台湾の食文化と創意の媒体に
クロワッサンはフランス語で「新月」または「三日月」を意味する。台湾では「牛角麺包(牛の角パン)」とも呼ばれる。だが、「宜可頌」では、フィリングや製法の違いに応じて形も様々だ。桜エビや葉ニンニク&ソーセージ入りは棒状、タロイモやチャーシュー入りはロールケーキのよう、ガチョウ脂が香るネギや明太子入りは螺旋状だ。
タロイモ入りを食べたある華人客がSNSで「神がかっている」と表現したという。朱さんは、タロイモは非常にアジア的な食材だとし、普通クロワッサンをこのようには形容しないことから、これぞ「越境」がもたらす驚きかもしれないと語る。
クロワッサンの本質的な構造が共通している以上、伝統派であれ革新派であれ、クロワッサンは台湾の食文化と創意を表現する媒体となっている。台中の「獻‧烘焙」では丸型のものが看板商品だ。同じく台中のクロワッサン専門店「H.YEN」では、抹茶クリーム溢れるクロワッサンのほか、クロワッサンのピザやソフトクリームもある。台北のカフェ「漫拾」ではタロイモペースト、プリン、タピオカを使う。こうした新奇な形や味は、消費者の既成概念を打ち破ってくる。
定番であれ、斬新な味であれ、台湾で咲き誇るクロワッサンを、ぜひ一度味わってはいかが。

ニューヨークのチャーシューパンに敬意を表したチャーシュークロワッサン。

台湾ではシナモンロールブームが巻き起こっており、シナモンクロワッサンも当然ながらその波に乗ったものだ。

旬のマンゴーをあしらったマンゴークロワッサンは、高級路線のクロワッサンだ。

ガチョウ脂が香るネギを練り込んだクロワッサンは、台湾の日常的なネギパンから着想を得た。

朱安廷さんは「良いクロワッサン」とは、台湾人が好むフィリングを備えつつ、そのフィリングとクロワッサンの本質がうまく調和しているものだと考えている。