勇ましく鞘から剣を抜き、ハサミ型の刃で空を切ると、大小のシャボン玉が舞い出す。歓声が上がり、質問が次々飛び出す。年代を問わず人気のシャボン玉は、つかの間の存在だが奥が深い。
シャボン玉は水分子の表面張力と環境とのバランスそのものである。光が薄い膜で屈折して七色に輝く。シャボン玉の舞に、見る者の心も軽く、晴れやかになる。
シャボン玉を作るのは難しくないが、テクニカルなシャボン玉を作り、そこに無限の可能性を生み出すのは容易ではない。台湾のシャボン液の老舗・和盛企業、その二代目の林劭錡と、シャボン玉を仕事にする名人・蘇仲太が手を組んだ。不思議なシャボン液と絶妙なテクニックは、どんな楽章を奏でるのだろう。
シャボン液をつけたアクリル管で机に大きなシャボン玉を3つ作り、上にもう一つシャボン玉を重ねて三角錐にする。煙を入れたアクリル管で上のシャボン玉の中に煙玉を吹き込んでから、上のシャボン玉を破ると、煙玉が気流に乗って飛び上がる(ドラゴンボール)。大きなシャボン玉に1cmほどの距離から息を吹きかけると、大玉の中に小玉が次々生れる(泡中泡)。シャボン玉を1つ作り、中心に向かってもう一息吹くと、小さなシャボン玉が大きなシャボン玉を突き抜けて出てくる(ハートアンドアロー)。
地球と衛星、火山爆発、大泡小泡、マジックキューブ、毛虫、蜜蜂の巣作り、カエルの卵……多彩なテクニックで、バブル名人・蘇仲太のシャボン玉は大きさは自在、重なり、繁殖し、手の上に踊り、転がる。四角いのもある。
千変万化、神業の如きシャボン玉ショーの鍵はシャボン液の強度である。蘇仲太が使っているのは台湾のシャボン液の老舗メーカー・和盛企業が開発した台湾製スーパーシャボン液である。

シャボン玉をそっと手に載せ、中央に息を吹きかけると大玉の中に小玉ができる(泡中泡)。
和盛企業は1986年設立、シャボン玉遊具専門の従来型工場である。かつて董事長の林孟盛が自家製シャボン液を公園で売っていたところ、切れぬ縁がシャボン玉のように次から次へと続いて、夢の王国を作り上げた。和盛は年商800万の家内工業から成長を続け、10年前には年商3億、従業員60名をかかえる企業となった。年商も規模も半分になった今も、トップの座を占める。
Made in Taiwanを掲げる企業が台湾を足場に世界展開するのとは逆に、和盛はずっとOEM輸出路線を歩んできた。欧米日等の主力市場が8割を占め、インドネシア、フィリピン、タイ、オーストラリア、アフリカや、新興市場のロシア、ブラジル、インドにも和盛の製品がある。
2000年、和盛も中国大陸に工場を出したが、出足の遅れにSARSや通貨危機などの不利が重なり、2004年に撤退した。だが和盛のシャボン液事業は終わらなかった。品質と革新に一層注力し、大陸の低価格品との差別化を図っていく。

オリジナルの新技「マジックキューブ」。アクリル板を利用し、上下段それぞれ三つのシャボン玉をくっつけ、白い煙を管で中央に吹き込む。物理の原理によって中央のシャボン玉は四角くなり、手を伸ばしてそのシャボン玉を取り出すと、玉ははじけて白い煙が噴き出す。
シャボン液を作ったことのある人は多いだろう。洗剤を水に混ぜてもシャボン玉が連続せず、すぐに消える。売り物との差は大きい。
コカコーラと同じで、和盛のスーパーシャボン液の配合も一部の人しか知らない機密である。
シャボン液の主要成分は、泡を作る界面活性剤、泡の強度を高める水性ゲル、シャボン玉を長持ちさせるグリセリンである。各社の成分は大同小異で、種類と比率が違うだけに過ぎない。和盛では、起泡性が低下するカルシウム・マグネシウムイオンを除去したRO純水が基材になる。
また、シャボン液が皮膚についたり、子供が誤食する可能性もある。和盛は肌に触れる化粧品級の原料を使い、燃焼、重金属、可塑剤といった物性試験や安全性試験を行い、EUのRoHS認証も取得している。検査費は百万元を下らない。
安全無毒を追求する姿勢は実感できなくても、シャボン液の強度は誰の目にも明らかだろう。和盛のシャボン玉は色ツヤも持久性も弾力も、最上級に属す。直径30cmのシャボン玉は、湿度60%摂氏20度で6分間消えない。
シャボン液だけでなく、董事長・林孟盛はシャボン玉用具も工夫し、多くの特許を得ている。
例えば、円形の吹き穴を伸縮する菱形に改めたことで、シャボン玉の大きさがグレードアップした。欧米・日本で特許を取った「不思議な剣」は、シャボン液を鞘に入れてこぼれにくくし、ハサミの原理で開く剣で超大型シャボン玉を振り出せば、武術の名人になった気分を味わえる。

4月下旬、蘇仲太は15層のシャボン玉に成功し、ギネスブックの12層の記録を破った。
2007年、30歳を迎え5月に結婚したての林劭錡は、父・林孟盛から喜びを作る企業を引き継いだ。父が築いた基礎に立ち、苦心してOEMからブランドイメージ確立へと前進していく。
昨7月、チャンスが扉を叩いた。「Be Fantasy」を設立しマジックパフォーマンスに従事する蘇仲太がシャボン玉ショーの練習をしたいと訪れた。二人は意気投合する。和盛は無料でシャボン液を提供し、蘇仲太に練習させた。「和盛のシャボン液でハイレベルに遊んでもらえば、最高の宣伝になります」と林劭錡はいう。
31歳の蘇仲太は台北芸術大学戯劇学部を卒業後、自分の外見では演劇界では成功し難いから、マジックに路線換えしようと練習に励んでいた。インターネットで海外のシャボン玉ショーを目にして以来「台湾一の名人」を目指す。
林劭錡の力強いバックアップの下、蘇仲太は半年こもりきりで毎日4~8時間練習し、シャボン玉の「個性」を理解していく。最初は強く吹いてシャボン玉がすぐ壊れたが、じきに安定した息が重要だと気づく。肺活量を鍛えようとジョギングを頑張り、半年で息が続くようになった。
シャボン玉のライフサイクルを「色で見る」テクニックも学んだ。「最初のピンクや緑は一番強い時で、手を加えるのに適しています。徐々に紫に変り、黄色、水色が現れたら崩壊寸前です」
シャボン液の伸びと持久力はシャボン玉が大きく長持ちするための鍵だが、シャボン玉の特性理解とテクニックが、成功率を引き上げる。
「湿度が大切です」シャボン玉に触れる物は全て濡れていないと、シャボン玉は壊れてしまう。また、重力でシャボン玉の水分子も下へ流れるから、上端が最も弱く、ここから壊れ始める。ストローを挿すときは上を避けて側面から入れる。

オリジナルの新技「マジックキューブ」。アクリル板を利用し、上下段それぞれ三つのシャボン玉をくっつけ、白い煙を管で中央に吹き込む。物理の原理によって中央のシャボン玉は四角くなり、手を伸ばしてそのシャボン玉を取り出すと、玉ははじけて白い煙が噴き出す。
シャボン液「アンクル・バブル」の強靭さを示すために、林劭錡はギネス記録で知名度アップを狙う。わずか半年で3つの記録を更新した。
初めに破ったのが「泡中泡(シャボン玉の中のシャボン玉)」の世界記録だった。
英シャボン玉芸人Samsam Bubblemanは「泡中泡」「最大のシャボン玉」「最長のシャボン玉」等数々のギネス記録を持っている。「泡中泡」では大きなシャボン玉の中に小さいシャボン玉が66個吹き込まれた。昨年12月、蘇仲太が152個のシャボン玉を吹き込み、記録を塗り替えた。
もう一つはシャボン玉つき記録である。昨年更新を繰り返し、76、103、133回に続き、4月中旬に和盛は195回で記録を更新した。
4月26日には多層ドームの記録を更新した。1ドームを15層重ねて作り、カナダのシャボン玉アーティストFan Yangの記録12層を破った。
蘇仲太は、多層ドームの難しさは同心円にすることと、層が増えるほどシャボン玉の間隔が小さくなることだという。吹いている角度では層が見えないから、感覚だけに頼って吹き込む。気を緩めれば連鎖反応を起こし、水の泡と化す。
台湾バブル王とバブル名人は記録更新を続ける。次はシャボン液の伸びを最も表現できる「最大のシャボン玉」を狙う。現在の記録は米Jarom Wattsの13.67m3で、練習場所と用具の設計が記録更新の要だが、期待して欲しいという。

林劭錡は記録更新で国際的知名度を上げる一方、玩具見本市に出展し、シャボン玉テクニックを教えて地元市場拡大を図っている。
和盛のパフォーマンス用シャボン液は輸出中心で、台湾の子供用シャボン玉玩具は多くが中国大陸から輸入される。林は、消費者にもっとプロ級台湾製シャボン液を使ってもらいたいと言う。
バブル名人のおかげでシャボン液アンクル・バブルが強い印象を残す。子供たちがステージに押しかけシャボン玉を捕まえる騒ぎも起きる。
シャボン玉にはマジックのような魔力がある。だがマジックなら200%熟練すれば、緊張を差し引いても完璧なパフォーマンスができるが、シャボン玉は技術に300%習熟しても、乾燥した環境ではシャボン玉を大きくできないし、急がないと途中で消えてしまう。
今のところ、バブル名人は神業中心だが、将来はストーリーを加味して、ビジュアルだけでない深い感動を与えたいと考えている。
7月、世界貿易センター玩具見本市で、和盛が世界に販売するプロ級シャボン液「アンクル・バブル」が、蘇仲太のパフォーマンスで、Made in Taiwanを打ち出すことになる。
自分の中に童心は残っているだろうか?ぜひ足を運んで、彼らが築いたバブル王国に、眠っていた純真とワクワクを呼び覚ましてもらおう。

シャボン液の老舗・和盛とシャボン玉の達人・蘇仲太(左)が手を組み、さまざまな世界記録を更新しようとしている。

和盛の強靭なスーパーシャボン液は、上に引き上げると人の背丈より高いシャボン玉になり、数秒間形を維持してからはじける。中の人が、シャボン玉の薄い膜を外に向って吹けばシャボン玉を作ることができる。

オリジナルの新技「マジックキューブ」。アクリル板を利用し、上下段それぞれ三つのシャボン玉をくっつけ、白い煙を管で中央に吹き込む。物理の原理によって中央のシャボン玉は四角くなり、手を伸ばしてそのシャボン玉を取り出すと、玉ははじけて白い煙が噴き出す。

オリジナルの新技「マジックキューブ」。アクリル板を利用し、上下段それぞれ三つのシャボン玉をくっつけ、白い煙を管で中央に吹き込む。物理の原理によって中央のシャボン玉は四角くなり、手を伸ばしてそのシャボン玉を取り出すと、玉ははじけて白い煙が噴き出す。