世界の190余ヶ国を見ると、自国のイメージを明確に打ち出している国もあれば、そうでない国もある。例えば、日本と言えば誰もが日の丸や富士山や桜、それにさまざまな電気製品を思い浮かべる。シンガポールなら、治安の良いガーデンシティというイメージだ。では台湾はどうだろう。今年アカデミー賞を受賞したアン・リー監督が台湾出身なのを除くと、曖昧なイメージしかないのではないだろうか。
対外的に打ち出す国のシンボルを見出すために、行政院新聞局は昨年末に「台湾のシンボルを求めて」という投票活動を開始した。2ヶ月の間に78万を超える票が集まり「布袋戯」「玉山」「台北101」「美食」「サクラマス」の五つがシンボルに選ばれた。
五大シンボル選出に続いてデザイン公募が始まり、将来的に政府はこれを基礎に台湾をアピールしていく。しかし、これらのシンボルは本当に台湾を代表できるのだろうか。シンボルをどう解釈すれば、その意義を深められるのだろう。このプロセスには、より多くの国民の参加が求められる。
台湾のシンボルは、と問われると多くの人が悩んでしまうのではないだろうか。2003年、ジョニーウォーカーの酒造メーカーはイギリスの地下鉄に次のような広告を出した。「警告!このギフトはクリスマスの朝に故障しますのでサービスセンターにご連絡ください。連絡先は台湾私書箱260号、365日以内に修理します」と。台湾製品の質とサービスの悪さを嘲笑する内容だ。
同じ年、世界的に有名な旅行ガイドブックのロンリー・プラネットが出した台湾ガイドの表紙は、薄汚い街角の写真だった。両社とも後に謝罪したが、台湾の国際イメージは大きく傷ついた。
対岸の中国も台湾のイメージに影響を及ぼしている。先頃、中国が発行した2枚の記念コインのデザインは、片面は中共の国徽、片面は台湾の北港朝天宮と台南の赤崁楼だ。状況をよく知らない外国人は、朝天宮や赤崁楼は中国域内にあり、中国が管轄しているものと思ってしまうだろう。
最近もこんな出来事があった。台湾は鳥インフルエンザの防疫に取り組み、まだ1症例も出ていないにも関わらず、今年3月、WHOは台湾をH5N1型鳥インフルエンザ流行地域に列挙したのである。WHOが「台湾は中国の一部である」という主張に屈したためだ。

本ページの布袋戯の写真は霹靂国際マルチメディア社の許可を得て使用。
「台湾は非常に難しい境遇に置かれています。国際的に孤立させられ抹殺され、国としての声を発することができません」と、新聞局の鄭文燦局長は「台湾のシンボルを求めて」の活動に込められた深い意味を語る。
ここで言うシンボルとは、国の抽象的なイメージと具象的な識別マークを結びつけたものだ。多くの国は国旗をもって国内のアイデンティティと国格を示している。自由・平等・博愛を象徴する三色のフランス国旗と同様、アメリカの星条旗や日本の日の丸、カナダの楓の国旗など、重要な国際大会などでは、それぞれが明確に国を代表している。
しかし台湾の状況は違う。中国共産党の強力な圧力の下で台湾は国連をはじめとする国際組織から排除され、さまざまな統計や年鑑の中にも台湾が見当たらないことが多く、台湾の2300万人は消えてしまったかのようである。中華民国の「青天白日満地紅」旗や国号が国際的な場で掲げられることはほとんどなく、国花である「梅の花」はまた、北方のものであるため台湾の庶民には遠い存在に感じられるのである。
こうした困難に対し新聞局は、政治面は避けて文化や自然の面から対内的にも対外的にも台湾を代表する新しいシンボルを見出し、これを用いて国のイメージを打ち出していこうとしている。その第一歩は、まず国内のコンセンサスを得ることだ。
政治大学台湾史研究所の戴宝村教授によると、国のシンボルマークの確立は、民族国家が国民共通の生活や歴史的経験を通して「運命共同体」の自覚を形成するための一つの手段だという。
これは容易な作業ではない。台湾は国土は小さいが、エスニック構成や国民の歴史的経験、自然環境などが極めて多様だからだ。陳水扁総統が「台湾のシンボルを求めて」の投票結果発表会で「総統府の建築物ひとつをとっても人によって意味が違う」と述べた通り、植民地時代の日本帝国主義から新国家の主権の象徴まで、さまざまな見方が存在する。
国民のコンセンサスを得るために、新聞局は各界の意見を取り入れて「台湾のシンボル」の投票活動に24の選択肢を提出し、自由推薦の枠も設けた。だが結果的に、上位にランクした数項目の支持者の意見は大きく異なり、全国民の共通認識を得るには、まだ時間がかかりそうである。

チン・ヤンズ。
投票の結果、文化的造物である布袋戯(伝統の人形劇)が13万票以上を獲得してトップ、続いて台湾のランドマークの代表である玉山が2位に入った。同じく10万票を超えて3位になったのは自由推薦枠で挙げられたカラオケボックス、それに台湾が特許を持つ青信号のリトル・グリーンマンが4位に入った。ただ、自由推薦についてはネット上の重複投票を防止しなかったため、参考として挙げるのみとなった。
では台湾の特色、台湾の最も独特で美しいところはどこなのだろう。新聞局の鄭局長によると、政府が押し付けるのではなく、ボトムアップの形で台湾のシンボルを探し、「最大公約数」を見出すのが目的だった。その結果はすべての人が満足できるものではないかも知れないが、そのプロセスは貴重なものである。
鄭局長によると「民主主義の進展」「技術の発達」「台湾の主体性」を強調するのは、台湾が転換期にある新興国家であり、これが台湾が国際社会に最も伝えたい部分であり、国際社会が台湾に抱いているイメージでもあるからだ。このような国家の核心理念は、今回の投票結果にも現れている。
1位の布袋戯は台湾伝統の人形劇で、野外舞台から屋内舞台、テレビ番組、そして専属のCATVチャンネルへと発展し、さらに映画「聖石伝説」を制作するなど、常に時代を先取りし、若者に愛されてきた。伝統に創意を取り入れながら発展してきたという点で、高得票を得たのは意外ではないと鄭局長は言う。
布袋戯一家である黄海岱の四代目が率いる「霹靂布袋戯」は最近米国のアニメチャンネルに進出することになってネット上で話題になり、ファンがこぞって投票した。また「布袋戯の故郷」である雲林県では県民に投票を呼びかける運動が起り、票を伸ばした。
「布袋戯は、ある意味でグローバル時代における地元文化の覚醒を象徴しており、伝統文化に対する自信と愛情が表れています。これをもって台湾を世界に見せていくことは可能だと思います」と鄭局長は言う。
ただ、布袋戯は台湾語で演じられるため、エスニック上やや偏りがあり、伝統的に人形劇を持たない原住民族には馴染みのないものだ。幸い「霹靂布袋戯」はキャンパスに入り込み、若い世代ではエスニックの別なく人気がある。新聞局では将来的に布袋戯の海外巡回公演などを推進する考えだ。

第2位の玉山にはさまざまな意味が込められている。「台湾という小さな島に標高3000メートル以上の山が100もあります。その中の3952メートルの玉山という東アジア最高峰は、小国の士気の高さを象徴しているかのようです」と鄭局長は言う。
実際、投票活動ではずっと玉山がトップだったのだが、最後に1万票の差で布袋戯に抜かれ、多くの人が驚いた。
玉山に9回も登頂し、携帯電話にも玉山の写真を使っている政治大学の戴宝村教授は、投票結果が残念だと正直な気持ちを語る。
戴教授は、玉山の壮麗さは世界でも貴重なものだと言う。台湾および東アジアの最高峰であるだけでなく、ブヌン族にとっては「聖山」であり、植民地時代の日本人は「新高山」と崇め、しかも玉山は多くの河川の源流で、近年、台湾の文芸界では「玉山学」がブームになっている。ただ残念なことに、半世紀にわたる戒厳令の下で高山登山が禁じられてきたため、多くの人は山に親しみを感じておらず、そのために2位に甘んじたのだと考えられる。
戴教授は、今回の投票活動は国民の自信と自覚を示すものだと考えている。台湾人が「我々は玉山の子だ」というアイデンティティを持てば、そこには自然や国土への深い思いが込められ「玉山は台湾領土の代表」という意味がさらに人々を感動させるものになる。
しかし「投票は終わり、やり直すわけにはいかない」と戴教授は残念そうだが、それでも梨山七家渓に生息する希少な「サクラマス」が強敵を破って5位に入ったことは喜ぶに値すると言う。
第3位に入った、世界で最も高い台北101ビルにもさまざまな意味がある。101は1990年代の初め、台湾経済が最も勢いに乗っていた時に計画され、建設中はアジアの金融危機や台湾の景気低迷などの衝撃を受けた。こうした経緯から台北101は台湾経済の粘り強さと活力を示しており、今では華人圏で最も盛大な年越しの花火でも知られ、台北の楽しさと台湾の活力を象徴している。
一部の学者が、高さのある玉山と台北101を「国家の権威と競争力の象徴」と見るのに対し、最近のニューヨークタイムズの旅行面は、台北101とその周辺の信義計画区を若者の文化を代表する「消費天国」と位置づけて紹介した。101についても、さまざまな解釈が可能なのである。

玉山は東アジアの最高峰であり、台湾人の多くが一生に一度は登りたいと思っている心の故郷だ。写真は玉山の春を彩るニイタカシャクナゲ。
第4位に入った「美食」は台湾の多様性を現している。
鄭文燦局長は、台湾は多くの政権やエスニックの間で葛藤してきたが「唯一、食の面では葛藤がなかった」と言う。植民地下の日本料理、国民党政権下の中国各省の料理、そしてここ数年の国際化による欧米の飲食などが、この土地で共存している。その多様性から、台湾人が外来のものを積極的に受け入れ、しかもそれらを融合して変化させてきたことがわかる。例えば、四川にはない「台湾式四川牛肉麺」もあれば、世界で一番おいしい焼餅油條や小籠包もあり、外国人観光客にとって食は常に台湾最大の魅力なのである。これが、外国人が台湾に対して抱く「友好的」というイメージと呼応している点も興味深い。
鄭局長は、台湾の伝統的食文化の特色はシンプルで気軽に食べられる「小吃」にあると考える。移民社会である台湾では、人々は昼も夜も忙しく勤勉に働く。こうした環境から、24時間営業のデパートの食堂街や深夜まで賑やかなナイトマーケットなどが生まれてきた。現在、美食は一種の「価値」とされるが、ここからも人々が庶民の生活を重視していることがわかる。一般推薦の投票でカラオケボックスが1位に入ったのと相通ずるものがある。

布袋戯は台湾を代表する伝統的な人形劇で、今も多くのファンがいる。(紀国章撮影)
「友好的で勤勉で活力があるというのが台湾が打ち出していくイメージで、民主主義や多様性、経済発展や主体性などは、その背後に込められた意義です」と話すのはデザインの大家で師範大学美術学科主任兼所長の林磐聳教授だ。文化に属する布袋戯、自然景観に属する玉山、都市のランドマークである台北101など、さまざまなシンボルを用いつつ、伝えるべき核心はこの点にあると言う。
戴宝村教授は、台湾のシンボルを探す活動は一つのスタートに過ぎず、今後も国民の思考と参与を促していくべきだと考える。広い視野に立って自国を理解することで国家と国民の関係を考え、こうした活動を通して国民の創意を刺激することもできるからだ。こうした考えから戴教授は、市町村のシンボルや学校のマークなどを公募する活動を推進している。
例えば、中国の十二支を台湾風にアレンジするなら、蛇は原住民のトーテムである百歩蛇、牛は台湾精神を象徴する水牛、犬は素朴な台湾犬、虎は台湾に生息するウンピョウに代えることができると戴教授は言う。また、八卦山を県のシンボルにした彰化県は成功した事例と言える。かつて反清と抗日の基地でもあった八卦山は、剽悍で反骨精神に富んだ人物を多く出している彰化県の精神をよく表しているからだ。
今回の活動で残念だったのは、投票総数が78万票、つまり人口の4%に止まり、多くの人がこのテーマに困惑していたことだ。どれが一番良いのか自分でも分からない、24項目の中にないが、推薦すべき項目も思いつかないといった意見があった。中には「シンボルを打ち出して宣伝しても、立法委員の喧嘩や外国人労働者の暴動が報道されれば何の意味もない」という冷ややかな意見もあった。最近、台湾中部の風光明媚な埔里が外国人のロング・ステイプランを打ち出したが、このプランで最初に入居した日本人夫婦は、その環境を嫌って出て行ってしまい、多くの人が国のイメージに対する自信を失った。
確かに、イメージと現実の間には落差があるもので、その落差は国民が努力して埋めなければならない。コミュニケーションが社会を変えるように、好きなシンボルを選ぶことで互いを理解し、求心力を高めることができる。そのシンボルを世界に打ち出し、国民一人ひとりがその代言者になって実践すれば、将来、国の美しいイメージの恩恵を受けるのは、やはり私たち国民なのである。

(雪覇国立講演提供、王慶華撮影)(国立宇宙センター提供)左右ページの布袋戯の写真は霹靂国際マルチメディア社の許可を得て使用。,チン・ヤンズ,イエ・シャオチャイ

(雪覇国立講演提供、王慶華撮影)(国立宇宙センター提供)左右ページの布袋戯の写真は霹靂国際マルチメディア社の許可を得て使用。,チン・ヤンズ,イエ・シャオチャイ

(雪覇国立講演提供、王慶華撮影)(国立宇宙センター提供)左右ページの布袋戯の写真は霹靂国際マルチメディア社の許可を得て使用。,チン・ヤンズ,イエ・シャオチャイ

(雪覇国立講演提供、王慶華撮影)(国立宇宙センター提供)左右ページの布袋戯の写真は霹靂国際マルチメディア社の許可を得て使用。,チン・ヤンズ,イエ・シャオチャイ

台北の新都心、信義計画区にそびえる台北101は高さ508メートル。世界で最も高い超高層ビルは台湾人の誇りでもある。

(雪覇国立講演提供、王慶華撮影)(国立宇宙センター提供)左右ページの布袋戯の写真は霹靂国際マルチメディア社の許可を得て使用。,チン・ヤンズ,イエ・シャオチャイ

イエ・シャオチャイ。

(雪覇国立講演提供、王慶華撮影)(国立宇宙センター提供)左右ページの布袋戯の写真は霹靂国際マルチメディア社の許可を得て使用。,チン・ヤンズ,イエ・シャオチャイ

年初に新聞局長に就任したばかりの鄭文燦氏は、上位5位に選ばれたシンボルの意義を鋭く分析する。

(雪覇国立講演提供、王慶華撮影)(国立宇宙センター提供)左右ページの布袋戯の写真は霹靂国際マルチメディア社の許可を得て使用。,チン・ヤンズ,イエ・シャオチャイ


(雪覇国立講演提供、王慶華撮影)(国立宇宙センター提供)左右ページの布袋戯の写真は霹靂国際マルチメディア社の許可を得て使用。,チン・ヤンズ,イエ・シャオチャイ

(雪覇国立講演提供、王慶華撮影)(国立宇宙センター提供)左右ページの布袋戯の写真は霹靂国際マルチメディア社の許可を得て使用。,チン・ヤンズ,イエ・シャオチャイ

布袋戯は台湾を代表する伝統的な人形劇で、今も多くのファンがいる。

(雪覇国立講演提供、王慶華撮影)(国立宇宙センター提供)左右ページの布袋戯の写真は霹靂国際マルチメディア社の許可を得て使用。,チン・ヤンズ,イエ・シャオチャイ