石干見を守る仕組み
環境の変化や漁獲資源の減少により、多くの石干見の所有者たちは、もはや石干見による漁獲には頼らなくなっている。くわえて石干見の修復には手間がかかるため、その維持は容易ではない。こうした中で、石干見の保存支援のため、地方政府は石干見を文化景観に指定し、修復技術を持つ人たちを保存者として認定している。たとえば、豊富な修築経験を持つ澎湖海洋文化協会が、重要保存技術の保持団体として指定されている。
李教授は、石干見は決して思うほど身近な存在ではないと考えている。潮が満ちれば海に沈み、昼間でも実際に近づけるのは1日に2〜3時間ほどしかないためだ。
李教授の教え子である楊馥慈さんと曾宥輯さんは2018年に社会企業「離島出走工作室」を設立。石干見を愛する心から、文化遺産を広く伝えつつ、持続可能な形で残すプロジェクトを始めた。
2人は澎湖の石干見の所有者と協力し、3〜11月にかけて夜のヨシエビ漁やカブトガニ探し、修復体験など多彩なツアーを展開している。収益の一部を修復費用に充てるほか、一般客も修復作業に参加できる仕組みを整えており、持続可能な循環が生まれている。
「以前は“双心石干見”を背景に写真を撮るだけでしたが、いまはエリア自体を開放し、観光客が実際に中に入って体験できるようになっています。石干見や潮間帯を、人と海洋生態系をつなぐ媒介へと変えているんです」と楊さんは語る。
また、「離島出走」では、かつての漁師小屋を当時の姿そのままに「魚灶(魚介類の加工施設)」として再現した。3年をかけて修復された魚灶は2022年に完成し、現在は一般の人も参加できるDIY体験の場となっている。澎湖の人々が受け継いできた魚の干物や塩漬けの文化を体験できる場所であり、石干見文化の拠点でありながら、石干見を体験するための出発点にもなっている。
曾さんは、ガイドを担当するだけでなく「澎湖石干見情報プラットフォーム」の構築もおこなった。プラットフォームでは、石干見の工法や構造、ことわざを集め、654基の石干見をデータベース化した。データベースには、それぞれの石干見の名前、GPS座標、歴史、構造などの情報が記載されており、これらの情報を誰でも閲覧できる公共のデータとして開放している。

「離島出走工作室」では専任の修繕チームが石干見の修復を行い、毎年、一般向けの講座も開いて海と共に生きる知恵を伝えている。(離島出走工作室提供)