「愛すべき我が家。美しく満ち足りた私の家。兄弟姉妹は仲睦まじく、父と母は優しい…」という「ホーム・スイート・ホーム」の中国語バージョンの歌詞を覚えているだろうか。
いつの頃からか、家のイメージはこの歌詞のような伝統的な姿ではなくなった。
人口構成と社会の変化によって、家の意義や姿はすでに質的にも量的にも変化している。家は一つとは限らず、家族構成も婚姻や血縁と必ずしも関係があるとは言えなくなった。
家庭が変わった。変わらないのは、親密で帰属感のある場としての家庭への期待であろう。
旧暦9月9日の重陽節(今年は10月23日)が近付いてきた。内政部の最新の統計によると、全国の100歳以上の高齢者は昨年の1489人から1941人へ、約3割、452人も増えた。世界的に寿命は伸びている。日本では人口1億のうち100歳以上の人が4万7000人、米国では人口3億のうち7万2000人だ。
人は長生きすればするほど家庭は小さくなる。行政院主計処が昨年末に発表した10年に一度の「人口および住宅国勢調査」を見ると、台湾の家庭が分化し、解体しつつある趨勢が読み取れる。

単独世帯の生活形態はさまざまだ。長年シングルの黄さん(右から2人目)は仕事の関係で台南と台東にそれぞれ家とルームメイトを持っている。両親はすでに他界し、兄弟も各地に離れて暮らしているので、家族より友人の方が親しい関係にある。写真は台東にある彼女の家。
まず全体の構造を見よう。主計処の統計では、全台湾の世帯数は741万、10年前より94万世帯増えた(14.6%成長)。世帯構成で最も多いのが、両親と未婚の子女のみという家族で35.8%、10年前より5.7%減少、次が一人親世帯で22%(162万世帯)、その次が夫婦2人だけの世帯で11%(81万世帯)、三世代同居世帯の10.9%(80万世帯)を超えている。
世帯構成人数を見ると、三世代同居かどうかにかかわらず、5人以上はわずか8.7%、6人以上は7.3%で「大家族」は減少している。
台湾の家庭の変化の第一の趨勢は、世帯規模の縮小である。1990年、台湾の一世帯の平均人数は4人だったが、2000年は3.3人、2010年は3人となった。
子供が独立して夫婦だけとなった世帯、それに子供のいない共働き世帯。こうした夫婦だけの2人世帯がこの10年で最も増加率が大きく、62%増えている。中でも老夫婦のみの世帯が増える傾向にある。
内政部の調査からも同様の傾向が読み取れる。65歳以上の老夫婦と子女が同居する割合は、1986年の70%から2005年には61%へ下がり、2009年には68%へ回復している。一方、夫婦だけの世帯の割合は、1986年は14%、2005年は22%、2009年は18.7%で、老後は子供の世話になるという伝統的な観念が薄れていることがうかがえる。
学界の研究でも、二世帯同居は親孝行か否かとは無関係で、老夫婦だけで暮らすことは老後の選択肢の一つとなっているとされる。
一方、住宅環境や不動産価格の高騰も、三世代同居には不利に働いている。台湾の一般的な集合住宅の多くは小規模家庭向けで、子供を持つ若い夫婦が親と同居したくても、実際には難しい。
また、台湾では社会全体が個人主義へと過度に傾き、嫁姑の摩擦や生活リズムの違い、互いの空間の尊重、子供との関係などの価値観の変化が、高齢夫婦の居住環境選択に影響している。
中央研究院社会研究所の章英華研究員によると、20年前は一家の子供の数は平均3~4人で、親はその中の一人と同居することが多かった。だが今は子供の数が減り、子供を持たない夫婦も増えたのだから、老後を子に頼ることはできない。子供が結婚して親元を離れ、それぞれの生活習慣を形成した後は、再び同居することは困難になる。

円満で幸福な家庭は、自ら努力して築いていくものだ。
もう一つ注目すべきは一人親家庭の増加だ。
一人親世帯は全世帯の7.6%、56万世帯だが、10年前より50%増加している。世帯主は女性が74%、男性が26%で、女性の一人親家庭が10年前より65%増加している。
この原因について台湾大学ソーシャルワーク学科の林万億教授は、現代の親は子供の親権を以前ほど強く求めなくなり、母親の経済力が許す限り、裁判所は親権を母親に認める傾向があると見ている。
林万億によると、一人親家庭増加の要因は、離婚率の上昇と有配偶率の低下にあるという。台湾の離婚率はアジア一高い。10年来、その数字は下がりつつあるものの、有配偶率は10年前の58.3%から2011年には56.1%へ下がり、一人親家庭が増えている。
東海大学社会学科の簡春安教授はこう指摘する。女性の教育レベルが高まって経済的に独立し、婚姻に依存することはなくなった。テクノロジーも結婚に影響を及ぼしている。ネットで男女の付き合い方も変わり、現実の結婚生活では満たされない願望をバーチャルの世界に求めることができるようになり、これが浮気の手段にもなっている。
簡春安は、浮気の相談を多数受けているが、ネット上のチャットから始まり、収拾がつかなくなるケースが多いと言う。
また、社会全体のモラルが低下し、従来はあった離婚へのブレーキ機能が働かなくなっている。以前は、忍耐は美徳とされ、浮気をした夫を取り返すために妻が努力することもあったが、今はこうした行為は保守的で愚かなこととされるようになった。
「その背後にあるのは個人主義の台頭です」と簡春安は言う。婚姻生活をうまく続けていくには、自己主張をせずに苦労に耐える覚悟も必要だ。しかし、今の人々は勉強でも苦労をしようとはせず、運を頼りに成功を手に入れようとするのだから、結婚しても気が合わなければ別れることとなる。

離婚率が高く、親の世代が離婚すれば、下の世代はますます結婚への枷がなくなり、結婚という道を選ばなくなる傾向が見られる。
第三の変化は、単独世帯の増加だ。主計処の統計によると25~29歳の未婚率は10年前は57%、2010年は73%に達する。30~34歳の未婚率は10年前は27%、2010年は41%である。これと同時に、ほとんどの世代で未婚率が上昇しているのである。
林万億によると、結婚適齢期で結婚していない人が今後結婚する可能性は低く、女性は年齢が高まるに連れて婚姻市場では弱者になるという。
「簡単に言うと、この10年で台湾の家庭構造に逆転するような変化は見られません。ただ、非婚率と離婚率の持続的上昇は非常に大きな影響を及ぼします」と林万億は言う。
昨年、教育部が18歳以上の国民を対象に行なった調査によると、独身より結婚した方がよいと答えたのは58%で、女性が「結婚は人生において重要なこと」と考える比率は男性のそれよりずっと低く、女性が結婚しようとしない理由は注目に値する。
「非婚、特に女性のその現象を変えるのは困難です」と林万億は言う。非婚は社会の価値観や雇用、教育など社会全体の環境の変化を反映している。例えば、今は家庭を持たなくても事業に成功できるし、昔は合法的な性関係は婚姻を前提としたが、今は大学生の4割が性経験があるとされ、異性との同居も親から責められることは少なくなり、結婚の必要性はますます低下している。
また、台湾では今も跡取りを産むことを求められるが、若い世代は子育てにかかる資金を心配してなかなか産む決心がつかない。産まないなら結婚する必要もない、と考えるのである。
非婚の増加は世界的な傾向だ。昨年8月の英「エコノミスト」誌はアジア女性の「逃婚」現象を特集した。この30年、日本、台湾、シンガポール、香港などで未婚率が上昇している。米国でも成人の半数が未婚で、1950年代より22%増えた。

三世代同居家族が減っていく。写真の高齢の李さんと子供たちは同じマンション内にそれぞれの家を持ち、互いに独立しつつ助け合って暮らしている。
老夫婦だけの世帯、単独世帯、一人親世帯の増加に、政府や国民はどう対応すればいいのだろう。
林万億は、老夫婦の一方が病気になった時、その介護が大きな課題になると言う。現在、台湾の高齢者の大半は家族や外国人介護者がケアしている。政府は地域でのケアや高齢者への食事宅配などを推進しているが、対応が遅すぎる。外国人介護者に依存する政策を早急に調整し、介護は家族ではなく、公共化、地域化して個人の経済的負担を減らし、国民の雇用機会を創出しなければならない。
介護需要の増加を見て、労働委員会は2013年から試験的に「介護外展サービス計画」を実施することとなった。NPOが外国人介護者の雇用主となり、一般家庭は時間単位でサービスを申請する。外国人介護者の住居や保険などについてはNPOが責任を負うというプランである。
「老夫婦世帯は限られた資源をうまく活用することです」と東海大学ソーシャルワーク学科の彭懐真准教授は言う。体力がなければ、無理をして三食自炊する必要ななく、洗濯なども外へ頼めばいい。
簡春安は、老夫婦は夫婦仲を改めて大切にすることで子女の負担を軽減できると言う。年を取って病気になれば子供たちの大きな負担となる。夫婦仲を維持するために、彼はどんなに忙しくても週に一回は妻と一緒にハイキングに行くようにしている。

台湾では夫婦二人のみの世帯の数が10年前に比べて62%と最大の増加幅を見せている。昨年の中華民国百年に結婚した劉淑怡さん夫妻は、二人で海外旅行を楽しんでいる。
高齢になれば病気は避け難い。彭懐真は、高齢者にとっては、病気への適応と、外部へサポートを求めることが重要だと考える。だが、台湾の男性は保守的すぎて、なかなか人に悩みを打ち明けられず、サポートを求められないことが多い。
数年前、悲惨な事件が起きた。83歳の男性が、妻がパーキンソン病に苦しむのを見るに見かねて、妻の頭にドライバーを打ちこんで死亡させたのである。仕事で成功した高齢男性の多くは喜んで人助けをするが、自分の問題で他人に迷惑をかけたくないと思い、外部にサポートを求められず、ストレスを貯め込みやすいと彭懐真は指摘する。特に男性は、自分と妻の老いを受け入れ、堂々と社会にサポートを求めることを学ぶべきだと言う。
一方、非婚者や子供を産まない夫婦の増加については、少なからぬ国がこの傾向に歯止めをかけようと努力してきたが、この流れを変えるのは難しいと林万億は言う。政府にできるのは、保育や教育の負担を軽減することだ。北欧では独身で出産する人が多く、離婚率も再婚率も高いのは政府が大きな役割を果たしているからだと言う。
その話によると、重要なのは結婚と出産を分けて考え、未婚での出産を平等に扱うことだ。台湾では未婚の親が産む子供が年2万人、その親の多くが未成年だが、欧州では親の多くは成人女性だ。スウェーデンでは4割の子供が同棲カップルの間に産まれており、子供たちは既婚者の子供と同様に扱われ、家庭の構造も安定しているのである。
台湾社会は「未婚の出産は不幸なこと」という観念を変え、結婚はしたくないが子供は産みたいという成人女性をサポートするべきである。

結婚30年を超える陳炳堅医師夫妻。息子たちはすでに結婚して独立し、一人はアメリカに、一人は研修医の宿舎にいるが、エンプティネストでも夫婦の仲が変わることはない。
家族の形が多様化する中で、幸福家庭協会理事長を務める彭懐真は、どの家庭でも幸福が見出せるもので、幸福は営んでいくものだと語る。
自由と、家族に頼ることとの間にバランスを見出さなければならないと彭懐真はアドバイスする。老夫婦は子女との関係のバランスを保ち、独身者は兄弟や友人との良好な関係を作ることで、困った時に助けを求めることができる。
「忙しい現代社会で家庭の機能が縮小していく中、家族に寄せる心を失ってしまえば家も崩壊してしまいます」と彭懐真は言う。親子間や夫婦間の関係も、当り前だと思っていては維持できず、心を尽くして営む必要がある。また、夫婦仲のために親や兄弟をおろそかにしたり、子供のために夫婦仲をおろそかにするといったことも、家庭がうまくいかなくなる要因である。
「週に何時間ぐらい、子供や妻/夫のために使っているでしょう」と彭懐真は問いかける。家族のための時間は暇な時に取るのではなく、あらかじめスケジュールに組み入れておくべきだと言う。彭懐真自身は、妻が米国で息子夫婦と同居して孫の世話をしており、自分は毎日時間通りに帰宅すると夕食を作り、近くに住む娘夫婦と一緒に食事をしている。
また、週に2回は7人の兄弟に写真を添えて近況報告の短いメールを送り、一人ひとり電話をかける時間を節約している。両親が亡くなって以来、兄弟の関係を維持するための彼の秘訣である。
「家庭を維持する二つの柱の一つは心や気持ち、もう一つは理性的なコミュニケーションです」と彭懐真は言う。夫婦間や親子間に起こる問題は複雑で処理も難しい。普段からコミュニケーションを取っていないと、小さいことが積み重なって大きな問題となり、後から処理するのは困難になる。
幸福を得るのは決して難しいことではないが、当り前に得られるものではなく、黙っていて手に入るものでもない。自ら努力して営んでこそ、幸福な家庭を造っていけるのである。