あらゆる珍味を駆使する
「お客様に喜んでいただくためなら何でもしなければなりません」と阿忠シェフは酒家文化を語る。酒家では、料理に特色がなければお客は来てくれないので、誰もが知恵を絞って新しい料理を創作した。酒家料理は一般のレストランより創意を重んじ、次々と新しい料理が生み出されていった。
酒家では珍しい料理を作るために、特殊な食材を集めることから始めた。鶏腰(鶏の腎臓)、皇冠(鶏のとさか)、鴨舌(アヒルの舌)、鴨掌(アヒルの水かき)、鳳足(鶏の足)、龍根(豚の目玉)、天梯(豚の歯ぐき)、肚尖(豚の胃袋)などを大変な苦労をして集めた。「アヒルの舌などは、アヒル20~30羽でようやく一皿の料理になるんですから、これが珍味でなくて何でしょう」
食材が珍しいだけではない。酒家では手間のかけ方と見栄えが重視される。「色、香、味、形、器のすべてを重視します」と話す阿忠シェフは、仏様に金の衣が必要なように、料理も化粧を施さなければならないと言う。例えば「孔雀開屏」や「彩虹蜈蚣蟳」などは、シェフの包丁の技と忍耐力が試される華やかな前菜だ。
「孔雀開屏」は、酔蝦(酔っ払い蝦)や焼鴨(アヒルの丸焼き)、レバー、ハム、アスパラガスなどを薄切りにし、孔雀の羽根のように並べたもの。「蜈蚣蟳」は、まず蟹の身をほぐし、ハムや野菜、髪菜、金糸卵など、赤、緑、黒、黄色の食材と彩りよくムカデの形に盛り付けた一皿だ。力強さがあり、食べやすい料理である。
「氷のフライ」は、お客に無理な難題を押し付けられて生まれた料理だと言う。
魔法のようなこの料理は、まずカキ氷を球状に握って餅でくるみ、それを網脂で包み、小麦粉と卵とパン粉をまぶして油で揚げたものだ。130℃の油で2分余り揚げてお客の前に出すと、外側はサクサクして中は温かく、真ん中のカキ氷はまだ溶けていないのである。
阿忠シェフによると、酒家に来るお客は皆お金持ちなので、喜ばせることさえできれば、たくさんのチップがもらえた。氷のフライは原価は80~90元ほどだが、お客は1~2万ものチップをくれたそうだ。
「氷のフライ」の作り方。――氷を餅でくるみ、それを網脂でしっかり包み、卵液、小麦粉、パン粉をまぶして揚げる。