました」
2007年、弘道基金会は初めて綿密に計画した夢プロジェクトを打ち出した。「80へのチャレンジ。不老ライダーの台湾一周」というもので、発表するや100件以上の問い合わせがあった。「お年寄りたちが蓄えてきたパワーが火山のように爆発した」と基金会創設者の一人、73歳の郭東曜さんは言う。

北宜道路の最高地点まで自転車で登りきった60歳の男性。
参加希望者が多いのに対して募金が頼りの資金は限られていたため、高齢者を優先して17人を選んだ。夫と一緒に参加した女性1人の他は男性で、平均年齢は81歳、4人は耳がよく聞こえず、5人は高血圧、8人は心臓病を持ち、2人はガン患者である。
林依瑩さんによると、当初はお年寄りの体力と安全を心配する声が多く、中止も考えたが、ボランティアで高齢の頼清炎さんが自ら団長を買って出て実行を主張したという。
80歳になる頼清炎さんは、警察を退職してからずっとボランティアをしていて、老人福祉連盟の理事、台中市長寿会会長などを務めてきた。頼さんは高齢者に対する差別を感じてきた。旅行のツアーに参加しようと思ったら、80歳以上は保険に入れないからと断られたことがあり、バスが停まってくれないこともあると言う。
大腸ガンと診断されていた頼さんは林依瑩さんに「多くの老人を励ますためにも実行しなければ。年寄りを侮ってはならないと社会に伝えるためにも」と語った。
高齢者に対する社会の見方を変えるという目的を持つため、周到な準備を進めた。参加者の昼寝のためにバスを随行させ、大学生のボランティアに先導と交通整理を担当させ、社会教育活動も行なった。ルートを下見する際には沿線の飲食店50店や学校や警察局、老人ホームなどを招いて補給ステーションを担当してもらい、実際の台湾一周の際には、お年寄りが沿線の養老院や孤児院を訪ねた。
高齢者ライダーの台湾一周はドキュメンタリーになり、基金会が各地で上映すると、若者たちは感動の涙を流した。「高齢ライダーの精神は今もじわじわと影響力を広げていて、多くの高齢者が夢の実現に動き始めました」と基金会宣伝担当の呉素芬さんは言う。

お年寄りの笑顔と能力に多くの人が感動する。
より多くの高齢者の夢をかなえるため、2008年から弘道基金会は、お年寄りがステージに立つコンクールを開始した。最初の3回で456チーム、1万2563人が参加、そのうち90歳以上が172人、100歳以上も5人参加している。
基金会は活動費を募り、項目ごとに専門の審査員を招き、心身障害や認知症、超高齢などを「加点」項目として多くの高齢者の参加を歓迎している。
身体の不自由なお年寄りにもそれぞれふさわしい項目があり、心身の健康を促進できる、と審査員をしている台湾体育学院運動健康科学学科の趙淑蘋;准教授は言う。「身体が自由に動かないお年寄りが笑顔で踊りを披露するだけで貴重な社会教育になります」と言う。
この活動は今年、衛生署国民健康局の政策に取り入れられ、自治体の衛生局が推進するようになり、参加者は3万人、決勝では27チームが対戦するようになった。
これはお年寄りのオリンピックだと林依瑩さんは言う。参加者は10万元の賞金を目標に毎日練習し、負けても来年またチャレンジする。
2回連続参加している99歳の徐さんは、1回目は車椅子で参加したが、次は自分の足で立とうという目標を立て、本当に立てるようになった。
基金会はさらに大きな夢を育んでいる。今年9月の決勝戦を専門の照明や音響のある台北アリーナで開こうというのだ。
「お年寄りたちも台北アリーナと聞いて大喜びしています。さらに観客による投票も計画していて、決勝の点数は小数点の争いになるので、参加者の懸命な演技が期待できます」と林依瑩さんは言う。
お年寄りに人気のある有名タレントに司会を依頼することも考えている。
真剣に夢を追い、それを支える愛があれば、いつかかならずかなうのである。

夢という魔法の杖を一振りすれば心身に活力が戻ってくる。写真は始球式で投球する羅さん。

夢という魔法の杖を一振りすれば心身に活力が戻ってくる。写真は始球式で投球する羅さん。

生まれて初めて卒業証書を受けた台中市大雅の生徒たち。自分の名前も書けるようになり(右)、笑顔は自信に満ちている。

お年寄りの笑顔と能力に多くの人が感動する。

夢という魔法の杖を一振りすれば心身に活力が戻ってくる。写真は始球式で投球する羅さん。