今年の中秋節は台風13号がもたらした1000ミリを超える雨量で、豪雨による土砂災害の悪夢が再びよみがえった。しかし、2000年の台風20号では神木村、2004年の台風7号では谷関温泉が大きな被害を受けたのに対し、今回は廬山温泉が被災地となり、渦巻く濁流が家屋や橋梁を呑み込み、土石流が山地の道路を押し流して、犠牲者遺族の悲しみの声が人々の涙を誘った。
その後の数日間、マスコミはこれまでと同じく被害を大きくした原因を書き立てて非難したのだが、台風が去ってしまうと関心は薄れ、次の水害が来るまで何事もなく過ぎていく。こんな循環をいつまで繰り返すのだろうか。
2年前、立法院は石門ダムと台湾各地の水害多発地域の二つの治水特別条例を成立させ、8年計画で1400億台湾元の予算を組んだ。これまでの治水政策が堤防やダムなどのハード設備に偏っていたのに対し、環境保護団体やコミュニティカレッジなどから構成する治水監督連盟は、抗議行動などを主とする環境保護団体の運動手法を一変して、石門ダムの水源地帯と、水害多発地帯の台北県双渓河の治水計画から手をつけていった。こうして政府関係機関の計画と施工を監督し、1年余りをかけて民間が公的部門の治水に参加するメカニズムを確立していったのである。
民間が治水事業に参加するこのモデルが、治水事業全体に新しい思考を導きいれ、積年の弊害に苦しむ土石流と洪水防止事業に希望をもたらしてくれるのだろうか。
台風13号が去ってから10日余りの後、光華取材班は治水監督連盟やグリーン・フロントのメンバー、それに桃園県内柵在住の林長茂と共に、慈湖から南に向い、大漢渓沿いの省道7号線(北部横断道路)にそって、大漢渓とその支流を回ることにした。
大漢渓中流を区切って貯水している石門ダムは、台湾でも最大の水源地域にある。ここは桃園県復興郷と新竹県尖石郷の二大山地にまたがっていて、面積は700平方キロ余り、10数本の支流が流れ、海抜は100メートル余りから3000メートル以上に渡っていて、地勢の起伏の差が極めて大きい。水源の海抜が800メートル余りの翡翠ダムとは異なり、この険しい地形が表層土壌の維持にはきわめて不利に働く。
石門ダムから思い浮かべるイメージというと、台風が来るたびに水源地帯で大規模な土石流が発生し、大量の土砂がダムに流れ込むために水質が悪化してしまい、浄水しても飲料用に使えなくなるというものである。水質の悪化がひどいと、台風でダムは満水になっても、桃園県は断水する。そこで6年間の2段階計画で緊急水道水供給工事(100億元)、幹線水道改善工事(50億元)水源地域保護(100億元)と治水予算250億台湾元を投じて治水を行い、台風による水質悪化を防ぎ、土砂堆積を減らしてダムの寿命を延ばすことを目標とした。今年は大型台風がいくつも上陸したが、石門ダムは水道水を正常に供給でき、第一段階の工事の効果を証明した。
監督連盟としては、緊急水道水供給と幹線水道の改善は技術レベルの問題なので解決は難しくはないと考えている。そこで問題が複雑で、しかも解決の鍵となる水源地域の表層土壌保護に主にフォーカスして運動を進めている。

石門ダムの水源地域
土地埋め戻しの問題
私たちの水源地域の旅は、支流の傍らの湳;仔溝から始まる。ここは河道の曲がった場所を幅約10数メートルに渡り埋め立てたもので、3階建ての廟の聚賢慈恵堂が聳えており、傍らには20台ほど駐車可能の駐車場がある。さらに北部横断道路を行き、道端の埋立地を見てみよう。まず900坪ほどの土地は林務局所属の池を埋め立てた土地で、緑の瓦が美しい阿義農荘が立てられている。もうひとつも竣工したばかりの埋立地で、コーヒー、軽食の看板があり、明るい秋の日差しに目立つ建物が建っている。
「もともとは窪地で、道路局が道路拡張工事を行ったときに余った廃土で埋め立てたもので、そこに営業を始めてしまいました」と、10年余りを山林保護に尽くしてきた林長茂は話す。請負業者は手間を省いて、廃土を付近の河床や窪地の埋立に使ったものだが、こういった埋立地の斜面は不安定で地滑りを起こしやすい。しかも阿義農荘は河川敷を占用しているために林務局は摘発したものの、地方議員が間に入って圧力をかけるので、処分が進まないでいる。こういった小規模な違法行為はダムの土砂堆積に直接影響しないように見えるが、水源と土壌や森林環境は密接に関係し、水源地帯の小規模だが数多い埋立が川や湖、傾斜地を平地に変え、生態環境が破壊されている。それがダムの水質に影響しないはずはない。
その次に訪れたのは、北部横断道路のある復興台地の向い側、谷を隔てて眺めるのは台地の下にある高さ200メートル、幅400メートルの傾斜地である。植物が生い茂っているが、農業委員会土壌保護局では斜面の上の台地に亀裂が入っているため、特別予算3億台湾元を計上し、谷底の河床に砂防堰堤を築き、土石流が河床に流れ込み、ダムに堆積するのを防ぐ予定であった。

河川上流に多数設けられたコンクリートの砂防ダムは、以前から議論の的である。水土保持局はこれによって土砂の崩落を防ぐとしているが、環境保護団体はこれではダムの土砂堆積改善にはならないと主張する。写真は蘇楽野渓の堰堤。
山中は無法地帯
「復興台地の土地は、埋め戻された部分が全体の構造に影響しています。これに学校などの地上物の負荷がかかり、地層が崩落しやすくなっています」と林長茂は言う。こういった傾斜地は数十メートル地下の深層から崩落する。ここでは岩盤に達するまでの30から50メートルの表土が崩落するので、その土砂量は膨大なものになるし、しかも豊かな涌水の潤滑作用がはたらき、崩落の規模は拡大して砂防堰堤は役に立たない。しかも深い渓谷のため施工は難しいので、治水監督連盟も調査の結果、この工事には意味がないと考えて停止を求めた。
道を南にとり、霞雲渓に入ると、数キロ以内に渓谷を占拠する2ヶ所の行楽施設に気づくだろう。まず最初に目に付くのが、台風13号で大きな被害を受けた廬山の温泉旅館とよく似た風景である。渓流沿いに温泉旅館やレストランが並んでいて、山間の渓流が軒先まで迫っている。1000ミリを超える豪雨が桃園県を襲えば、被害の大きさがどれほどのものになるか想像がつきそうである。川上の施設も渓流に沿って簡便なトタン屋根のコーヒーショップなどが連なり、山中は無法地帯の感がある。
霞雲渓の羅浮橋から川面を眺め下ろすと、まさに石門ダムの上流であるが、台風が過ぎて10日たっても川面は灰色ににごり、土砂の量の多さを思わせる。河流には自浄能力を超える泥が流れ込んでいる。遠く、山間の緑光森林を眺めると、美しいリゾートに見えるが、実は原住民向け保留地に建てられた違法建築である。

水害は天災であり、人災でもある。石門ダムの水源地域で河川敷を占拠するさまざまな情景は人々を不安にさせる。写真は、霞雲渓に面した民宿とレストラン、下の写真は湳仔溝の支流の上に立てられた廟。
何よりも管理を
「水源地帯にもっとも必要なのは管理です」と林長茂は言う。河川敷の占用は、水流を阻み環境を破壊し、豪雨時には災害をもたらす。傾斜地の住宅建設、道路建設など不適切な土地使用により地層の崩落を招き、どれほどの経費をかけて砂防堰堤を築いても、結局は無駄である。水源地域を管理できれば、100億元の無駄な経費を使う必要はない。
水源地域の不適切な土地使用に対しては、内政部営建署が対策を打ち出し、これまでの不適切な土地区分の見直しを始めている。
営建署城郷発展分署国土計画隊の陳志銘隊長によると、たとえば玉峰渓の秀巒や三光などの原住民居住地域では十数年前までは土壌が安定していたため丙種建築用地に指定されていたが、台湾大地震と山間道路の開通で今では地層が不安定になったという。そこで土地区分を林業用地あるいは国土保安用地に指定し、住民の開発行為を制限した。土地所有者が受ける損失は、政府が補償するか、その他の土地と交換することになっている。
石門整備計画推進チームの委員で中興大学水源土壌保護学科の游繁結教授によると、山林保護のため多くの人が国土整備計画に期待を寄せるが、政府は財政難だし、しかも立法措置は時間がかかるので現実的ではないという。それよりも現行の法規をしっかり運用すれだけで、水源地帯の問題の改善には十分なのである。たとえば今回の南投県廬山の災害を例に取ると、違法建築が林立し、40軒以上の旅館の9割以上が違法建築であった。被災した旅館は、河川敷に建てられていたのかどうか。多年にわたり監督官庁はなぜ問題を軽んじ、取り締まっていなかったのか。これこそ、マスコミが追い続けるべき問題だろう。

水害は天災であり、人災でもある。石門ダムの水源地域で河川敷を占拠するさまざまな情景は人々を不安にさせる。写真は、霞雲渓に面した民宿とレストラン、下の写真は湳仔溝の支流の上に立てられた廟。
縦割り行政
また、石門ダムの水源地域の土地管理も複雑で、厄介な問題である。起伏のある広範な水源地域にあって、土地使用を管理するのは主に県政府と林務局、治水は中央の各省庁、ダムの貯水範囲は経済部水利署の担当で、国有林は農業委員会林務局、それ以外の傾斜地は農業委員会の水土保持局が担当する。道路については、道路管轄官庁の交通部が担当する。違法建築の多くは、異なる行政機関に跨っていて、問題が発生すると互いに責任を擦り付け合って解決に向かわない。
林長茂が例を挙げる。卡;拉渓谷に河川敷の3分の2を違法に占用するマスの養殖場があり、告発されたものの取締りができていなかった。その原因というと、水利署北区水資源局は水土保持局に責任を押し付け、水土保持局は台北県政府に、台北県政府は水資源局にと順繰りに押し付けあったからである。「マス養殖場のある水源地域では設置の審査を受け、水利権を取得しているのかさえはっきりできないのです。今回、廬山の問題が発生し、そこで追及したところ、水資源局は審査していないことを認めました」と林長茂は言う。
私たちの水源地帯の旅は、次に表層の崩落が激しく整備工事が集中する地域に入っていった。
そこは蘇楽崩落地域の整備工事と名づけられた地域で、ここには支流が流れているが、両脇の傾斜地は2004年の台風17号がもたらした豪雨で土石流が発生し、大量の土砂が川に流れ込んだ。崩落面積は14ヘクタールにおよび、7号線(北部横断道路)は寸断した。水土保持局は2億台湾元の予算を組んで、湾曲した河床に10箇所の床固工やスリットダムを建設してきたが、その有様を道路から望むとコンクリートの怪獣が川床に蹲っているかのように見え、ため息が出る。

石門ダム上流の一部の地域の地質は脆く、大雨が降るたびに土砂崩れが起き、砂防機関はさまざまな方法でそれを防がなければならない。写真は、植生が回復するよう、崩落した斜面にネットをかけて植物の種子を含んだ有機土を吹き付けたところ。
基礎工事と支流の治水
治水監督連盟のメンバーで、水源地帯の砂防ダム工事を批判する文章を数多く発表している黄修文によると、石門ダム水源地域の整備計画予算100億台湾元の大部分は砂防堰堤や床固工などのハード建設に使われているが、こういった堰堤は細かい砂を堰き止められないので、水質改善に役に立たないし、ダムの土砂堆積の解決にもならないという。
石門ダム水源地域の整備の歴史を見ると、1970年以降のダム管理局は主流である大漢渓に5箇所の大規模な砂防ダムを、そして主な支流に200近いさまざまな堰堤を建設してきた。しかし事実から見て明らかなように、台風が来て累積雨量が500ミリを超えると、ダムには数百万立方の土砂が堆積する。2004年の台風17号では一挙に2700万立方の土砂が流れ込み、これはダムの容量の10分の台風00号に相当した。
「台風17号の雨量やダムへの流入水量は1963年の台風14号より少なかったのです。1963年当時、ダムは建築されたばかりで、周辺の砂防設備は整備されていませんでしたが、流れ込んだ土砂の量は17号の7割程度でした」と、黄修文は疑問を呈する。長年水源地域を整備してきて、それで土石流を防ぎ、ダムの土砂堆積は止まったというのだろうか。
治水監督連盟の非難の的となっている砂防設備だが、水土保持局に言わせると、砂防に欠かせないインフラで、蘇楽工事は官製の治水成功の手本なのである。

石門ダムの水源地域
必要悪なのか
「今回の台風13号では、かなりの傾斜地の崩落が防げました」と水土保持局のエンジニア白朝金は説明する。山地の土石が崩落し山津波となり、川床を切り裂く力は通常の10倍に上る。砂防堰堤や床固工で斜面を押さえて崩落を防ぎ、その後の植生の速やかな回復につながるという。また何段階もの堰堤工事により、河床の傾斜を緩やかにして、土石流の切り裂きエネルギーを有効に減少できるだろう。さもないと、河床が深く広く切り裂かれて、さらに多くの土砂が運ばれる。
「石門ダムの土砂の8割近くは自然の地層崩落によるものです。これまで多くの人が水源での水質混濁を水源地域での高山野菜や桃の栽培のせいにしてきましたが、それは不公平というものです」と、台湾省政府水利処の元処長で、台湾大学土木学科の李鴻源教授は指摘する。その指導する大学院生が、長年にわたり台風の前後に水源地域を実地に研究して出したのが、その結論である。山地の地質は脆弱で、大雨が降れば自然に崩落する。その土砂がダムに流入しないようにするためには、砂防堰堤は環境保護運動家が言うほどに効果がないわけではなく、水源地帯を整備するための選択肢の一つとなる。これ以外にも傾斜地の保護や護岸堤防、さらには住民の移住なども選択肢に上げられ、総合的な評価が必要となる。
豊富な実務経験と専門的知識を有する李鴻源だが、水源地帯の整備はグローバルな気候変動や干害水害が激化する要素を組み込むべきだと主張する。そこでこれまでのハード一本やりの防止方法には反対なのだが、何もせずに自然の回復に任せるだけという方法にも賛成しない。総合的にそれぞれの効果とリスクを評価し、適切なソリューションを見出すべきと考えるのである。
たとえば三光の崩落では、崩落面積、住民数、産業形態、生産高などから総合的に評価し、居住に適さない危険な場所については、政府が奨励措置を講じて移転を奨励すべきである。移転できない、あるいは移転に同意しない住民には将来の水害時の財産あるいは人的リスクを説明し、ハード工事で保護措置を講じたり、崩落箇所には床固工などの工事も行わなければならない。
「こういった措置には、政府の各機関や住民、環境保護団体などが腰を据えて十分話し合わなければ、誰もが納得する解決策を見出せません」と李鴻源は言うが、こういった気の長い方法は台湾人の習慣には合わない。台湾社会は忍耐強いとは言えず、さらに共通認識を築くための信頼の基盤がなく、客観的な評価メカニズムも確立されていない。その結果、同じ問題が繰り返され、永遠に解決にたどり着けない。

治水監督連盟によると、この桃園県道113号線沿いの土砂崩れ防止工事には数千万元がかけられ、林務局は2年のうちに3回にわたって施工したという。工事の粗雑さがうかがえる。
ジャンルを超えた対話
実際には李鴻源の呼びかけた対話精神は、2006年に成立した石面ダム特別条例第3条に明文化されていて、「各段階の工事実施計画は情報を十分に公開し、住民及び環境保護専門家との協議制度を確立し、環境を破壊しない建設を実現する」と定められた。これをいかに実施に移していくかがこれからの課題である。
そして、これこそ治水監督連盟が去年8月に設立されて以来、一貫して努力してきた目標でもある。連盟は情報公開や工事の監督を推進し、大小さまざまな会議に参加し、政策決定に強く影響力を及ぼしてきた。環境保護団体がこれまでとってきた抗議行動や、官民の対立抗争の図式を乗り越えて、正式な対話の場を設けて、政府機関と協議を続ける方法に切り替えている。
監督連盟の石門ダム水源地域整備チーム担当者で、基隆コミュニティカレッジ講師の陳儒東によると、石門ダム特別条例の条項が連盟の政策決定参加の依拠となったという。学界もこの画期的な条項に好意的で、民間団体の参加を制度的に保証している。しかも水利署もこれを支持していて、民間団体が治水に参加するための基盤を構築してきた。
水利署は石門ダム整備計画に見直し管理制度を導入し、半年に1回の工事評価と各レベルの定例会議を開催し、これには毎回治水監督連盟も招いて、工事実施を見直している。「しかし、私たちが参加したとき、第一段階の緊急工事はすでに完了していました」と陳儒東は言う。当初は評価会議ですでに竣工した工事に意見を述べるにとどまり、実質的な意味は乏しかった。
その後は発注段階、計画段階の工事にも監督連盟が意見を提出することとし、現在ではプロジェクト開始の現場調査の段階から協議に入り、企画の最初から不必要な工事を止めることができるようになった。

写真右上、卡拉渓上流にあるマスの養殖場は、河川敷を埋め立てて占用しており、権利を得ずに大量の水を使用している。監督連盟のメンバーが幾度も告発しているが、主管機関の権限は複雑で明確でなく、誰も取り締ることができない。
制度的な監視
監視の目標を達成するには、まず「石門ダム及び水源地域整備計画情報公開規定」が最初の武器となる。
政府にはすでに政府情報公開法があるのに、なぜまた別の法律が必要になるのか、疑問に思う人もいるだろう。陳儒東によると、政府情報公開法は各省庁に適用される通則で、実際の適用に曖昧な部分が多く、部課レベルになるとそれぞれの解釈が成り立つ。整備工事を例に取ると、地図、航空写真、被災現場の写真、工事設計図、予算、保護対象などの詳細な情報がないと、生態環境保護地域の区分、工事設計の適切性などを判断できない。
二つ目の武器が工事環境チェックリストである。今年7月に整備工事計画は第二段階に入り、傾斜地保護を担当する水土保持局、河川整備の北区水利局、山林保護の林務局、道路整備の道路総局から県政府の各レベルまで、その工事設計計画から施行の各段階で、環境チェックリストに記入し、環境破壊を最低限にとどめることが求められる。

石門ダムの水源地域
思考の改造
「私たちの目的は工事監督にとどまらず、工事の背後にある施工のチェックと指導です」と連盟のメンバーで、南港コミュニティカレッジの講師の梁蔭民は言う。監督連盟が永遠に存在できるわけではないが、どのような団体も参加し監督できる理想的な制度を確立しておくことが必要である。
1年余りで治水監督連盟は無駄で無意味な工事の停止に成功してきた。たとえば尖石郷玉峰村の下馬美地区は5戸の集落に過ぎず、その下方の50坪足らずが崩落していただけである。航空写真で見ると植生は自然に回復していたのに、水土保持局は崩落地の下方300メートルの涸れ沢に、2000万元をかけて45箇所のコンクリート堰堤を建設するという。崩落地と川筋に直接の関係はないし、関係があったとしても鬱蒼とした森林の中の谷に工事が始まれば、環境破壊につながる。協議の結果、予算と床固工は半分に減らされた。
「治水監督連盟が工事計画の決定に参与することは、私たちにも新しい経験です」と水土保持局台北分局の林長立は言う。治水監督連盟が心配するのは建設会社が政治家に働きかけ必要のない行き過ぎた工事を行うことだが、林長立もそんな政治的圧力を一緒に防いでくれる力が加わるのを歓迎している。そうした中で水土保持局は民間の異なる意見を受け入れ、ここ1年の折衝過程を通じて、治水監督連盟と良好な協力関係を築き、またその中で学んだことも多いという。
「これまでは工事中心主義で、多方面の配慮を欠いていました。施工用道路による環境破壊も考えていなかったのです」と、水土保持局の白朝金は言う。現在、施工に際し工事の環境への影響縮小に努め、施工業者にも厳しく要求するようになった。険しい地形、地層の不安定な地域は、ロープウェーで施工材料を運ぶか、高速ポンプでコンクリートを運び上げ、環境への影響を抑えている。

清らかな水が流れ、水害が起こらないようにするために、民間が治水事業に参加するというのは大きな一歩だが、まだまだ解決しなければならない課題は多い。
スタート地点
「最初は私たち監督連盟が仕事の邪魔に来たと公的部門からは信頼されませんでしたが、実際には邪魔ではなく助けに来たと分かると関係は好転しました」と林長茂などメンバーは現在の監督の成果がまだ限られたものながら、スタート地点に立てたことを評価している。こういった教育を受け数十年の実務経験をつんできたエンジニアたちと、硬直化した官僚システムとが、民間の参加で些かでも動き出せば、最初の一歩を踏み出したといえる。
官民の協議制度確立を進めてきた公的部門の推進チームの委員で、師範大学の汪静明教授によると、こういった一連の動きの中で環境保護団体と公的部門との対話という新しい流れが生まれたとともに、官の中でも石門ダム推進チームが省庁横断で統合できてきて、それが新しい動きになっているという。これまで各省庁はお互いに干渉されることを嫌い、相互の対話や協議の場も極めて限られていたのである。それが石門ダムの作業チームにおいては、全体を統括する水利署が、崩落箇所の桂竹林について地表保護工事を行わないと決議すると、林務局にその土地の管理を要請し、また原住民族委員会には工事専門家がいないため、その工事予算編成に反対することができるようになった。
汪教授は自分の任期内に周辺制度を確立し、指導する大学院生を指導して研究を進め、石門ダムの治水をモデル地域として、その他の水源地域や洪水多発地域の整備に発展させていきたいと考えている。こうして石門ダムの水源地域整備計画が完了した暁には、そこにあるのは単に砂防ダムだけではなく、台湾の山林や河川を保護するための新しいモデルであることが望まれる。

治水監督連盟のメンバーは、しばしば身銭を切って水源地帯の土地の不当利用を見てまわる。写真は今回のガイドを務めてくれた林長茂さん。