「私たちはこの島で、ずっとこれらの古く美しい大樹と暮らしてきたのです」と語るのは、「找樹的人――巨木地図プロジェクト」を主宰する徐嘉君だ。
夏至前のあたたかな日差しが注ぐ樹冠層から、チャバラオオルリの高いさえずりが聞こえてくる。頭を挙げて拉拉山神木園区に聳え立つ神木を見上げれば、思わず「ああ、高い!」という声が漏れる。
台湾は面積の60%を森林が多い、さらに3000メートルを超える峰が260を超える。それらの深山で数千年にわたって生きてきた巨木は、台湾の貴重な自然遺産と言える。

徐嘉君は、どの樹木との出会いも天の定めた縁だと考えている。
台湾は神木の宝庫
小雨が降る中、私たちは宜蘭県の福山植物園を訪れた。クスノキ科の大葉楠には十数種の着生植物がついていて「これは福山植物園の標準的な景観です」と、樹冠層の調査をしていた林業試験所アシスタント研究員の徐嘉君は言う。
樹林に深く入っていくと、上部が崩れ落ちている木や枯れてしまった木もある。「平和なように見える樹林ですが、実は黙々と戦いが繰り広げられています。特に幹囲20センチ以下の樹木の間では、陽光や水、空間を巡って激しく争っています」と徐嘉君は言い、「ですから樹冠層まで突き抜けた巨木は林の中の勝者なのです」と続ける。
「台湾の神木(巨木)は世界的に見ても特色があります」と徐嘉君は言う。人の手による過度の開発で、世界的に原生林が保存されている国は多くなく、未開発の到達しがたい地域に多い。ただ台湾は生活が便利なうえに原生林がよく保存されており、都市部から2~3日で原生林に深く入ることができる。例えば、世界で最も高いクスノキは台湾南投県信義郷の神木村にあり、また林務局が発表した十大神木の2位に挙げられる鹿林神木は阿里山公路(台湾18号線)の傍らにあって、容易に近づくことができる。
徐嘉君が言う「巨木」とは主に高さを基準とする。2016年に彼女は成功大学測量・空間情報学科の王驥魁教授と「巨木地図プロジェクト」を実施し、台湾で最も高い樹木を探した。
今年(2023年)1月には、徐嘉君は7日をかけて大安渓上流のタイワンスギを探しに行った。高さは84.1メートルで、現在台湾で最高、東アジアでも一番高く、「倚天剣」と名付けられた。
アメリカで、樹高60~70メートルのベイマツに登ったことのある徐嘉君によると、これほど高いベイマツも実は年老いていて、多くの枯れ枝や折れた枝があったが、倚天剣は健康そのものだという。
「倚天剣」はタイワンスギで学名にはTaiwaniaが冠されている。20世紀の初頭に植物学者が発見し、日本の学者・早田文蔵が正式に発表した。台湾大学森林学科を退官した蘇鴻傑・元教授によると、タイワンスギは古い地質時代の遺存種と考えられ、針葉樹の王者と言える。
理論上、タイワンスギは枝が少なく、葉は密ではないとされている。徐嘉君によると、倚天剣は下から見上げると一般の樹木と変わらないが、実際に登ってみると、どの枝も他の樹木の幹と同じぐらい太い。おそらく風を避けられる谷に生息し、水が豊富なため着生植物が茂っているからだと考えられる。

一本の木が一つの生態系を成す。
高々とそびえる神木
アメリカにある世界最高の樹木である「レッドウッド」(セコイアメスギ)を見に行ったことのある徐嘉君は、それは実に壮観だったと言う。「しかし台湾の巨木は雰囲気が違います。台湾は生態系が複雑で、着生植物や地表の植物の種類が多いので、生物多様性が高いのです」と言う。
倚天剣を見てみると、高さ50メートルの位置にようやく一本目の枝があり、樹冠層の横幅は34メートル近くある。これほど巨大な空間があると、着生植物は十分に生長でき、動物も活動できる。「これは私が見た中で最も密度の高い樹冠層です。緑花宝石蘭(Sunipia andersonii)がびっしりと覆い、十数種の着生生物の中には一般の杉ではあまり見られないナンカクランがあり、またリスやムササビが活動しています」と言う。
林務局は1998年に第3回全国森林資源調査を行ない、幹周りの寸法を基準に十大神木(巨木)ランキングを発表した。その第2位に選ばれたのは新中横公路にある鹿林神木だ。徐嘉君がこの木に登った時は、樹冠層に31種類の着生植物を記録した。高さ4メートルに達するニイタカトウヒや、小さな喬木と呼べる大きさでカエデの仲間の台湾紅榨槭(Acer morrisonense)や玉山假沙梨(Photinia niiitakayamensis)などが着生し、まるで空中庭園のようだったという。

リモートセンシング技術LiDARを用いれば、地形図から巨木を見出せる。(徐嘉君提供)
宝くじに当たったようなもの
徐嘉君は、巨木は神木だと考えるが、それほど樹高も樹齢も高くなれたのは、その木が「宝くじに当たったようなもの」と言う。
まず、林務局の試算では台湾には約19億本の樹木があるが、その中で高さ70メートルに達する高樹となる機会は100万分の1に過ぎない。
次に、樹木の生理という面から見ると、これほど高い木となると根から吸い上げる水は行き渡らず、樹冠層では葉から吸収する水分が必要となる。例えば、台湾の巨木のホットスポットである雪山山脈の大安渓流域や、中部の丹大山地、南部の大鬼湖山地などは、いずれも風が避けられ、湿度が高い雲霧林という条件がそろっている。
また地質面では千年、万年の単位で見なければならない。例えば高さ79.1メートルの桃山神木がある場所は数千年前に崩落が生じて平らになった土地と推測され、厚い地層があるために巨木群が形成されている。渓谷にある神木軍は豪雨による土石流に流されやすく、いずれも雷にも打たれたことがあるため、厳しい環境にさらされ、生きているだけで奇跡だと言える。
南投県丹大地域の「卡阿郎巨木」は高さ82メートルだが、傾斜40度という、人も立っていられないほどの険しい渓谷に生えている。徐嘉君が2022年にこれを測量した時、近くの渓谷に倒れていたヒノキの巨木の上に作業台を置いた。この巨大なヒノキの倒木は、大雨の時に押し倒されたと見られる。そこから数メートル離れたところに立つタイワンスギの卡阿郎巨木は何とか難を逃れており、非常に幸運だったと言える。
高さ72メートルの南坑渓神木は、雪覇国家公園の大安渓230林道から900メートル下りなければ見ることはできない。徐嘉君は、南坑渓神木から遠からぬところにある土壌の柔らかい崖の上にもう一本のタイワンスギの神木が立っているのを見た。山の半分はなかば崩れかかり、その幹の半分は土に埋まった状態だが、木はまだ生きている。長い時間の流れの中で、この木は数々の天災や落雷に見舞われながらも堂々とそびえ、その近くの仲間たちも懸命に生きている。「いま私たちによって発見され、測量されたこの木は、本当に宝くじ当選者のようなもので、この木を訪ねられる私も宝くじに当たったようなものです」

「巨木地図プロジェクト」チームが巨木地図の座標を公表したことで、多くの登山愛好家が神木を訪れるようになった。(李香秀提供)
隠れた神木集落
全台湾の400株を超える巨木を系統だって調査してきた神木専門家の黄昭国によると、台湾最大の神木は幹囲が20.5メートル、大雪山230林道35キロ地点にある大安渓神木(または大雪山神木、巨無覇神木とも呼ばれる)で、実に迫力がある。
1999年9月21日の台湾大地震の後、230林道は大規模に崩落し、続いて幾度も水害に遭った。黄昭国は大安渓神木を懐かしく思い出した。2010年には道路状況が確認できなかったため、彼は全国の3000メートル以上の百岳を16回も登った高山ガイドの周業鎮と、登山に詳しい黄永利に依頼して一緒にこの木を見に行った。
果たして、大安渓神木まで2キロの地点に二つの断崖があり、草も生えない斜面を滑り落ちれば戻ることもできず、百岳の80以上を制覇した黄昭国も足の力が抜けてしまった。ちょっと気を抜くと100メートルの峡谷に転落してしまい、ヘリの救助を求めなければならなくなる。
その時、彼は手を合わせて大安渓神木に「どうかお姿を拝みにいかせてください」と祈った。すると足に力が入り、さらに2時間を歩いて緑の巨木を拝むことができたのである。林務局の倉庫に泊まった時、今度は帰路が心配になり、3人そろって神木に祈った。すると順調に山を下りることができたのである。「これでも神木に魂がないと言えるでしょうか」と黄昭国は言う。
20年余り前から神木の調査を開始した彼は、休日は常に山で過ごしている。本職は「自由時報」紙の記者で、彼が担当しているエリアは賀威神木群がある三峡エリアだ。ここには林務局が公表する神木園区の他に多くの隠れた神木があることを彼は発見し、それ以来、神木愛好家となったのである。彼は樹木の幹囲によって、6~9メートルを巨木、10~12メートルを神木、12メートル以上を超級神木に分類している。
タイワンベニヒノキやヒノキはいずれも雲霧林を好み、台湾の拉拉山や棲蘭山、阿里山神木園区などはいずれも標高の高い雲霧帯にある。一年を通して湿度が高くて陽光も十分に注ぐ。晴れの日でも午後になると雲霧に覆われ、あるいは霧雨が降る。夜になると雲霧は晴れ、星空が見え、まさに仙境、巨木の生長にふさわしい。
黄昭国にとって最も美しいのは司馬庫斯の神木で、神木群の中の「親分」と形容する。標高1650メートルの雲霧林にあり、巨大な神木の周囲には大小さまざまなベニヒノキが生息し、巨木はまるで号令を発する王者のように見える。
「一人の人間に何かできるのは長くても百年ですが、神木はいくつもの天災を乗り越えて生きてきました」黄昭国は、これらの神木には頭を下げたくなると言う。拉拉山にある幹囲最大の18メートルの巨木は、4本のベニヒノキと合体した木で、一部の枝は枯れて白くなっているが、緑の葉を延ばしている幹もあり、生老病死と懸命に闘う姿に頭が下がるのだという。

2023年、徐嘉君のチームは、台湾で現在までに知られる最も高い84.1メートルの巨木を発見し、「倚天剣」と名付けた。(李香秀提供)
神木に親しむ
行政院の山林開放政策により、山林に親しみ、また神木群を訪ね歩く人が増えている。
黄昭国は神木への到達の難易度によって、普通レベル、制限レベル、挑戦レベルに分けており、それぞれの能力や体力によって行ってほしいと考えている。
例えば普通レベルの拉拉山、大雪山、阿里山、棲蘭山、向陽神木園区、司馬庫斯、鎮西堡、赫威神木園区などは、1~2日で往復でき、宿泊設備もあるので、一般の人でも到達できる。
制限レベルの神木に近づくには3日かかり、専門的なガイドの同行が必要となる。例えば司馬庫斯上方の白雪山神木群、観霧の尤命神木群などだ。また、花蓮南二子山や新竹の唐穂山神木群などの挑戦レベルの場合、いずれも急流の危険なエリアを通るため雨季には通行できず、冬か乾季を待たなければ行けない。
台湾で3番目に高い桃山神木には徐嘉君も当初4回挑戦したという。経緯度しかわからない中、森や渓流、断崖などを通り、高さ2~3メートルのヤダケの中を通り抜け、ようやく霧の中に見つけたのである。
「どの巨木にも特色があり、出会えれば縁があるということです」と、樹木探しの専門家である徐嘉君は語る。この台湾という島には魅力的な巨木の生態があり、私たちの訪れを待っているのである。

無数の風雨を乗り越えて堂々と聳え立つ卡阿郎巨木、樹高は82メートルである。(徐嘉君提供)

神木の達人、黄昭国は台湾各地で60以上の神木群を発見した。

宝島・台湾は、神木に親しめる素晴らしい土地だ。