板頭に戻ってきた春
長年にわたって文化・歴史と民俗研究に従事してきた黄水水さんは、前述の二人とともにビジョンを描いて実現に取り組んできた。「旧河道ワークショップ」を設立し、観光客に版画の刷りを体験してもらっている。版画は黄水水さんが作ったもので、板頭を代表する景観などが彫られている。
ワークショップ近くには、昔懐かしい黒糖のかき氷と甘味を売る「板頭阿兄」があり、1970年代の価格で観光客に提供している。
もう一人、余所から板頭に移り住んできた客家の陳建勲さんは、観光バス事業の経験をもとに、2ヶ月をかけて自動車を改造し、ドラム缶やトタン板を溶接して「蒸気機関車」を作った。村民たちは「いつか汽車が帰ってくる」という夢がかなって、大喜びした。
陳明惠さんはこう話す。「台湾糖業のトロッコを復活させるのはほとんど不可能ですが、かまいません。『いつか汽車が帰ってくる』というのは私たちの信念で、何十年もこの信念を伝えていけば、その過程で板頭は生命を取り戻すはずです」
板頭の物語は大きく転換し、春が戻ってきた。この夢を追い求める活動に、最近また二人の新メンバーも加わった。板頭コミュニティ発展協会総幹事の蘇士力さんと副総幹事の蘇国彰さんだ。彼らは仕事の合間にボランティアガイドを行ない、観光客に板頭の「信じること」の物語を伝えている。
板頭の物語は感動的だが、心配な点もある。幼年時代を思い出させる「レトロの旅」の成功は多くの人に共通の記憶と経験からだが、1940‾50年代の台湾というのは今の子供たちには遠すぎるという点だ。板頭が持続的に発展していくには、景観や町づくりに専門家の力を借り、観光やレトロだけではない、素朴でロハスな生活の美を確立し、多くの人がそれをここで学び、あるいは移住してくることを促す必要があるだろう。
板頭の人々は今も努力を続けている。彼らは「信じること」の偉大さを証明した。こうした信念が、これからも板頭を支えていくことだろう。

自動車を改造した三両編成の機関車。板頭は幼い日々を思い出させるさまざまな魅力に満ちている。

殺風景な景観に化粧を施すというのが板頭の優れたアイディアだ。写真はコンクリートの高い塀に「剪黏」を用いて満開の花をあしらったもの。観光客も足を止めて鑑賞する。