一面の緑、多様な植生
いつも緑に深く覆われている。これも中級山のもう一つの特徴だ。うっそうと植物が茂って湿度の高い道を何日間も歩き、やっと着いた頂上にも開けた景色はない。それも中級山の人気がない理由の一つだろう。「高山の風景がきれいなのは、冷温帯と亜寒帯に位置し、言わば北海道や北極圏の平地に近い気候帯にあるからです。背の高い針葉樹も見られるし、森林限界の前後では低いヤダケやツツジが広がり、多年草のみが生える岩屑地もあるため、見晴らしの良い風景が続くのです」
「世界の温帯林のうち湿潤な地域はわずか1%、台湾の中海抜地帯はほぼ温帯にありますが、安定して高湿度です」。これが高くうっそうと茂る森林をはぐくみ、中級山を台湾の貴重な自然の宝庫としているのだ。
標高約1700~2500メートルは雲海や霧が発生しやすく、台湾では「霧林帯」と呼ばれている。台湾の登山愛好家にとっても雲海の風景は登山の記憶とともにある。
霧林帯は特殊な生態系をはぐくむ。ベニヒ、タイワンヒノキ、タイワンスギといった貴重な樹木が見られ、近年は農業部(農業省)林業試験所の徐嘉君副研究員の率いるチームが台湾中部を流れる大安渓流域で、台湾で最も高いスギの木(84.1メートル)を発見した。また中央山脈南部の大鬼湖東側にある平野山はタイワンスギの密集地だ。
日本の屋久島に行って、宮崎駿監督のアニメ映画『もののけ姫』に出てくるような神秘的な森を見たいという登山愛好家もいるが、台湾にもそうした森林は少なからずあり、その生態系はさらに豊かだ。例えば東部の玉里山一帯では、ツツジの群生と球状の苔が織りなす景色が、まるで童話の世界のように広がっている。夢のような光景ではあるが、当然そうした場所での登山はより難しくなる。
では、台湾には温帯林があるのに、なぜ季節に応じて美しく色を変える紅葉が見られないのだろう。大学院で森林学を学んだ崔さんがそれを説明してくれた。植物がなぜ落葉するのかと言うと、それは気温が低く乾燥した際に、水分蒸発を避けるためだ。台湾ではそうした落葉樹は、常緑樹との競争に勝てずに増えることがない。台湾で紅葉が見られるのは、新竹県の霞喀羅古道や大雪山の鳶嘴稍来歩道など、北東からの季節風が吹く比較的乾燥した地域だ。

標高1700~2500メートルでは水蒸気が集まって雲海や霧が発生しやすいので「霧林帯」とも呼ばれる。写真は太平山の雲海。