台湾人が祈るにも祀るにも、線香は必須である。香は人と神との対話の橋渡しを意味する。一筋の煙が無数の寄託と祈願を載せていく。
屏東の年間日照時間は280日を超える。台湾の線香製造の重鎮として一時は栄華を誇ったが、繰返し押し寄せる波に、勢いは大きく後退した。2012年7月、地元業者10社が「屏東好香」連盟を設立し、古法の精神を貫き逆流の中で奮闘し、台湾製造の看板を輝かせようとしている。
好香連盟の主要メンバー七星檀香公司は1987年の設立である。主人・李世景、康琇華夫妻は現代人が忘れた伝統の香りの豊かさに感じるところがあった。また2009年には生薬植物園、観光工場、七星檀香博物館を設立し、そこでは香の源から薫香の文化まで深く触れることができる。生薬植物園では208種の生薬を栽培し、沈香、檀香の香作りを体験できる。伝統技法を楽しみ、貴重な薬材の本来の姿も見られる。沈香は価格が高騰して世界各地で濫伐が深刻化し、一度は絶滅の危機に瀕していた。植物園の沈香は時間をかけて順応させ、現地の気候に適応して量産できる水準に達している。

香の歴史は、古くは中国秦代に遡る。当時は薫香、佩香が主で、端午の節句に匂い袋を作って身につけるのは、佩香を起源とする。薫香は主に療養効果が目的で、医学書『千金翼方』『本草綱目』に記載がある。香には睡眠を助け、痛みを緩和する作用があり、アロマテラピーと通じるものがある。
薫香の主原料・檀香は、インド産の老山檀香が表面のきめ細かさと純粋な香りで最高品質とされ、オーストラリア、インドネシアがそれに次ぐ。檀香には殺菌・消毒作用と緊張をほぐす効果があり、寝る前に焚けば心地よい眠りにつける。
沈香は非常に貴重な香料で、雅びな濃い香りが宗教儀式の薫香としてよく用いられる。仏教は沈香を「三界に通じる香」とし、座禅や誦経法会に使われる。沈香は種類が多く、ベトナムのキナム沈香が最高級で、キロ当り十数万元する。昔、海を越えて台湾に渡った人は、沈香の神像彫刻を持ち歩き、具合が悪くなると神に祈って像から沈香粉末を削り取り、水と一緒に服用した。効果のほどは別としても、沈香が人々の心に占める地位が窺われる。
台湾の慣習で、香灰を食べると病が治るといわれるのには由来がある。古法で香を作る材料は全て漢方薬材で、必須の沈香と檀香のほか、よく使わう薬材にコウハイソウ(香排草)、ダイオウ(大黄)、ジュラン(樹蘭)、レイリョウコウ(零陵香)、カンショウ(甘松)、チョウコウ(丁香)、ニッケイ(肉桂)等がある。香灰は燃やした漢方薬材だから、食べられないわけではないが、現在は寺廟でもらった香灰の成分が判らなければ、服用は慎重にしたほうがいい。

線香の製造工程:1.浸す 2.粉を付ける 3.扇状に開く 4.平らにならす 5.天日に干す 6.持ち手を染める 7.根元に金の化粧を施す
製香産業に携わって30年の李世景夫妻だが、元は全くの素人だった。
30年前、李世景は染色加工業に従事して景気がよかったが、仕事中に負傷して、屏東の実家で療養することになった。当時、李世景の叔父が高齢のため香の店をたたもうとしていたのを、李世景が引き継いだ。再出発を図り努力したが、今度は過労で倒れてしまう。妻の康琇華は高校の教職を辞めることを決意し、夫の事業に協力することになった。
「一日の売上が400元ということも度々ありました」康琇華は、低価格の香は競争が激しく利潤もないから、2人は漢方薬材を原料とした香を主力に、若い人をターゲットにして市場を開拓することに決めたと話す。電子化倉庫管理、商品の棚置き販売、価格透明化、配送車編成の構築といった戦略で、新しい経営理念で差別化を図った。
数年努力して業績が上向いたが、今度は大陸から輸入された低価格品が、台湾市場を圧迫した。またメディアが、市場に出回る香製品の多くに化学薬品や劣悪な人工香料が使われ、燃焼するとメチルベンゼンやホルムアルデヒド、アセトン等の発がん性物質が発生すると報道して、香製品産業は大荒れとなり、業績が7~8割落ちて経営困難に陥りかけた。

線香の製造工程:1.浸す 2.粉を付ける 3.扇状に開く 4.平らにならす 5.天日に干す 6.持ち手を染める 7.根元に金の化粧を施す
屏東の製香の歴史は古く、職人が大勢集まっていた。職人たちは生涯努力してきて、産業の凋落を見るに忍びなかった。神聖な香に汚名が着せられるのはもっと耐えられなかった。そこで自らを律し、規範を確立しようと立ち上がった。
2012年7月、古法による製香の推進を志す地元業者10社が共同で「屏東好香」連盟を設立し、古来の製香技術を互いに交流し、伝統産業に文化的意義を注入して、産業のレベルアップを狙った。
製香は専門技術である。古法による製香手順は15工程あり、浸す、落す、付ける、揉む、振う、延べる、濡らす、広げる、まぶす、回す、整える、繰り返す、干す、染める、化粧するという作業で造る香は「匂い十分、肉付き円く、脚は美しく」を極める。簡単に見える香を回す動作は、師匠に3年5年と仕込まれなければできない。
製香は香脚(持ち手部分)から始まる。竹を削って幅0.3センチほどの細さにし、油に浸して粉をまぶして干す。竹ひごの束に香粉を付けても一本ずつに分かれ、くっつかないようにするには技が要る。最大の鍵が「広げる」と「回す」である。香の束を扇子のように開くことで、均一に薬材の粉がまぶされる。粉をまぶしたら強い力で回し、余分な粉を振り落とし、香を一本ずつ密着させる。
製香は徒弟制で、香料と粉塵にまみれる毎日は、早朝4時に起きて働く。日が昇る前に香の準備を終えて、干せるようにする。熟練した職人が天候を読む技は、天気予報より正確である。風向きが変われば雨が降ると分かるから、急いで香をしまう。雨に濡れたらそれまでの作業が水の泡になる。

古法の技術を極めるとともに、連盟メンバーは自律を誓い合い、認証マークを作りSGS検証を受けて、有毒化学添加物を含まない優良な香製品を消費者が安心して買えるよう取り組む。王順芳製香鋪の職人は言う。「我が家は代々香作りをしていますが、父は九十過ぎまで、伯父は100歳まで生きたのが、健康の証です」
好香連盟メンバーは各自の得意分野がある。貢香(竹の持ち手付き線香)が主力だったり、香環(渦巻き型)専門の業者もあり、リソースを統合して「拝請台湾―宗教雅集」を設立し、トータルな宗教文物用品サービスを提供している。台北慈恵宮や高雄武聖関廟や屏東東隆宮なども顧客で、年間3500万元のビジネスを産み出している。
台湾の数多の廟で、大小の祭りが無数に行われており、宗教用品には巨大市場がある。「拝請台湾」は設計から流通まで一手に手がけ、カスタマイズサービスを提供する。流通の統合で商品を全国各地に配送し、祭りの企画もできる。従来は個別に競争し、大量受注が受けられなかった。今は、旗が得意なら金紙(供え物のお金)を作らず、金紙の炉が専門なら道士の法衣を作らなくて済むから、それぞれの専門分野を発展させ、研究や革新も生れる。
近年は宗教芸術も注目を浴び、「電音三太子」から映画『陣頭』まで、伝統芸術に現代的要素が加わり流行している。「拝請台湾」も遅れず、東隆宮のルミネセンス神輿や、台南安平天后宮のLED剣獅ライトボックス等の設計も行い、革新を続ける。
「屏東好香」連盟から「拝請台湾」まで、伝統産業が地域文化を大切にし、協力して道を切り開き、地方産業を振興している。「拝請台湾」は設立半年で売上が11%伸び、雇用者数が12%増加した。
清清しい香に霞む中、男女が詩を詠み愛を語り、高僧が仏を崇め、大衆が祈りを捧げる。生活に香の煙が漂っていた。現代人が静かな雅を味わいたいなら、香を焚くことから始めてみてはいかがだろう。

線香の製造工程:1.浸す 2.粉を付ける 3.扇状に開く 4.平らにならす 5.天日に干す 6.持ち手を染める 7.根元に金の化粧を施す

線香の製造工程:1.浸す 2.粉を付ける 3.扇状に開く 4.平らにならす 5.天日に干す 6.持ち手を染める 7.根元に金の化粧を施す

線香の製造工程:1.浸す 2.粉を付ける 3.扇状に開く 4.平らにならす 5.天日に干す 6.持ち手を染める 7.根元に金の化粧を施す

線香の製造工程:1.浸す 2.粉を付ける 3.扇状に開く 4.平らにならす 5.天日に干す 6.持ち手を染める 7.根元に金の化粧を施す

線香の製造工程:1.浸す 2.粉を付ける 3.扇状に開く 4.平らにならす 5.天日に干す 6.持ち手を染める 7.根元に金の化粧を施す