台湾のサービス業は1980年代の草創期から2000年まで成長を続け、スケールメリットとブランド、体験経済の追求へと発展し、今は「きめ細かいサービス」の追求へと転換しつつある。
新たな消費の時代が訪れ、小売や飲食からネットまで、多くの分野の企業が全力を挙げて新しいものを打ち出しつつある。店員の笑顔、レストランが贈る気のきいたカード、パッケージに込められた感動的なストーリーなど、きめ細かなサービスの鍵はディテールにあるようだ。
7月の午後、スーパーマーケットチェーン全聯福利中心の次世代型店舗が嘉義にオープンした。それまでの地域密着型スーパーとは異なり、500坪余りの新しい売り場には産地直送の生鮮食品が並び、小規模農家のための直売所も設けられている。オープニングの式典には同社の林敏雄・董事長と徐重仁・総裁が揃って出席し、「全聯2.0」時代の到来を宣言した。
それより少し前の5月、王品グループ傘下のレストランブランド「舒果」が、シンガポールの莆田グループと合弁で同国に出店すると発表した。台湾のベジタリアン・レストランが海外進出するのはこれが初めてであり、王品グループの「国際元年」プランの第一打となった。
流通や飲食店だけではない。最近100店舗を達成したオーガニック食品販売の「里仁」は、産業チェーンを統合し、農家の有機農法への転換を指導して生産者とともに商品を開発し、安全で健康的な消費を打ち出そうとしている。

店舗数が100に達したオーガニックショップ「里仁」ではメーカーや生産者と手を組んで商品開発に取り組み、安全な食の提供を目指している。
サービス業は台湾のGDPの7割を占め、就労人口の6割を雇用するなど、台湾経済を支える重要な柱となっている。
「この5年、台湾のサービス業には国際化の趨勢が見られます」と話すのは商業発展研究院商業発展・政策研究所の朱浩・副所長だ。サービス業にとって国内市場は規模が小さすぎ、これまでは国際化への志はあってもエネルギーが蓄積されず、国際的ブランドが育ってこなかった。
それが近年は中国大陸の市場が発展し、台湾の少なからぬ企業が大陸で実戦経験を積んだことで経営規模が拡大し、そこからアメリカや東南アジアなどへ進出するようになってきた。例えば台湾のコーヒーショップブランドである「85度C」は、大陸への進出に成功した後、昨年からはアメリカにも出店して11店舗を展開しており、スターバックスからもライバル視されるまでになった。
国際化の列に加わる企業は少なくない。パイナップルケーキで知られる「SunnyHills微熱山丘」は中国大陸とシンガポールに進出した後、2013年に東京の表参道に旗艦店をオープンし、国際化への重要な一歩を踏み出した。
店舗数が100店に達したばかりの「里仁」でも海外展開を計画している。里仁はこれまで代理店方式で北米市場に進出していたが、今年初めて対外貿易協会とともにシンガポールの「天然食品展」に参加した。「商品の背後には台湾の農家やメーカーが苦心して開発してきた感動的な物語があります。国際化を通して、こうした台湾の文化や優れた農産物を海外に紹介したいのです」と里仁の李妙玲・総経理は話す。

世界に知られる鼎泰豊では、きめ細かなサービスの中から革新のインスピレーションを得ている。
朱浩は、サービス業が輸出するのはブランドイメージだけでなく、文化でもあると指摘する。新しい消費の時代、「人情味」が台湾のサービス業のキーワードとなる。「人情味」というのは、人を中心として、きめ細かに顧客のニーズを読み取り、それに沿ったサービスを提供するという意味だ。こうした感性に訴える価値は製造業では際立たせることは難しいが、サービス業には欠かせない重要な特質である。買い物をする消費者が重視するのは価格だけではなく、商品の背後にある思いや理念や文化の気分なのである。
2013年、大型デパートの新光三越は業界の慣例を打ち破って初めて劇団「屏風表演班」と手を組み、演劇を通して内外の消費者を惹きつけ、台湾の消費文化を示した。
新光三越と屏風表演班は3ヶ月の準備を経て、一般の人々に人気のある演劇「三人行不行」を初演の演目に選び、デパートの屋上で上演した。3カ月にわたって100回上演し、5万5000人がこれを鑑賞して売上にも大きく貢献した。
新光三越営業本部の周宝文・協理によると、同デパートでは以前からアーティストを信義店に招いてショーウィンドウのデザインやインスタレーションの展示を依頼しており、こうした文化活動を通して他とは異なる消費環境を生み出してきたという。今回初めて劇団と手を組んだのは、内外の消費者に台湾文化の雰囲気を味わってもらい、若い顧客層を取り戻したいと考えたからだ。
今年、新光三越は「デパート劇場」の魅力を押し広げ、表演工作坊や果陀劇団などとも協力し、4つの演目を打ち出している。7月~10月にかけて70~80回上演し、「屋上経済」を確立したいと考えている。
新しいベーカリーブランド「哈肯舗」は、地元の農産物を用いて飲料市場にも進出し「猟果舗」を設立した。消費者に地元の農産物を味わってもらうとともに、産地の物語を伝えている。
哈肯舗の黄銘誠・総経理によると、同社は設立以来、宜蘭県の三星ネギ、高雄小林村の梅など地域の農産物を用いてきた。今年は小旅行を企画し、消費者とともに苗栗後龍を訪れて大根の漬物の作り方を学んだ。「食の安全に関わる事件が次々と報じられる中、産地から製品化までの生産履歴の確立は非常に重要です」と言う。
昨年、彼は市場で売られている茶飲料に大量の添加物が使われていることを考慮し、飲料市場に進出することを決めた。そしてマスメディアでの経験が長い古碧玲を総経理に招き、坪林の有機栽培の茶葉や小林村の梅など、地域の農産物を使った飲料を作ることにした。
古碧玲は、それまでの仕事で、環境にやさしい農業に取り組んでいる少なからぬ農家と接触していた。最近は小規模農業が注目されるようになったが、市場はまだ限られている。そこで、猟果舗を設立し、小規模農家の産業チェーンを確立して、消費者に農作物本来の味を楽しんでもらおうと考えたという。

食の安全が危惧される中、消費者も食材の産地を気にするようになった。写真は「里仁」傘下の慈心有機農場。
変化の激しい消費市場では、異業種協力や体験マーケティングに取り組む企業もある。また、消費者の意見からインスピレーションを得てサービスを改善している企業もある。
先頃、鼎泰豊の楊紀華・董事長は、同社が小さな店から国際的なブランドへ成長するまでのプロセスを描いた著書を発表した。その出版記者会見で楊紀華は、消費者からのクレームが同社のイノベーションの源となったと語った。
例えば、鼎泰豊の板橋店ではこんなクレームが寄せられたことがある。同店の小籠包には餡の種類によって一部にマークをつけていたが、そのために互いにくっついてしまうというのである。それを聞いた楊紀華は、翌日からこの方法をやめ、小さな鶏やカニの形の生地を作ってニンジンで色を付け、区別できるようにしたのである。
こうして2013年以来、鶏肉やカニの餡の小籠包の蒸籠には小さな鶏やカニの形の生地が入るようになり、好評を博することとなった。消費者からのクレームが質の向上につながったのである。
消費者を第一に考えるのは1997年に設立されたオーガニックショップの里仁も同じである。人体に害のある添加物を減らすために、食品の製造元を厳しくチェックしている。
2004年、里仁は穀物加工大手の鈺統に化学添加物の入っていない穀物飲料の開発を依頼した。里仁では乳化剤や水素添加油などを使用しないよう求めたが、メーカーからは「煩くて専門性に欠ける」と言われ、協力関係は一度は中断した。だが2年後にようやく開発された商品は消費者から支持されて2週間で売り切れ、当初のこだわりが間違っていなかったことが証明された。
オンラインショップのPayeasyでは2004年から「企業福利サイト」を設け、競争の激しい市場に新たなビジネスチャンスを開いた。
PayeasyでPRとマーケティングを担当する陳中興・副総経理は次のように説明する。企業の福利委員会は社員のためにさまざまなメーカーから優遇を取り付けて注文を出さなければならないが、こうした事例ではオンラインサービスが大きな力を発揮できるのである。
そこでPayeasy企業福利サイトでは企業のためのグループ購入を受け付け、顧客の属性に応じてそのニーズに合ったサービスを提供している。陳中興によると、実体店舗と異なり、ネットでは顧客の資料を掌握できる。顧客層はホワイトカラーが多く、客単価が一般サイトより2割ほど高いため、他のオンラインショッピングでは扱うことの少ない高級品を扱うことにした。先頃はBMWの高級車を打ち出して話題になった。
PayeasyではさらにOTO(online to offline)というバーチャルとリアルの統合サービスを今後の重点にしていくという。これまでに彼らは企業社員同士の合コンイベントなども行なってきた。Payeasyの企業福利サイトはB2B方式で、競争が激しいオンラインショッピング市場にブルーオーションを見出した。今は400余社が会員となり、年間1000億元を売り上げている。

台湾のカフェ「85度C」は店舗のアップグレードに取り組み、広々として快適な次世代型店舗を展開している。
昨今、市場には次々と「次世代型店舗」が出現している。
今年10周年を迎えるコーヒーショップ・チェーンの「85度C」は一年余りの準備を経て、昨年、第二世代店舗への転換計画をスタートさせた。85度CのPRディレクター鍾静如は、消費者のライフスタイルの変化に合わせて次世代型の店舗を打ち出すことにしたと説明する。内装やメニューも変え、これまでのテイクアウト型から、ゆったりとくつろげる空間に変えていくという。
安さを売り物としてきたスーパーの全聯福利中心も今年7月、徐重仁総裁の指揮の下、嘉義と台南に次世代型店舗を9店オープンした。
新しい店舗の面積は従来に比べて広く、通路もゆったりしていて生鮮食品の比率は50%まで引き上げられ、店内にカフェやピザ店も設けた。そして小規模農家のための「農家の直売所」が大きな特色となっている。
徐重仁によると、「農家の直売所」は、地元農家の作物の直販を行なう日本の「道の駅」から取り入れたアイディアだと言う。ローカル化と転換は世界の小売業の趨勢で、全聯の次世代型店舗では、生鮮食品の品目を増やすだけでなく、卸売業者の手を経る回数を減らして台湾農業に協力したいと徐重仁は考えている。
全聯の蔡篤昌・総経理によると、従来の契約農家からの仕入れとは異なり、次世代型店舗の「農家の直売所」では農家が自分で価格設定できるようにしており、全聯は包装とマーケティングだけを行ない、費用として価格の7.5%を受け取る。
この方式を導入しているのは嘉義と台南の9店舗だけだが、反響は大きく、多くの農家から問合せが来ている。「これからは農家の方々も自分のブランドストーリーを持てます」と言う。
サービス業は国内の雇用の6割を提供しており、台湾経済にとって重要な柱だが、雇用の多くは小売・卸売や飲食業に集中している。朱浩によると、台湾のサービス業は今も付加価値が低いという課題に直面しており、今後の深化と革新が付加価値を高める鍵になるという。
また、サービス業が大規模化、国際化する際には経験の複製と人材育成が欠かせず、従来の経営モデルを突破できるかどうかが課題となる。
この5年、商業発展研究院では全国のサービス業の調査を幾度も行なってきた。その結果、少なからぬ小売・飲食チェーンやネット業者がテクノロジーを活かし、在庫や仕入れ、売上を同時に管理するPOSシステムやiPadなどを用いてサービスの質を向上させていることがわかった。
積極的に欧米市場に進出している茶飲料チェーンの「都可(Coco)」では、2010年、企業管理をサポートするERP(企業資源計画)システムを用いて後方の在庫統合に成功し、学習システムを確立して海外従業員を訓練し、数十種の飲料の味と品質を維持している。
1999年設立、傘下に「元定食」や「麻布茶房」など十数のブランドを持つ展圓国際公司も、iPadとPOSシステムを統合し、注文がそのまま厨房に伝わるようにしたことで、回転率を2割高めることに成功した。
だが、こうしたテクノロジーの活用による規模の追求は企業経営の一部に過ぎない。「サービス業にとっては、ハードパワーよりも、特色を出すことの方が重要な次の一歩です」と朱浩は言う。
サービス業の基本は人である。注意深く観察し、人を感動させてこそ厳しい競争の中で生き抜くことができる。転換期を迎えた台湾のサービス業は、消費者のニーズをきめ細かく観察して人々に感動をもたらしてこそ、台湾経済を発展させる重要な力になれるのである。