各界で支える保護活動
コアジサシはカモメ科では体が最も小さいが、群れを成して集団で天敵から身を守る。鳴き声を上げたり急降下するまねをして威嚇するのだが、実はもう一つ奥の手がある。それは「糞」爆弾攻撃だ。野鳥学会のメンバーも調査中にこの攻撃をたびたび受けていると、陳樹徳さんは笑う。
それでもなお、天候や猛禽類、スナガニといった自然界の天敵のほかに、野良犬や人間も繁殖の脅威になる。陳介鵬さんによれば、数年前に宜蘭県での部門間会議でこの問題が扱われた後、野良犬の数は大幅に減少したが、数は少なくなっても嗅覚の鋭い野良犬が雛を見つけるのは簡単なことで、野良犬が巣を襲う光景がカメラにも時おり捉えられている。犬の攻撃にはコアジサシはなす術もない。また今年の蘭陽渓河口では新たな脅威――ドブネズミの増加が観察された。これも今後の保護の重点となりそうだ。
宜蘭では野鳥協会のほかに無尾港文教促進会や台湾偏郷生態物種保護・復育協会など、地元の団体が生態保護に取組んでいる。普段から学校などで生態保護の教育活動を実施したり、繁殖地にコアジサシのデコイ(模型)を設置し、飛来を促す環境づくりを進めている。また繁殖期にはメンバーを動員して繁殖地巡回も実施している。
多くの人はただコアジサシのことをあまり知らないだけで、よく知れば保護活動にも理解を示してくれると、陳樹徳さんは感じている。あるマリンスポーツ・インストラクターは、グループを連れて間違って繁殖地に入ってしまった際に、ついコアジサシの撮影に及んだことがあった。だが野鳥学会がよく説明するとわかってくれ、翌年には巡回ボランティアに加わってくれたという。
コアジサシを守ろうという取組みは徐々に広がりを見せている。例えば宜蘭県と児童劇団との協力でコアジサシの物語を演劇にし、各学校を巡回して伝えている。海保署でも、コアジサシが毎年台湾に飛来することの大切さをわかってもらおうと、コアジサシの物語を描いた絵本『這裡,真的不一様了!(ここは本当に変わったね!)』を出版した。渡り鳥は生息地には忠実に戻って来るもので、環境悪化などがない限り、場所を変えたりはしない。つまり生息地の環境を維持し続ければ彼らは毎年戻って来るのだ。コアジサシの繁殖地は、シロチドリやコチドリの生息地でもある。「コアジサシを守ることは、ここで繁殖するほかの鳥類も守ることになるのです」と陳介鵬さんが言うように、それは海岸の生態系を守ることにもつながっている。来年の夏、再びコアジサシと会えるのが楽しみだ。

鳥を愛する多くの台湾人は海鳥の生息地を守るために全力を尽くしている。

コアジサシが子育てする心温まる風景。(宜蘭県野鳥学会提供)

台湾沿岸は魚類が豊富で、生息環境も良好に保たれているため、コアジサシが毎夏訪れる楽園となっている。

毎年4月になるとコアジサシは次々と台湾に飛来し、求愛行動や繁殖地探しを始める。(宜蘭県野鳥学会提供)

コアジサシの卵は硬貨ほどの大きさしかなく、危険の多い環境での孵化は容易ではない。写真は、巡回時の目印となるように調査員が巣の近くに旗を立てた様子。

桃園市野鳥学会の徐景彦さんは、コアジサシの保護対策によって繁殖成功率は今後も上昇を続けると見ている。

台湾各地の野鳥学会は、コアジサシが安心して巣を築けるよう、繁殖地に柵を設けて人や車、野良犬の侵入を防ぐ。

コアジサシの繁殖地を保護することは海岸の生態系を守ることに等しく、コアジサシの毎年の飛来が期待できる。