日本の福島第一原発事故から半年になる。恐怖心はしだいにおさまったが、原発の安全性という問題は今も残る。各国と同様、台湾でも原発の全面点検が行なわれ、6月に第一段階の安全評価報告が出された。
今後の方向も定まり、既存の3ヶ所の原子力発電所の運転は延長しないこととなったが、それまでの8〜14年間は安全性を最優先させる。今回の点検でどのような問題がみつかり、どう強化すべきなのか。気象現象が極端化し、災害規模が拡大しつつある今日、私たちはどう対応すればいいのだろう。
東日本大震災による福島原発事故で、原発4基が爆発した。ニュースでは白い煙をあげる原発にヘリコプターが水をかける影像が映し出され、現場に残った「50人の英雄」が話題になり、事故の深刻さは25年前のチェルノブイリに迫った。
事故の状況が少しずつ明らかになる中、「福島は、同じ地震帯にある台湾にどのような課題をつきつけたのか」考える時期と言えるだろう。そのためには原子力発電の知識を得ることから始めなければならない。

今年、第一、第二原発では複合災害の防災訓練が行なわれ、これで判明した弱点も総点検報告に加えられた。
長年にわたり原子力に関する知識の普及に努めてきた清華大学原子力工学科教授の李敏によると、原発の最大の脅威は、圧力容器内の大量の放射性物質にあり、それが外部に漏出しないよう、ペレットや燃料棒被覆管、冷却水系統、格納容器や建屋などで多重に防護してある。
原子炉内では絶えず核分裂反応が起きており、強い放射能を帯びた核分裂生成物が生じるが、不安定な生成物は「崩壊」によって安定した「原子核」に変わっていく。その時に生じる崩壊熱を冷却しないと、高温で炉心溶融が起きてしまう。
原子力発電所は、地震や飛行機墜落など、あらゆる非常事態において安全に停止するよう設計されており、同時に崩壊熱を継続的に冷却するために多重の冷却装置が設けられている。
放射性物質漏出が生じる原因は二つ。一つは核分裂連鎖反応が制御できず、圧力容器が解体してしまう事態だ。これはチェルノブイリ事故の原因だが、台湾と大多数の西洋の原発はチェルノブイリの「黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉」ではないため、原子炉が瞬時に解体するという事故は起こらない。
放射性物質漏出の第二の原因は、核分裂停止後(地震による自動停止など)、放射性物質の崩壊熱放出が継続し、それを冷却できずに炉心が溶融し、多重防護が機能しなくなる事態で、福島原発事故はこれに当る。
原子炉が停止したら安全システムが働き、注水と冷却が行なわれるが、これには動力が必要だ。そのため交流電源と蒸気駆動の動力源が設置されている。停止時、発電所は停電している可能性があり、原子炉各基に2台ずつジーゼル発電の交流電源が備えられ、また蒸気タービン駆動の注水システムがあるが、こちらは直流電源(バッテリー)が必要となる。
これらはすべて国際規格の基礎配備だが、台湾ではさらに2台ずつガスタービン発電機と、5台目のジーゼル発電機を設置している。

発電所の安全系統と建築物にはすべて耐震、耐火、洪水(津波)対策などの基準がある。
李敏によると、それぞれの原発の設計基準は、いずれも最も深刻な事故を想定してある。その地域で過去千年から一万年までの間に発生した最大の地震や津波の規模に、さらに余裕を持たせた設計になっている。
だが、いかに防護を重ねても、人間の計算通りには行かないことがあるのは原子力専門家も知っている。そのため「設計基準を超えた」深刻な事故が起きた時のための非常時対策マニュアルが定められている。
問題は、これほど多重の安全設計がなされ、設計基準を超えた事態にも備えてあるのに、なぜ福島第一原発の4基で放射性物質漏れという事故が起ったのかという点だ。
原子力委員会の主任委員で清華大学工学科教授の蔡春鴻によると、東日本大震災の地震と津波の影響を受けた原子力発電所は4ヶ所の14基だが、事故に至ったのは福島第一の4基のみで、他の10基は無事だった。このことからも「安全系統」の耐震設計基準を超えた災害が発生しても、発電所が必ず事故を起こすわけではないことがわかる。福島第一原発は津波の害を防ぐ力が弱かったか、あるいは津波に対する設計に問題があったと言える。

我が国の原発には10分以内に起動できるガスタービン発電機が標高22〜35メートルの高所に備えられており、津波の害を受ける心配はない。
福島の事故を振り返ってみよう。地震発生後、被災地域で運転中の11基(他の3期は定期点検中)はすべて緊急停止したが、大地震によって福島第一原発では送電網による外部電源が失われ、起動した非常用ジーゼル発電機が津波で水没、全交流電源が喪失した。
管理棟の計器類も機能せず、各原子炉の状態が掌握できなくなった。だが、この時点で炉心がすぐに溶融することはなく、まだ十数時間は持つ。試算によると、温度が2200℃まで上昇した時に溶融が始まる。
交流電源による注水が不可能となり、第三のバッテリーによる注水が残るのみとなった。が、8時間でバッテリーは切れてしまい、他の電源は回復せず、外部からの救援電源も接続できず、その間に炉心冷却水は蒸発を続けて水位が下がり、燃料が露出する事態となった。

露出した燃料棒の表面温度は急速に上昇し、ペレット被覆管溶融による化学反応で水素が大量に発生した。炉心溶融で放射性物質が格納容器内に流出するが、酸素がないため、まだ水素爆発は起きない。
この時、大量の熱エネルギーが格納容器内に貯まって圧力が上昇した。格納容器の完全性を保ち、大量の放射性物質が放出されるのを防ぐため、オペレーターはベントをによって水蒸気や水素や少量の放射性物質を大気中に放出しなければならない。しかし、放出する放射性物質の量を少しでも減らすためか、現場では格納容器内の気体を一度建屋内に放出し、それを濾過して大気中に放出した。ところが、水素が建屋に入って酸素と接触したため「水素爆発」が起きたのである。この水素爆発で原子炉建屋の上部が吹き飛んだ。建屋は設計上、爆発時に格納容器を傷つけないよう、故意に上部を弱くしてある。

こうして1号機と3号機は水素爆発を起したが、幸い格納容器は破損せず、放出された放射性物質も限られていた。
李敏は、1号機と3号機に比べて2号機の状況はより深刻だという。日本は2号機が冷却機能を失った後、1号機と3号機のような爆発を避けるために何らかの措置を採り、それが逆効果になって建屋下部で爆発が起きた可能性がある。それが格納容器を傷つけ、放射性物質が大量に漏れ、敷地内の放射線量が急速に上昇したと考えられる。
4号機は地震発生時には停止状態で点検中だったのに水素爆発が起きた。日本では使用済み燃料プールの問題だと見ていたが、今も原因は不明だ。

天災の予測は難しい。設計基準を超える事故が起きた時、発電所は明快かつ正しい手順で対応しなければならず、それが最大の課題でもある。写真は第二原発の制御室。
原子力委員会原子力管理処長の陳宜彬によると、使用済み燃料にも大量の放射性物質が含まれており、原子炉建屋内の貯蔵プールに入っている。プールでは冷却システムが働き、燃料棒は深さ6メートルの水で覆われているので、冷却機能が失われても一定時間は冷却状態を維持できる。だが、燃料棒が水面に露出すると温度が上昇して水素が発生し、放射性物質が出る。プールは建屋による防護しかなく、原子炉から取り出して5年以内の燃料棒は溶融すれば炉心溶融と同様の事態をもたらす。
東京電力は使用済み燃料プールは8〜9日は持つと計算していたが、なぜ3〜4日で水素爆発が起きたのか。地震でプールに亀裂が入って水位が下った可能性がある。しかし、プールの内部はステンレスなので水が漏れるとは考えにくい。
だが、まったく違う原因だった可能性もある。陳宜彬によると、日本の専門家が4号機の上から撮った映像などを分析したところ、プール内の燃料棒は損傷していない。爆発の原因は、隣りの3号機の水素が4号機へ漏れてきたことによるとも考えられるのである。

日本の福島第一原発1号機から4号機の水素爆発の程度はそれぞれ異なる。2号機は原子炉建屋の屋根は無事だが、内部の格納容器が破損しており、放射線物質の漏出が最も深刻だ。
福島原発事故の後、台湾電力は二大方向で原発の総点検を行なった。一つは、設備や人員などが現有の設計基準を満たしているか、標準を引き上げる必要はないか。もう一つは設計基準を超える事態が起きた時、どう対応するか、である。
台湾電力副総経理の徐懐瓊はこう説明する。耐震面では台湾の原発建屋の耐震性は0.3-0.4Gの設計基準に合致するが、貯水池や水槽、配管など安全設備の耐震性は強化の必要がある。また、台湾電力は第一原発と第二原発の間にある山脚断層の海域の長さを調査している。断層の長さが当初調査した16キロより長ければ、堤防の係数を上げる必要がある。
津波対策の面では、大部分の原子炉建屋の高さは12-15メートルで津波より高く、それより低い位置にある一部の建屋や設備については現在改善中だ。
既存の安全設計基準は満たされており、総点検の焦点は「設計基準を超える」事態の対応に当てられた。非常用電源や水源、非常時の対応手順などだ。
台湾電力はまず、すべての電源を総検討した。最も重要な「注水」と「冷却」には電源が欠かせず、台湾電力は全電源の点検と強化を行なった。例えば、5台目のジーゼル発電機は一度に2基に電力供給できるものに変え、バッテリーの充電機を高所へ移し、非常用電源の使用可能時間を24時間まで伸ばし、電源車も増やした。

徐懐瓊は、福島の最大の教訓は、複合災害発生時にいかに速く正しく決定するかが非常に重要な点だと言う。
時間との競争となった時、従来のように原子炉の状況を示す各種数値から行動を決めていたのでは間に合わない。台湾電力の新たな非常時マニュアルは、最短時間内に限られた資源を用いて「注水し、圧力を低下げ、ベントの用意をする」という3点に絞っている。
徐懐瓊によると、非常時対策マニュアルの起動条件は、大地震と津波警報の後、原子炉の注水機能が失われた場合、または発電所内の全交流電源が失われた場合である。その時点で、1時間以内に原子炉に注水できる水源ルートをすべて開くか、その用意をする。例えば、付近の河川流域に移動式電源を設置し、あらゆる予備システムに移動式電源を接続する。
この時点では、管理者はどのルートが破壊されているか分からず、計器類も信頼できないため、緊急措置を採らなければならない。通信が中断している可能性もあり、決定のための時間を短縮するため、当直のマネージャーに注水とベントの時間を決定する権限を移譲する。

さらに高い位置には貯水池に数万トンの淡水が用意されており、緊急時には重力を利用して原子炉内に水を注入できる。総点検後、この貯水池の耐震性を向上させることとなった。
こうして見てきても、原子力発電の知識は専門性が高く、一般市民には分かりにくい。国民が知りたいのは絶対に安全なのかどうかである。
原子力委員会主任委員の蔡春鴻は、絶対に安全だと言えば傲慢だと批判され、「絶対とは保証できない」と言えば社会不安を招くと言う。ただ、原子力委員会としては、台湾電力が完全に法令の要求を満たすよう厳しく監督していくだけだ。想定を超えた災害についても、台湾電力の対応能力を確認するために、EU方式の原発ストレステストを行なうよう求めている。
徐懐瓊によると、ストレステストというのは、さまざまな天災が安全系統を脅かした時の発電所の防護力や対応力を評価して、弱点を見出すものだ。
テスト方式は軍の演習にも似ている。さまざまな事態を設定し、それが少しずつ悪化していく状況で、設備と対応の能力をテストするというものだ。例えば、10の電源と11の注水システムがすべて失われた時、それでも対応できるかを試す。
では、ストレステストの設定状況は誰が決め、どのような標準で行なうのだろう。
台湾はIAEA(国際原子力機関)のメンバーではないため、EUストレステストに加入するのは困難だが、台湾電力はすでにWANO(世界原子力発電事業者協会)にストレステスト専門家の指導を求めている。
EUは、既存の原子力発電所がストレステストに合格しない場合は、発電所の改善または閉鎖を要求するよう各国政府に建議するとしており、原発大国もこの提案を受け入れている。我が国の環境保護団体も、ストレステストの結果を公表して他分野の専門家やNGOの検証を受けるべきだと主張している。

原子力委員会主任委員の蔡春鴻は、原発問題については、反対か賛成かに関わらず、その安全についてはイエスかノーしかなく、運転期間を延長するかどうかといった選択肢の問題とは異なると言う。
原子力委員会が台湾電力に要求するのは、総点検とストレステストを終えた後、3つの原発の安全性に即時の問題が発見されるか、あるいは改善措置の費用が高すぎて台湾電力にその改善の意思がない場合は、当該発電所を閉鎖する可能性も排除しないというものだ。原子力委員会は厳格な基準を台湾電力に求め、ストレステストの過程を公開して各界の検証を受けるよう求めている。国土が狭く、人口密度の高い台湾は、原発事故には耐えられないのである。