ここ数年、世界のマスコミの旅行報道で台湾が大きく取り上げられるようになった。米国のニューヨーク・タイムズ紙から英国のガーディアン紙まで、また日本のテレビ東京からアジア向けの英語チャンネルTLCトラベル&リビングまでが、台湾の多様な魅力を紹介している。
しかも、これらのメディアはいずれも台湾の「小さな町」に注目している。実際に小さな町を訪れてさまざまな体験をレポートするという形で現地の暮らしと産業を紹介し、その人情を伝える。
台湾の小さな町のどこに魅力があるのだろう。外国人観光客が訪れたいと思うのは、どのような町なのだろうか。
今年はこの問いに答えを見出すのにふさわしい年である。台湾の小さな町を発展させる「地域振興・まちづくりプロジェクト」が始まってちょうど20年目になるからだ。この20年、民間と政府が協力して、台湾の300余りの町村が大都会に負けない大きな魅力を持つようになったのである。
バックパックを背負って、小さな町の魅力に触れる旅に出てみようではないか。
今年1月、200万人以上の読者を擁するニューヨークタイムズ紙の週末版に「訪れてみたい世界の52の都市・地域」が発表され、台湾が第11位にランクインした。
この記事を書いたグルメ・旅行コラムニストのロビン・エックハルトは次のように述べている。台湾は交通が便利で、台北から南部へ行くには高速鉄道を利用してバスに乗り換えれば4時間で最南端の墾丁に到着でき、台北から北へは基隆の八斗子漁港までもっと早く行くことができる。台湾は「海も山も同時に楽しめ」「都市と郊外の旅を一度に楽しめる」としている。
同じく今年の1月、今度はイギリスのガーディアン紙が紹介する世界40ヶ所の「ホリデイ・ホットスポット」の中に台湾がランクインし、中でも台湾のお勧めポイントとして「ストリート・フード」が挙げられた。
ガーディアン紙によると、イギリスでは昨年、突然台湾の小吃(屋台などのB級グルメ)が大流行し、忠実なファンが育ったという。そこで現地の台湾企業は「本物のストリート・フードが食べたければ台南へ」と謳って台南B級グルメツアーも催した。
ニューヨークタイムズとガーディアンは同様の情報を伝えている。――台湾は訪れる価値があり、しかも台湾の魅力はガイドブックに紹介されている台北101や鼎泰豊の小龍包だけではなく、地方の小さな町にある、というものだ。

小さな町を訪れれば必ず地元特産のお菓子や美味しいものに巡り合える。写真は鹿港の芋頭酥(タロイモの焼菓子)、爌肉飯(豚の角煮ご飯)、五味羹(具だくさんスープ)、牛舌餅(焼菓子)。
台湾の観光ソフトパワー
テレビ番組でも台湾の小さな町の魅力が生き生きと伝えられている。
2003年以来、ディスカバリー・チャンネル系列のTLCトラベル&リビング・チャンネルでは「瘋台湾(Fun Taiwan)」を放送してきた。台湾系アメリカ人のジャネット(謝怡芬)がリポーターとなって台湾の小さな町を訪ね歩き、中国語と台湾語と英語を交えながら地域の風土や民情を紹介し、小さな町のロハスな雰囲気を伝える。視聴率は常に高く、ジャネットは誰もが知る人気タレントとなった。
2011年から、同チャンネルではさらに「瘋台湾大挑戦」の放送を開始した。同じくジャネットがレポーターを務め、世界各地から訪れた参加者を率いて都会や地方の景勝地などの目的地を探しながら訪ねていくというゲーム形式の番組だ。今年3月からは「瘋台湾全明星」にリニューアルし、台湾の小さな町の自然や文化、芸術、娯楽、美食などを体験していく番組となった。
グルメ旅行バラエティ番組の「食尚玩家」や「新台湾大体験」なども台湾各地を訪ね歩く内容で、レポーターの浩角翔起や廖慶学などが大人気となり、優れたテレビ番組に送られる金鐘賞にも「最優秀行脚」番組・司会者賞が設けられた。これらレポーターのユーモラスな進行とネットの発達によって、番組は華人圏で広く見られるようになり、香港ではこのために「台湾風中国語」の学習ブームが起きたほどだ。
30年前、テレサ・テンは「小城故事多,充満喜和楽」(小さな町には物語があふれ、喜びと楽しさに満ちている)と歌った。今も台湾の小さな町の「客を歓待する」特質は変っておらず、そこに農産物やグルメ、工芸品、エコツアーなど、旅や消費の要素が加わり、多くの人を魅了するようになったのである。
こうしたブームの中、さらに内外の多くの作家が台湾の「小さな町」をテーマに文章を発表するようになった。
世界各国を歩き、以前は「世界で最も良いもの、最も高いもの、最も大きいもの」にしか興味がないと言っていた作家の李昴も、最近は「現地に住んで旅をする」という方法で全国を歩いている。旅先の小さな町に住み、その周辺を歩いて現地の暮らしを体験するというものだ。昨年は旅と美食をテーマとした『愛吃鬼的秘径(食いしん坊の秘密ルート)』という本を出し、その体験を読者と分かち合った。
例えば、台東県の池上郷では農家の女性が客家のプリント生地を使って演出した「大碗公飯」を楽しみ、また原住民工芸家が開いたカフェでくつろぐ。「カフェからは中央山脈の端を望むことができる。その美しい景色を前に、自分をからっぽにするというのも台東へ来たら必ずやってみたいことだ」
日本人の旅行作家・片倉真理も、分かりやすい文章で台湾の小さな町の物産や人情を紹介し、その熱い思いを伝えている。その著書『在台湾,遇見一百分的感動』では自らの経験を詳細に述べている。――山地の原住民集落の伝統の祭典、台中大甲媽祖の巡礼、澎湖望安のアオウミガメ、南投鹿谷での茶摘みと製茶などを体験し、台南玉井のマンゴーの産地では、町のお年寄りが語るマンゴー栽培の歴史に、まるで子供のような好奇心をもって耳を傾ける。
「台湾の大地との交流は、ワインのように時を重ねるにつれて味わいを増していく」と片岡真理は日本人の目で台湾を探索する。彼女がかくも台湾に惹かれるのは、台湾の小さな町が人と土地の魅力を発揮しているからだ。

小さな町を訪れれば必ず地元特産のお菓子や美味しいものに巡り合える。写真は鹿港の芋頭酥(タロイモの焼菓子)、爌肉飯(豚の角煮ご飯)、五味羹(具だくさんスープ)、牛舌餅(焼菓子)。
世界的なトレンド――小さな町の旅
実際のところ、世界の多くの国が「小さな町」に観光の重点を置き、マスメディアも小さな町への旅行を推奨している。
アメリカのスミソニアン誌は、2012年から3年連続して全米で最も旅行にふさわしい小さな町のトップ20を選出している。今年トップに選ばれたのはニューヨーク州のシャトークア郡だ。この町はアメリカの生涯教育の発祥地で、著名な景勝地でもあり、フォーブス誌も同地を「アメリカのユートピア」と称えている。
インターネット新聞のハフィントンポストも今年、全米で最もクールなスモール・タウンを選び、映画「プリティ・ブライド」と「エバーラスティング」のロケ地となったメリーランド州ベルリンなど15の町が選ばれた。
台湾も遅れていはいない。2012年3月、交通部観光局は初めて「観光の小さな町トップ10」の人気投票を行なった。その結果、桃園県大渓、彰化県鹿港、台南市安平、台中市大甲、金門県金城、高雄市美濃、宜蘭県礁渓、南投県集集、新北市瑞芳、台北市北投が選ばれた。南北と中部に平均的に分布しており、台湾の至る所に魅力的な町があることがわかる。
同年9月、ナショナルジオグラフィック誌の日系写真家、マイケル・ヤマシタがこれらトップ10に選ばれた町をテーマに写真を撮り、ワシントンで写真展を開いた。大甲の媽祖廟で敬虔に祈りを捧げる人々、鹿港の古い町並みで記念撮影をする若いカップルなど、大自然と文化をとらえた写真は、開幕パーティに集まったメディアや観光関係者に深い印象を残した。
観光の小さな町トップ10が話題になり、国民の多くが台湾の小さな町村にも世界に通用する魅力があることを再認識した。

小さな町を訪れれば必ず地元特産のお菓子や美味しいものに巡り合える。写真は鹿港の芋頭酥(タロイモの焼菓子)、爌肉飯(豚の角煮ご飯)、五味羹(具だくさんスープ)、牛舌餅(焼菓子)。
まちづくりが基礎に
台湾の小さな町が大きな魅力を持つに至ったのには「まちづくり・地域振興」が力を発揮してきた。台湾最大規模のまちづくり運動は1994年に文化建設委員会(現在の文化部)が打ち出し、今日まで20年にわたって続いてきた。
まちづくり運動は、地域住民とコミュニティ協会などのNGOが主体となってコミュニティの力を育むというもので、政府はさまざまなリソースを提供している。政府部門では文化部の他に、内政部営建署も「台湾地方・都市風貌全体計画モデルプラン」を打ち出し、農業委員会も「農村再生計画」を進めてきた。
だが、カギを握ったのは草の根の力である。1999年に台湾大地震が発生し、6万世帯の家屋が全壊または半壊し、震源となった南投県では十数の町村が被害に遭った。大きく被災した故郷を目にして、町を立て直そうという人々の熱意が湧きおこったのである。
国立虎尾科技大学レジャー・レクリエーション学科の林俊男主任は、震災後すぐにコミュニティワークを専門とする十数人を率いて被災した南投県埔里に支援に行った。当時、小さな町の住民たちの心は傷ついていたが、故郷を立て直すという使命感を持っていたという。彼らは「危機を転機とし、自分たちの町は自分たちで救おう」としていたと言う。
住民は政府の補助が足りないと不平を言うことをやめ、地域のリソースの調査を開始した。そして自分たちの町が持つ優れた点を数え上げ、そこに再建と発展の方向を見出していった。
さらに重要なのは、政府が提供するリソースに対して地域住民が自らの意見を主張したことだ。「自分たちで定めた目標が政策によって変ることはありません。現地住民こそ自分たちのニーズを理解しているからです」と林俊男は言う。

日本時代の宿舎を改造した鹿港桂花巷のアートビレッジ。昼はアーティストたちがここで創作に取り組み、日が沈むと日本時代の町並みが美しく浮かび上がる。
社会的企業でイノベーション
林俊男は、台湾の小さな町の魅力は「イノベーション」から来ると考えている。
例えばマーケティングという点で見ると、オリジナリティを打ち出し、他の町との差別化を図るということだ。「他者とは異なるからこそ、他に取って変られることがないのです」
20年にわたる「まちづくり」を通して、地域住民とNGOは地元の環境を見直し、他にはない優位性を見出して発展させてきた。
まず地元の文化や歴史を掘り下げて小さな町の物語を構築し、流行のストーリー・マーケティングに取り組んだ。
また、伝承が途絶えていた地域独自の工芸技術を再生して、他の地域には真似のできない特色とした町もある。大地への思いから有機農法へと転換し、エコロジーの町を目指す地域もある。
だがこうした努力も、持続可能な運営戦略をもって続けていかなければ、一時的には注目されても町の魅力を維持することはできない。
林俊男は成功事例として雲林県虎尾の北渓地域を挙げる。この町にはこれと言った観光資源がなかったが、住民たちは最も重要な作物であるトウモロコシ栽培に光を当てることに成功した。現地を訪れた観光客にトウモロコシの収穫を体験してもらうようにしたところ、大勢の人が訪れるようになったのである。
トウモロコシ畑では収穫する時、もぎ取ったトウモロコシを後ろへ投げていく。それが夜間の照明に照らされると、まるで緑色のトビウオのように見えることから、北渓で「トビウオ鑑賞」というのが話題になり、他では経験できない観光の目玉となったのである。
「最終製品だけが商品ではありません。生産プロセスのすべてがその町の魅力になり得るのです」と林俊男は言う。
さらに北渓の住民たちは、収穫したトウモロコシには市場に卸す以外にも販売の道があることに気付いた。トウモロコシを食べる人も地域住民も、収穫体験に来る行楽客も、誰もが「利益共同体」なのである。そこで彼らはトウモロコシを無農薬の有機栽培に切り替え、消費者や収穫体験をした人々と長期にわたる安定した信頼関係を築くことにしたのである。

四方を海に囲まれ、山が多い台湾は豊かな自然景観に恵まれており、一歩ずつ新たな発見をする「小旅行」にふさわしい。写真は澎湖七美島の観光客。
地域産業をブランド化
だが、持続的に運営していくにはコストを抑え、利益を上げていかなければならない。そこで「コミュニティのNGOを社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)へ転換すべき」という声があがってきた。
この流れを提唱したのは嘉義県布袋嘴文化協会の蔡炅樵総幹事や苗栗県苑裡鎮山脚コミュニティ発展協会の葉文輝理事長である。
2001年、嘉義県の布袋塩田は全面的に操業停止となったが、2008年に布袋嘴文化協会がその復元に成功し、塩田が観光資源として活かされることとなった。今では塩田が布袋観光で最も魅力的な文化的景観となっている。
塩田の再生をきっかけとして、蔡炅樵は大地を汚染から守ろうという養殖漁業者や農家と協力し、エコツーリズムを打ち出した。また有機食材などを販売して合理的な利益を上げている。
苗栗県苑裡はかつてイグサ編みが盛んだった地域だが、経済が発展するに連れ、伝統の工芸や技術は継承されなくなってしまった。そこで苗栗県苑裡の山脚コミュニティ発展協会は失われた工芸技術を復興させ、大学のデザイン学科と協力して「イグサのルイ・ヴィトン」というキャッチフレーズで販売している。その利益はコミュニティに還元して地元の人々のイグサ編みの技術向上に取り組み、小さな町の魅力を維持しようとしている。
まちづくりと地域振興が始まって20年、各地の小さな町でそれが花を開き、それぞれに多様な特色やテーマを打ち出すようになった。これからの季節、天気の穏やかな日を選んで旅に出てはどうだろう。
最初はまず、小さな町を訪ねてみたい。そこでは、文化や自然、工芸、農漁業、宗教など、地域ごとにさまざまな特色を見出すことができるだろう。そして実際に訪れてみてこそ、「小さな町にはたくさんの物語と喜びがあり、たくさんの収穫が得られる」ことを実感できるのである。

歳月を重ねれば自然や人の姿も変り、小さな町の史跡も魅力を増していく。写真は苗栗県三義の龍騰断橋。

新北市の九份には日本時代の山間の街の風景が残されており、海外からも多くの人が訪れる。

小さな町を訪れれば必ず地元特産のお菓子や美味しいものに巡り合える。写真は鹿港の芋頭酥(タロイモの焼菓子)、爌肉飯(豚の角煮ご飯)、五味羹(具だくさんスープ)、牛舌餅(焼菓子)。

小さな町は徒歩や自転車でゆっくりと巡るのがいい。写真は南投県集集の緑陰の通り。