台湾にもアメリカ型のフードバンクが導入された。これを推進してきた陳堅智牧師は、さらに一歩進めて、立法によって「善きサマリア人」を解放し、寄付した人々の法的責任を免除するべきだと呼びかけている。食物を浪費せず必要としている人に届けることができれば、誰もが飢えの不安なく、尊厳をもって暮らせるようになる。
2012年、アメリカでは6人に1人が飢えの不安の中で暮らしており、フードバンクから食物の提供を受ける人の数は2005年から46%も増えた。カナダでも同年、約85万人が食糧をフードバンクからの供給に頼っている。アメリカやカナダではフードバンクがセーフティネットの役割を果たし、生活困窮者を救っているが、台湾ではどうなのだろう。
内政部の統計によると、台湾の低所得世帯の人口は61万4432人で全体の2.6%を占めており、政府の救援・補助の対象となっている。だが、OECDの標準で見ると、台湾では貧困線以下にありながら政府からの援助の対象になっていない準貧困世帯が60万世帯、約170万人に上る。

陳堅智牧師はアメリカ型のフードバンクの運営方法を台湾に導入して台湾全民フードバンク協会を設立し、グローバル・フードバンキング・ネットワークに加入した。
台中で生まれ、21歳で渡米して21年間アメリカで過ごした陳堅智牧師は、4年前に帰国し、赤十字の台中支部で愛心フードバンクを設立した。昨年は独自に「台湾全民フードバンク協会」を設立し、国際NPO「グローバル・フードバンキング・ネットワーク」に加盟し、世界で24番目のメンバーになった。
陳堅智はアメリカで教会やコミュニティのフードバンクのボランティアとして働き、アメリカにおける貧困救済システムの堅固な一面を見てきた。州レベルだけでフードバンクが200以上あるのだ。
台湾では数年前、路頭に迷った少年が食べ物を盗んで起訴されるという事件があり、これに心を痛めた陳堅智は、台湾にもフードバンクのシステムを導入したいと考えた。
アメリカはフードバンク発祥の地である。1967年にカトリック教徒のジョン・ヴァンヘンゲルが生活困窮者から、スーパーの外のゴミ箱にまだ食べられるパンなどの食品が大量に廃棄されていていると聞き、フードバンクの設立を思い立った。そしてアリゾナ州フェニックスで世界初のフードバンク「セントメアリーズ」を設立し、廃棄された食物を倉庫に集めて生活困窮者団体に提供し始めた。
それから30年、ヴァンヘンゲルが2005年に逝去するまでの間にフードバンクは全米各地に広がった。現在最大のフードバンク「フィーディング・アメリカ」と「グローバル・フードバンキング・ネットワーク」の前身はヴァンヘンゲルが設立したものだ。
台湾では現在、宗教団体や社会福祉団体など20余りの組織がフードバンキングサービスを行なっているが、すべてが「フードバンク」という名称を掲げているわけではない。それぞれの運営方式も異なるが、生活困窮者に食糧を提供して家庭の支出を減らし、その分を子供の教育や医療などの支出に当ててもらうというのが目的である。
台湾全民フードバンク協会が扱う食品の9割以上は寄付されたもので、その多くは賞味期限が迫ったものである。陳堅智によると、協会は実際の物品のみを提供しており、寄付金も受けるが、集まった現金で食糧を購入することはない。現金では寄付で集まらない物品——例えばお年寄りの杖や老眼鏡、おむつなどを購入している。「廃棄される運命にある食品を必要とする人に提供するというのがフードバンクの精神です」と陳堅智は言う。

実践大学が設けるフードバンク関連の講座で、学生たちは5月28日の世界飢饉の日に小規模なフードバンク活動を行ない、食糧を集めてコミュニティの高齢者に配布した。
世界の食品浪費はどれほど深刻なのだろう。
イギリスのメカニカル・エンジニアズ・インスティテュートの1月の調査発表によると、世界の食糧の3〜5割は、その生産や販売の過程で浪費されており、12〜20億トンの食品が直接ゴミ処理場に送られているという。イギリスの食品工業評論家トリスタム・スチュワートは、著書『Waste: Uncovering the Global Food Scandal』の中で、イギリスの食品浪費の割合は人口比率から言うとアメリカの8倍に上り、その結果、イギリスの生活困窮者400万人が安定的に食糧を得られなくなっていると指摘した。
では、台湾の状況はどうなのだろう。家扶基金会の推計によると、2010年に国内で浪費された食品は275万トンに上り、これは低所得の26万世帯が20年間食べられる量だという。
台湾全民フードバンク協会が昨年10月に運営を開始して以来、一般市民からの寄付の申し出は多数あるが、すべての食品が保存に適しているとは限らない。5月にはパン2万個の寄付を受けたが、現在の人手や空間では全てを引き受けることはできず、他の団体に声をかけて、それぞれ自分たちで取りに行ってもらうしかなかった。冷凍ケーキ200ホールの寄付があった時は、幸い嘉義の倉庫に保存できたが、それがなければ対応できなかった。
陳堅智が描くフードバンクの青写真では、物資の手配を行なう本部の他に、各地に支部が必要である。食品をすぐに支部が引き取れば、輸送過程で傷つけることもなくなる。また、地域の派出所や里事務所などは、生活困窮世帯の所在を掌握しているため、将来的にはこうした機関に小型のフードバンクを設置することも考えられる。
現在、6人の国際ボランティア学生が全民フードバンク協会で実習している。香港科技大学から来た李梓琪によると、香港のフードバンクでは大部分の物資を購入しているという。台湾での実習を通して、食品の寄付募集や分配の仕事に参加でき、多くを学ぶことができるという。

ポスト福祉国家の時代、フードバンクは経済的弱者の尊厳を守る重要な存在となる。
6月1日、台北実践大学の学生たちは食品の寄付を呼びかけ、嘉義大学の学生は企業から寄付を受けた食品を必要な人々に配った。この二つの活動には陳堅智が関係している。彼がアメリカからフードバンクの理念と運営方法を導入すると、多くの大学から講義や指導を依頼されるようになったのである。
実践大学民生学部老人センターでは「災難社会サービスと物聯ネット応用」というカリキュラムを設け、フードバンクの食糧募集と配布、物資調達などのメカニズムを教えている。ここで授業をする家庭研究および児童発展学科の李孟芬・助理教授によると、フードバンクは学科を越えた応用科目で、授業では複数の学科の学生がグループになってプロジェクトを実施しているという。コミュニティの物資を調査して資源地図を描いたり、情報プラットホームを構築したり、プログラムを作成したりしている。
李孟芬は、フードバンク運営にはさまざまな専門分野の者が協力する必要があるという。ストック管理の知識がなければ妥当に保存できないし、物流の知識がなければ食品を適時かつ安全に輸送することはできない。
問題は、いかに物資を募るかである。家庭研究および児童発展学科1年生の女子は「世界飢饉の日」に物資を募集する計画を立て、校内や住宅地、フェイスブックなどで大々的に宣伝したところ、2週間で粉ミルクや即席麺など1000点近い食品を集めることができた。彼女たちは集まった食品の中から、賞味期限未表示のものや、包装が破損したものを排除し、物資を必要としている高齢者に配布した。
嘉義大学では陳堅智と協力して「企業倫理」の講座を設けている。同大学のマーケティングおよび物流・運輸管理学科の董維・副教授によると、これは台湾で初めてフードバンクと市民の社会的責任を経営学部のカリキュラムに取り入れた講座だという。この講義を履修している120人の学生は、1ヶ月をかけて市場や街を歩き、低所得世帯の生活状況を調査した。そして嘉義の企業や商店を訪ねて賞味期限が迫った食品を寄付する意向を尋ねた。

寄付の多寡で分けることに意味はないが、企業からの寄付は量も種類も個人からのそれを大きく上回るため、フードバンクの需要にかなう。ただ、食の安全に関わるトラブルが生じた場合は寄付した側も責任を負わなければならず、そのため多くの企業がなかなか踏み切れずにいる。
そうした中で、昨年はカルフールとケロッグがミューズリー1万箱を慈善団体に寄付し、そのうち6000箱は全民フードバンク協会に贈られた。カルフールでは継続的にオートミールや缶詰、粉ミルク、成人用おむつ、健康食品などを寄付しており、カルフール文教基金会の黄怡君・幹事長によると、昨年以来、同社は800万元相当の食品を寄付しているという。「賞味期限が迫った食品の寄付は台湾では始まったばかりです。フードバンクに対する企業の理解はまだ浅く、接触も多くありません」とカルフール文教基金会の呉柏毅・執行長は話す。
これに比べると、欧米のスーパーは早くからフードバンクとパートナーの関係を築いてきた。
アメリカの大手スーパーであるクローガー、セーフウェイ、スーパーバリュー、ウォルマート、ターゲット・コープはいずれも長年にわたってフードバンクと協力しており、何万トンもの食品を寄付している。中でもクローガーは、アメリカ最大のフードバンクシステムであるフィーディング・アメリカの創設メンバーであり、理事会のメンバーでもある。
フランスのカルフールは、2002年からフードバンク連盟へ不定期の寄付を開始し、冷凍設備や物流にも資金を提供している。同連盟は2011年に74万人に1億7800万食分、合計9億トン近い食品を配布した。
呉柏毅によると、台湾カルフールも2年前にこれを実施しようとしたが、当時台湾にはまだ協力できる団体がなかった。そうした中で、昨年全民フードバンク協会が正式に「グローバル・フードバンキング・ネットワーク」のメンバーとなり、協力関係が結ばれたのである。
賞味期限の迫った食品をフードバンクのシステムを通して必要としている人に配布できれば、企業にとっては自他ともに利益を得られることとなる。ただ、呉柏毅が心配するのはフードバンクの管理や流通にトラブルが生じると、食品に問題が起きる可能性があり、そうなると寄付をした企業が責任を負わなければならないことだ。
「善きサマリア人」を罰しない「フードバンク法を定めるべきです。寄付をした企業の法的責任の免除と税制上の優遇を定めれば、企業には大きな誘因になります」と呉柏毅は言う。
フードバンクに関する台湾の立法は西洋より10年遅れている。1996年10月、アメリカではビル・エマーソン食糧寄付法(善きサマリア人の法)が成立した。聖書に出てくる、ユダヤ人を助けるサマリア人に倣って善を行なうことを奨励するもので、同法の精神は、善意で寄付した食品が原因でトラブルが生じても、故意や重過失がない場合、寄付した側の法的責任は問わないとする点にある。
近年は物価が上昇する一方、給与は上らず、失業率も高止まりしているため、フードバンクが注目されるようになり、台湾の立法院でも法の制定のために公聴会などが開かれている。
現在、民進党の立法委員・林佳龍が発起し、34人の委員が連署した「フードバンク法草案」は委員会の審査に付されている。その重点は以下の通りだ。①県・市政府は財政状況と需要にかんがみ、自ら、または公益団体に委託してフードバンクを運営する。②寄付品に問題が生じ、他者の権利が損なわれた時、寄付者に故意または重大な過失がない場合は刑事および民事責任を負わない。③寄付物資の実際価格で税の控除を認める。④中央主管機関は全国的なフードバンク情報システムを設置し、県・市を越えた資源補完に供する。⑤県・市の衛生局はフードバンクの衛生安全検査に積極的に協力する。
立法を求める声に対し、中央の主管機関である内政部は既存の「社会救助法」に「実物給付サービス」という章を加える方向で検討している。7月23日以降は、新しく設立された政府の衛生福利部がこの業務を担当することとなる。
「社会救助法」改正案がまだ立法院に提出されていない現在、民間団体は、企業の寄付に多くの誘因を設けるべきだと提案している。例えば陳堅智は、寄付の項目や賞味期限などの条件によって税率を変え、賞味期限の迫った食品は控除対象とするべきではないと主張する。さもなければ、良からぬ企業はフードバンクを賞味期限切れ食品の廃棄手段としてしまう。
アメリカでは1975年に、連邦政府が全米各地に新たに設けられた18のフードバンクに5万米ドルを提供して協力した。これと同じように「国はフードバンクを政府の責任の一部ととらえるべき」と陳堅智は言う。アメリカでは現在、政府がフードバンクに資金の5〜15%を提供している。
だが、欧州では政府が大きな役割を果たしてはいない。慈善団体が配布する食糧は、アメリカでは年間100万トンなのに対し、イギリスでは年に1.5万トンで食糧消費全体の1〜3%に過ぎないのである。
スチュワートによると、イギリス政府は社会福祉制度で貧富の格差を是正できると考えており、フードバンクの機能をあまり重視していない。一方のアメリカではフードバンクを社会の集団互助と考え、福祉ではなくヒューマニズムととらえている。
「台湾ではフードバンクは始まったばかりなので、後から補うのではなく、先に法令を整えるべきです」と陳堅智は言う。ポスト福祉時代を迎えた台湾で、私たちはフードバンクを育てていかなければならない。